- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620108216
感想・レビュー・書評
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「辻村深月さんコンプリート大作戦#5」です
歴史小説+お仕事小説といった趣き、どっちも好きなので足し算の結果も「好き」になる
それにしても辻村深月さんの多才さよ
こんなんも書けるんだな〜っと
うんコンプリートを目指すこの取り組みもなんとなく意味を持ってきたように思える
一個だけどうしても気になったのが、戦時中「カーテン」って言わないよな〜ってこと
おそらくあえてそう表記してるんだと思うんよね、変なところで引っ掛かりを生まないように
でも逆にそこが引っ掛かってしまう天邪ッキーな私なのでした
よし下巻いや新館へ -
1922年(大正11年)に丸の内に誕生した『東京會館』。西洋文化が広がりつつあったこの時代に「世界に誇れる社交場」を目指して開場した。鹿鳴館は「限られた上流階級の社交場であった」が、東京會舘は「誰もが利用できる、大勢の人々が集う社交の場」として、その時代の人々に愛されていく。
しかし、その開場からわずか1年足らずの翌年、1923年9月1日に起こった関東大震災が残した爪痕により閉館する。それから3年後の1927年(昭和2年)2月に震災の補修工事が終了し再び開業するが、太平洋戦争中には、大政翼賛会に接収され「大東亜会館」に改称。そして終戦後はGHQに接収され「アメリカン・クラブ・オブ・トーキョー」として営業することになる。そして、時代支配の影響を受けながらも、1952年(昭和27年)7月にようやく『東京會館』の本来の名前に戻った。
本作はそんな『東京會館』の激動の歴史とその歴史と共に歩んだ人々の『東京會館』への想いを作家・小椋真護が執筆するという設定となっている。
第一章 クライスラーの演奏会
大正12年(1923年)5月4日:
ヴァイオリニスト フリッツ・クライスラーの音楽会に金沢から駆けつけた主人公・寺井承平が、音楽会終了後に訪ねた『東京會館』の想い出。
今の世の中でこそ、大学進学は当たり前のようになっているが、この時代に大学進学のための上京というのは、裕福な家庭で育ち親に敷かれた人生があるか、志があるかのいずれかであろうと推測する。主人公・寺井の進学は前者で、大学での講義よりも音楽と文学に関心を持った。今までとは異なり、進んだ世界を見て、興味関心が違うところに向いてしまう設定であった。大成したいと願う若者らしい気持ちが描写されており、それが若者としての甘さとして映るの。
クライスラーの音楽会終了後に一緒に来ていた東京の出版社に勤める編集者・近藤に取り残され、その余韻に浸りながら一人で東京會館を散策していたところ、東京會館への移動中のクライスラーと地下道で出会った偶然、
この日の一連の出来事が、この青年の気持ちを前向きにし、彼の進むべき方向を照らしたのだと感じた。
第二章 最後のお客様
昭和15年(1940年)11月30日:
大政翼賛会による『大東亜会館』に変わる最後の日、『東京會館』と共に走ってきたホテルマン・佐山健の想い。
戦争の時代の波に争うこともできず、自分の意思とは異なる方向に進んで行かなくてはならない寂しさが、ひしひしと伝わってくる。
ホテルマンとして、最終日に喜こばれざる客を迎えなければならない佐山の心中は、『東京會館』の最終日に居合わせた同僚たちの『東京會館』に対する思いにより救われたのではないだろうか。
佐山な毎朝、早起きして紅茶を飲む習慣にホテルマンとして、時代を先行しているように受け取れた。
第三章 灯火管制の下で
昭和19年(1944年)5月20日:
主人公・関谷静子が、『大東亜会館』で新婦・水川健治と結婚式、披露宴をあげる。
婚礼の支度担当は、長年『東京會館』の結婚式を支えてきた理容館の遠藤波津子であった。世の中が混乱している中でとり行われた結婚式と披露宴の『東京會館』と想い出。
戦争中の結婚式。戦争が始まってしばらくは、日本が優位な戦況であったことを受け、東京會館が、徴用解除となる。
