冷血(上)

著者 :
  • 毎日新聞社
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レビュー : 144
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620107899

感想・レビュー・書評

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  • 「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」という言い回しを、近ごろ犯罪報道などで時々耳にする。

    これはある程度(警察側の)決まり文句で、被疑者がその通りの単語をしゃべったとも思えないのだが、犯行の動機としてわかるような、わからないような、宙ぶらりんな印象を受ける。

    この小説は、その辺の曖昧さをえぐろうとする。

    ネットを通じて相方となった見知らぬ同士の2人組が、歯科医夫婦と子供の4人を強殺する。

    (最初は犯人像そのものがつかめない、ネット社会の闇を描くのかと思ったら違った)

    2人は、犯行およびその後のずさんな行動のゆえほどなく逮捕されることになるが、調べが進んでも動機や殺意が一向に明らかにならないのだ。

    小説は、調べの様子や調書をたんねんに描き出して行くが(その特異な文体を思う存分書こうというのが、例によって作者のもう一つの動機かも)、犯人の答えは「わからない」とか「なにも考えていなかった」に終始する。はぐらかしたり嘘を言っているのではなく、そうとしか説明しようがないらしかった。

    犯罪(起訴事実)を構成するためには、明確な動機や殺意の有無が必要だという。確かに我々も、なにか事件報道があった時にそういうストーリーがあれば安心する面がある。

    しかし、言語がそもそも意志や感情のごくわずかの部分をシミュレートしたものにすぎない以上、それが動機や殺意すべてを表せるはずがない。

    ある動機があったとして、それをたとえば「α」とする。

    だが言語に引き写した時点で、それは「α」辺縁のもやもやしたものが削り落とされ、結果的に「a」や「A」という、少し違った形しか表していないかも知れない。

    「α」を「α」と表しうる、外形的な明確さというものが果たして存在するのか? その辺をあぶり出そうというのが小説の主題のようである。

    これは例の合田雄一郎シリーズの最新刊。

    犯人に相対する主人公は、例によって「考え過ぎの虫」のキライはあるが(刑事には向いていないのでは、と思われる(笑))、突き詰めて考え過ぎると答えがなくなる、ある意味人間存在の不如意をよく表現していると思う。

    後半は地味な問答が続くが、面白かった。

  •  死刑制度について議論するのに欠かせないというツイ友の勧めで読み始めたものの、殺人事件の加害者と被害者の日常を淡々と描写する最初の50ページで一旦挫折。というのも、一見幸せな歯科医一家の家族が惨殺される筋書きが読め、そのシーンを見たくなかったから、ジェットコースターが坂の頂上に上りきる前に下りようと思ったんです。僕、因みにホラー映画は嫌いです。
     それでも社会学者としての「義務感」で読み直し、殺人もそのプロセスはぼかしてあったので、何とかクリア。
     ただし、死刑廃止論者で知られる著者のポイントは下巻にあるので、この時点でレビューを書くのはとても難しい。犯人2人と被害者の生い立ち、警察内部の確執などがてんこ盛りの印象。
     面白かったのは、犯人が首都圏をぐるっと回る国道16号線に沿って移動し、沿線のコンビニ、ファミレス、スロット店、温泉ランドを利用する様子が、この間読んだ「ファスト風土化する日本―郊外化とその病理」の描写と重なること。地名で言うと、町田、相模原、八王子、福生、入間、川越、春日部、柏、千葉あたり。本の中でも、町田はのっぺらぼうな、個性のない街として描かれている。
     たぶん加速度がつく下巻に期待。

  • 予約していた本が届くまでのつなぎに借りた本。

    のっけから死亡フラグ満載の中学生が出てきて気が滅入る。

    (これ、胸糞じゃね?)と思ったら案の定一家皆殺しになったし・・・。

    読むのやめようかなーと思ったら、合田が出てきたのでしぶしぶ読む進めている。

    合田といえば、義理の兄とホモの人だよね?(違

    ここまで2014-04-20

    「とまれ」「一寸」「隠微」「捨象」
    気になった用語言い回し。一般的にあまり使わない言葉遣いだなあと思った。特に、「一寸」を中学生に使わせたのには興ざめだった。そんな中学生はいないよ・・・。

    合田にも、不惑を超えたとはいえ、おばあさんみたいな言い回しをさせると歳より老けて感じる。現在下巻半分くらい。合田が中間管理職やってて、大変だなあと思う。

    ここまで2014-04-23

  • 久々にお会いしても、やっぱりいつもの合田さんな感じ。
    下巻は、何が起こったのかを、ひたすら時間との戦いで追っていくことになるんかな?

  • 時期が時期だけにしんみりと読んだ。警察の捜査の描写の細かさは相変わらずだ。私、合田は好きなキャラクターではないんだが、今回は意外と嫌いじゃない。

  • レディジョーカーに比べるとイマイチ感が
    下巻に期待

  • ネット社会の危うさ

  • 初 高村薫でスリルを期待して読み始めたものの、後半に進むにつれなかなかページが進まず間延びした感じになってしまった。
    幸せな家庭の代表のような高梨家の日常の風景から始まり、その温かな描写に感情移入していただけに、惨殺事件の被害者となった展開には気持ちがついていけなくなってしまった。

  • 事件は2002年12月24日の朝、発覚した。
    東京都北区西が丘に住む歯科医師一家4人が殺害された。13歳の長女と6歳の長男がいて、クリスマスにはディズニーシーへお泊りで出かけるのが恒例行事という、幸せな一家だった。
    犯人は誰だ? 事件を調べる合田雄一郎は、歯科医院の患者や現場付近からの不審車両から、井上と戸田という二人の容疑者をわりだした。

    第一章・事件、第二章・警察と、二つの章からなっている、高村さんお得意の、残酷な殺人事件を追う刑事ものの小説だ。
    一章では、事件が起こるまでの間の被害者の歯科医師一家や犯人たちの動向、二章では、事件が起こってからの警察の調べによって浮かび上がる犯人の生い立ちと、それぞれ、視点を変えて書かれている。
    犯人と被害者家族、犯人と警察。
    両方の思惑と行動が交錯して読み手に伝わり、登場人物の心理が手に取るようにわかる作品になっている。

    警察ドラマの作品としても、
    高村さんが書くと、どうしてこう男性っぽく、硬質な文章になるのだろう。
    まるで金属のような硬い印象の文章なのだが、
    さっと読み始めれば、サッパリとしたキレのよい読後感に魅かれてしまう。

    甘いスイーツも好きだけど、堅い辛めのおせんべいも捨てがたい。
    それが私のおやつ趣向だが、
    読書の傾向もそうだったのかと、改めて悟った次第だ。

著者プロフィール

高村 薫(たかむら かおる)
1953年大阪市東住吉区生まれ、現在大阪府吹田市在住。国際基督教大学教養学部人文学科(フランス文学専攻)卒業。外資系商社の勤務を経て、作家活動に入る。
1990年『黄金を抱いて翔べ』で日本推理サスペンス大賞、1993年『マークスの山』で直木三十五賞、1998年『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞、2016年刊行の『土の記』では大佛次郎賞、野間文芸賞、毎日芸術賞をそれぞれ受賞し、新たな代表作となった。
『レディ・ジョーカー』を境として、重厚な社会派ミステリーから純文学に転向。織田作之助賞選考委員を務める。

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