精神疾患と心理学

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622023401

感想・レビュー・書評

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  • 前半は精神病理に対する過去の解析・了解方法の分析で整理されているものの、後半に行くにつれ観念的になって解かりにくい。精神疾患の何を異常と捉えるか、あるいは何をもって疾患であると区別するのか、その辺りを社会学的・倫理学的・文化的などの視点で見ていくことの不条理さを皮肉っているのか?
    「自己対自己の関係とは、人間が自分自身こそ真理の真理であるという根本的な仮定の下に真理を疎外して、自己対真理の関係の代わりに、すりかえてしまったもの」(p.152f)

  • 久しぶりにフーコーを読みたかったから。

    精神疾患を生理学的、病理学的にアプローチすると、脳内伝達物質が欠如しているだとか過剰だとか、結果ケミカルな解決策になってしまうと思う。
    ここではそうではなしに、どういった理由で精神疾患という状態になったのかを、出来事ベース、状態ベースでアプローチする。
    精神疾患というのは構造的なものであり、ある一部分だけエラーが出ていても、そのエラーをサポートするように他の部分が適応してしまう。
    エラーだけを強引に治すと、他の適応していた諸部分がおさまらない。
    エラーとその周辺をごそっと治すためには、逆に根本的に大きなスケールで見たほうが良いということらしい。
    結果、人の頭で考えやすい、捉えやすいスケールで整理してみたという話。
    フーコー初期の著作らしいが、こういったところにフーコーっぽさが出ていて満足である。

  • 1954年初版。フーコーが28歳の時の作品、彼の初の単著。彼はここで、身体の病理と精神の病をそれぞれ別物なのだと主張する。当時は「全体としての人間」の想定が至る所にあったらしく、まずフーコーはこの想定に挑戦する。そして精神の病の特異性を現象学の視座から&歴史的条件の分析から明らかにしていく、という流れ。
    第1作目なだけあって、ここではのちに発展していく問題系の萌芽を様々に見て取ることができる。病と実存の問題は、後期フーコーにおける主体性の問題に似たものを感じるし、狂気の歴史的条件に関する記述はまんまその後の仕事につながっていっただろう、と。ただ主体性の問題が実存や現象学の語彙で語られていることに端的に現れているように、この時のフーコーは未だのちのフーコーではない。いったい何が変わったのか、その転回を他の著作と比べつつ考えてみたいなとおもう。とにかく読みやすいので、フーコー入門や精神医学入門にも良いのではないでしょうか?

  • 所在:紀三井寺館1F 請求記号:WM100||F6
    和医大OPAC→http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=16181

    ミシェル・フーコーの処女作。
    ページ数も少なく、後年の著作ほどに晦渋ではないため、フーコー入門として手にとってみても良いのでは。

    第一部「病の心理学的次元」では、治療者が実際に接した患者についての記述が興味深く、ことにセシュエー『分裂病の少女の手記』からの引用は印象に残った。病者には世界がこのように見えているのだということが、鮮やかに伝わってくる。

    第二部「狂気と文化」において、フーコーはヘルダーリン、ネルヴァル、アルトーらの作品のなかに、「理性対非理性という関係」を見ることができると書いている。
    またボスの絵画「快楽の園」において、「われわれの世界」が「狂気」によって不確実になり、「親しみ深いものの中心そのものに、奇怪さを宿らせる」体験が、「可視的なものの様式をおび」ていると述べている。

    これはウニカ・チュルン『ジャスミンおとこ』などでも感じたことだが、たしかに病者の世界は、ときにある種の文学作品に見られる景色と似ている。ウニカ・チュルンの書いたものはとくに、病者の手記というよりは、芸術家による「作品」としての性格がつよい。

    「逸脱の意味を与え」られ、「沈黙させられた「狂人」」たちの言葉が、文学や絵画の中にあらわれていることは興味深い。
    「心理学」が排除した「狂気」に、現代人は芸術のなかで出会うことができる。

    第二部では、歴史のなかで疎外されていく狂気について語られているわけだが、この考察が後に『狂気の歴史』につながっていくものと思われる。
    17世紀にはじまった「監禁」による、狂気の沈黙と排除。ドイツ強制収容所のそもそものはじまりが、精神障害者の収容(監禁)施設であるということもまた、思い出さずにはいられない。

    精神科医でありこの本の訳者である神谷美恵子は、あとがきに、こう書いている。
    「臨床の場で精神病者の治療ととりくんでいる者としては、哲学者フーコーに対して、いろいろと言い分はある。しかし、ともすれば先人の業績の上で眠りこみがちなわれわれにとって、フーコーの仕事は挑戦的な点が少なくない。覚醒と前進のためには、ゆさぶりや破壊さえも、時には要請されると思う」

    現在、そしてこれから、臨床の場で病者と接する人にこそ、読んでみてほしい。

    (スタッフN)

    【併読のススメ】
    『フーコー―知と権力 (現代思想の冒険者たち)』
    和医大OPAC http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=20908
    ブクログ http://booklog.jp/users/wmulk/archives/1/4062659263

    ウニカ・チュルン『ジャスミンおとこ』
    和医大OPAC http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=12589
    ブクログ http://booklog.jp/users/wmulk/archives/1/B000J9VOF2

    セシュエー『分裂病の少女の手記』
    和医大OPAC http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=29184

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著者プロフィール

ミシェル・フーコー(Michel Foucault):1926年フランス・ポワティエ生まれ。高等師範学校で哲学を専攻、ヨーロッパ各国の病院・研究所で精神医学を研究する。1969年よりコレージュ・ド・フランス教授。1984年没。主著に『精神疾患とパーソナリティ』『狂気の歴史』『臨床医学の誕生』『言葉と物』『知の考古学』『監視と処罰』『性の歴史』がある。

「2023年 『ミシェル・フーコー講義集成 2 刑罰の理論と制度』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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