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本 ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784620328133
作品紹介・あらすじ
アベノミクスの下、私たちは何を失ったのか。この10年を検証して日本の今後を考える。地域エコノミストならではの鋭い批判と希望の書。
感想・レビュー・書評
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題名がどうも右翼っぽくて、著者らしくないのが気になったが、オーディブルなので聞いてみたがとても良かった。やはり藻谷浩介は空気を読んで無難なことを書く俗物ではなく、全体を俯瞰して必要なことを語る知識人である。デフレの正体のヒットにより有名になった人であり、アベノミクスの間違いを最初から一貫して指摘していた人である。この人が現在の状況を江戸末期の世襲的な身分制によって硬直し、変革ができなくなっていた江戸幕府と現在の政府をその類似性を指摘しているのはその通りだと思う。そして当時と最も異なるのは、そのことを指摘して変革しようとする側の人材不足だ。制度疲労を起こしているのが明らかな社会保障制度や「政権交代が起こらない民主主義」、平等な自由競争が起こり得ない生まれながらの富の偏在、年寄りばかりが増える東京の人口増加など、本当の問題を取り上げようとする力は働かない。
この本の題名が、現状を肯定するのではなく、本当は変革する実力があるのに、問題を直しようとしない多くの日本人に向けた題名なのだった。1917年頃からの評論集であるが。これは過去を振り返る意味でも読む価値のある本だと思います。詳細をみるコメント2件をすべて表示-
ぴりさんとても分かり易く説明されていて是非読んでみたいと感じました。とても分かり易く説明されていて是非読んでみたいと感じました。2025/06/01
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雷竜さんピリさんコメントありがとうございます。藻谷さんは私の大好きな経済学者です。里山資本主義なんて痺れる本も書いてます。興味があるようならぜひ読ん...ピリさんコメントありがとうございます。藻谷さんは私の大好きな経済学者です。里山資本主義なんて痺れる本も書いてます。興味があるようならぜひ読んでみてください。2025/06/02
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『デフレの正体』などで知られる著者が、毎週日曜日に毎日新聞に掲載されるコラム「時代の風」に寄稿した原稿、2016年5月から2024年6月までの67回分を項目ごとに分け、当時の原稿に対し、現在の著者本人が解説をしながら進んでいく一風変わった一冊です。
『デフレの正体』を読んでから、他の著書や著者の講演を聞いたことがありますが、当時から客観的なデータをもとにした独自の視点は、とても新鮮で興味深く読んだり聞いたりしていたことを思い出します。
著者の問題意識は明確であり、政治や経済など、何となく常識と思い込んでいたことを信じてしまう危険性を改めて感じてしまいます。
そのため、気になった文章をメモしていたら、すごい分量になってしまいました。
現状に対し批判的な意見が多い著者ですが、冒頭で、『日本の本当の「実力」は、日本人が聞き及んでいるレベルよりもはるかに高い。しかしその力の発揮は、誤った思考法による誤った認識で妨げられている』と書いているように、批判だけではない視点も与えてくれます。国政選挙を間近に控えたタイミングで、こういった書を手に取ることは有益であると感じます。
▼GDPが増えないのは、日本が国際競争力を失ったからではない。日本は引き続き世界から稼ぎ続けているのだが、その稼ぎが国内で使われて循環するということが少ないために、「みんなの利益の合計」が増えていかないのだ。この基本認識が共有されない限り、日本の経済政策は見当外れの方向に向かい続けるだろう。
▼「無謀な政策遂行の責任は、それを強く主導する首相を支持した有権者にあるのだから、そのツケを国民各自が払うのも仕方ない」
▼欧米よりは断然優秀だが、アジアの先進・中進地域には大きく後れを取っている日本の現実は、アジア蔑視と欧米コンプレックスを併せ持つ人に、そうした性根の刷新を促している。
