憲法の涙 リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください2

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  • 毎日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620323756

感想・レビュー・書評

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  • 前巻の中で触れられた「9条削除論」に特化した内容。ほぼ一冊まるまるそれに費やされているのだけれど、筆者の主張はやはり一本筋が通っているように思える。感覚的にはやはりなかなか受け入れがたい部分が多いのだけれど、これに反論するのは難しい。

  •  憲法と法律のちがいー法律というのは、国会が通常の立法手続きにしたがってつくるものですけれど、憲法は、そもそも、どのような機関が法律をつくれるか、どのような手続きで法律をつくれるか、そしてその法律が侵犯しちゃいけない基本的価値は何か、というのを定める。
     だから、憲法は、法律と同じように変えられてはいけない。選挙で勝った政治勢力が、勝ったからといって何でも好き勝手されては困る。自分たちの政権を恒久化できるように統治構造を変えたり、少数者や批判者の人権を侵したり、できないようにする必要がある。だから、法律をしばる憲法は、「成分硬性憲法」といって、文章ではっきり記して、かつ通常の法律よりも帰るのが難しくなっています。与党・政権が議会の単純多数決で憲法を変えることはできなくなっている。(p.21)

     9条があるために、自衛隊が「戦力」として認知されず、その法的統制を憲法で明確に定められないという問題があります。シビリアンコントロールだけではなく、戦力行使の国会事前承認ですら、憲法で確保できない、そんな危ない状況を9条がつくっているのです。
     戦力に歯止めをかけるためにも、つまり平和主義のためにも、9条を削除しなければならない。9条削除まで踏み切れないなら、少なくとも専守防衛明記改憲をして、専守防衛の枠を超えて戦力が濫用されないための統制規範を憲法に盛り込まなければならない。(pp.56-57)

     負けても、次の機会までは、勝者を尊重する。敵対する相手にも、フェアでなければいけない。その精神がなければ、大人の立憲民主主義は育ちません。(p.75)

     軍事的暴走に関してドイツには日本と同様、戦前の苦い経験があり、「過去の克服」を目指しているけど、にもかかわらず徴兵制を採用したのは、私は正しい選択だったと思うんですね。無責任な戦力行使をしないため、という目的だから。(p.125)

     私がいう正義というのは、自分の権力や利益を合理化するイデオロギーではない。正義はよくそういう批判をされるが、逆だ、と。自分の行動が、他者の視点から見ても正当化できるか、それが問われている。つまり、正義は、自分の権力行使、実力行使への批判的吟味を要求している。(p.128)

     もっと重要なのは、基地経済への依存が沖縄のもっとダイナミックな自律的経済発展をはばんでいるという自覚が庶民のあいだにも広まりつつあることです。
     一例を挙げると、私が参加した沖縄での基地見学ツアーのバスガイドさんがこんなことを言っていました。返還されたある米軍基地の跡地に、ショッピングモールなど一大商業地区ができた。基地時代の県民雇用数は150人くらいだったけど、今の商業地区の雇用は1万人を超えた、と。重要なのはこの経済的事実だけでなく、バスガイドさんのような普通の市民んがそれを自覚しているということです。(中略)本土住民によって、もっと重要なことは、沖縄内部の悪弊を指弾して、米軍基地という日米安保のコストを沖縄に集中転嫁している現実を合理化する口実にしてはならないということです。沖縄に甘えている本土住民が「沖縄よ、甘えるな」などと説教して自分の甘えを棚上げする権利はない。沖縄の膿は沖縄自身が出すべきなのです。同様に、本土住民は沖縄の欺瞞をあげつらう前に、自らの欺瞞の膿を出さなければなりません。(p.149)

     失敗しない政治体制なんかない。民主主義は失敗しない体制ではなく、われわれ国民が自分たちの失敗から学習し、試行錯誤から答えを見つけていく体制です。
     それはつまり、前著でも言いましたが、パターナリズムから脱するということです。(中略)民主主義がいいのは、みんなで考えて失敗しても、その失敗から学ぶことができることです。他人まかせにせず、自分でやってみて自分の失敗から学んで成長する権利を「愚行権」と言います。「自律」は個人の愚行権、民主的な「自治」は集団としての国民の愚行権を保障します。(pp.154-155)

     「お前の決定は取り返しのつかない失敗になる」というのは、正しい答えを知っているかのように偽っている者の恫喝です。権力者がよく使う。それが「反権力」の人から発せられても、同じです。それに負けてはいけません。(p.158)

  • 前作「リベラルを嫌いになっても……」の続編。平易ながらもより論議が深まり、井上さんが考える輪郭が見えてきた。参院選を前に必読だと。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2023年 『法と哲学 第9号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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