分析心理学

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622023135

感想・レビュー・書評

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  • フロイトのイドとかわけわからん言葉が怪しくしか思えなくて、心理学は食わず嫌いしてたけど、ユング良かった

    何より、「フロイトはイドとかいう言葉を使うから、もう無理」とかユングが言ってるのが!!

    理論じゃなくて、あくまで経験として心理学を考えようとする態度にも凄く共感した

    心理学は初体験に近いので、面白かったところは、たくさんあるので、そうじゃなくて、この本で一番美しかったのは、

    「恐らくわれわれはいつも夢を見ているようです。昼の間は意識があまりにも明確なので気づかないのです」

    ヤバいねー

    多層的な自己をこうも美しく言えるもんかねー

    CPプラスの待ち合わせのスタバとか通勤電車でも読んだけど、薄暮を西に向かって飛ぶ飛行機の中がとてもマッチした

    読了

  • 約1年をかけて少しずつ読みました。専門用語が多く、話し口調でわかりやすいですが、ある程度の知識がないと読み進めにくい本だと思います。最近流行っているのかわかりませんが、16タイプ診断を先にやったりすると理解しやすくなるかもしれません。
    理解が追いついていないので星3つ。

  • 講演の記録なので、ユング本人からお話を伺っているような感覚で読むことができる。

    罪に対する言及、鋤で畑を耕す、という表現に引っかかりを感じる。本当に‥他人の鋤では自分の畑は耕すことはできないと思う、けど学ぶことそれ自体が、鋤を磨くことにはならないのかな。(それも人それぞれか)

  • カールグスタフユングは、近年話題になったアドラーや精神分析をはじめたフロイトとともに並び称される20世紀を代表とする心理学界の御三家と言える。
    内向性、外向性、コンプレックス、中年の危機と言うもう日常生活でも使われる言葉はユングが心理学用語として使い、性格をいくつかのタイプにわけるたりする分析心理学の理論を展開した人。故人となる河合隼雄はユング派の心理療法家であり、京大名誉教授であり、文化功労者であり、文化庁長官を三期務めた。彼によってユングの心理療法やその思想が国内に広められた。

    精神病は未だに謎の多い病気である。かつて外科的に脳手術を行う方法等が試みられたが失敗に終わっている。脳科学の研究は盛んだが、薬物療法以外では精神病への貢献は見られない。薬物治療による弊害も指摘され本も出ており、やはり主流なのは心理療法である。その心理療法の元祖として最初に基礎的な治療方法を確立したのがこの3人と言える。特にユングは最も重いとされる分裂症(今は統合失調症というらしい)に取り組み、多くの人たちを救ってきた。

    ユングの生涯

    ユングの生涯は興味深いエピソードに溢れている。子供のころから奇妙な夢や幻想、様々な怪異現象に出会っていた。家庭を持った後も家に幽霊が出現し、長女がそれを目撃し、二女がその霊に毛布をはがされたり、息子がその夢を観たりしたと家族ぐるみで怪異現象を体験している。歴史的にはナチスの弾圧があった時、会長をしていた国際精神心理療法学会をスイスに移した。その際にのちのCIA長官、アレンダレスは彼をエージェント488号と呼んでいた。スパイが暗躍する中立国スイスにおいてナチスの要人の心理分析情報を提供する役割をしていた。ヒトラーの自殺の可能性も示唆していた。
    その一方でアインシュタインをはじめとする物理学者達と交流があったり、更には女性患者と恋愛関係になることが結構あり、ユングの娘は親としては最低だったと言っている。

    ユングの研究内容

    ユングの研究はこころが描き出すあらゆる事象に及んだ。宗教や神話、占い、錬金術や霊的体験や空飛ぶ円盤を心理学的に分析し治療にも役立てた。「聖書」における神の心理分析を行ったり、占星術を統計的に解析したり、降霊術の会合に出席してその分析を論文で発表してもいる。重要なことは幽霊が観える人が居たとすると幽霊が実際に存在するのかどうかを問うのではなく、 その人にとっては幽霊は心理的事実だと捉え、その心理的意味に向き合い研究や治療を行った。

