マチネの終わりに

著者 :
  • 毎日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620108193

作品紹介・あらすじ

結婚した相手は、人生最愛の人ですか?ただ愛する人と一緒にいたかった。なぜ別れなければならなかったのか。恋の仕方を忘れた大人に贈る恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    ※「マチネ」:午後の演奏会

    いやぁ、とても面白かったです!!
    40歳前後という酸いも甘いも噛み分けた大人同士でありながら、お互いがまるでティーンエイジャーのように相手へのピュアな想いを持ち、心を奪われつつもふとしたトラブルによってスレ違ってしまう。そんな、甘〜い恋の物語。
    ・・・という風に書けば、「なーんだ、ただの通り一遍の恋愛小説か」と誤解されそうですが、そこはやっぱり平野啓一郎氏、オーソドックスな展開だけじゃあ終わりません(笑)

    なるほど確かに、本書を一言で表すと「大人の純愛」なんでしょう。
    ただ、単純な「遠距離恋愛」というテーマだけでなく、芸術・戦争・亡命や難民・国際結婚・男女差別、PTSD・親子関係、そして不倫や自殺などなど・・・
    多方面のテーマが「これでもか!」とばかりに詰め込まれており、尚且つ随所に筆者のインテリジェンスが垣間見えていて、なんだか読んでいるだけでお腹いっぱいになりました。
    また、作中のいたるところに文学的な描写が多く散りばめられていたり、登場人物の発する台詞1つ1つがあまりにも奥ゆかしく高尚すぎて、「オオアジ」な僕からするとなんだか「なんだかちょっぴり現実感がなくね?」と思ってしまう始末。笑
    (少なくとも僕の周りには、プライベートにおいて、こんなにも頭が良くてエッジのきいた会話が出来る人間なんていません。。。)
    そのような純文学的なアプローチは、確かに平野啓一郎氏の特徴ではあるんですけど、個人的にはもう少し簡略化されてた方が読み易くて良かったかなぁ・・・

    あと、良くも悪くも本作品は、「小説ではなく映像でこそ映える作品」なのではないかな?と思いました。
    (すでに映画化されているんですね、是非観たいです。)
    前記の事と少し重複しますが、音楽やアクションシーンを含め、作中には色々と複雑な描写が数多く、残念ながら文字だけでは伝わりきらないかと。
    その点、映画だと余すことなく伝える事が出来そうですし、前記した「キザな台詞」たちも一層映えそうですよね。

    とまぁ、ちょっとツッコミどころの多いレビューになりましたが、小説自体の完成度は非常に高く、とても面白い1冊でした!
    イチ恋愛小説として見ても、織りなす台詞のロマンティックさ、2人のスレ違いの悲しさ、悪役(三谷)の暗躍などなど、読んでいて本当にヤキモキしつつも楽しめました。

    ただ、、、
    某サイトでは「平野啓一郎 No.1の作品」と書かれていましたが、個人的には「ある男」の方が好きかも。笑


    【あらすじ】
    結婚した相手は、人生最愛の人ですか?

    天才ギタリストの蒔野(38)と、通信社記者の洋子(40)。
    深く愛し合いながら一緒になることが許されない二人が、再び巡り逢う日はやってくるのか――。

    出会った瞬間から強く惹かれ合った蒔野と洋子。しかし、洋子には婚約者がいた。
    スランプに陥りもがく蒔野。人知れず体の不調に苦しむ洋子。

    やがて、蒔野と洋子の間にすれ違いが生じ、ついに二人の関係は途絶えてしまうが……。
    芥川賞作家が贈る、至高の恋愛小説。


    【引用】
    1.人は、変えられるのは未来だけと思い込んでる。だけど実際は、未来は常に過去を変えてるんです。
    変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。
    過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?