その間に東京會館で結婚式と披露宴が行われた。
顔もよく知らない人の家に嫁ぐ不安、敵機が飛び交う中で行われる披露宴は、ホテルマン・佐山の心遣い、花嫁の側から離れない遠藤の存在により東京會館で働く人たちの心遣いが、『東京會館』として静子の心に刻まれる。『東京會館』のサービスが、マニュアル化されたサービスではないのであると感じる話であった。
些細なことであるがこの章で寺井のその後の記載があり少し感動があった。寺井はその後、『サンデー毎日』の偉い作家っていた。もとは少年活劇のような小説を書いていたが、徐々にら大人向けの大衆小説を書くようになり、やがて新聞や週刊誌にも連載を持つようになったようでる。寺井の志が成就したことを知り、嬉しいと思った。
第四章 グッドモーニング、フィズ
昭和24年(1949年)4月17日:
終戦後、GHQに接収され「アメリカン・クラブ・オブ・トーキョー」のバーで働ようになった桝野宏尚が後に伝説のバーテンダーとして称される先輩・今井清と共に仕事をした時の想い出。
実在していた今井清の働き方は、接客業としてのプロのおもてなしと、トップバーテンダーになるための熱意が伝わってくる。
バーが酔っ払った外国人に荒らされないようにと、バーの床で寝泊りする今井の行動に日本人的な真面目さと自分の職場を守ろうとする強い意志を感じる。そのことからもきっと、将来に一流の、トップのバーテンダーに成長していくことがわかる。そして、そんな行動は共に働く後輩に刺激を与え、彼らの育成につながる。
今井と桝野が作ったモーニング・フィズは、今井の仕事への取り組み方から生まれるべく生まれたフィズである。
そんな今井の実力を間近で見ていた桝野の今井に対する感情は決して、妬みや嫉妬ではなかった。そんな桝野だからこそ、将来白いバーコートを着ることができるようになったのだと思う。
第五章 しあわせな味の記憶
昭和39年(1964年)12月20日:
東京會館で初代製菓部長を務めた勝目清鷹に「持ち帰りができる、お土産用の箱菓子の製造」の製造依頼がきたとの想い出。
イターネットで何でもお取り寄せができる今の時代からすると、缶に入ったプティフールがなかった昔の時代が信じられない。
『東京會館』で働くシェフ、ベーカーたちにとっては、自分たちが作る物に対する質、おもてなしの質に譲れないプライドにだから『東京會館』なんだと思わずにはいられなかった。
当時の事務部長・田中康二のウエディングケーキの話「外食に縁がない奥さんやお子さんに東京會館の味を伝えたい」という、幸せのおすそ分けからパピヨンが生まれる。
幼い頃、父が接待で帰りが遅かった時、よく母と「今日のお土産は何かなぁ」と、楽しみにしていたことを思い出した。
利益のためにプティフールが誕生したのではないと考えると、その誕生がとてもありがたく思える。
『東京會館』の歴史は、ホテルで働く人と訪れる人たちの歴史に紐付いていることを知ることができる。戦争、震災という過酷も歴史もその全体の歴史の一部であることが、かえって『東京會館』の歴史を濃くしているのだと解る。 -
フォローしているレビュアーさん方のレビューで興味を持った作品。
地方の人間である私には東京會舘と言われてもピンと来ないのだが、大正十一年に創業という歴史ある建物とのこと。その僅か十ヶ月後に関東大震災で休業を余儀無くされ、昭和に入ってからは大政翼賛会の本部として接収、戦後にはGHQに接収され、最近では東日本大震災もあって…と様々なことを乗り越え、様々な歴史や人々を見つめてきた建物だ。
この上巻では五人の視点で描いた五編の物語が収録されている。
第一章は作家を目指しているものの上手く行かず故郷に戻り鬱々としている青年の話。
憧れのバイオリニストのコンサートを鑑賞するために再上京するが、劣等感と気後れと焦りが増すばかり。最後の想い出にと東京會舘に入ったところで思わぬ出来事が。(大正十二年)
第二章は長年ホテルマンとして働いてきた男性が大政翼賛会に接収される前の最後の日に東京會舘を見て回る。
そこで彼と東京會舘の日々を振り返る。(昭和十五年)
第三章は東京會舘で結婚式を挙げる女性の話。