▼一連の経緯を見てみると、太平洋戦争の当時と変わらない。日本の剛さと脆さを感じる。個人の意識も現場の士気も高い日本社会は、「剛性」(=変化に抗して変わろうとしない力)が強い。しかし情報も論理的判断力も乏しい中枢がボトルネックを放置し、対処は現場の当事者の精神力に委ねられるので、弱いところから脆くも崩れて混乱に陥りがちだ。ボトルネックを正せないがゆえに、「靱性」(=変化にしなやかに対応し、肉を切らせて骨を断ち切り抜ける力)が弱いのである。欧米社会は逆に剛性がないが、事態が進んでからの靱性の強さは侮れない。それらに対し、中韓台は剛性と靱性の両方をうまく発揮したのではないか。この危機から得た自覚と教訓を、今度こそ生かすことが、いま責任ある立場にある者の務めである。
▼心に届いて信用される言葉を持つことは、「政権担当能力」の核心であう。そこを理解し実践できる政府を持つには、それがどうしてもわからない人々に退場していただくしかない。もちろん平和に、選挙で。
▼この認識のずれ、対応の遅さは、いったい何なのだろう。以前当欄で書いた表現を繰り返せば、「こびりついた先入観を、新たな事実で上書きできず」、万事を惰性に任せているからではないか。日本が「ガラパゴス化」している場面では、いつもこれと同じ態度が背後にある。
▼先入観への隷従と事実への無関心が、変化する世界の中で日本の立場を狭くし、体力を奪っていく。これをいま改めずに、いつ改めるのか。
▼自国の誤りを放置して他国のせいにする風潮は、自滅の伴奏曲だからだ。自省を知らず、口を開けば他責に終始する人が、あなたの周囲にもいたりしないだろうか。そういう人は不愉快なばかりか、チームの成果を遠ざける存在である。
▼島根県(若い女性の就労率1位、出生率2位)と。東京都(若い女性の就労率が当時は40位台、出生率は47位)の比較は、「女性が働くから少子化した」と、未だに信じ込んでいる人には、驚きの事実だろう。
▼震災後の日本は、過去へのノスタルジーで歪んだ現実認識のもとにズレた目標を立て、自己満足の世界に閉じこもってきた。
▼優劣をつけて選別しようとの、人を工業製品扱いするような、明治以来の教育の根本思想自体が、時代の求めに合わないのである。優秀な者は、学資と場を与えれば自分で育つ。「国際競争に勝ちたい」のなら、彼らの邪魔をしないことだ。イチローや大谷翔平を考えればわかるだろう。公教育は、それ以外の普通の人たちをこそ、幸せにすべきなのである。その人の能力と個性なりの身の置き所を社会の中に見つけられるよう、各人を動機付けて後押しすることで。
▼日本人の過半数が、大なり小なり、学校教育での経験を内部化して、「幸福総量一定仮説」に頭を支配されているのかもしれない。
▼地域振興に求められるのは、新たに「つくる」ことではなく、あるものを「残す」ことなのだが、首相はそこを理解しているだろうか。(円ベースでは)史上最高の税収水準、歳出水準にある中、どうして今、出生率は都会よりずっと高く、高齢者が都会に比べ福祉に頼らず自活できている過疎地の、生活を不便にせねばならないのか。
▼人間は生物の中で唯一、言語を通じて集団で虚構を共有する能力を有している。しかもその虚構は、環境変化に応じて、折々に柔軟に入れ換わる。この集団行動や分業や、移住先の自然環境への適応を可能にし、人間を地上の支配者たらしめたのだ。・・・これは2016年に日本誤訳が出版された、世界的大ベストセラー『サピエンス全史』(ヘブライ大学教授ユヴァル・ノア・ハラリ著)の、冒頭に書かれた核心的記述である。
▼同書は日本でも大きな話題となったのだが、なぜか上記の核心的部分への理解は、世に大きく浸透しなかった。自らが「自分の意見」や「世の道理」や「確立された学説」だと思っていることは、そのほとんどが、周囲と無意識に共有している虚構にすぎない。この恐るべき事実を日本人は、学識経験者含めて、いや学識経験者であるほど、理解できなかったのである。
▼世の多数派が、現実の教訓に学んだ冷静な判断を下せるかどうかを「民度」と呼ぶのであり、これを高くするには、文字よりも実測数字、デスクワークよりも現場経験に学ぶ姿勢と訓練を、世に広めるしかない。
▼我々一般人に必要なものは、専門的な医学知識よりも、冷静に数字を見て事実を把握する習慣だ。そうした訓練を、暗記中心のお受験教育が欠いてきたことに、日本の問題があると感じるのは、筆者だけだろうか。
▼人間には、「複数の他人が同じことを言っている場合には、それを事実として信じる」習性がある。
▼サムライブルーが世界の先入観を打ち砕くように、虚構は現実には勝てない。「自分の脳は、共有された虚構を信じ込む仕組みになっている」と認識し、常に事実と条理の世界に戻る訓練を重ねていきたいものだ。
▼日本が、相対的にはもっとも安全で心安らぐ社会を、庶民レベルの自律自制を基盤に実現していると、世界の同じ庶民は本能的に感じ取り、そこに未来の希望を見出しているのだ。それこそが、日本の「実力」なのである。
