本土決戦幻想 コロネット作戦編 (昭和史の大河を往く 第8集)

  • 毎日新聞社 (2009年9月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784620319438

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  • 昭和21年3月、アメリカ軍は関東への上陸作戦を計画していた。昭和20年11月に、九州南部への上陸作戦オリンピック作戦に続くもので、上陸地域は相模湾と九十九里浜の予定だった。 終戦により、この計画は実行されなかったが、もしこれが行われていたら、日米で500万人以上の戦死者を出し、ソ連の参戦により日本が二つに分割され、現在の朝鮮半島のような二つの国家に支配されることになっただろう。 この本では、実際に防空壕の構築に当たった人たちの証言、指揮官たちの考え方、上層部の思惑と著者による現場視察なども含めて、この作戦について考察している。 本土決戦については、以前話を聞いたことはあったけれど、その具体的な内容までは知らなかった。圧倒的な米軍の兵器物量に対して、日本軍は特攻しか対抗手段がなく、爆弾を抱えて戦車の下に潜り込むゲリラ戦、竹槍を300万本用意して民間人を兵士に仕立てる、神風を待ち焦がれたり、精神論で戦うという考え方が最後まで幅を利かせていたらしい。 軍人たちは、この戦争をどうやって終わらせるか、その方法を模索するが良いアイデアがない。 負けを認めることは、軍人のプライドに傷がつく。 結局、民間人を犠牲にして、自己保身に走った軍人たちが本土で一矢を報いる幻想を見て、だらだらと戦争を続けてしまったことがこの結果になった。 天皇の決断がなければ、この戦争はもっと悲惨なことになっていただろう。
    ちなみに九州上陸のオリンピック作戦が実行されていたら、私の父母も巻き込まれ、私はこの世にいなかったかもしれない。そう思うと早く終戦にしてくれて良かったと思う。未だに、もし○○だったらと言う空想戦記小説を書く人がいるが、そのもしが現実になっていたら、書いた本人は存在しなかったかもしれないということも知っておくべきだろう。

  • 相模湾と九十九里浜から上陸して東京を攻め落とす、いわゆる本土決戦。
    その計画と、実際にそれが行われたらどうなったかという話。

    決戦と名前が付くから、なんとなく最後の大勝負というイメージになるが、どう考えても戦いにもなりゃしない。

    太平洋戦争の戦史ものというのは、だいたい昭和に書かれたものが多いので、当時の生き残りの聞き取りなどが主になっている。しかしこの本は21世紀になって書かれたものなので、さすがにそれはほとんどない。
    また、米国の公文書公開によるものでもないので、資料的には、それほど目新しさがない。

    ではその分だけ歴史になってつきはなした記述があるかというと、そういうわけでもない。「これがあったらみんな死んでいただろう」って、そりゃそうだ。
    証言の時代から、歴史の時代へ。その端境期にある感じがする。

    ビジョンをなくした結果、内部から崩壊する軍と国家と社会。
    負けたから崩壊したんじゃなくて、
    崩壊していたから、負け戦に突入した。そして負けるべくして負けた。
    それの顕著な実例として、もうちょっと突き放して記述してもよかったんじゃないかと思う。
    でも、それは徹底的に第三者の視点を持てということで、
    次の世代にならないとできないことかもしれない。

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著者プロフィール

保阪正康……昭和史の実証的研究を志し、延べ4000人もの関係者を取材してその肉声を記録してきたノンフィクション作家。1939年、札幌市生まれ。同志社大学文学部卒業。「昭和史を語り継ぐ会」主宰。個人誌『昭和史講座』を中心とする一連の研究で第52回菊池寛賞を受賞。『ナショナリズムの昭和』(幻戯書房)で第30回和辻哲郎文化賞を受賞。『昭和史 七つの謎』(講談社文庫)、『あの戦争は何だったのか』(新潮新書)、『東條英機と天皇の時代(上下)』(文春文庫)、『昭和陸軍の研究(上下)』(朝日選書) 、『近代日本の地下水脈』(文春新書)、『松本清張の昭和史』(中央公論新社)ほか著書多数。

「2024年 『未来への遺言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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