空席日誌

著者 :
  • 毎日新聞社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620322100

作品紹介・あらすじ

3つの文と45の短文。虚実のあわい。最新文集。

感想・レビュー・書評

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  • 蜂飼耳を読むことは、蜂飼耳の詩を読むでもなく、蜂飼耳の小説を読むでもなく、蜂飼耳のエッセイを読むでもなく、まさに蜂飼耳を読むとしか言い表せない体験だと思う。そこにあるのは、ものすごく単純化してく言ってしまえば、言葉のみであり、言葉の積み重ねであり、そこから生まれる連祷であるように思うのだ。連祷というのが言い過ぎであるなら、もっと単純に連想と言ってもよいのだが、一つの言葉から別の言葉が紡ぎ出されて行く様に祈りのような思いをどうしても感じ取ってしまう。間違わずに届いて欲しいという願いをそこに感じ取らざるを得ないと思う。

    間違わずに、と言ったけれど、言葉が間違う訳ではない。しかし言葉が幾重にも重ねられた時、言い表される事柄が必ずしも明確になる訳でもなく、むしろ言葉と言葉の間に思いが沈降してしまうことはあり、言いたかったことは伝わらず、結果として間違いが生まれる。ところが蜂飼耳は言葉と言葉の隙間を随分と大胆に開くものだから、最初から読むものの思いをその隙間に閉じ込めてしまうようなところがある。すると逆説的に間違いは間違いとして成立する前にすでに立ち上がり、間違いとして成立していないものは正しく言いたかったことのように響く。帯にもある「虚実のあわい」というイメージを自分もまた蜂飼耳に抱くものであるけれど、本当のところは、蜂飼耳がそんな風に言葉を連ねているというよりは、読むものの内側に何と言い表してよいのか分からないものが生まれてくるということなのだろうと思う。言葉によって伝わるもの、その不思議さを改めて思う体験を蜂飼耳はもたらしてくれる。

    少しばかり日常的ではない言葉が一つ投げ込まれ、その波紋の行く末に意識が盗られたままの状態ですぐにその次に置き並べられた言葉を読む。すると、規則正しく水滴が水面を叩くことを勝手に期待していた思いはものの見事に裏切られ、ついさっきまで懸命に見つめていた方向から無理矢理に視線を反転させられたような感覚が生まれる。その展開の責任は、自分自身の思いの慣性にあると、ジェットコースターの外側に立って見れば分かりはするけれと、小さな箱に乗せてしまった自分自身のことに客観的になることは難しい。そこに、裏切られた、という感覚がつけ入る余地が生まれる。それを逆手にとって嘘をつかれたと言い募る。でも初めから、そこには何もない。ただ言葉が、言葉だけがある。その潔さが蜂飼耳の文章の底にあるものだと思う。それ故に、何も諄々と訴えるところがないからこそ、読むものはある意味異物を見た時に感じるような畏怖の念を覚え、連祷に似たような感覚のものを拾い上げるのだと思う。

    そんな理屈をつい捏ねまわしてしまいたくなるけれど、そんな風に蜂飼耳の文章を味わっているわけではない。読んでいる時にはただその言葉の渦の中に身を委ねているだけと言ってよい。この何と言い表してよいかに逡巡する短い文章に思いを盗られることは、実は心地のよいことではあるのだけれども。

    • ぱとりさん
      蜜蜂いづるさま、
      コメント頂きましてありがとうございます。
      お気に入り頂けたようで何よりです。
      蜂飼耳の書くものは、どれも不思議な味わ...
      蜜蜂いづるさま、
      コメント頂きましてありがとうございます。
      お気に入り頂けたようで何よりです。
      蜂飼耳の書くものは、どれも不思議な味わいがありますね。
      自分も大好きです。
      良かったら転身もお試し下さい。
      自分はこれが一番好きです。
      2013/10/25
  • オシャレなカフェがあって、料理もインテリアもオシャレなんですが、窓の反対側の壁に本棚があって、そこにいろんな本が置いてあり、好きに読めるようになっているんです。
    本当は窓際の方が明るくて景色も見えるし、良いような気もするんですが、一度壁際の席に座って本棚を見たら、好きな作家や惹かれる本がいくつか目に留まって、それから利用するときはいつも本棚の前に座っています。
    この本はそこで見つけて、料理ができるまでぱらぱらとめくって見ていたら面白そうだったので、後日図書館で借りました。

