東京會舘とわたし(下)新館

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  • 毎日新聞出版
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レビュー : 245
  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620108223

感想・レビュー・書評

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  • 『東京會館』と聞いて私が思い出すのは、クッキーだ。私がクッキー好きなので、昔、出張のお土産によく東京會館クッキーを買ってきてくれた女性がいた。『この一袋じゃ、すぐになくなっちゃうね。』と言われ、全くその通りなので、どのように答えていいか迷ったものだ。

    私自身は、パレスホテル、帝国ホテルで宿泊したことはあっても『東京會館』には、行ったことがなく、このクッキーで初めて『東京會館』を知った。なので、私には『東京會館』と言えば、お土産のクッキーであるが、馴染みのある方には沢山の想い出があるのであろう。本作を読み終え、『東京會館』がますます素敵な場所に思え、そんな所に沢山の想い出がある方が羨ましいと思った。

    さて、本作、下巻は昭和後半から平成の建て替えまでの東京會館と人々の歴史が語られている。

    第六章 金環のお祝い
    昭和51年(1976年)1月18日:
    夫を亡くしてから引きこもりがちであった茂木芽衣子が、お茶の先生が『東京會館』で開く新年のお祝いの会に参加する。金環式の日に久しぶりに訪れた『東京會館』で過去の夫との会話、想い出を巡らせる。

    建て替え前の『東京會館』の想い出は、夫との想い出。建て替えによりそれが想い出で終わってしまうのではなく、新しくなった『東京會館』で、さらにその過去が色濃くなる。変わらぬサービスと新館に残された旧館の歴史によって、芽衣子の『東京會館』の記憶に新たに新館の記憶が加わり、旧と新を繋ぐ線が見えた気がした。


    第七章 星と虎の夕べ
    昭和52年(1977年)12月24日:
    毎年恒例の越路吹雪のクリスマスディナーショー。人見知りな性格の志塚徹平が、営業事務所に移動になり、初めてのこのショーで、越路吹雪とマネージャーの岩谷時子に出会う。

    芸能人は、舞台慣れしてる。それまでは、そう信じていた。越路吹雪さんは宝塚歌劇団卒業後に芸能界入りしているので、なぜ、そんなに緊張するのか不思議に感じる。が、しかし舞台が始まった時の度胸とのギャップに、さすが芸能人だと、そしてだからこそこの方は一流で、人気があったのだろうと思わずにはいられない。越路吹雪というスターの凄さを感じた。
    だから越路さんのショーのお世話をすることになった志塚も私と同じことを感じたに違いない。
    そして、志塚の上司・原田は、ホテルマンとしての対応は、志塚の教育なのだろう。『東京會館』のおもてなしの高さは、代々の先輩ホテルマンから後輩につながっていくのだと思えた。


    第八章 あの日の一夜に寄せて
    平成23年(2011年)3月11日:
    婚約中に夫・三科敏美から「東京會館のクッキングスクールに通ってくれないか?」と言われて通い出した妻・文佳。東日本大震災で、東京會館で一夜を過ごした文佳が、クッキングスクールに通学していた頃を回想する。

    この章で一番納得したのは、現在クッキングスクールに通う敏美の師である梅崎先生の言葉である。「自宅で料理する限りは、絶対に奥さんに迷惑をかけないこと。その覚悟がなければ、作った料理がどれだけ美味しくても、2度目からは嫌な顔をされますよ」。その言葉の具体的な梅崎流行動指針を知った時、納得し、その教えを実践した敏美に微笑んだしまった。


    第九章 煉瓦の壁を背に
    平成24年(2012年)7月17日:
    5回目の選考にてようやく直木賞受賞となった作家・小椋真護。小椋の作家志願を反対する家族との決別。直木賞受賞を目指した道のりは遠く厳しいものであった。

    直木賞受賞の記者会見で、受賞作家の背後を飾る煉瓦の壁。シルバールームのこの壁が歴代受賞作家を背景となる。
    十代の小椋青年のモチベーションは、東京會館で両親と食事をした昔に見たその部屋にいる自分の姿を重ね続けたからである。きっと、そうだと思う。
    受賞後の東京會館の渡邉から明かされた言葉によって、この先、小椋と両親との壁が低くなって、行き交うことができるようになることを願う。もっと遠くの未来にそのことを後悔しないように。