縁談話が来て式が行われるまで、一度もまともに顔を合わせたこともない男性と結婚することに涙がこぼれるほど不安になる彼女を励ましたのは美容師だった。(昭和十九年)
第四章はGHQに設定された中、バーで働く青年。
アメリカ人の上司とアメリカ人の客、勝手の違う中で情熱と誠意を持つ先輩バーテンダーに鍛えられながら成長していく。(昭和二十四年)
第五章は引退を迎えた元菓子部長の男性。
そこでしか食べられない菓子を作り続けてきた彼にとって手土産用の箱詰め菓子を作って欲しいという事業部長からの頼みはとても受け入れられないものだったが…。(昭和三十九年)
読む前の予想と反して関東大震災、戦時中の話は登場人物たちの回想やセリフの中でサラッと触れられている程度。設計の段階から建築工事の物語、様々な困難を乗り越えていく話かと思っていた。
辻村さんが描きたいのはそうした歴史ではなく、東京會舘が見つめてきた沢山の人々の想いや人生の一ページなのだろう。
どの話も最終的には前向きなものだし、前の話の登場人物が出てきたり触れられている中でより活躍しているのが分かるのも辻村さんの狙いだろう。
バーテンダーと菓子部長の話はお仕事モノのような側面もあって楽しめた。
ただ下戸のバーテンダーってどうやって味見するのだろう。試飲を重ねないと味の追究も出来ないが、誰かに飲んでもらうのかなと自分も下戸なので素朴な疑問を感じた。
個人的には大政翼賛会が東京會舘でどんな密室政治を繰り広げ歴史を動かして行ったのかとか興味があるのだが、この作品には相応しくない内容か。
下巻に続く。 -
2017年1月に読んだ本。
東京會舘の織り成す様々な人々のお話。
印象に残っているのは、クライスラーのでてきたお話。読んでいて様子が目に浮かんだ。建て替えで取り壊しになる
と、いうところを読んだときには
えっ、と思ったけれど下巻での新しい
東京會舘に期待を膨らませている。
綺麗な會舘に生まれ変わってほしい。
でも、変わりすぎて昔からの
「古き良き」という雰囲気も変えないで
ほしい・・・・生意気かも知れませんが、
そんなことを感じました。 -
大正11年、丸の内に誕生した実在する建物「東京會舘」。
それに関わる様々な人々の物語を綴った物語。
それぞれ主人公は違うけど、章にそって流れる時代。
大正から昭和の激動の時代が描かれていて興味深く読みました。
後編は昭和後期から平成まで。
こちらも読んでみたいと思います。 -
辻村深月さん・・人気の作家さんですよね~。
ブクログユーザーさん達の評価も高いようなので、気にはなっていたのですが、私の勝手なイメージで、イ〇メやスクールカースト的な“リアルしんどい系”の内容が多めという印象なんですよね・・で、そういうのが無理目な私は手を出せないでいたわけです。
ですが、図書館で本書を発見し、この題材なら“お試し深月”にピッタリかも!と、手に取った次第です・・・という事で(長っ)上巻読了。
大正11年、丸の内に落成した国際社交場・〈東京會舘〉を舞台にしたオムニバス群像劇。
こちらの上巻には、プロローグ&五章からなる物語が収録されております。
大正十二年。国際的ヴァイオリニスト・クライスラーが来日。作家を夢見る青年とクライスラーとの奇跡的な邂逅が印象的な第一章「クライスラーの演奏会」
昭和十五年。〈東京會舘〉が大政翼賛会という公事結社の本部に摂取される事になり、その“最後の日”を迎える従業員の一日を描く第二章「最後のお客様」
昭和十九年。〈大東亜會舘〉と呼ばれている會舘にて結婚式を挙げる女性の繊細な心情と、彼女を支える美容師のお話。第三章「「灯火管制の下で」
昭和二十四年。戦後、GHQに摂取され〈アメリカン・クラブ・オブ・トーキョー〉と呼ばれていた會舘のメインバーでアメリカ兵を相手に奮闘する、若きバーテンダー達の姿を描いた第四章「グッドモーニング、フィズ」
昭和三十九年。持ち帰り用の菓子の制作を依頼され、難色を示す職人肌の製菓部長と、彼を粘り強く説得した事業部長の熱意により出来上がったお菓子とは・・第五章「しあわせな味の記憶」
関東大震災や、太平洋戦争といった激動の時代を歩んできた〈東京會舘〉の歴史と共に、フィクションとはいえ、そこに携わった人々の想いが伝わってくるような内容です。
