黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続

著者 :
  • 毎日新聞出版
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感想 : 208
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620108452

作品紹介・あらすじ

おちかに代わり三島屋次男坊・富次郎が新たな聞き手に。心揺さぶる極上の江戸怪談、新章突入─。宮部みゆきのライフワーク最新刊!

感想・レビュー・書評

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  • 〈三島屋変調百物語〉第六作。
    今作から聞き手がおちかから三島屋次男・富次郎に変わるシリーズ第二章の始まり。

    辛い過去を持つおちかに、世の中には辛い思いをした人や理不尽なものを無理矢理背負わされた人はたくさんいるということを教えるために始まった『聞いて聞き捨て、語って語り捨て』の三島屋変わり百物語。
    新たな聞き手になった富次郎は奉公先で喧嘩に巻き込まれて大怪我を負ったために実家に戻ったものの、どこか暢気で怖がりで肝が据わっていない。
    語り手を仲介する口入屋に『あんたは面白がっとる』『他人の話を聞くことを軽く見とる』ときつく言われるわけだが、それが表題作である最終話で返ってくるところなど、上手いなと思う。
    とは言え聞き手としては新米の富次郎、これから彼の変化を見守っていきたい。それにおちかと違う聞き捨ての方法も。

    前半の三編は中編。
    ホクロが取り憑いた女たちが家族を大混乱に陥らせる「泣きぼくろ」と、その家の女が花見をすると恐ろしい目に遭う「姑の墓」は理不尽系。
    「泣きぼくろ」は唯一亡くなった主人に因縁があるのかなと想像出来るが、そのオチがすごい。
    「姑の墓」は一体何でこんなことになるのか分からない。さらに怖いのは語り手が恐れるようにその因縁を知らずに受け継いでいるかも知れないと思うこと。
    逆に飛脚が仕事中に霊に付いてこられる「同行二人」はきちんと、少なくとも語り手は納得出来る訳があり、きちんと片も付いていてホッと出来る。

    そして表題作だが、これは理不尽系の極み。
    最初は『マヨイガ』みたいな話かと思っていたらとんでもない、シリーズ初期の話のような捕まったら最後どうにもならない話だった。
    人間が大なり小なり何らかの罪を犯している(法的以外に)わけで、現実にこんな屋敷があったら一体何人の人間が閉じ込められねばならないのか。
    しかしこういう理不尽な状況だからこそ、その人の本当の姿や心意気が分かるもの。パニック映画でもよくあるが、早々に諦める者、開き直って毒を吐く者、心が壊れる者、色々なタイプがある。
    そして自分を犠牲に皆を助けようとする者、最後まで諦めずに助かる方法を考える者もいる。
    自分ならどうだろう、早々に諦めるんじゃないかと情けなく考えてしまった。

    この話では新妻となったおちかと富次郎との再会がある。
    幸せそうで良かった。それ以上に夫の勘一は頼りになる男で、今後も富次郎を助けてくれるかも知れない。
    富次郎は聞き捨てるために絵を描く手段を用いるのだが、表題作はそれだけでは済まない。
    この不思議な骨董屋、今後も出てくるだろうか。

  • 自分事ではありますが、訳あって、4か月ほど本屋も古本屋も図書館も周囲にないところで生活してました。警察に拘束されてたとかではなくて、単純に仕事の都合でとても辺鄙なとこに居ました。
    もっぱらアマゾン頼みの読書生活。
    やっとそこからシャバに、いやいや、人間社会に復帰できて、つい嬉しくてBOOKOFFで一気に衝動買い。
    手当たり次第に持てるだけ買ってしまい、気が付くと合計2万円も!
    そんな中の一冊。

    三島屋変調百物語。シリーズ第六弾。
     
    前作で長らく聞き手を務めていたおちかがめでたく嫁入りし、聞き手が富次郎に代わってしまった。
    やはり、というか、恐れていた通り、富次郎の魅力が感じられない。
     
    嫁に行ってもいいから帰ってきておくれ、おちかー。カーンバック!!
     
    短編4話だが、表題作の「黒武御神火御殿」だけで全体の半分を占める長さ。
     
    全体の印象だが、もう少し「深掘り」して欲しい気がした。
    怪異自体は元々理不尽なものなのかもしれないが、それでも、いわくというか、なぜそうなってしまったのかをもっと明かしてほしかったな。
    恐怖もカタルシスも全てが少し足りない。
    次作に期待。

    • NORAxxさん
      土瓶さん、こんばんは^ ^ おかえりなさーい!!!シャバの空気はいかがですか??紙の質感と活字のある外の世界の空気は美味しいですか!?!?ふ...
      土瓶さん、こんばんは^ ^ おかえりなさーい!!!シャバの空気はいかがですか??紙の質感と活字のある外の世界の空気は美味しいですか!?!?ふふふ、凄まじい反動を消化出来たようで良かったです☆

