ひきこもり図書館 部屋から出られない人のための12の物語

  • 毎日新聞出版 (2021年2月1日発売)
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本 ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784620326658

作品紹介・あらすじ

究極のステイホーム文学集、誕生!
『絶望名言』『絶望図書館』の名ガイドがおくる、「部屋から出られない人々」のためのアンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  • アンソロジーだったからこそ
    出会えた物語りや作家さんがある
    ひとりでいたくてひきこもっているのに
    ひとりじゃないんだと安心してしまうような
    不思議なお話たちでした
    引きこもってる人にはもちろんですが
    引きこもりが理解できない人にも
    ぜひ読んでほしい作品です

  • 自らも13年間ひきこもりだったという頭木弘樹さんが編集したひきこもりがテーマの世界初かもしれないアンソロジー。

    全部面白かったです。

    萩原朔太郎の『死なない蛸』は水族館の水槽の中で誰からも存在を忘れ去られた蛸を描いた散文詩。
    そして頭木さんといったら忘れちゃならないカフカのひきこもりに関する名言集。カフカ自身はひきこもり状態にはならなかったようだが、ひきこもりチックな願望が見て取れる。
    岡山県の方言が珍しい’鬼退治に行かない’『桃太郎』。『桃太郎』はいろんなバージョンがあるらしい。
    星新一の『凍った時間』。高度なサイボーグであるムント。自分の姿が嫌で人々の視線を避け、ひきこもっていたがーーー。さすがのキレ。
    ポーの『赤い死の仮面』。疫病に侵された世界から逃げるように城に閉じこもった城主と千の人々。ケレン味がある。
    SFコメディの梶尾真治『フランケンシュタインの方程式』。宇宙船の中、酸素は一人分。乗員は二名。
    再度登場の萩原朔太郎のエッセイ『病床生活からの一発見』。朔太郎版・病気になってから気づいたこと。
    大正時代のニートが主人公の『屋根裏の法学士』宇野浩二。
    日本でも人気の韓国作家ハン・ガン『私の女の実』。これはこのアンソロジーが初訳だそう。訳者は斎藤真理子さん。妻の体に表れた緑の痣。その痣はどんどん大きくなりーーー。
    安部公房が褒めていたというロバート・シェクリイの『静かな水のほとりで』。宇宙の果てのある男とロボットと‘マーサ’の話。
    萩尾望都の漫画『スロー・ダウン』。青年は実験に参加している。何もない部屋でずっと過ごすという実験をーーー。
    番外編にひきこもらなかったせいでひどいめにあう話。これは『雨月物語』から一編。
    ラストはあとがきと作品解説。

    頭木さんの選書センスに参りました。
    各作品前の頭木さんの前口上も上手く、その作品にスウッっと入って行ける。

    ひきこもったことのある方には共感を、そうでないかたには発見を届けてくれる、かもしれない。

    • hiroさん
      5552さん、お久しぶりです!

      そして、『アバウト・ア・ボーイ』へのコメント有難うございます。
      ホント、心温まる作品ですよね♪
      ウィルがマ...
      5552さん、お久しぶりです!

      そして、『アバウト・ア・ボーイ』へのコメント有難うございます。
      ホント、心温まる作品ですよね♪
      ウィルがマーカスと舞台で歌っている姿に涙が出ました。歳を取ると涙もろくなって困ります。

      それから 情報、有難うございます。
      ニコラス・ホルト、検索してみますね!
      2021/04/10
  • 13年間のひきこもり経験のある著者の選ぶ「部屋から出られない人のための」アンソロジー。私はひきこもるタイプではないけど、今までにない視点で物語を読むことができて、とっても満足です。

    引き篭もり止めたら、こんな楽しいことがあるよ、というような物語は12のうちひとつもありません。引き篭もるとこんな新しい発見があるよ、という話がほとんどです。ひきこもり部外者には、ひきこもりたちの声にならない声の代弁を聴いた気になります。朔太郎やカフカや星新一やポーや萩尾望都が、代弁をやってくれている。