    蜂飼耳という人の本はずっと読んでみたくて興味はあったのですが、初見の作家の本を購入するほどの勇気というか余裕はないので、偶然カフェで見つけた時はラッキーだと思いました。

    図書館で借りてじっくり読んでみると、特に面白いことも余韻を感じることもなくて、本を手に取ったときに感じた予感は何だったのだろう?と思ったのですが、一つだけ収穫がありました。

    以前、母が知り合いからのお土産といってお饅頭をくれたのですが、ひょっとこの形をして、顔が印刷された透明なパッケージにくるまれているもので、ずっと何処のお土産だろうと思っていました。
    わたしはてっきり「ひょっとこ」だと思っていたのですが、実は「どじょうすくい」饅頭で、そう言われてみると確かにどじょうすくいをする時のお面のように思えてきました。
    山陰地方の有名なお土産だそうです。
    本の中にこの「どじょうすくい饅頭」のことが書いてあって、あ、あの時の!の思った瞬間にやっぱりこの本は読むべきだったのかなと感じました。

  • 1974年生まれ、蜂飼耳さん、詩集、エッセイ集、絵本、童話など幅広い分野にご活躍と思います。絵本「いなかのネズミとまちのネズミ」「きんのおの」などの絵本、楽しみました!「空席日記」(2013.6)、この本はエッセイ集でしょうか・・・。トップは「つかのまのちくわ」、電車を待つ最前列でちくわをもくもくとかじる女の人のはなし。インパクトがありましたw。この方の感性と表現力、すごいなと思いました。

  • ホラーが一篇まぎれこんでいましたね?

  • 川上弘美さん、または石田千さん的なものを感じた後に、そうか、逆にそのお二方が詩人っぽいのかもとも思う。
    しかし、あまり感情を交えない淡々とした文章に飽いてしまい、まさかこの薄い1冊を途中で挫折?と思いもしたものの、細々と読み続けた結果、後半で自分の心に残る幾編か("積まれた建物"、"涙"、"桑の世界へ"、"猫という猫"等)に出会えてよかった。

  •  この詩人のシュールな散文が好き。
     冒頭の「つかのまのちくわ」が凄い。駅で、立ったまま、ちくわをたべている女の話。電車に乗り込むと、赤い口紅を塗る。
     次の「靴の底に住んでいる」も面白い。こちらは、犬の描いてある中敷きを入れている足の小さい女の話。靴の秘密は外側ではなく内側にあるらしい。
     これらは、ほとんど謎めいた散文詩となっている。
     しかし、こうした作品はそんなに沢山生まれるものではないらしい。残念ながら、後は尻すぼみ。
     
     この著者には、『秘密のおこない』というエッセイ集もあった。「透明な友人」という作品もまた、白昼夢を描いたかのよう。蛸に似ている男が、誰もいないテーブルの向かいに置かれたコーヒーを黙々と飲んで去って行く話。

     他人の秘密を覗き見ると、妄想が暴走して、詩が生まれることもあるのだろうか。

  • 詩集? 短文集? 散文集? 短いものは、見開きの2ページ、長いものでも数ページ、作者が置いた言葉で空席が埋められている。
    実際に手に取って、作者、本書の雰囲気を感じとって、読みたい人が、読む本かと思われます。

  • ふとした日常の瞬間や、不思議な瞬間を切り取った短編集。

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著者プロフィール

詩人。1974年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。詩集『いまにもうるおっていく陣地』(1999年・紫陽社)で、第五回中原中也賞を受賞。現在、詩作の他、「週刊朝日」「図書新聞」などにエッセイを連載。

「2003年 『ひとり暮らしののぞみさん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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