心的外傷と回復 〈増補版〉

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622041139

作品紹介・あらすじ

「トラウマ問題はすべての私たちの問題である」その諸相と治療への道を具体的に描いた本書は"バイブル"とまで呼ばれている。ここに「外傷の弁証法は続いている」の章を付し、新たにおくる。

感想・レビュー・書評

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  • 著者のハーマン医師と、女性たちの「対話」による、「性暴力」の「体験」を分かち合う・回復する過程を丁寧に記した著。「性暴力」からの「回復」について、きちんと記した書は珍しい存在。だいたいの図書館にあるので、関心のある方にはおすすめです。けっこうなページ数で、「専門書のようだし、最後まで読めるだろうか…」と危惧したが、女性たちの語る事例が、「私の話を聞いて…こんなひどいことがあったの。」と語りかけてくるし、ハーマン医師の説明が「このことをなかったことにしたくない。女性たちに『自分自身』を回復してもらいたい」と語りかけてきて、どんどん引き込まれていった。
    女性たちの語る内容は、性暴力に関することなので、読み手にも、つきつけられるものはあります。が、著者はあくまで冷静で抑制された表現を貫いているので、読み手も冷静に読めると思います。

    特に心に残ったのは、

    後半の、女性たちの自助グループワークで、それぞれの体験を話す場面。

    「私にひどいことをしたやつらをこらしめてやりたい」
    「いいね!もっと言って」
    「あいつのひざをぶっ叩いて立てないようにしてやる」
    「いいね!でも、ひざだけでいいの?」
    「本当は目玉をくりぬいてやりたいけど、あいつがやった行為がどんなにひどいものだったか、目に焼き付けてやりたいから」

    「同じ体験をした仲間」と一緒に、「何を言ってもいい」という安心安全な環境のもとで、「自分のひどい体験」を語り聞いてもらう…これまで孤立していた人たちにとっては、本当に「私に起きた この ひどい体験は、ほんとにあったことなんだ!(過酷な体験を受け入れがたいために記憶がない場合も少なくない)」
    きっと、「受け入れてもらえた!」という瞬間だったのでしょう。読んでて心のなかで拍手した。サバイバーの女性たちに向けて。
    「ひどい体験を 自分の言葉で 同じ体験をした人に話す、聴いてもらう。共感してもらう。」…そういう段階まで至ると…、自分を責めることが減り、結果として、PTSDなどの症状も改善されてくるそうです。
    「なかったこと」には、ならないけれど、「ひどいこと」をした相手に対して、「No!」と、ちゃんと怒ることができた」ことで、無力感ではなく『自分にも力があるんだ』と実感できたのだと思う。「過去のできごと」に対して「抵抗できた」と、「自信」につながるのでしょう。

    「性暴力」だけでなく、「戦争帰還兵」「ホロコースト生存者」についても触れられていて、『暴力による支配』の『影響』(PTSDなどを引き起こす)は共通するんだな…。支配し、支配される関係の歪さ・おぞましさを書面で擬似体験できました。擬似体験でも つらかったので、実際の体験者の苦痛はいかほどか…(..)_| ̄|○
    だけれども、きちんとした医師や自助グループの、仲間の、助けがあれば、『傷を癒し、回復できるのだ』という実践記録なので、『希望はあるのだ!』と、一筋の光を感じました。ハーマン医師と勇気あるサバイバーたちに大きな拍手と花束を贈りたくなる。ひどい体験からの回復の様を証言してくれて、そして、書いてくれて、ありがとう。
    肉体的・精神的な「暴力」や「支配」はどこにでも存在する。一見平和そうな家庭にも。まともそうな会社、学校、コミュニティ…など、人間関係あるところには、だいたい、ある。「善意による支配」「無意識な支配」関係、「パワハラ、セクハラ、モラハラ」…冷静に分析すると思い当たること、多いのでは?だれにとっても。
    本書をしっかりと読み、理解し、よくよく検証すると…、そういう、人間関係のトラブルにも、必ず、役立ちます。

    ここから余談…自分語りになってしまいますが、中学生時代、 いじめに合い、人間不信になった経験があります。中年の今でも、暴言をぶつけてきた人たちの名前、フルネームで言えますね。そんときの相手の顔も忘れたくても忘れられません。「いじめられるのは、自分が悪いのかな?」と、10~20代は誤解してましたが、今では、ハッキリ言えます。「いじめをしかける方が間違ってるし、理不尽な暴力です。優しい人に八つ当たりしてるだけです」と。
    もし、タイムスリップできたら、過去の自分に知恵・戦略を授け、合法的に、正々堂々と、いじめてきた人たちに、ギャフン(古…(^o^;))と言わせてやれるのになー!現実には無理なんで、妄想するしかありません。