    私としては、岡山在住の日本民話の会会長立石憲利さんが採取した「鬼退治に行かない桃太郎」がお気に入り。完全岡山弁で、みんな意味わからんところもあるじゃろうけど、とっても身近じゃった。
    萩尾望都の「スローダウン」(1985.1発表)。一度読んだはずなのに、ひきこもり漫画として紹介されると、おゝそういう見方もあるのか!と発見。その見方から見ても物凄く秀逸な作品なんだとビックリしました。五感全ての感覚を遮断した部屋で暫く過ごさせる実験。それをやると、「現実感覚」が変化していく、と頭木さんは言います。そういう時にふっと現れた「人の手」が特別なものになるという。頭木さんは、「どうしてあの感覚がわかるのか」「天才恐るべし」と書いています。「一度きりの大泉の話」を読んだ今、なんとなくわかる気がするのです。

    「小説を読んで、心に残るフレーズがひとつでもあれば、それはもう読む価値はあった」と頭木さんはいいます。大きく肯首します。アンソロジーというものは、それを手助けする格好の方法だろう、と思います。頭木さんが多くのアンソロジーを編んでいるのはそういうことなのでしょう。

    本書は、ひきこもりの方も読めるように、本と電子版同時発行だそうです。

  • 5552さんのレビューから読みたくて。頭木さんの優しい言葉に引き寄せられ味見をしてるような気分になるアンソロジー。梶尾真治、ロバート・シェクリイが面白くてもっと知りたくなった。宇野浩二が乱歩の屋根裏につながるというあとがきも楽しい。

    • 5552さん
      111108さん、はじめまして

      レビューに私のハンドルネームがあって、ドキリとしました。
      読んでくださり嬉しいです。(私が作った本じ...
      111108さん、はじめまして

      レビューに私のハンドルネームがあって、ドキリとしました。
      読んでくださり嬉しいです。(私が作った本じゃありませんが)
      アンソロジーってお得感ありますよね。
      頭木さん編著の前2作『絶望図書館』と『トラウマ文学館』も、機会がありましたらどうぞ!
      2021/04/12
    • 111108さん
      5552さん、はじめまして。そしてコメントありがとうございます!

      5552さんのレビューに心動かされて読んだので勝手にハンドルネームのせち...
      5552さん、はじめまして。そしてコメントありがとうございます!

      5552さんのレビューに心動かされて読んだので勝手にハンドルネームのせちゃいました。

      アンソロジーは食わず嫌い無くすのにいいですよね。頭木さんの2冊、ぜひこれから読みたいです。
      2021/04/13
  • 私は高校中退後に数年間ひきこもり状態でいたことがあり、その時は本当に最悪だった。

    人間不信に加え、大学で何か学びたいわけでもなく、かといって、やりたい仕事もなく、ただ推理ものやファンタジー小説を読んでいただけの日々に、これも生きているということになるのだろうかと、思ったものだ。

    そんな事があったもので、もしその時に本書を読んでいれば、果たしてどうなっていたのかということに興味を持ち、本書を読んでみたわけなのだが、まず惹き付けられたのは、カフカの「ひきこもり名言集」と、宇野浩二の「屋根裏の法学士」だった。

    ただ、カフカは正直ざっくりし過ぎた表現が響かなかったが、宇野浩二は良かった(両者の共通点は、ひきこもりに正しいも間違いもないということ。まあ本人の責任は伴うが)。

    読んでいて、思わず想像してしまう、そのダラダラ感と太々しさ。けれども、おそらくそれは彼自身の虚構と精一杯の見栄であり、本音は切ないものも秘めていたのだろうなと感じさせる、その心情に胸が締め付けられて、大正7年当時に書かれたというのも、とても励みになった。

    また、萩原朔太郎の作品が二点収録されていたことも印象的で、「死なない蛸」は、彼自身、周りから謂れのない距離を置かれていたことに対する、存在価値の普遍性を吐露したように感じさせ、「病床生活からの一発見」は、正岡子規の無味平坦な歌への理解にも共感したが、それ以上に、侮辱された一婦人の為に腹を立て、悲しくなって泣いたエピソードに彼の優しい人柄を感じさせ、昔読んだ、鯨統一郎の「月に吠えろ!」を思い出した。