    2.「地球のどこかで、洋子さんが死んだって聞いたら、俺も死ぬよ」
    「そういうこと、冗談でも言うべきじゃないわよ。善い悪い以前に、底の浅い人間に見えるから」
    「洋子さんが自殺したら、俺もするよ。これは俺の一方的な約束だから。死にたいと思いつめた時には、俺を殺そうとしてるんだって思い出してほしい」

    3.洋子の生き活きとした姿を見て、彼は我がことのように嬉しく、誇らしかったが、それだけに、今更自分の出る幕ではないとも感じていた。
    彼は未だに洋子が早苗と再会したことを知らず、せめてあの別れの夜の誤解だけは解きたいと思っていた。
    彼が知って欲しかったのはあの時自分がどれほど洋子を愛し、必要としていたかだった。
    しかし、それを今彼女が知ったとして、どうなるというのだろう?
    現在は既にもう、それぞれに充実してしまい、その生活に伴う感情も芽生えてしまっていた。

    過去は変えられる。
    そう、そして過去を変えながら現在を変えないままでいるということは可能なのだろうか?

    4.蒔野はそして、一呼吸置いてから、最後に視線を一階席の奥へと向けて、こう言った。
    「それでは、今日のこのマチネの終わりに、みなさんのためにもう一曲、特別な曲を演奏します。」
    ギターに手をかけて、数秒間、じっとしていた。
    それから彼は、イェルコ・ソリッチの有名な映画のテーマ曲である「幸福の硬貨」を弾き始めた。

    (中略)

    二人が初めて出会い、交わしたあの夜の笑顔から、5年半の歳月が流れていた。


    【メモ】
    マチネ
    →午後の演奏会



    p33
    「人は、変えられるのは未来だけと思い込んでる。だけど実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

    「今のこの瞬間も例外じゃないのね。未来から振り返れば、それくらい繊細で、感じやすいもの。生きていく上で、どうなのかしらね、でも、その考えは?少し怖い気もする、楽しい夜だから。いつまでもこのままであればいいのに。」

    蒔野は、それには何も言わずに、ただ表情で同意してみせた。話が通じ合うということの純粋な喜びが、胸の奥底に広がっていった。
    彼の人生では、それは必ずしも多くはない経験だった。


    p85
    週末の最終日には、校内のホールで学生らを含めたマチネ(午後の演奏会)が催される予定で、それに洋子も招待していた。
    そのマチネの終わりに、彼は彼女のために「幸福の硬貨」のテーマ曲を演奏するつもりでいた。


    p129
    「地球のどこかで、洋子さんが死んだって聞いたら、俺も死ぬよ」
    洋子は一瞬、聞き間違えだろうかという顔をした後に、蒔野がこれまで一度も見たことがないような冷たい目で彼の真意を探ろうとした。
    「そういうこと、冗談でも言うべきじゃないわよ。善い悪い以前に、底の浅い人間に見えるから」
    「洋子さんが自殺したら、俺もするよ。これは俺の一方的な約束だから。死にたいと思いつめた時には、俺を殺そうとしてるんだって思い出してほしい」


    p132
    「洋子さんの存在こそが、俺の人生を貫通してしまったんだよ。いや、貫通しないで、深く埋め込まれたままで・・・」
    (中略)
    「わたし、結婚するのよ、もうじき。」
    「だから、止めに来たんだよ。」
    (中略)
    「洋子さんを愛してしまってるというのも、俺の人生の現実なんだよ。洋子さんを愛さなかった俺というのは、もうどこにも存在しない、非現実なんだ。」


    p247
    「いい、これ、送ってもらっても?」と三谷に渡した。
    三谷は、見るつもりもなく目にしたその文面に、胸が張り裂けそうになった。
    彼女は、蒔野から見えないようにして、メールを送信するふりをしながらそれをそのまま削除した。


    p281
    蒔野は、自分からは今後一切連絡を取らぬことにして、あとはただ、彼女からの連絡を待つことにした。

    二週間経ったある日の午後、蒔野の元には、洋子から一通のメールが届いた。
    バグダッドからの帰国後に受け取ったあの「長い長いメール」とは対照的なごく短い文章で、リチャードという名のかつてのフィアンセとよりを戻し、結婚したとだけ書かれていた。


    p385
    「今日のコンサート、洋子さんには来ないでほしいんです。お願いします。チケット代は、お返ししますから」


    p389
    「あなただったのね?」
    早苗は、動揺を隠すように唇を噛みしめた。
    「あなたが、あのメールを書いたのね?」


    p450
    洋子の生き活きとした姿を見て、彼は我がことのように嬉しく、誇らしかったが、それだけに、今更自分の出る幕ではないとも感じていた。
    彼は未だに洋子が早苗と再会したことを知らず、せめてあの別れの夜の誤解だけは解きたいと思っていた。
    彼が知って欲しかったのはあの時自分がどれほど洋子を愛し、必要としていたかだった。

