たんば色の覚書 私たちの日常

著者 :
  • 毎日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620318240

感想・レビュー・書評

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  • 脳出血、癌と辺見氏に次から次へと襲い掛かる病は、まるでこの社会の業を彼一人で受けとめているかのようだ。

    この本には、辺見さんが京都で行った講演の内容が収められている。この講演は、行きたかったが私用のため断念したので、嬉しかった。

    辺見氏は指摘する。死刑という問題から「黙契」ということについて。



    あの禍々しく悲惨極まる死刑は、人が人を憎んで殺すのではなく、ルーティンワークとして刑務官が代理執行させられているわけです。
    そのことについて私たちは議論をしない。このことを語ろうとする思想家も日本にはほとんどいません。
    でも、もし黙契というものの深刻さに気づいたら、ぜひ吐き気を感じてほしい。悪寒を感じてほしい。これが私たちの素敵な日常なんだと感じてほしいと思うのです。



    人間の営みの何もかもが資本に絡め取られていることを。



    私たちは一呼吸するたびに、一歩歩くごとに、食べ物を一回噛むごとに、愛をかたるごとに、死ぬごとに、生まれるごとに、資本主義に奉仕しその延命に手を貸しています。
    市場はわれわれのためではなく、われわれがもっぱら市場のためにあるのです。
    (中略)私たちは常に有用であることを求められています。慈しみも優しさも愛と美の千態万状も、市場に吸収され市場に吐きだされる「意識商品」にすぎなくなりました。それが私たちの日常です。




    私たちはどうすればいいのか?順序は前後するが、辺見氏はハーマン・メルヴィルの「代書人バートルビー」をあげ、次のように述べている。




    (前略)まったく一人の人間として、自分の身体だけを担保にして、やわらかい言葉で冷静に「願わくば、やりたくないのですが」という。
    「いや、そんなこといわないで」と求められても「やらずにすめば助かるのですが」と答える。バートルビーの抵抗は徹頭徹尾、個的な不服従です。
    それは物語化、英雄化の峻拒です。それはあくまで単独者の自己存在を賭けた拒否によってこそなし遂げられるものであるはずです。


    http://ameblo.jp/use04246/entry-10055014760.html

  • 心身ともに追い詰められている様子が、痛いほど伝わる。が、著者の持つソリッドで冷静な眼差しは、全くと言って良いほど曇りが無い。本の中では死刑について、特に多くのことが語られている。個人的にはバートルビー論が秀逸、大好きです。

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著者プロフィール

小説家、ジャーナリスト、詩人。元共同通信記者。宮城県石巻市出身。宮城県石巻高等学校を卒業後、早稲田大学第二文学部社会専修へ進学。同学を卒業後、共同通信社に入社し、北京、ハノイなどで特派員を務めた。北京特派員として派遣されていた1979年には『近代化を進める中国に関する報道』で新聞協会賞を受賞。1991年、外信部次長を務めながら書き上げた『自動起床装置』を発表し第105回芥川賞を受賞。

「2022年 『女声合唱とピアノのための 風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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