      これからの発散レビューも楽しみにしてます^ ^
      2022/04/14
    • 土瓶さん
      NORAxxさん、こんばんはー。ただいまーっ!
      もうね。BOOKOFFに一歩足を踏み入れてしまい、取りつかれたように次から次へと本をかごに...
      NORAxxさん、こんばんはー。ただいまーっ!
      もうね。BOOKOFFに一歩足を踏み入れてしまい、取りつかれたように次から次へと本をかごに入れまくってしまいましたよ。
      「今日は、値段を見ずに買いまくろう!」と決意し、これ以上は物理的に重くて無理、というまで買ってしまいました。
      恐ろしいものです。
      でも、少しスッキリ♪
       
      こちらこそNORAxxさんの楽しいレビューに魅了されとります。
      コメント、ありがとうございました。
      2022/04/15
    • NORAxxさん
      んまっ!!貴族のお戯れが過ぎますぞ!!!羨ましい!!!なんちて、その瞬間たまらなく楽しいですよね。リミッターの外れた自分の直感ほど信じれる物...
      んまっ!!貴族のお戯れが過ぎますぞ!!!羨ましい!!!なんちて、その瞬間たまらなく楽しいですよね。リミッターの外れた自分の直感ほど信じれる物は無いでしょう!物理的な限界を迎えるまで本屋で買い物...想像だけで心が満たされます( ᵕᴗᵕ )♡後はそれを消化して全力のスッキリをご堪能下さい///

      そう言っていただけると嬉しいです^ ^ また遊びに来ますね♪
      2022/04/16
  • 人を見た目で判断してはいけない。
    一見、陽気な人も、上品で楚々とした人も、粋でいなせな人だって、他人には言えない面妖な闇を抱えているかもしれないのだから。
    その人が長年抱く闇の重みは誰であろうと計り知れない。
    全てに蓋をして無かったことにしてしまいたい。
    けれど闇の重石に耐えきれず黒白の間へやって来て、静かに、時に涙しながら語り捨てる。

    理不尽な目に合う語り手達の苦しみ悔しさに泣けた。
    けれど、長年抱いていた暗い過去を全て語り尽くし、さっぱりとして帰っていく語り手の後ろ姿を見送るのはやっぱりいいものだ。

    人気シリーズ第6弾。
    おちかの後を継いだ富次郎が今回から聞き手に回る。
    まだちょっと頼りない富次郎だけれど、手探りながらも相手の話を真摯に受け止める姿に好感を持った。
    そして守り役のお勝と何かと気が利くおしまの二人が富次郎をバックアップして頼りになる。

    例え相手が化け物であってもそれも一期一会…と言うけれど、出来れば私は逢いたくない。
    何はともあれ、新婚のおちかが幸せそうで何よりだった。
    三島屋新生トリオが贈る第7弾も今からとっても楽しみ。

  • シリーズ第六弾。

    新たなスタートをきった黒白の間。

    富次郎の聞き手ぶりはおちかのようなどっしり構えた感にはまだ届かない。
    ちょっとしたことに動揺する、でも聞き手としての心構えも自分らしく習得していく、それが新前さんらしく微笑ましかった。
    そして守り役のお勝さんの存在が今まで以上に読み手にも頼もしく感じられたな。

    今回の語りはどれもゾッとしながらも読み応えあり。心の哀しみ、心の折り合いの付け方が沁みた「同行二人」が一番印象に残った。
    飛脚の仕事も垣間見れたのも良かった。

    そして毎回、富次郎の聞き捨て、語りとの折り合いの付け方、これが好き。

    • あいさん
      こんばんは(^-^)/

      今回から新シリーズかな?
      今度の聞き手は男の人なんだ。
      まだ不慣れな感じだね。
      こんばんは(^-^)/

      今回から新シリーズかな?
      今度の聞き手は男の人なんだ。
      まだ不慣れな感じだね。
      2020/02/02
    • くるたんさん
      けいたん♪

      そうそう、聞き手はおちかの従兄弟に変わって新しい幕開けだよ。
      これも長いシリーズになりそうだよ♪
      けいたん♪

      そうそう、聞き手はおちかの従兄弟に変わって新しい幕開けだよ。
      これも長いシリーズになりそうだよ♪
      2020/02/02
  • 聞き手が変わって、最初の巻。

    富次郎は一緒に怯えたり、思わず声に出したり、感情を表に出しやすいタイプ。
    素直な聞き手になったことで、雰囲気が明るく、テンポもいい。

    あくまで人の心理をていねいにえがいていくのは変わらず、何度もぐっとくるものがある。

    おちかが完全に消えてしまうのではなく、その後を知れたのもよかった。

    富次郎のくだけた雰囲気がよく出ているのが「泣きぼくろ」。

    特に泣けたのは「姑の墓」「同行二人」。

    「黒武御神火御殿」の陰鬱さは、おちかのころの雰囲気に近かった。

  • 三島屋変わり百物語の第6弾。聞き手から、おちかさんが退場し、富次郎さんが聞き手となります。

    おちかさんは、1作目の頃の状況もあって、落ち着いて、冷静な対応が多かったのに対して、富次郎さんは感情がけっこうあらわれる感じで、こんな時に、おちかはどうしたろうと語ったり、身近な感じが出た気がします。

