ディナモ・フットボール

著者 :
  • みすず書房
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本棚登録 : 74
感想 : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622033899

作品紹介・あらすじ

憎悪、そして憧憬-自由が抑圧された社会主義の時代を生きた人々にとって、"ДИНАМО"は二律背反の感情を抱かせる「栄えある称号」であった。ポスト冷戦時代を生きる、かつての名門クラブの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 本書はみすず書房から出版されている。みすず書房に対しての私のイメージは、人文系の学術書を発行する出版社というものである。ハードカバーで、2,400円という値段、「国家権力とロシア・東欧のサッカー」という副題、サッカーをテーマにした書物としてはかなり異質な体裁ではある。
    本書の発行は、2002年4月。日韓ワールドカップの開催された年であり、今から20年前のことだ。
    旧ソ連が実質的に支配をしていた旧共産圏諸国にも、サッカーのリーグ戦があったが、多くの国に「ディナモ」という名称を持つサッカークラブが存在していた。ディナモ・モスクワ、ディナモ・キエフ、ディナモ・ベルリン、ディナモ・ブカレスト等々。ディナモは、各国の内務省、秘密警察がバックとなっていたサッカーチームである。筆者は、各国の「ディナモ」という名前のつくフットボールクラブを訪ねる。
    筆者の本テーマでの最初の取材旅行は、2000年8月のベルリンである。ベルリンの壁の崩壊が1989年11月、東西ドイツの統一が1990年10月なので、東欧の社会主義体制が崩壊してから10年ほどが経過した時点である。私も、たまたまであるが、日韓ワールドカップの少し後、2004年に東欧諸国、具体的にはポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーを旅したことがある。短期間の滞在であったので、ある一面しか見えていなかったと思うが、当時のそれらの国々は、東欧革命10年以上を経ていても、西側諸国に比べると、大観光都市であったプラハを除くと、まだまだ貧しさが目立っていた。
    本書のテーマは、東欧革命前に隆盛を誇った、各国の「ディナモ」フットボールクラブが、共産主義体制の崩壊の後にどのようになっているのかを確認することであった。筆者が旅した国・都市の「ディナモ」は軒並み勢いを失っていたが、それは、共産主義体制が崩壊したために、内務省・秘密警察という後ろ盾を失ったためばかりではなかった。国そのものが、資本主義への移行期の中で秩序を失い、経済的にもまだまだ貧しい状態の中で、主力選手が西側のクラブに引き抜かれ、各国のサッカーリーグそのものが勢いを失っていたということであった。
    本書が書かれてから約20年、状況は少しづつ変わってきているのではないか。2018年にはロシアでワールドカップが開催された。また、この大会でクロアチアが準優勝している。私は2004年以来、旧東欧諸国を訪問する機会を得ていないが、是非、出かけてみて、その変化を見てみたいと思う。

  • 購入して読み。
    宇都宮徹壱の本なので。米原万理もおすすめしてたし。

    今はまた多少時代が変わったので、状況は変わっているかもしれないけど、ロシア・東欧・旧社会主義国などなどの政治に翻弄されるフットボールとその周辺にスポットライトが当たっている。でも翻弄されるだけじゃなくてサポーターも結構したたかだったり。

  •  熱心な欧州サッカーファンなら、東欧の旧共産圏のクラブには、「ディナモ」という名を冠したクラブが多数存在していることに気付くだろう。ディナモ・キエフ、ディナモ・ザグレブ、ディナモ・ブカレスト、ディナモ・トビリシ…。
     「ディナモ」とは、英語でのダイナミック(動的)を意味し、「スポーツクラブ」のことを指す言葉とされるが、旧ソ連のディナモ・モスクワが、秘密警察が運営をサポートするクラブであったことから「ディナモ」といえば秘密警察系のクラブと認識されるようになったという。上記クラブも例外ではない。これらのクラブは、旧ソ連時代、ひときわ強さを誇ったクラブであった。
     また、秘密警察系のクラブであったことから、それは「権力」と同一視されるものであり「憎悪」の対象となり得た点も見逃せない。89年の冷戦終結後、ほとんどの「ディナモ」は、クラブの名称変更を余儀なくされることになるが、結局はもとの「ディナモ」という名称にもどっている。それは他ならぬサポーター自身の要望、過去の栄光への「憧憬」からである。
     この「憎悪」と「憧憬」を含みもつ「ディナモ」という言葉。本書は、この「ディナモ」を巡っての取材を通してまとめられたルポルタージュであるが、単にサッカーの域を超えており、社会・政治との関わりの中でサッカーをとらえた非常に興味深い作品といえる。