<目次>
第1章 経済 アベノミクスから超円安に至る失政に角を立てる
第2章 政治 "政局"ではなく"政策"を愚直に論じ続ける
第3章 国際関係 ガラパゴス的な排外主義を脱し、生の現実に対処する
第4章 社会 歪んだ世相の根底にある、個人の観念の歪みを掘り起こす
第5章 思考法 共有される虚構の世界から解脱する -
エコノミストが新聞に投稿した特に政治経済・国際関係などについて意見、提言、批評したコラム集ものだ。中でも気になったのが、「日本の固く古い頭の『官僚制度』の復活では世界の変化には即対応できない組織だ」、また「安倍政権からの『今だけ、金だけ、自分だけ』がどの世界にも君臨し『自己主義』が蔓延、それが当たり前の世間に変わってしまった」という事実を指摘している点だ。更に、近年「ネット世論」なる一部の意見、一部の数値を用いた傾向と意見、それが世論へと変化させ、人々を誘導させているという事実も指摘していることだ。日本の政治も含め「自己主義」が王道になり始め、次期米国大統領のトランプで更に次の段階の「自己主義・自国優先主義」がどのような影響を受けるか気になる。
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毎日新聞に掲載されたコラムをまとめた本。
考え方が自分にはあまり合わなかった… -
p25 若者の雇用改善は数の多い昭和20年代以前生まれの世代の最終退職に伴う、著しい人手不足の補充のために生じた自然現象であり、経済政策の成果ではない
p27 無理は最後の最後に限定してこそ意味をもつ
p28 結果がすべての風潮には、2つの落とし穴がある。第一によりよい結果は実際にはよりよい途中経過からしかうまれない。身も蓋もない手段で得た成功は、長くは続かない
結果がすべてと口にする人ほど、目指したものと違う結果が出た場合にも、それを後付で正当化したがる
p49 空港や道路や工場以上に子どもが大事な時代だと、昭和生まれの世代はいつ気づくのだろうか
p132 中国は、将来の金正恩体制崩壊の可能性まで睨んで、彼に殺された兄金正男の長男を匿っていた
p136 訪日外国人 何人に一人が訪日しているか?
韓国7人にひとり 台湾6人にひとり 香港4人に一人
p140 夷を持って夷を制する 中国 周辺異民族同士を闘わせて弱体化させる
p193 首都圏の総人口は50万人増えたのだが、年齢別にみれば増えていたのは80歳以上だけだった。5年間で52万増、30%増。高度成長期に地方から首都圏に流入した団塊世代が80歳を超え終わる15年後にむけ、この増加はまだ続く。他方で若者を送り出す側だった過疎県は、80歳以上の増加は終わりに近づいており、すでに70以上の過疎地町村で減少が始まっている。高齢者向け医療福祉の需給が逼迫する一方の首都圏と、今後需給緩和が進む過疎地の逆格差は拡大の一途だ
p240 確証バイアスの強い人は往々にして、被害者感情と他罰的傾向が強く、子供じみた言い訳を好む
p245 日本の経常収支黒字の最大源泉は米国、2番めが中国 対香港の収支を合計すれば、対中国は黒字
香港は中国の主要貿易港の一つであり、日本から中国へ輸出する製品の相当数が香港経由だ。だから対中と対香港の収支を足さないと実態はわからないと、以前にある商社マンから教えていただいた
p249 2012と2017の比較
増えた250万人の6/5にあたる211万人は65歳以上、のこりの40万人が64歳以下の就業者の増加だが、それを男女に分けてみれば、女性が100万人増で、男性は70万人減となっている。景気回復で雇用増といのであれば、64歳以下の男性の雇用が増えているのが筋ではないだろうか
p252 日本の輸出は過去20年間に増えている
日本の経常収支は対中国5兆円の黒字
p256 日本経済の問題は資金循環の不全なのだが、皆が日本は円高で稼げなくなったと間違いを大合唱するもので、適切な治療が始まらない
p270 残された証拠を横にならべてから、そのすべてを無理や矛盾なく説明するシナリオを考える。それこそが真相だ。
p280 可住地人口密度 第5位、欧州トップのオランダは、過疎地の代表とみなされる鳥取県や高知県と同水準
p284 偶然の積み重ねに、後付で理由をくっつけるのは、人間の本性だ -
東2法経図・6F開架:304A/Mo82d//K
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選書番号:240
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