田中慎弥の掌劇場

著者 :
  • 毎日新聞社
3.23
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本棚登録 : 311
感想 : 67
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  • Amazon.co.jp ・本 (136ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620107790

作品紹介・あらすじ

怖ろしい。あり得ない。しかも美しい-。あらゆる感情が味わえる37篇の掌の小説。

感想・レビュー・書評

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  • 他の多くの方と同様、私も芥川賞の受賞インタビューで著者のことを知り、それで受賞作を読んでみた。

    この掌篇集は、2008年10月から2012年1月まで、毎日新聞西部本社版に連載されたもの。
    一篇が3頁前後、不思議でちょっと不穏な、ときにユーモラスな、そしてリリカルな掌篇が並ぶ。
    私は存外、この本の全体が好きになってしまった。
    「存外」というのは誉め言葉で、芥川賞受賞作から想像していたよりも、遥かに様々な色合いの、遥かに様々な想いを掻き立てられて、そしてそれが楽しかったのだ。

    「あとがき」で著者は、「命を縮めて得た糧で、また命を延ばす。」と記すが、たしかにこれは、著者の内面の何かを削って書かれたものだと感じる。
    見事な矜恃も感じられる。

    遅ればせながら、他の作品も読んでみたい。

  • 昨年の芥川賞で話題をかっさらった田中氏の掌編小説集。

    とかく風刺みたいなものを書かせるとこの人光るなぁ…と。個人的には「男たち(一幕)」がフフっと笑えるために好きだったり。どれもたった3~4ページしかないのに、どこか「えっ?!」と思うような終わり方をしているので、読んでいていろいろな引っ掛かりを覚える。でも、それがこの小説集の良さなんじゃないかなー、と私個人は思います。

  • 1篇がとても短くてさらりと読めてしまう。
    不思議な話だなぁとぼんやり思う話と、ものすごく怖いと思う話があった。
    怖いと思わなかった話はただ単に私がその物語の中に隠れている毒に気づいていないだけて、全部怖い話なのではないかと想像する。

    特に怖かったのは「怪物」。ぞっとする怖さ。
    「願望と遺書」はちょっと笑ってしまった。(笑っている場合ではないほど切羽詰まった話なんだけど)
    本当にこんな精神状態になったら自殺する前に頭がおかしくなると思う。
    でもその必死さが滑稽でもある。

    そんな不思議で、(私の場合は)たまにぞくっとする掌篇集。
    田中慎弥さんの長編も読んでみたいなと思う。

  • 何が言いたいのか分からない短編ばかり。
    星新一のように思わずウマイ!と言ってしまう話もなく、読み終えて振り返っても印象に残る話もなかった。

  • ゼミの課題図書でした。

    手に取ったときの印象は「随分と短いな」ということ、それとカバーのするりとしたちょっと変わった感触。指紋がつきやすそうだなぁ、と。



    読んでみての感想というか、読みながらの感想になるのですが。
    タイトル通り「掌編小説」が「陳列」されている、全体としてそんな雰囲気の本でした。

    好きな話とかを一つ一つ書き連ねるのも大変そうなので、大まかに思ったことを。



    まず登場人物にほぼ名前がついていないことが気になりました。
    もちろん「男たち(一幕)」は別ね。
    なぜだろうか。

    この掌編が毎日新聞に連載されていたものだと知って、あぁと思いました。
    新聞に載っている記事ってノンフィクションじゃないですか。
    それでも、自分の日常とは少しかけ離れた事件が記事になっているわけで。
    そんな記事を見ながら、考える。

    「なるほどそんなことがあったのか」

    この時、新聞を読む人は別に事件現場に心を馳せているわけじゃなくて、心は自分の中に置いたままで目の前の文字を追いながら事件に向き合う。
    そんな新聞記事を読む姿勢と同じように、読めるように名前がついてないのかな、と。名前がつくと、いっきにフィクションくさくなるので。

    小説を読むときって、主人公の生きがいをなぞる内に、感情がシンクロしたり、一緒に憤ったりすると思うんだけど、この作品にはそれがない。なんせ短いから、その暇がない。
    じゃあ作者は読者に対して登場人物をどう表現しているのかというと、シンクロさせるのではなく、真正面に対座させている。『鏡の向こう』みたいなそんな雰囲気。

    読者は話の外側にいられるから、取り立てて何か冒険があるわけではない話でも「おお、これは面白い」と読み切った瞬間に思う。読み切った瞬間っていうのは、つまり話のテーマを把握した瞬間と同じことである。


    それぞれの話の本当に簡素、質素?な描写が個人的には大好きです。
    文章自体に捻りが効いているわけじゃない。
    だからこそ、トスッと一文が突き刺さる瞬間がある。
    夾竹桃の「人々の無言を蝉の声が埋めた。」っていう表現とか、特に好き。


    課題で呼んだ本ですけど、これは買って良かったな~~と思いました。

  • 一作品3ページの掌編小説集。
    「共喰い」とともに手にしてみたのだが、星新一風あり、安部公房風あり、川端康成風あり、不条理あり、政治風刺あり(若干子供だましっぽくもあったが)で、ああ、こんなにいろいろなスタイルの作品も書ける人なんだと、少し意外だった。

    飾り気がなくそっけないほどの簡素な文章は、それでいて現れてくる心象は巧みで、うまい、というよりはむしろ、技巧を徹底的に研究しつくした成果という印象すらある。
    嫌いではない。

    初めて著者の本を読むなら、芥川賞受賞作よりこっちかもしれない。

  • 田中慎弥作品の入門編に最適。

  • とても面白かったです。
    短い中に、ぎゅっとつまった感じがしました。
    あとであれこれ想像して、もういちど楽しめました。

  • 狭く、深い範囲での、心理描写、情景描写は素晴らしいのかも知れません。しかし、その投げっぱなしの表現方法は、物語から一切の心地良さを排除しています。それが狙いなのかも知れませんが、読み終えて、なんとも気分が晴れません。図書館利用。

  • 3ページほどのぴりっとした作品が並んでいる。初めて作品を読んだけど、丁寧な文体が印象的だった。ごう慢な感じはどこにもない。物を決して一面的に見ない視線は厳しくて温かい、じゃないかな。震災について書いた4作品が特に好き。やっぱり、目線は低く、事実を等身大で受け止めたことを言葉にしている。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田中慎弥の作品

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