    しかし、それを今彼女が知ったとして、どうなるというのだろう?
    現在は既にもう、それぞれに充実してしまい、その生活に伴う感情も芽生えてしまっていた。

    過去は変えられる。
    そう、そして過去を変えながら現在を変えないままでいるということは可能なのだろうか?


    p461
    聴衆は、やや唐突な“このあとの予定”に微笑みながら拍手を送った。洋子は、彼の表情を見つめていた。
    蒔野はそして、一呼吸置いてから、最後に視線を一階席の奥へと向けて、こう言った。
    「それでは、今日のこのマチネの終わりに、みなさんのためにもう一曲、特別な曲を演奏します。」
    ギターに手をかけて、数秒間、じっとしていた。
    それから彼は、イェルコ・ソリッチの有名な映画のテーマ曲である「幸福の硬貨」を弾き始めた。
    その冒頭のアルペジオを聴いた瞬間、洋子の感情は、抑える術もなく涙とともに溢れ出した。


    p464
    蒔野は、彼女を見つめて微笑んだ。
    洋子も応じかけたが、今にも崩れそうになる表情を堪えるだけで精一杯だった。
    蒔野は既に、彼女の方に歩き出していた。その姿が、彼女の瞳の中で大きくなってゆく。
    赤らんだ目で、洋子もようやく微笑んだ。
    二人が初めて出会い、交わしたあの夜の笑顔から、5年半の歳月が流れていた。

  • あー、切ない…。
    運命の出会いとなったアラフォー男女の恋の物語です。

    運命の悪戯や嫉妬による妨害で会えず。また40歳前後という分別のある大人然と振る舞うために、誤解を解くタイミングを逃したりして、すれ違うのがもどかしく、9割方読んでてツラいのですよ…。

    最後万々歳とは言えないがじんわり暖かいラストに救われました。

    恋愛だけでなく、第二次世界大戦やユーゴスラビア紛争、イラク問題などの社会情勢なども絡み、深く考えさせられた作品でした。

  • 同じ曲でも演奏する人と時と場所によって変わってくるように、人生の様々な出来事もそのタイミングによってその先の流れをどう変化させるか分からない。
    主人公の二人のように、互いの心のひだまで分かりあえるような恋人との出会いは本当に稀有なラッキーなことで、それが成就できるとしたら本当に、細い急流を一粒の宝石を二人の手で握りしめて落とさないように下っていくように難しく、ロマンチックなことである。
    けれどもまた、ゆったりとした流れの中で常に自分を支え続けてくれている人の存在も掛け替えのないものである。
    「未来は常に過去を変えている。変えられるとも言うし、変わってしまうとも言える。」と何十年間音楽を演奏してきた蒔野の言葉にあるように、出会い、別れ、感動、苦悩を繰り返し人生という曲を書き、演奏してきた大人の素敵な恋愛小説だと思いました。

  • 大人のための極上の恋愛小説。
                                      
    主人公の蒔野は天才ギタリスト。
    レコード会社担当者と演奏を聴きに来た洋子に、ひと目で惹かれます。
    そして初対面での会話が、二人を特別な世界に連れて行ってしまいます。
    分かるような気がしました。
    時間を飛び越えて、一瞬で感性が響きあう感じ。
                                                                                                                                        
    ただ、洋子には申し分のないフィアンセがいました。
    彼女自身は、世界を駆けめぐって活躍するジャーナリストで、
    政治情勢や歴史にも詳しく、何か国語も使うことができる才媛。
    「女性の知性に色気を感じる」
    これは平野氏の言葉です。
                                                                                                                                                                 
    洋子がジャーナリストという設定もあり、
    社会問題もいくつか盛り込まれています。
    例えば、長崎の被ばく、バグダットの自爆テロ、
    リーマンショック、そして東日本大震災。