    ユングは病気になるのはその人のその時点において必要なこと。神経症の発症は自己治癒の試みであり、人間的成長のプロセスである。それを手助けするのがセラピストの役割と考えた。彼が治療したザビーナシュピールラインは後に精神科医になった、パウリという物理学者はノーベル賞を取った。ユングの師ブロイラーの患者、アンナOと呼ばれた、ベルタ・パッペンハイム はドイツの切手のモデルとなるほど有名になった。病気を克服して自己実現を遂げた者も中にはいる。

    彼が治療に使う技術の一つに言語連想検査がある。これは様々な「刺激語」を患者に与え、そこで連想された語彙と反応時間と様子を観察する。推理小説でも探偵が容疑者のふともらした一言でトリックを見破るというエピソードが多いが、同様に刺激語の反応を見て、患者の隠された過去や、無意識の内容を探っていく。

    患者の分析事例

    この本にはある精神分裂症の患者の事例がある。ユングが務めていた精神病院に入院した30歳の女性の事例。「病歴」や過去を探っても病気の原因がわからず、言語連想検査で以下のことが分かった。彼女には夫と違う目の色をした娘がいた。彼女が若いころ恋漕がれた若者と同じ目の色だった。人気者の彼を諦め、他の男性と結婚した後で彼が実は自分のことを好きだったことを後に知り、自分の結婚生活に嫌悪感を持つようになる。腸チフスが流行っていたその時、汚水を飲む娘をほおっておいた。娘はそのことが原因でチフスにかかって死んだ。彼女は母としての喪失感を感じたが、意識上では自らが娘を殺したとは思っていなかった。しかし彼女の無意識は、自らを罰しようと、精神病が発病したとユングは解釈した。ユングは彼女に「あなたが娘を殺した」と自覚させる。最初はショックを受けたものの、彼女は3週間後に退院し、その後2度と病気が再発することはなかった。彼女は娘を殺したことで、牢獄に入る変わりに精神病を発病し、病院に送られた。ユングは彼女の良心に殺人という重荷を背負わせることによって、精神病という罰から彼女を救った。罪を認めた人は、それを背負っていける。罪を認めることができない人が逃れられないような結末に苦しまねばならない。

    集合的無意識

    集合的無意識もしくは普遍的無意識という考え方がある。個人的無意識の更に奥底には集合的無意識という個人の経験を超えた先天的な民族や人類学的なイメージを発生させる何かが潜んでおり、それをアーキタイプ(元型)と呼んだ。
    この考えを持ったきっかけは、ある患者の妄想がその後発見された古代の宗教書の記述と一致したということから思いついたという。すなわち患者が決して知りえないような古代宗教書の内容を何故知っていたのか。人は無意識の底ではつながっているのではないかという仮説を立てた。そこから民俗や人類共通のイメージがあらわれ、それは個人の夢にも登場し、同じように神話や宗教や絵画、ファンタジーの中にもみられるので、それらをもとに夢の内容を解読した。科学者のケクレが夢で蛇が自分の尻尾に噛みついてグルグルと回り出すのを見て、これから着想を得てベンゼンの円形の構造式に思い至ったと言う話がある。
    蛇が自分の尻尾をくわえる円形のイメージはウロボロスと言われそれは世界中の神話や宗教、錬金術の本にもでてくる。

    錬金術と夢分析

    錬金術はユングが最も研究した分野で、無機物を混ぜ合わせてそこから賢者の石と呼ばれる有機物や金や、中国では仙人が不老不死の薬を合成するという中世の魔術的な化学であり一種の哲学でもあった。ゲーテのファウストでは錬金術でホムンクルスと言う人造人間が登場します。ユングは錬金術で何かを生み出す過程は分裂症的な心理状態が一つに統合されていく過程を意味していると考えた。

