本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
本 ・本 (344ページ) / ISBN・EAN: 9784620108414
作品紹介・あらすじ
偶然始まった温かくてどこか噛み合わないご近所付き合い、その行方は――。
芥川賞作家が描く新たな代表作!
住み心地のいい離れの一軒家で一人暮らしを続ける北川春子39歳。母屋に越してきた、夫を亡くしたばかりの63歳、青木ゆかり。裏手の家に暮らす現実的な今どきの新婚25歳、遠藤沙希。
年代も性格もまったく異なる3人の出会いから始まった、温かく、どこか嚙み合わない"ご近所付き合い"、その行方は――。
女も男も、人からは見えない、そしてジャッジすることのできない問題を抱えている。年齢や、生きる環境、価値観など、さまざまな違いを乗り越えて、人と人はほんとうに分かり合えるのか? 現代を生きる大人たちに贈る必読の一冊。
感想・レビュー・書評
-
図書館で目があったので借りてきました。なんとなく、良い小説だったと感じました。前にもこの作者さんの本を読んだけれど、また別の本を読んでみたいな。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
装丁が心にストライクで、古本屋で出会った1冊。
なんで古本屋さんで出会うと、こんなにもご縁感じちゃうんだろう。不思議。
ほんと価値観って人それぞれだし、本来誰かと比較するもんでもないよなぁ。
なんで自分が思う当たり前を、振りかざしてしまうんだろう。他人にも、自分にも。
人生1回しかない。
と思いつつ、この本の評価が低めなのを見てちょっとガッカリしている自分がいる。
自分がいいと思った本に高評価がついていたらちょっと安心しちゃうし、逆だったらちょっとがっかりしてしまう。
「普通」でいたいという、マイノリティから外れたくないという思いは、無意識的にあるんだろうな。
意見が別れて当たり前のものですら、少しそう思ってしまうんだから、人生「普通」の壁の連続じゃないか。
別にいいじゃないか。私はいいと思った。
それでいいはずだ。自信を持て、自分。
意識していなくても、色んな意見が目に飛び込んでくるから、自分がどう思っているのか、自分の声にしっかり耳をすませなきゃなと思った。 -
全くバラバラの年代の女性3人のご近所さんのお話。
誰もが自分の価値観を正しいと思って生きているから、それにそぐわない人を見ると攻撃したり、あるいは善かれと思ってお節介を焼いたりしてしまうことがある。
でも、わたしが何をして何を選ぶかは「わたし以外のほかの誰かが決めることじゃない」
「人といっしょにいるにはエネルギーがいるから、一人の時間にそれを貯めてる」人もいれば「一人で過ごさなければいけない時間のために、賑やかにしてたくさん力をもらう」人もいる。
人は一人一人違うってことを分からずに自分がいいと思うことを押しつけてしまったり、相手に分かってもらえてるはずと思い込んでいたり‥‥そんなことに気付いて、このご近所さんの3人、これからも仲良くやっていけるんだと思う。 -
母屋の隣、離れの一軒家で一人暮らしをしている39歳の春子さん。大家さんが亡くなって母屋に越してきた、63歳のゆかりさん(亡大家さんの娘さん)。裏手の黄色い家に暮らす、メンバーがたくさんいるアイドルグループにいそうな新婚25歳の沙希ちゃん。
ゆかりさんが越してきたことでご近所付き合いが始まっていく。人との付き合い。社会で生きるということ。ご近所とのつながり。
女性としてこうあるべき、これが幸せなんだよ感。そうそう、私もその偏った風潮の片棒を担いでいる感も無いとは言い切れないけど、違和感は感じる。私は春子さんほど「一人でいたい」と、しっかり割り切ってはいないけど、分かるな〜と思う部分もありながら読み進めました。同僚と友人とご近所と家族とそして他人と。様々な距離感。私は春子さんの同僚のみづきに、一番尊敬と憧れを抱いてしまいました。そして、沙希ちゃんは普通に腹立つ(笑)けど、みんな違うから、人間は素敵なんじゃないかなぁ。
私は特別な存在では全くなくて、才能もなくて、人が普通にしていることが私には出来ないんだなぁと日々感じている。だけど、せめて自分の視界に入る人たちの幸せを願って、その人たちからもらっている幸せを、大切にしながら日々を暮らしていければなと思う。 -
一軒家の離れに一人住む独身女性・春子39歳。春子と近所の人たちとの日常。大家さんのゆかり63歳。ゆかりの親類で近所に住む新婚沙希25歳。その二人と接することにより、近所の出来事、食い違い、自分を見つめ直してゆく。
劇的なことはないんだけれど、3人の年齢や背景の違いにより、価値観が異なりそのやり取りにその都度考えることがあった。結婚、親類との付き合い、自分の未来について。物語にある近所付き合いについては、ありそうなこと。それぞれの意見の相違とか実際ありそうなことを上手く描いているなあとじっくり読めました。みんな考えることが違うけれど、それは当然であって、いかに自分を持つかかな。理解できるか分かり合えるかどう距離を置くか。春子は流されずにしっかり生きていると思うよ。未来でもなんでも待ち遠しいと思える心の心境を保ちたいなあって思いました。 -
穏やかな性格の40代独身の主人公と、夫と死別し一人暮らしを始めた陽気な60代、母子家庭&ヤンキー社会で育った新婚20代。世代と価値観の異なる女性3人の交流物語。