    ちなみに、2023年2月100分de名著「フェミニズム特集」にて、上間陽子さんが紹介されていた本。上間さんは社会学者で研究を続けながら、沖縄で女性たちのシェルター活動をしている。著書は「裸足で逃げる」「海をあげる」。
    Etv特集で上間さんたちの活動のドキュメンタリーを見て、上間さんに注目していた。
    「今まで大切にされた経験がなかった若い女の子たちにとって、安心安全な環境を作ってあげたかった」「ほんとうは行政のやる仕事だけど、待っていたら間に合わない」
    という上間さんたちの語りに、心をうたれた。そういう上間さんがすすめる本ならば、まちがいない、っておもった、のです。

    上間さんたちみたいにはできないかもしれないけれど、本を読んだり、こうやってシェアしたり、日々の生活のなかで、「できる範囲で」行動することで、しんどい思いをしている人の応援はできるかな、っておもいました。自分の小さな世界ですけど。なにもやらず諦めるよりはいいかな、って。

  • 私は、被虐体児童であった。
    加害のメカニズムがすごく丁寧に描かれていて、まるで自分の起きたことを知っているかのようだと思った。
    監禁状態と児童虐待の章は、フラッシュバックをともないながらなんとか読み終えた。被害者を徹底的に無力化し徹底服従させようとする様は、パワハラの上司のあり方そのものだった。児童虐待も、虐待を受けた子供がみずからを悪いと責めてしまう部分もそうだなと思いながら読んだ。

    後半にかけて、回復についての精神的治療のところで、自分が経てきたことをふりかえった。この先もなんとなく見えたりもした。それは微かな希望にもなった。

    心的外傷を持った人のトラウマに向き合うことは、虐げられた人の声を聞くことでもあり、フェミニズムなのだとも思った。私個人が持っている興味の連なりも感じた。

    傷ついたことによって、そのことによって、より人生を見いだすことはありえるだろうか。誰かの力になれることもあるのだろうか。

    まずは自分の回復が大切。と思いながら、そんなことがあったら素敵だなと、思えた。

    • workmaさん

      のしふくさん

       おっしゃるとおりですね…
       まずは自分自身の回復が大切、…ほんとうにそうなるといいですね…「いろんな支配からのサバイバー...

      のしふくさん

       おっしゃるとおりですね…
       まずは自分自身の回復が大切、…ほんとうにそうなるといいですね…「いろんな支配からのサバイバーにとって希望が持てる書物」、だと思いました。
      2023/12/19
  • 100分で名著のジェンダー版の紹介本である。最初の部分は番組で紹介されていた部分である。フロイトが精神分析における貴族の女性のヒステリーの原因が幼児の性虐待であることに気づき、出世欲のためにこれ以上女性のヒステリーを扱うことを断念したことが書いてあった。これは心理学の教科書にはほとんど書かれていないことである。
     PTSDの教科書であるという。戦争のPTSDについては、グロスマンが書いているが、児童と女性の性被害のPTSDについてはこれが第一の本であろう。卒論でPTSDについて書くためには基本書となるであろう。

  • 私自身が加害者である。
    意識的にせよ、無意識的にせよ、人を傷つけるということは、その相手にこんな思いをさせるということだ。
    そして、ただ助けたいという思いだったとしても、その方法を間違うと、共倒れをする。
    専門知識のある治療者ですら、こうしていくつもの失敗を積み重ねているのだから。
    でも、知らないふりも、見ないふりもできない。
    そんな時、頼るべきは専門家なのだけど、その専門家がもし失敗をしたら…心の傷に関しては、その恐れが本当に大きくて難しい。

    • workmaさん
      読生さん

       人の心の傷にふれることはむずかしい課題ですね。
       でも、こういう盆を読むことで、多少なりとも疑似体験することは、意味がある行為...
      読生さん

       人の心の傷にふれることはむずかしい課題ですね。
       でも、こういう盆を読むことで、多少なりとも疑似体験することは、意味がある行為だと、自分は思います…
      2023/12/19
  • PTSDについて過不足無く纏めている。被害者への寄り添い方と客観のバランスがとても適切と思ったら、やはり著者は女性だった。
    勉強になったのは以下。