    患者はヴォルフガングパウリという量子力学の構築に大きな功績を持ち、前述したように後にノーベル賞を取る物理学者。彼はジキルとハイドのように昼は優秀な学者であったが、夜になるとどうしようもない衝動に駆られ、酒場をうろつき、喧嘩騒ぎまで起こしていた。また奇妙な夢や幻想に襲われ理性を失う寸前だった。その時にユングに出会い、その治療を受けることになった。

    パウリは自分の夢の内容を説明しながら、病気が治っていく。(ユングは彼を患者と言うよりは元型の宝庫として研究対象としてみていたきらいがある。)パウリはユングに見せられた錬金術書の図版に自分が見た夢と同じようなイメージを見つける。こういった元型が現れる夢を見る患者は個人的な病気ではなく、普遍的無意識から現れる普遍的な病気、人間すべての共通の苦悩で時代すべてが背負っている問題であり、もはや神の病である。そういう認識が治癒を引き寄せる。(結局パウリの場合、物理学研究における論理的思考ばかりで抑圧された感情機能が無意識に追いやられ、それが反乱して酒に溺れるようになっていたということらしい。この後でユングとの共著も書いている。)

    共時性について

    「共時性(シンクロニシティ)」というのもユングに出てくる大きな仮説。意味のある偶然の一致、夢に出てきたことが本当にあったり、第6感だったり、感じたことが実際に起こったりすること。河合隼雄は人の心は合理性や論理的に割り切れるものではなく、非合理的な動きをしたりするので、これを「たましい」と呼び、そういう神秘的な作用を重要視していた。ユングがフロイトの書斎に一緒に居た時フロイトはユングの超自然的な考えを否定すると、書棚でラップ音が起こる。ユングは再度それが起こることを予告し、それが実際起こったという逸話も残っており映画にもなっている。ユングの患者が神聖甲虫(スカラベ、コガネムシの一種)の夢の話しをしている時に診療室の窓をその虫が叩いた。その虫はエジプトでは再生のシンボルとされていた。患者は夢で見たその実物の虫を見て感動し、その後病気は劇的に改善した。河合隼雄はカウンセリングで様々な共時性を体験していたらしい。パウリに至ってはもはや歩く共時性であり、彼が行くところ何かが起きると言われ周囲の人間はそれを「パウリ効果」と呼んだ。最後には彼はある共時性を見つけ自分の死を予告した。

    現代物理学との関係性

    親交のあったアインシュタインはユングにその理論を構築するように助言した。その一方で因果律が必ずしも適用できない(確率論的な実在論を展開する)量子力学を「神はサイコロを振らない」と言って最後まで認めなかった。現代物理学、量子力学で説明される世界はもはや唯物論的な物ではない。存在は確率的に捉えられ観察によって初めて実在が確定する。「シュレーディンガーの猫」のように観察することと猫の生死がつながっているような、観察者と観察される存在は奇妙な関係をもっている。遠く離れている2つの粒子が,「量子もつれ」と呼ばれる奇妙なつながりを持つと、距離に関係なく連動する。これを応用した量子テレポーテーション(を唱える日本人物理学者)がこの間ノーベル物理学賞の候補テーマになった。(現代物理学は唯物論から唯識論的な世界観を示している。)パウリも量子力学と共時性、物理学と心理学の互いの位置づけを思索し、独自のモデルを披露している。要するにすべてのものの性質はそれ自体の本質ではなく、まわりのものとの相互作用ではじめて存在する。それはこころと物の関係も同様。まさに量子力学は共時性を示しているとユング心理学者は言う。
    量子力学を作り上げる一人となったパウリが、共時性を唱えるユングの治療を受けていたというのは歴史的共時性なのかもしれない。