    そして、星新一の「凍った時間」は、ムントの無表情な表情の奥に垣間見える、心と涙に胸を打たれ、見た目だけで判断される悲しみは、まるで障がい者に対するそれのようにも思われ、梶尾真治の「フランケンシュタインの方程式」は、一転してコントを観ているような面白さが印象深いが、所々のブラックな味付けで軽い内容にはしておらず、ポーの「赤い死の仮面」(品川亮の新訳)は、自分の事だけ考えていると、こうした報いを受けるといった教訓ものっぽく見えたのが、ポーの作品にしては意外に感じられた。

    それから、ハン・ガンの「私の女の実」は、『ここではないどこかへ』ということの、夢と現実の辛さを思い起こさせる一方で、一欠片の自由も感じさせた、私にはとても沁みる内容で、このアンソロジーの為に初訳してくださった、斎藤真理子さんには感謝しないといけない。

    最後に、まさかここで初読みできるとは思わなかった、萩尾望都の漫画、「スロー・ダウン」。

    そこには極限状況に置かれた者しか分からないような、確かな真実の在処を教えてくれた気もしたが、それとは別に、ここでの『手』の存在には、おそらく当時の私にとっても、誰かに差し伸べて欲しかったと思わずにはいられなかった、確かな真実の訪れのようにも感じられた。

  • ひきこもりのアンソロジー。

    ひきこもりを否定することはない。
    なんらかの事情があるのだから…。
    出たくなければ出なくてもいいじゃないか、と思うほうである。
    自分もいつ、突然に引きこもるかもしれないわけで。
    それは、わからない。
    ひきこもらずに一生を終えるかもしれないし…。
    どうなるかはわからない。


    たとえば、萩原朔太郎の「死なない蛸」は、存在しないものと思われると悲しいが、魂はある。
    たしかにそこに居る、自分がわかってれば良いじゃないかと思わせる。

    想像以上のかなり上をいくのが、ハン・ガンの「私の実」である。植物で活きた心地になるならばそれを完成形というのだろうか。

    萩尾望都の「スロー・ダウン」は、感覚遮断実験を描いているが、特に手の感覚の凄さをあらわしている。
    誰かの手に触れることですべての機能が目覚めるかのような…。
    意識しなくとも握るという感覚は、ずっと残るのだろうか。

    とても不思議な感覚で読み終えた。

  • カフカ「ひきこもり名言集」、ハン・ガン「私の女の実」、ロバート•シェクリイ「静かな水のほとりで」が良かったです。特にハン・ガン「私の女の実」が衝撃的でした。色んなひきこもりがあって、そのスケールは思っていたより遥かに大きかったです。

  • 「絶望名人カフカ」頭木ブログ
    https://ameblo.jp/kafka-kashiragi/?frm_id=v.mypage-ameblo--myblog--blog

    ひきこもり図書館 頭木弘樹(著/文) - 毎日新聞出版 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784620326658

  • 病気で13年間ひきこもり生活を送っていた著者が、「ひきこもり」の要素を持つ古今東西の小説、漫画12編を集めたアンソロジー。読んでみたいと思っていたハン・ガンの小説が本書に収められていると知り、手に取った。

    収録作品にはさまざまな「ひきこもり」が描かれている。感染症から身を守るためのひきこもり、ひきこもりの願望、差別によりひきこもらざるを得ない哀しみ、閉じ込められて外に出られない苦しみなど。
    ジャンルも違えば時代背景も描かれたシチュエーションも異なるが、「ひきこもり」という視点が与えられると一つのまとまりを持った作品群になるところが面白い。
    あとがきでの著者の解説もとてもわかりやすく、作品をより深く理解するのに役立つ。今回本書を手に取るきっかけとなったハン・ガンの短編は、この本に収められていなければとくに「ひきこもり」を意識することはなかった作品だと思うが、あとがきで紹介されていた解釈が自分では思ってもみなかった視点だったので興味深かった。