    ・心的外傷は被害者から力と自己統御(セルフ・コントロール)を奪う。治療の基本原則はそれを被害者に奪回する事にあるが、その為に最初の課題は安全確保である。安全が十分確保いないのに治療が成功する事はありえない。

    ・家庭内暴力にあってパートナー双方が共に和解を願っても内心の目標ははっきり食い違う事が少なくない。虐待者は通常相手を強制的にコントロールするという関係を取り戻したいと思っており、被害者はそれに抵抗したいと思っている。虐待者が暴力を振るわないと誓う事は良くあるが、大抵裏の条件があって、暴力を振るわない事を誓う代わりに被害者に自己決定権を放棄してほしいというのである。

    ・絶望との対決ともに、少なくとも一過性に自殺の危険が増大する。患者な自分には自殺を選ぶ権利があるという不毛な哲学的議論を始めるかもしれない。絶対にこの知的防御の向こう側に出て、患者の絶望の火に油を注いでいる感情や空想にかかわるようにしなければならない。よくあるのは、自分はすでに死者であるという空想である。それは愛の能力が破壊されたからだというのである。この絶望の底に降りていく過程で患者を支えとおすものは、どんなにささやかでもよい、愛による結びつきの力が残っているという小さな証である。

    ・心的外傷の核心は孤立(アイソレーション)と無縁(ヘルプレスネス)である。回復体験の核心は有力化(エンパワメント)と再結合(リコネクション)である。回復の第三段階になると、外傷を被った人も自分が被害者であったことを認識し、自分が被害者となっていたための後遺症がどういうものであるかを理解するようになる。これは外傷体験の教訓を人生に組み込む準備ができたことである。自分の力量感、自己統御感を大きくし、これからもあるであろう危険に対して自らを守り、そして信頼できるとわかった人々との同盟関係を深める準備ができたことでもある。児童期の性的虐待の生存者の一人はこの段階に達した感じをこう記している。
    「私は決めた、そうだ、私を白眼視している奴らを皆メタメタにやっつけてやりたいと同じ事ばかり考えていたが、もうたくさんだ。もうそう思う必要は無いんだと。それから考えた。じゃあ、どう感じればいいんだろう、と。私は世界の中にいても安全だと感じたかった。私には力があるんだと感じたかった。そこで私の人生の現在活動しているものに心の焦点を合わせて、現実生活の場で力を持とうとした。」

  • 全くの門外漢、素人ですが、中井久夫さんの著書を、ただ、ただ楽しくて読んでいて出合いました。今やトラウマ論、PTSD理解の基本の書だそうです。

  • 2 どんな辛い出来事も時間がたてば楽になるのか―トラウマという問題[渡邊誠先生] 1

    【ブックガイドのコメント】
    「トラウマの戦慄的な面をこの本以上に実感させる日本語は、もう現れないかもしれない。」
    (『ともに生きるための教育学へのレッスン40』66ページ(ブックガイド))

    【北大ではここにあります(北海道大学蔵書目録へのリンク先)】
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2000839492

    【関連資料(北海道大学蔵書目録へのリンク先)】
    ・[増補前]1996年発行
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2000715305

  •  アメリカの精神科医が語るトラウマとそこからの回復について。

     トラウマとは何か、どの様なものかなどがまとめられ、後半ではその治療について書かれている。
     トラウマケアは長い間、それを見ないようとする力と戦ってきた。フェミニスト的な視点が重要であるとこの本は訴える。
     治療の章では主に三つの段階があるとしている。まず現実的な自分自身の力を高めていく段階。次がその上で過去と対峙する段階。最後が過去と向き合うことができた上でもう一度人生を再構築していく段階と、確かこんな感じだったと思う。虐待などではその出来事にのみ目がいきがちだが、起こったことではなくその人そのものに注目し、力を回復していく支援をしていくことが重要なのだと感じた。

     トラウマケアの必読書。分厚いが何度も目を通す価値がある一冊。

  • 読み応えがある専門書

    • workmaさん
      けんちきんさん
      はじめまして。
      この本、読みごたえありますよね。ずっしりきますが、読んでよかったと心から思うのです。
      けんちきんさん
      はじめまして。
      この本、読みごたえありますよね。ずっしりきますが、読んでよかったと心から思うのです。
      2023/10/20
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