正直、ちょっと説明っぽくなっているように感じる部分もありましたが、著者の方がこの建物について調べた事を多く伝えたいのだろうな・・と思いました。
個人的に好きだったのは、第五章「しあわせな味の記憶」ですかね。
最初は持ち帰り用菓子を作るのを渋っていた製菓部長の勝目さんのプロ意識と、“〈東京會舘〉の味を外食に縁のない奥さんやお子さんにも伝えたい”という田中事業部長の熱意が造り上げたクッキーをはじめとしたお菓子の数々・・(お菓子を入れる缶へのこだわりも素敵です!)。
話のラストで、東京観光に来た夫婦が〈東京會舘〉のお菓子をお土産に購入するところに勝目さんが居合わせたシーンには心が温かくなりました。
旧館を舞台にした物語はここまで。
続く下巻では、改装された新館を舞台にした物語が待っております~。-
あやごぜさん、こんばんは。
今まさに目の前に東京會舘で購入したクッキー缶があり、思わずコメントしてしまいました。
辻村深月さん、私もあやごぜ...あやごぜさん、こんばんは。
今まさに目の前に東京會舘で購入したクッキー缶があり、思わずコメントしてしまいました。
辻村深月さん、私もあやごぜさんと同じような理由で手に取ったことがなく……でも、こんなテーマでも書かれているのですね。
苦手意識が払拭できるかはわかりませんが、こうした本もあることはメモしておこうと思います!2024/01/31 -
ゆのまるさん。コメントありがとうございます♪
わぁ♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*〈東京會舘〉のクッキー缶がお手元にあるのですね!
なんて素敵...ゆのまるさん。コメントありがとうございます♪
わぁ♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*〈東京會舘〉のクッキー缶がお手元にあるのですね!
なんて素敵!いいなぁ~✧ (*´ `*) ✧
そうそう。私も辻村さんに苦手意識があったのですが、こちらは“普通にええ話”でした~。
“ファースト深月”にピッタリの作品かと思います~(^^♪2024/02/01
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〉東京、丸の内。
皇居の隣、ちょうど二重橋の正門の真向かいに"東京會舘"という建物がある。
〉東京會舘の創業は、大正十一年。
〉百年近い歴史をこの場所で見てきた建物なのだ。
この建物を舞台に小説を書くという作家が、社長にインタビューをするというプロローグで始まる連作短篇集。
上巻は、
大正12年の作家志望がヴァイオリニストの演奏会を聴く話『クライスラーの演奏会』。
昭和15年、會舘が政府に接収される日に従業員がそれまでを振り返る話。建物は、大東亜會舘と名が変わる。『最後のお客様』
昭和19年、戦時下。結婚に不安しかない花嫁が結婚式に臨む話『灯火管制の下で』。
昭和24年、GHQがアメリカンクラブオブトーキョーと名付けた時代、バーで働く一人のバーテンダーの話『グッドモーニング・フィズ』。
昭和39年、東京オリンピックの年。引退した製菓部長が會舘の象徴ともなったお土産菓子を開発した思い出話を語る『しあわせな味の記憶』
の5篇。
どの話にも客をもてなすための一流の場所である、という哲学が感じられます。
時代々々の人々の考え方の違いや、違わないところも自然と描写されていて、筆力が素敵。
後から振り返る形式の物語は、語られるのが激動の時代であっても全ては過ぎたこと…的な落ち着きがあって、なるほど大人の読み物だなと思うところです。
おすすめいただきまして、ありがとうございました。
下巻も楽しみです。 -
2022/12/04読了
#辻村深月作品
東京會舘の歴史を描いた小説。
戦争に突入し會舘が役割を変えても
そこで働く人たちの思いは変わらず。
淡々とした展開で少し退屈、
下巻に食指が動かず保留。
そのうち読むと思うけど、、
時の彼の興奮、何年も前に
読んだ本ですがその場面は
忘れられません。
時の彼の興奮、何年も前に
読んだ本ですがその場面は
忘れられません。
コメントありがとうございます!
コメントありがとうございます!