    どの作品も違った味わいで面白かったが、水族館で存在を忘れられ、腐った水の中で自分の身体を食べる蛸に、社会とのつながりが絶たれる恐怖を感じた萩原朔太郎『死なない蛸』、頭でっかちな文学青年のつぶやきに自分と似たところを感じ、思わず赤面してしまった宇野浩二『屋根裏の法学士』、どこか遠くに行きたいという願望を持ちながら、現実にはどこにもいけず、植物になっていく女性の苦しみに共感したハン・ガン『私の女の実』が特に印象深かった。

    それにしても、アンソロジーって面白い。人気作家が一つのテーマで短編を書きおろすタイプのものもあるが、本書のように、編者が自分の解釈で古今東西の作品をカテゴライズするタイプのアンソロジーは、自分が全く知らなかった名作に出会えるし、読んだことのある作品の新たな魅力を発見できるのもよい。普段あまり手に取らないジャンルの小説をお試しできるのもアンソロジーの醍醐味だろう。もっとアンソロジーを読んでみよう。

  • 【収録作品】ひきこもっている間に忘れられる-散文詩 「死なない蛸」 萩原 朔太郎/ひきこもり願望-ドイツ文学「ひきこもり名言集」 フランツ・カフカ(Kafka,Franz)  選訳/頭木 弘樹 /鬼退治に行かない桃太郎- 昔話「桃太郎 岡山県新見市」 編著/立石 憲利/差別によるひきこもり-ショートショート「凍った時間」 星 新一/感染を避けるためのひきこもり-アメリカ文学「赤い死の仮面 The Masque of the Red Death」 エドガー・アラン・ポー(Poe,Edgar Allan) 新訳/品川 亮/ひきこもりによる物の見え方・感じ方の変化-エッセイ 「病床生活からの一発見」 萩原 朔太郎/部屋から出られない苦しみ-日本SF小説「フランケンシュタインの方程式」 梶尾 真治/ニートのつぶやき-大正文学「屋根裏の法学士」 宇野 浩二/ひきこもりと植物-韓国文学「私の女の実 내 여자의 열매 」 ハン ガン (韓 江)  初訳/斎藤 真理子/究極の孤独-アメリカSF小説「静かな水のほとりで Beside Still Waters」 ロバート・シェクリイ (Sheckley,Robert) 新訳/品川 亮/ひきこもり実験の結果-漫画「スロー・ダウン」 萩尾 望都/番外編「ひきこもらなかったせいで、ひどいめにあう話」 頭木 弘樹

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著者プロフィール

頭木 弘樹(かしらぎ・ひろき):文学紹介者。筑波大学卒。大学三年の二十歳のときに難病になり、十三年間の闘病生活を送る。そのときにカフカの言葉が救いとなった経験から、2011年『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社/新潮文庫)を編訳、10万部以上のヒットとなる。さらに『絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ 文豪の名言対決』(草思社文庫)、『ミステリー・カット版 カラマーゾフの兄弟』(春秋社)を編訳。著書に『食べることと出すこと』(医学書院)、『落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ』(ちくま文庫)、『絶望読書』(河出文庫)、『カフカはなぜ自殺しなかったのか?』(春秋社)、『自分疲れ』(創元社)。ラジオ番組の書籍化に『NHKラジオ深夜便 絶望名言』(飛鳥新社)。名言集に『366日 文学の名言』(共著、三才ブックス)。編者を務めたアンソロジーに『絶望図書館』『トラウマ文学館』(共にちくま文庫)、『絶望書店 夢をあきらめた9人が出会った物語』(河出書房新社)、『ひきこもり図書館』(毎日新聞出版)がある。NHK「ラジオ深夜便」の『絶望名言』のコーナーに出演中。日本文藝家協会、日本うんこ文化学会会員。

「2023年 『うんこ文学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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