    それにしても東京會館の「お帰りなさい」は想い出を持って會館を訪れる人には殺し文句だ。


    第十章 また会う春まで
    平成27年(2015年)1月31日:
    上巻の第三章で登場した関谷静子の孫・中野優里の東京會館の新館の最後の日、1月31日の結婚式。この後、2019年まで建て替えのために休館となる。

    太平洋戦争、第二次世界大戦、関東大震災、東日本大震災…その歴史は、平穏な歴史ではなかった。それでもその歴史に流されて時を重ねてきたのではなく、『東京會館』で働く人たちの心と建物が一つとなって『東京會館』の歴史を綴ってきたように感じる作品であった。

    今はコロナ禍で東京には行けないが、落ち着いたら、『ツバキ文具店』の舞台である鎌倉と『東京會館』に行きたい。
    そして、こんな風に想い出を作ることができる場所を見つけたいと思える作品であった。

  • 東京會舘が見詰めてきた人々の物語、下巻。

    第六章は亡くなった夫との想い出の場所、東京會舘にやって来た老婦人の話。
    新館に建て替えられて夫との想い出はどこにもないかもと思っていたが、意外にもあちこちに旧館の面影が残されていた。(昭和五十一年)

    第七章は裏方からイベントやショーなどを担当する営業事務所部門に配置替えされたホテルボーイの話。
    仕事が丁寧なかわりに遅く人見知りな彼が部門の副支配人にまで昇格出来たきっかけは、あの大スターの意外な姿を見たからだった。(昭和五十二年)

    第八章は東日本大震災で帰れない夜、東京會舘で避難している女性の話。
    不安な夜に思い出すのは、料理を習うために東京會舘に通った青春と言える日々のこと。(平成二十三年)

    第九章は四度目の候補でついに直木賞を受賞した男性作家の話。
    娯楽小説や作家を見下す両親と縁を切り、ひたすら小説を書いてきた彼が思い出すのは東京會舘で両親と食事をしたものの喧嘩をした苦い時間だった。(平成二十四年)

    第十章は二度目の建て替えを前に結婚式を挙げる女性とその曾祖母の話。(平成二十七年)


    新館に建て替えられて以後の下巻も上巻と同じく、晴れやかな物語が続く。
    震災の日の話など、恐怖と不安の中で東京會舘の社員たちが懸命に避難者たちを励ましもてなす話にしても良いのだが、敢えて過去の青春時代を振り返る話にしている。しかしそのことが結末でいかに主人公とその夫が緊張と不安の一夜を過ごしたかに繋がる辺り、上手いなと思う。

    東京會舘の長い歴史だけに、上巻で出てきた人が大きく成長していたり、更にその下の世代に繋がっていたりという話もある。チラッと出てきたあのシーンがここに繋がるかというのも楽しい。

    芥川賞・直木賞をはじめとする数々の文学賞受賞の舞台になっていたのを初めて知った。
    受賞者にとっては晴れやかな舞台だが、何度も受賞を逃した作家にとっては、角田光代さんのように『東京會舘って本当にあるのか』と言いたいほど遠い場所なのだろう。

    上下巻を通して素晴らしいプロフェッショナルたちが沢山出てくる。裏方に徹し、客が気持ち良く晴れやかな気分で過ごせるように目配り気配りをしている。
    三世代、四世代にも渡って長く愛される東京會舘の魅力はその建物の佇まいだけではないことが分かる。

  • ──歴史や伝統は確かに抽象的だが、きちんと目に見える。
    ──それは、スタッフの在り方だ。彼らの所作を通じ、この場所に受け継がれてきたものがちゃんと見える。