「あなたのため」という善意的な行為により、受ける側が精神的に削られ摩耗していく日常に、どう折り合いをつけるか。
主人公の春子は、独身ゆえ「未婚は半人前」「誰かいたほうがいいでしょ」的な言動にさらされるが、自分の人生を否定したり悲観することなく、自身の「好き」の輪郭を徐々にくっきりさせてゆく。
対して年下の沙希は、女は早く結婚し出産してこそ一人前というヤンキー的な価値観どおりの人生を歩むが、その価値観から外れた春子と出会い、明確に描写されていないが実は無意識に動揺したのではないか。
不躾な会話をして「子供はかわいいが自分は欲しいとは思わないなぁ」と言うセリフを春子から引き出しておいて、「人として普通じゃない」「すごい冷たい人」という言葉を投げつけ、マウント取りをする沙希。その根底には、母親や「先輩」なるヤンキーコミュニティに認められるため諦めてしまった何かがくすぶっており、それを今さら意識したら生きていけないという絶望が感じられる。
そのくすぶりや悲しみを、娘のためだと言えば何をしても構わないと思っている母親や、ヤンキー先輩や夫が理解できるはずもなく、この闇を受け止められるのは全く正反対の人生をささやかに紡いでいる春子だけだと直感している沙希。春子も沙希もそれぞれストレスを抱えているが、控えめなのに同調せず自分のペースどおりに歩む春子と、不快さを振りまくのに周囲の期待どおりの人生を歩んでしまう沙希という対照的な2人。
周囲から祝福され幸せ者と見なされている沙希が、春子を見つめる終盤のシーン。主要登場人物の中で最も絶望が深いのは、おそらく一番若く祝福されている沙希であり、将来のメンタル闇落ちを予感させ、その時に一番必要な存在は母親や先輩や夫でなく、マウント取りをして落としめたはずの人たちだろう。
ここ最近は、読者の心に爪痕を残したり社会的な痛みを突き付ける韓国文学に親しんでいたせいで、本作のような印象派的な淡い描写に物足りなさを感じたが、過酷さや激しさの中をくぐり抜けるような韓国の表現に対し、あらゆる世代に蔓延している同調圧力に対する折り合い(抗ったり争うことは稀)が課題のような日本だから、このような透かし絵のような淡い情景になるのだろう、と勝手に分析。そう思って本作を振り返ると、安易に恋愛で解決しないところやドラマチックでない舞台設定が現実的で好感を持てるし、薄味のようでいて結構な闇を垣間見ることもでき、なかなかの味わい深さを堪能した。 -
いつも比較的冷静に、でも何かが違う、自分とは違う価値観を押し付けられた、というときに感情が動く。
『机の上の書類を上司に投げつける映像が、春子の脳裏に鮮やかすぎるほどに浮かんだ。それから、いや、違う、と思った。書類も椅子も机もひっくり返して、わあああーっと思いっきり叫びたい。うん、それや。』ここはドラマなようにシーンが浮かんだ。
大きなことは特に何もないけど人生の中にある出来事がでも確実にひとりひとりの人生に波風を立てている。何もなし得てないかもしれないけど、きっとそんなことなくて、もっと自信を持ってもいいと考えるようになれた主人公が良かった。 -
住み心地のいい離れの一軒家で一人暮らしを続ける39歳の春子、母屋に越してきた63歳のゆかりと裏手の家に暮らす新婚25歳の沙希がご近所づきあいから始まるストーリー。
3人の関係性はつかず離れずで特別「待ち遠しい」っていう関係性でもないのになぁと思いながら読んでいてやっと関するフレーズが出て来た。
春子が高校生の女の子に質問される場面。
「あのー、こんなこと急に言うてなんやって思われるかもしれないんですけど、えーっと年取るのって怖くないですか?」
怖くても怖くなくても年は取るしと返しかけて春子は思い返す。年をとることは悪いことじゃない、楽しい事も面白い事もいっぱいある、ってもっと力強く断言できたら良いのにと話しながら春子は思っていた。これから先が待ち遠しくなるようなことを、言えるようになりたい。
全く同感です。今週の俳壇に取ってあった句を添えておきます。<言はば言え老いには老いの爽やかさ>高松市に住む島田章平さん
著者のインタビュー記事は➡https://book.asahi.com/article/12535342 -
ずっと好きで読んでる柴崎友香さんの小説。
本作も些細な心の動きや感動・動揺が丁寧に書かれている。
また、電車のホーム上、こちらは相手の存在に気がつくけど、相手はこちらに気が付かず、こちらから見られていない前提での立ち振舞をしてる、そんな交差が面白い。
それぞれの送ってきた人生も違えば、見えている世界も視野も違う。
当たり前だけど、そんなことに気が付かされる話。 -
離れの一軒家で一人暮らしをする独身北川春子39歳。そして母屋に越してきた、夫を亡くした青木ゆかり63歳。その裏手の黄色い家で暮らすゆかりの甥っ子の嫁沙希25歳。
適度な距離感で暮していけたら良いのに、持って生まれた性格というのか、寂しさからなのかおせっかいをやき始めるゆかり。ここまでなら許せるけど、ここから先は踏み込んで欲しくない…て所はありますよね。沙希のズケズケ言う言い方も私は苦手。春子みたいに聞き流せたら良いなと思った。
ご近所付き合いは難しいけど、この小説のように何かあった時は遠くの親戚より近くの他人が頼りになることも。特に1人暮らしをしているとゆかりのような存在がいると安心かも。
著者プロフィール
柴崎友香の作品