    平野氏の過去の発言に、素敵な言葉がありました。
    愛とは、「その人といる時の 自分 が好き」ということもできる。
    その人を失うことは、その人の前でだけ生きられていた自分を失うこと。
    好きな自分を見つけられれば、それを足場にして生きていける。                                                                                                                                       
                                                                                                                                                            2年前に観た映画の印象とは、いい意味で少し違っていました。
    その時に聴いた《幸福の硬貨》のテーマ曲が素敵で
    読んでいる間、頭の中でずっとギターが鳴り響いていました。
    久しぶりの恋愛小説、しみじみ よかったぁ~。

  • こんな切ない恋愛もあるのかと思った。こんなに一途に誰かを思い続けることができる恋愛を羨ましくも思った。
    きっと、あの時2人が予定通りに会えて、結婚していたらきっと普通の夫婦で終わっていただろうと思ってしまう。結婚しなかったから、恋愛が続いていると思ってしまうと、三谷のあの行動を読んだその時の(過去の)気持ちも読み終えた時に変わっていたと思えた。まさに「過去は変えられる」

  • 何て静かで清らかな時間だっただろう・・・。
    気が付けば読書に没頭していた。
    仕舞いには、自然と涙が溢れ出していた。

    note で連載を読むことができた為、
    ずっと携帯で小説を読んでいた。

    第九章の始めまで電子媒体で読んだが、
    やっぱり本が出てから全てを読みたいと思い、
    note での閲覧をストップし、上梓を待ちわびていた。

    第九章まではもう一度同じ話を読むことになったのだが、
    二回目に読むと登場人物を既に知っている為
    また違った読み方ができる。
    より深く、登場人物を辿ることができた。

    純文学は苦手でほとんど読んでこなかったが、
    平野先生の作品はそんな私の心も鷲掴みにされる。
    何て美しい文章、美しい登場人物
    美しい情景なのだろう。

    世界中の人に読んで頂きたい一冊。

  • たった3日しか会っていないギタリストとジャーナリストの大人の愛。
    お互いの心の中が緻密に描写されています。
    素晴らしい作品でした。
    この本はずっと手元に置いておきたい一冊です。
    映画化もされるようなので、是非観たいと思います。

  • 天才ギタリストとジャーナリストとの大人の恋愛を描く一方で、芸術や音楽や映画、政治情勢や思想といった見聞が幅広く扱われていて、まさに大人向けの極上の恋愛をしっとりと、そして丁寧かつ緻密に表現した小説だった。

    たった3度しか会った事のない2人…
    運命という言葉で片付けるには手に余るほどの、男女の情愛が美しくて切なくて、その分危うさすら感じた。

    最後の第9章 マチネの終わりに 
    2人が初めて出会い、交わしたあの夜の笑顔から、5年半の歳月が流れていた。

    ここに辿り着くまでが本当に苦しかった。
    其々の登場人物との出会いに、新しい家族や仕事、
    そこに内在した苦悩や葛藤…
    その分、漸く辿り着けた出会いに涙がじんわりと溢れた。

    以下、作中で幾度となく登場する蒔野の台詞
    「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。」

    私も過去の経験が時を経て趣を変えていることに気付くことがある。本作でこの台詞がストンと胸に響いた。そしてこの2人に起こったほんの些細なかけ違いも、きっと気付かないだけで私たち誰にでも起こっている事なのだと感じた。
    それも含めて人生だなぁなんて少し達観しながら、やはりそれでも歳を重ねる毎に一年という月日の速さに驚かされる。

    読後に一人とっぷりと余韻に浸るのが心地よい作品で、極上の食事を堪能した様な読後感だった。



  • 大人な作品でした。読み応えは凄い。
    様々なすれ違いにより人生は変わる、それもまた運命って事なんだろうけれど、ちょっと残酷だったなぁ。
    こんな大恋愛はした事無いし出来ないのだろうけれど、愛とか恋とかって強がってしまって結局後悔するんですよね。

  • とてもリアリティのある話。恋愛に置き換えられているだけで、人生とはきっとこういうもの。
    誤った選択が正解なこともあるし、逆もまた然り。自分の知らないところで勝手に選択されていることも多くある。

    人生がうまくいかないことを嘆いてはいけない。それは必ずしも自分が悪いわけではないだろうから。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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