    変わらずにはいられない、しかし受け継がれていく。というお話。

    東京會舘の長い歴史を、時代時代で通り過ぎていく人々のお話を横糸に、受け継がれていく伝統を縦糸にした、一本筋の通った物語でした。
    長い時間を紡いで、登場人物たちが順に交代していく物語、好きです。そういうお話で過去の話で語られた人々が後の話に出てくるの、すごく好きです。その集大成のような最終話。様々な人生の断片が込められた建物と、それが壊されてまた新しくなって、また歴史が続いていく。

    これで辻村深月四作目、ハケンアニメ、ツナグ、鏡の孤城それぞれ良かったけど、この作品はさらに良かったな…。


    下巻は旧館から新館への建て替え後、二度目の建て替えをする直前までのお話。サブタイトルが「新館」なのはまさにそのままだ。


    昭和51年、亡き夫との旧館の思い出を胸に、二人で迎えられなかった金婚式のお祝いにと、新館のレストランでひとり食事をする女性の話。『金環のお祝い』

    昭和52年、超人気のシャンソン歌手、越路吹雪(実在!)のディナーショーを担当することになった営業員志塚の話。「決して、お客様やサービスの仕事に"慣れる"ことはやめよう」と言う心がけで何十年も仕事するという誠実さ。『星と虎の夕べ』

    平成23年3月11日、震災の日に會舘に身を寄せた女性が、若い頃に通った會舘のクッキングスクールの思い出を振り返る話。『あの日の一夜に寄せて』

    平成24年、直木賞作家となった男性が、會舘での贈呈式に臨んで過去を振り返る話。『煉瓦の壁を背に』。平成24年の直木賞作家というと…辻村深月さんですね。

    平成27年、新館最後の営業日に結婚式をする新婦と、東京會舘を舞台に小説を書こうとしている作家と、旧館で(上巻で)結婚式をした女性の話。『また会う春まで』

  • 東京會舘とわたし 下巻 新館。
    2016.07発行。字の大きさは…字が小さくて読めない大きさ。

    皆様のレビューを見て、辻村深月さんの本を読むのを楽しみにしているのだが、今回の本も字が小さくて読めず。単行本。なお、文庫本も字が小さく読む事が出来ない。
    残念、返却する。

    2019.11.10
    妻に話したら、近くを通ったら気になって東京會舘へ入ったと言う。
    どうしても読みたくなった。
    上巻だけ借りてきて時間をかけて少しづつ読んで行く。

  • 時を超えて受け継がれる想い…。
    東京會舘に纏わる昭和51年から平成27年までを描いた5つの連作短編集。

    ・金環のお祝い        昭和五十一年
    ・星と虎の夕べ        昭和五十二年
    ・あの日の一夜に寄せて    平成二十三年
    ・煉瓦の壁を背に       平成二十四年
    ・また会う春まで       平成二十七年

    皇居の隣、ちょうど二重橋の正門の真向かいに大正十一年。
    国内で初めて民間の力でなる社交場。東京會舘は創業した。
    昭和四十六年、新館への建て替えを経た東京會舘。

    上巻は、激動の時代に翻弄された東京會舘の姿を描いていましたが、
    平和な時代の東京會舘。年月を経るにしたがい親から子へ、そしてまたその子へと、
    東京會舘が愛される様子が丁寧に描かれている。
    働くスタッフの姿は、創業当時からの思いがしっかりと受け継がれていて、
    変わらず、何年経ってもとっても素晴らしいおもてなしに胸が熱くなりました。
    どの章も、とっても温かかったり切なかったり涙が零れて仕方なかった。
    涙が文字で見えずに何度本を閉じた事か…。
    読み終えるのが勿体なくって、ひとつひとつの物語を大切に読み進めました。
    第9章の直木賞を受章した青年のお話は、勿論フィクションでしょうが、
    辻村さんのエッセイに書かれていた事と重なるので、
    想いはきっと辻村さんなんだろうって思った。

    平成27年に建て替えの為に一時閉館し、30年に新・新館がオープンするそうだ。
    いつか、東京會舘に行きたいです!

