りそなの会計士はなぜ死んだのか

著者 :
  • 毎日新聞出版
3.16
  • (2)
  • (12)
  • (23)
  • (7)
  • (1)
本棚登録 : 112
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620316468

作品紹介・あらすじ

りそな銀行の実質国有化が発表される直前、りそな担当の公認会計士が死んだ。「粉飾を強要されたことへの抗議自殺」と言われたが、それは本当か?他殺説が囁かれるなか、会計士の死をスクープした記者が真相を追い、日本の経済危機の底知れぬ闇を抉る。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本書のタイトルはりそなの会計士は【なぜ死んだのか】である。世間一般には自殺として報道されていたため、無意識的に【なぜ自殺したのか】の方がしっくりくる。これは他殺の可能性もゼロではないという点への配慮であると感じられた。
    なお、本書ではなぜ死んだかは明らかにならない。それは、死人に口なしで本人のみぞ知ることである。が本書は他殺説の立場ではなく、自殺説の立場に立っている。他殺説の陰謀を明確に示すのは難しいと私も考える。いくら実質的な現場責任者であるとはいえ、監査意見を出すのはパートナーである。シニアマネージャーを暗殺したところで、効果は薄い。暗殺せずとも、パートナーや本部が意見すればそれが通るのだからそちらに働きかければ済む話だ。したがって自殺説が有力であると言える。

    私自身、元大手監査法人所属の公認会計士であり、本部審査会がいかなるものか理解しているつもりだ。以下それぞれの登場人物の行動を考察した。

    りそな:繰延税金資産を計上したい。計上案を監査法人に提出。会社を潰すわけにはいかないので当然の行動である。

    平田氏:長年担当している会社の危機。あっさりりそなの判断を突き返し計上を認めないうことは考えにくい。りそなからの圧力があろうと彼の判断基準は会計基準と監査基準である。監査調書をまとめ、判断根拠を文書化する。人柄からも責任感を持っている。りそなの主張をどこまで許容可能か、必死に検討したものと推察する。繰延税金資産の計上は将来の収益計画次第であり、未来のことなど誰にもわからない。答えのない世界であり、その中で繰延税金資産を幾分か計上可能と判断することは不可能ではない。
    このような状況の中、りそな側の主張を通す方向で取りまとめた。当然チームのパートナーと合意した上で本部審査会に挑んだ。

    監査チームパートナー:平田氏が検討した結果をレビューし、承認する立場にある。繰延税金資産の計上に関しては、重要な検討事項であり、監査法人として判断の妥当性が問われるため本部審査会の受審が必要であった(監査法人の品質管理上のルールがある)。監査報告書にサインし、責任を負うため平田氏と意見が異なれば、当然覆す権限がある。本部審査会を受審する段階では監査チームとしての意見は統一されている必要があるため、平田氏同様、りそなの主張を通す方向で結論づけたと考えられる。

    朝日監査法人:基本的には各監査チームのパートナーが判断をして監査意見を出すが、法人として重要な検討事項がある場合には、品質管理のため本部審査会を受審する必要がある。基本的リスクを取りたがらない人たちなので、厳格監査となる。わざわざ繰延税金資産の計上を認めて後々責任を問われることを指示するメリットはない。したがって、繰延税金資産の計上を認めないと判断したことが容易に想像できる。

    ここで平田氏の心情を考察する。私だったらこう考えるかもしれないと思う創作だ。
    担当会社の危機を救う決意で必死に審査書類を作成した。繰延税金資産を計上可能と判断するための、監査証拠を入手した。監査チームのパートナーとも合意し、あとは本部審査会での承認を得るのみだ。が、本部審査会は冷たかった。あまりにもリスクを取りたがらない。平田氏の努力の結晶を一蹴した。繰延税金資産の計上は認められない。初めから結論ありきの審査だった。理不尽だ。やってららない。もう疲れた。りそなになんて伝えよう。俺のせいでりそなが破綻してしまう。だけどもう疲れた。。。

    強過ぎる責任感と肉体的疲労や精神的疲労によって正常な判断が出来なくなっていたのかもしれない。想像でしかないが私にはありえる話だと思う。

    平田氏のような立派な会計士を失ったことは間違いなく日本の損失だ。最大の敬意を払い、御冥福をお祈りする。

  • 会計士の過去の状況を知るべく読了。

    00年代初頭の会計士業界の概況を知ることができます。
    「エンロン事件」という世界の大手監査法人の解体を受け、その二の舞になりたくない日本の大手監査法人の心境が書かれていますが……本書の執筆当時はまだ「中央青山」が残っていたというのが皮肉ですね。

    肝心のりそなの会計士自殺の分析については、著者の主観・想像が入りすぎてあまりよろしくないです。
    自殺した会計士の自殺前一週間の行動記録を入手できなかった時点で、主観と想像に頼らざるを得ないのでしょうが。

  • りそなショックの内幕を探る

  • 税効果会計という会計処理ひとつで、一人の会計士が亡くなり、一つの銀行が実質国有化されるという現実を生んだ。

    この本で監査法人と企業、その狭間にいる現場の会計士、さらには監督官庁に至るまで、彼らの微妙な関係はよくわかる。
    ただ著者の推理に過ぎない結論を押し付けすぎている感があるので、その分はちょっとマイナス。

    『会計』って何が正解なんすかね・・・?

  • 事件が起きてからあまり時間が経過していない時点で書かれた本なので
    断定できない箇所はあったと思うが、今読むと結局結論は?
    といいたくなる内容。
    彼がなぜ死ぬ必要があったのか?と言う疑問には
    この本に納得できる結論は見つけられなかった。

    ただ、公認会計士の職務意識、倫理観などを知ることは出来た。

    しかし一つの事実が、色々な立場で様々に解釈されている。
    特に権力者の発言は、意図するしないに関わらず
    強い影響力がある事や、末端ほどその影響に翻弄される
    事実が彼の死の象徴なのだろうか?と思った。

  • 自殺なのか、他殺なのか?
    著者の結論は、自殺らしいということだ。

    自殺にして、
    ?朝日監査法人に対しての公憤による自殺(=朝日のゆる監査対して厳正監査を主張) OR
    ?朝日監査法人の腰が引けた態度(=このまま行くと代表社員が株主代表訴訟にさらされる)に対して、りそな銀行の社員を救おうと「ゆる監査」を主張したが、腰が引けた上から受入れられずに疲れて自殺なのか

    というと?の可能性が高い、ということらしい。いずれにしても金融庁 +小泉・竹中平蔵の思惟が働いていたのは事実のようだ。

    副島隆彦の本で紹介されていたので期待して読んだが、★x 3.5くらいですな。

  • 著者は会計士ではないけど、非常に読みやすかった。

    銀行の繰延税金資産の計上と実質国有化をめぐって一人の会計士が亡くなった。

    銀行と監査法人と金融庁の関係。厳格派か守旧派か。潰れるべき会社は潰れてしまっていいのか…近年の相次ぐ改正と併せて非常に考えさせられる点が多い。

    「仕事上の秘密は墓場まで持っていく」と非常に厳しい方だったようで、会計士業界の厳しさが垣間見られる。

  • 借り本 繰り延べ税金資産の監査厳格化がりそな破綻に導いた。1965年の山陽特殊製鋼など粉飾決算が続いたためそれまで主流の個人会計士による監査から今の流れに至る

全8件中 1 - 8件を表示

山口敦雄の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×