- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620210520
感想・レビュー・書評
-
オーディブルで聴了。いつも通りの内田樹さんです。定点観測的に。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
祝文庫化
『生きづらさについて考える』(毎日新聞出版) - 著者:内田 樹 - 内田 樹による内容紹介 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS(2019/09/04)
https://allreviews.jp/review/3740
生きづらさについて考える 内田 樹(著/文) - 毎日新聞出版 | 版元ドットコム
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784620210520
-
学生時代、政治社会学やガバナンス、政治思想哲学だとかに関心があって、内田先生の『ためらいの倫理学』を読んだ。
その本が面白かったのと、本書の帯の紹介文にそそられて買った一冊。
自己啓発本は苦手だけど、「風」なタイトルなだけで、実際の内容は現代政治思想史に近いかなと思った。
雑誌や新聞への寄稿を集めて一冊の本にしているもので、明確な起承転結があるわけではない。
気に入った文をまとめておく。
P222-223
〈生き延びる方途は皆さんが自分で見つけるか、創り出すなりするしかない。
(中略)
そして、その選択の成否については自分で責任を取るしかない。誰も皆さんに代わって「人生の選択を誤った」ことの責任は取ってはくれません。〉
p260-261
〈人は誰も平等であるべきですけど、その理想を実現するためには「自分には他の人よりも多くの責務がある」という自覚を持つ人間が要る。貴賤の差のない世界を実現するためには「ノブレス・オブリージュ(高貴であることの責務)」を感じる人が要る。自分には他の人より多くの責務があると感じる人がいなければ、この社会を住みやすいものにすることはできません。〉
p280-282
〈人間が「落ち目」になるのは、単に金がないとか、健康状態が悪いというような理由からではない。これからどう生きればよいかわからなくなったときに、人間は毒性の強い脱力感に囚われる。
・・(中略) ・・
日本が「落ち目」になったのは個人の努力と国力の向上を結び付ける回路が失われてしまったからである。
・・(中略) ・・
日本が「落ち目」だということについての国民的合意が形成され、なぜそうなってしまったのか、そこからの回復の方位はありうるかについての自由闊達な議論が始まらない限り、この転落に歯止めはない。〉
p285-286
〈日本人にとって、気が楽になるとか、心持ちが落ち着くとか、肩の荷が下りた気がするとかいうのは「自由を達成した」からではないんです。すべての外的な干渉を退けて、自分の思いの通りのことを実践するということを日本人はほんとうは望んでいない。それよりは、ほっとしたい、気楽でいたい。
集団のなかにいると、さまざまな相互に矛盾したり対立したりする要請を調整しなければならないということがあります。それがうまく折り合って、「落としどころ」に話が落ち着いたときに、日本人は解放感と達成感を覚えます。
(中略)
もろもろの干渉が相互に相殺さらて、一種の「ニュートラル」状態を達成したときに、日本人はなぜか深い満足感を覚える。これはどう考えても、ヨーロッパ的な「自由」とは似ても似つかぬものです。〉
p289-290
〈「相容れない立場をなんとか折り合わせる能力」こそが列島住民が生き延びるために優先的に開発してきた資質なんですから。列島民たちはそういう生存戦略で2000年くらいやってきたわけで、いまさら変えろといわれても無理ですよ。
(中略)
日本人は「調和」のうちに安らぐことを、ヨーロッパ人が「自由」のうちに安らぐことを求めるのと同じくらいに切実に求めているのであって、それはそれで一つの「種族の文化」だと僕は思っているのです。〉
なにかを悲観するにしても楽観するにしても
自分自身が立つ場所の背景や特性を理解した上で、思い至りたい。
そう強く思った一冊。よかった。 -
借りた日2023/09/24
読み終わり2023/10/08 -
内田樹先生の本をやっと初めて読んだ!納得いくものが多かったし、何よりあとがきが良かった!
他の本も読んでみたい。 -
取り扱うテーマは、先行き真っ暗な日本の現状なんだけど、語り口が軽快で、面白く読める。
内田節で語る日本人の国民性も、
そうかもとちょっと納得させられる。
度重なる不祥事は、壊滅するまで止められないのは日本人の特徴から。
日本教育が量産した上位下達のイエスマン。
自民党が国民の政治無関心を意図的に築き上げたという自説。
教育投資少なすぎて、論文出稿数も先進国最下位、これに叱咤してるのは、日本じゃなくて、アメリカや英国だとか、、 -
本書は現代社会に蔓延する「生きづらさ」を緩和するために、政治や教育における最善の選択肢を提示し、想定されうる暗い未来について思考が停止する日本の国民性については批判的に書かれている。本書では「生きづらさ」を、自分の機嫌が損なわれる場所にいることで起こる心身の不一致と定義している。本書では「生きやすさ」について直接語られることはない。なぜなら文中で列挙されていた「生きづらさ」やその要因を再考し、解消していくことで、心身のズレが修正され、自由度が増し、その結果生きやすくなるという筆者のメッセージだからである。そして我々は後の世代へ「生きづらさ」を残してはいけない。
-
心に刺さる言葉が散りばめられている本。生きづらい(このままでは嫌な)社会だと思っているが、なぜ日本がそのようになってしまったのか、生きづらさの正体とは何なのかが、納得させられる文章で説明されていた。わたしが抱いている違和感は、こういうことだったのか、そしてこの違和感を感じているのは私がいけないのではななかったんだと思わせてもらった。本を読むことは世の中を知ることにつながり、視野が広がることを実感した。もっともっと沢山の本を読もうと思えた。
-
サンデー毎日の政治に関する連載のまとめ。政治に関するコラムなので、時事的には少し古いものもあるし、情勢予想として外しているものもあるのだけれど、根本にある日本政治の問題点に関する指摘は今でも通じる。
大して変革もせずに古い制度にしがみつき、かつジリ貧になるなかで、少しでも得しようという感覚に溢れた現代社会。株式会社化が社会の全面に渡って展開され、学校、大学、行政、地域社会が効率を重視して運営されている。結果として日本の基礎体力を奪い続けている。日本はストックで食べているところが大きいと思うけど、そろそろそのストックも尽きてしまう。
何とかしなければいけないのだけれど、簡単な解決策に飛びつかず、一歩ずつやっていくしかないんだけど。
最後にミス・マープルが家から出ずに自分の記憶や周囲の人間関係からのアナロジーから行う推理方法こそが新たな発見のためのキーという話は面白い。一見関係ないところに関係をつくることで知的衝撃が走る。意識して考えてみたいと思う。