    長く愛される建物には、それだけ多くの人。
    そこで働く人、訪れた人それぞれに建物に纏わる様々な思い出がある。
    人が集まって沢山の思いが溢れて、その建物が温かいんだと思わせてくれた。
    本当に、凄く素敵な物語でした。
    はーーー良かった~ :.* ♡(°´˘`°)/ ♡ *.:

  • 2017年3月に読んだお話。
    東京會舘の歴史を連作短編の形で綴って
    いる。そこには様々な人々が登場する。
    下巻では、建て替えられ新館になった。
    それぞれの話が、温もりを感じることができました。

    私もいつか行ってみたいと、思わずには
    いられないお話でした。

  • 越路吹雪の舞台の前に緊張する話、3.11東日本大震災で東京會舘に元クッキングスクールの生徒同士が身を寄せた話、直木賞を受賞した時に背にする煉瓦の壁はタイルで裏面を使っている話、最後のまた会う春までは上巻の花嫁に通じていた。どの話もそれぞれほっこりしてつながっていて東京會舘の外観がかわっても受け継がれていくものがあるのだと理解した。コロナが落ち着いたら行ってみよう。

  • この本を読んで東京會舘クッキングスクールに通いたくなった。
    辻村さんの著書の中では他と趣が異なる本。

  • どの章も心に残るいい話だなぁ。東京會舘は行った事はないけれど、懐かしく身近に感じられます。この本に出会えてよかった。
    この本続きで東京會舘が出てくる小説を読んでみようと思います。近いところでは内館牧子の「終わった人」にちょっと出てきてましたね。

  • 東京會舘が新館に建て替えられてからの5編。

    私は一度だけ東京會舘に入ったことがある。
    新入社員だった頃、会社の誰かに連れられて
    カフェテラスでコーヒーをご馳走になった。

    こんな格式高いところに…と気後れして
    ふかふかの絨毯にビビり、
    ふかふかのソファに申し訳ない気持ちでちょこんと座り
    コーヒーばかりを見つめていたように思う。

    田舎者に見られてはいけないと、
    キョロキョロ出来なかった。
    キョロキョロしていれば金環(シャンデリア)を
    じっくり見られたはずなのに。

    この物語を読み、
    キョロキョロ大いにしていいんだと思う。
    田舎者でいいんだ。田舎者で教養がなくても
    この建物の中では、安心して楽しんでいいんだと思う。

    中で働く方々は、見下したりしない。
    私たちに向かって開かれているんだ。
    誰でも自由に利用できるのが、東京會舘なのだから。

    5編ある中で第六章の「金環のお祝い」は
    泣いてしまいました。
    こんな素敵なサービスが
    さらっと出来てしまうんですね、東京會舘は。

    そのほか男性の料理教室の教え方や
    マナー教室のマナーのとらえ方、教え方など
    これでもかと東京會舘流を見せつけられたら
    そりゃファンになります。行きたくなります。

    年末年始でどっぷり脳内の東京會舘内にいられて
    幸せいっぱいな一冊です。

    新新館でも「玄関係」なんですかね。
    ローズルームの名前や歴代のシャンデリアは
    どうなるんだろう?大理石の壁も?
    プルニエは?ロッシニは?
    遠藤理容館は?五十嵐写真店は?

    東京會舘らしく、を目指す新しい建物。
    この本の読者の方々と辻村さんと一緒に
    楽しみに待ちたいと思います。

    素敵な場所だってことを教えてくださり
    ありがとうございました。辻村さん!

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著者プロフィール

辻村深月(つじむら みづき)
1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業後、2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。2011年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、2017年『かがみの孤城』で「ダ・ヴィンチ ブックオブザイヤー」1位、王様のブランチBOOK大賞、啓文堂書店文芸書大賞などをそれぞれ受賞。本屋大賞ノミネート作も数多く、2018年に『かがみの孤城』で第6回ブクログ大賞、第15回本屋大賞などを受賞し、2019年6月からコミック化される。他の代表作に『子どもたちは夜と遊ぶ』『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『スロウハイツの神様』『名前探しの放課後』『ハケンアニメ!』『朝が来る』など。新作の度に期待を大きく上回る作品を刊行し続け、幅広い読者からの熱い支持を得ている。2020年、河瀬直美監督により『朝が来る』が映画化される。

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