    最後にユングの言葉引用して終わりたい。

    意味は精神的な何かである。例えばそれを虚構と呼んでも良い。しかし我々は虚構によって、効果的に病気に影響を及ぼす。虚構は私の内でひとりでに生まれることもあれば、外から言葉を通じて私に届くこともあり、そしてそのために私は病気にも健康にもなる。こうした虚構、幻想、憶見はおそらく、人が考えつくものの中でももっともとらえようがなく、非現実的なものだろう。それにもかかわらず、それらは心や心身の領域においてかなりの効果を持つ。これらの事実を認めることによって、医学は魂を発見した。

  • Twitter読書会の中である参加者様からご紹介して頂いた本。ユング自身の著作を読むのは初めてで、読み通せるか不安でしたが、最後まで何とか読み通せました。本書はロンドンで行った5回に亘る講演録。態度の型、思考・感情・感覚・直感の四機能、自我、普遍的無意識、元型など、ユングの分析心理学の核となる考えを述べている。中でも多く占めているのは夢の分析で、多くの神話や宗教(キリスト教)を用いて夢の語らんとしていることを分析している。古今東西、様々な地域に類型の神話、お伽噺が伝え残されていることを考えると人類共通の元型、普遍的な要素というは確かにありそうではある。それがユングの言うところの普遍的無意識なのだろう。また言語連想検査では読んでいて江戸川乱歩の「心理試験」を思い出した。時代のせいなのか、ややユングの言説に差別的なものが含まれているのが少し引っかかる。一読しただけでは掴みきれていないので、また再読したい。とても興味深い本でした。

  • ”人間塾2016年4月の課題図書。

    <キーフレーズ>

    <きっかけ>”

  • Jungによる1935年のタヴィストックでの講演内容が収録。Bionも登場していてる。印象深かった言葉は「理論でなく事実を」である。
    講演なので、著作のようなまとまりはないが、その分Jungの肉声がイメージされる良書。役に少し違和感があるが、それに注意すれば、良い入門書になる。

  • ユングは難しい。フロイトは快刀乱麻でバサバサと問題をなで切りにしてゆくが、ユングはどんどん迷宮に入り込んでしまう。精神疾患を幼時からの体験によって明らかにしようとするフロイトの因果論に対して、それを個性化のための高次の心的状態に至るプロセスととらえる目的論的な考え方がユングの魅力だが、どうしても中世的な神秘性、宗教性そして東洋へと広がる「歴史の倉庫」は心を軽くしてはくれない。
    集合的無意識論はレヴィ・ストロースの文化人類学に符合すると思うのだが構造主義の連中はなぜフロイトばかりでユングに目を向けなかったんだろう。シュルレアリストたちもそうだし、ポスト・モダンもみんなそうだ。こちらの知識不足なだけかもしれないのでご存じの方いたら教えてください。

  •  1935年、イギリスにおけるユングの講義録。意識と無意識は乖離すればするほど人間の生を苦痛に満ちたものにする。患者自身が治療者と向き合い、無意識を意識し、絵画や文章といった表現を模索していくことが、自己治癒につながる。
     神経症―これは現代人にとって程度の差こそあれ、避けられない。つねに身近にある。こんな時代こそ、人との正面切った対話、また無意識と向き合いながらの表現行動は、大変重要だと思える。

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著者プロフィール

1875-1961。1875年7月26日、スイス北部のケスヴィルにて生まれる。バーゼル大学卒業後、ブルクヘルツリ病院のブロイラーのもとで言語連想実験の研究に従事。その後、フロイトの精神分析運動に参加し、フロイトの後継者と目されるほど、その中心人物として精力的に活動した。1913年にフロイトと決別。その後は独自の心理学の構築に専心し、「コンプレクス」「元型」「集合的無意識」「無意識の補償機能」「内向/外向」「個性化」などの独創的な理論を提唱していった。1961年6月6日、死去。20世紀最大の心理学者の一人。

「2019年 『分析心理学セミナー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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