  • 旧社会主義国の秘密警察のクラブについての本。
    かつて、その権力から無敵を誇ったチームの集落。
    憎んでいたチームを懐かしむサポーター。
    矛盾に満ちて、哀しく、クソすばらしい。

  • 北朝鮮が、「国にサッカーやらされてる」って感じたら甘すぎる。
    忠誠を誓って国家のためにプレーする。そんなの共産圏では当然だった。それでも輝かしい経歴を残した選手たち。もし、彼等が、もっと自由な流れの中でプレーしていたのなら・・・。

    ご一読あれ。

  • スポーツナビに記事やコラムを寄せるなど、インターネット上のサッカー界隈では名の知れた宇都宮氏の作品です。本の始めに書かれているように、この本は欧州サッカーの影の部分を追い掛けています。タイトル通りディナモを冠したクラブばかりを取材し、正直言ってテーマはかなりマニアックです。「ディナモ・フットボール」という書籍名が琴線に触れるのは、UEFAチャンピオンズリーグを通じてディナモ・キエフを好きになった者か、ロシアや東欧のサッカーに興味がある者くらいでしょうか。<br>
    著者は、せっかくドイツに行ったのにディナモの陰を追い求めて3部や4部のリーグ戦ばかりを観戦し、シドニーオリンピック男子サッカー日本代表初戦の日にはグルジアのスタジアムで写真を撮っています。始めは、この人は相当な物好きだなと思っていたのですが、その物好きが書いた本を買って楽しそうに読んでいる人もまた物好きであることに気が付きました。この様な本が発売されるということは、日本にもサッカーが深く浸透してきた証にもなるでしょう。<br>
    プロローグとして終戦直後のディナモ・モスクワの英国遠征から本は始まります。そして現代に戻ってドイツやロシア等々と続き、クロアチアでディナモを巡る旅が終わります。ここまでは良かったのですが、エピローグがロシア代表の取材というのが少し腑に落ちませんでした。ディナモの発祥はソビエト連邦ですから、ロシア代表は全く無縁の存在ではないのですが、エピローグにだけは光と影の光の部分を感じてしまいます。そしてその違和感からこの本の発売日が日韓W杯の2ヶ月前であることに気が付きました。日本のサッカー浸透度がうかがえるような内容の本でありながら、密かにワールドカップ関連本としての性格も持ち合わせていたのです。<br>
    もし先のW杯で日本がロシアや東欧諸国と同じグループに入っていなければ、宇都宮氏のディナモを巡る旅は本になっていなかったかもしれません。本としての統一性を考えた場合、やはりエピローグは浮いた存在に思えてしまうのですが、しかし悲しくはありません。何故ならばおそらくはエピローグの内容のおかげで、ディナモを求める旅と出会うことができたのですから。

  • ソ連やハンガリー・ポーランドなど、社会主義国家が、数十年前にはサッカー強国だったのは周知の事実。その栄枯盛衰を著者自らが旅し、記した傑作。

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著者プロフィール

写真家・ノンフィクションライター。1966年生まれ。東京都出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、テレビ制作会社勤務を経て、1997年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追いかける取材活動を展開。2010年『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』でミズノスポーツライター賞大賞、2016年『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞を授賞。現在、個人メディア『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信中。

「2022年 『前だけを見る力 失明危機に陥った僕が世界一に挑む理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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