    話も本編に出てくるように、広がりを見せますが、やはり大部分を占める表題作がすごい。閉じた屋敷など、様々な要素を埋め込んだ話で、長くても飽きさせない展開でした。聴きかだりの形式でいくと、ちょっと難しいような気もしてたのですが、最後までグイグイ引っ張られました。



  • それは、何かの因果か。たまたまの災難なのか。はたまた運の悪さか。

    人はこうありたいと願いつつも、ある時は大切なものを失い、またある時は、目指していたものを断念する。
    それは時代が異なれど、世の常。

    夢や希望を手放し、誰か大切な人の喪失感に悶絶し、降りかかる病や災難、不運に嘆き、悲しむ。

    人々のそんな割り切れぬ幾重もの思いを亡霊やものの怪に託して、宮部さんが見せてくれる「三島屋」シリーズ第6巻。待ちに待っていた!

    以下、特に印象的だったもの。

    第二話「姑の墓」に登場する「子どもの幸せより、自分の言いなりにさせよう」とする実親に悩み、自分を閉ざして生きてきたお恵の在り様。

    姑になった途端、人が変わったように嫁いびりをする家系の血が自分に流れていることに悩むお花。

    語り尽くすことで、語り捨てる。
    聞き尽くすことで、聞き捨てる。

    自分でちゃんと心の奥底を覗き、それを聞いてもらって、呪いから放たれ、厄を落とし、前に進む。これ、あさイチで大吉さんが話題になったあのセリフと同じだ。

    第四話「黒武御神火御殿」の科白
    【知らぬ存ぜぬも知恵のうち】

    もよい。これ以上、踏み込まないのも身のため。何がなんでもの人助けは身を亡ぼす。

    賭博依存に陥った主人公甚五郎の心の内が丁寧に明かされ、依存は弱い人、心の持ちようでは解決できない根源的な寂しさや不安が綴られる。

    加えて、宮部さんの江戸ものには、当時の文化や政治、地理等の事情も物語を縁取る大切な素材として、描かれているので、そちらも充分に堪能できる。

    季節の植物や、大納戸色、煤竹色など江戸の色彩を用いた衣服の様子、身分制度、キリスト教と庶民の関わり等もとても興味深かった。



    待ち焦がれていた『三島屋』シリーズの第6巻。どっしり重い570頁の大作らしく、中身もじわじわ、しみじみと。
    おちかちゃんから引き継ぎ、富次郎が語り手。年末の僥倖でした!次巻も楽しみだ。

  • シリーズ6作目と言うことになるようだが、今回から聞き手が嫁いだおちかに代わり富次郎にバトンタッチされた。しかし富次郎はおちかのように怪異を呼び寄せる特殊能力はなく、ただただ聞き手に徹することになりそうだ、作者もその方が良いようで、思い切りホラ話を創作できると言うものだ。第1話から3話までは短編だが、表題作の4話目は大長編である、その上この作者は引いた伏線の回収は徹底しており登場人物の物語を漏らすことなく物語するものだから、読者はほとほと苦労する、しかし読後の満足感は半端じゃない。まだまだシリーズは続きそうだし、富次郎はちょっと頼りないのでおちかの力も借りることもありそうだ。

  • おちかが本屋に嫁に行ったので、聞き手が2代目。三島屋の次男坊富次郎。語られた話を絵にして封じるという趣向。落ちかの時は怪談というよりも、ちょっとほっこりする怪異という感じの、トワイライトゾーン風だったのが、富次郎になって、かなりホラー色が強くなっている。話は4つ。”泣きぼくろ”色魔が黒子となって移る話。”姑の墓”なぜそこまでたたるのか?というぐらいひどい姑の話。”同行二人”題名からお遍路の話かと思いきや、亡霊と走る飛脚の話。第四話がタイトルにもなっている、黒武神火御殿。かなり正統派にホラー。ホラーRPGという感じ。読んでいてちょっと疲れる神隠し譚。面白かったし、読み応えもあったが、ぐっさり刺さるという感じはない。

  • 三島屋変調百物語の第6弾。おちかちゃんの後任として、富次郎が聞き手役になった、三島屋の変わり百物語のお話。
    やっぱり圧巻…というか、熱量が高かったのが、題名にもなっている、黒武御神火御殿でした。
    今回の作品は、なかなか救いがない。どうしようもない人の業が全面に出ている作品が多かった印象でした。なかなか理解しづらい、受け入れがたい業。私も心して、自分の業と向き合わないと。
    まだまだ新米の富次郎さんもいいけど、やっぱりおちかちゃん好きだなぁ。また登場してくれないかなぁ。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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