サルガッソーの広い海 (ジーン・リース・コレクション 1)

  • みすず書房
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622046691

作品紹介・あらすじ

陽光と死にあふれたカリブの島で、激しくも数奇な愛と憎しみのドラマが始まる-三十年の時を経て、劇的な復活を遂げた『早過ぎた作家』リースの代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 植民地生まれの白人として、ヨーロッパ生まれの白人の中にも奴隷として連れてこられ定着した黒人の中にも居場所がない母と娘。クレオール文学はいくつか読んできたが、黒人、混血のひとたちの視点から語られる作品ばかりだったので、黒人からも蔑まれる白人の存在を初めて知った。知らないことだらけ。

    この母と娘の、男性に目をかけられなければじわじわと死を待つしかない寄る辺なさが、『源氏物語』に登場する女性たちに重なる。男性も含め、自活の道がない主要人物たちの立場が辛くて仕方ないのだが、彩度の高い水彩画の中を逍遥するようなうつくしい文章のおかげで読み進めることができた。男でも女でも、自立する能力を持つ機会を奪われたら、生きていくために人を利用し、ツール扱いしたりされたりすることで傷つけたり傷つけられたりする。しかしそうするしか生きていけない時代・地域があり、今の日本でもそのようにして苦しんでいるひとたちがいると思う。

    それにしてもロチェスターは『ジェイン・エア』でも子どもっぽくて偉そうでいけ好かない男だったのだが、若いころはそこにいっそうの考えの浅さと残酷さが加わってほんとうにいけない。でもちゃんと考えていないという点ではアントワネットも同じであり、とはいえずっと寄宿学校で純粋培養しておいて、そこから出たらいきなり自分で考えろとは無茶な相談であり、んーやはりこれ現代日本人と無関係な話じゃないな...という気持ちになった。若いひとに読んでほしいわ。

  • 帰属意識をもてないということが、こんなにも人を蝕むものなのか。
    理解できないものに対する恐れが、人をこんなにも残酷な仕打ちへと向かわせるものなのか。

    19世紀の英国領ジャマイカ。本国の白人からは、洗練されない“二流の白人”とみなされ、母親の出自から、同じクレオールからも浮き、黒人からは“白いごきぶり”呼ばわりされるような環境のなかで育ったアントワネット。愛する母からも疎んじられ、体を傷つけるような鋭い葉も毒蛇も、“人よりはまし”と思う幼い彼女のよりどころのなさが、悲しい。

    彼女が結婚した英国人男性の自己中心的なところや残忍さに、本を閉じたくなるほどの腹立たしさを感じるが、それは作者ジーン・リースの思惑通りなのだろう。
    この結婚相手に作中、名が与えられていない点も興味深い。帝国主義、権威主義的な男性の象徴として描きたかったからか。アントワネットは個人の愛による救済など、端から求めていなかったからなのか。

    “屋根裏の狂女”の出身がジャマイカとされた設定にこだわり、この“狂女”についての物語を書かずにはいられなかったジーン・リースの生涯にも想いを馳せたくなる。

       Wide Sargasso Sea by Jean Rhys

  • 曖昧な表現の第一部に比して、体温を持った人間と偏見に満ちた世間が現れ、俗っぽさ、愚かさ、混沌とした社会が絡まりあう第2部。そして主人公は眠っている第3分。虚栄心と自分の判断で真実を見抜けない突破口のない植民地における白人の劣等感と優越性がごちゃ混ぜ。読了したもののクレオールへの知識・認識、ベースになっているジェーン・エアは未読なので不完全燃焼。「白い黒んぼ」はこの本を理解できない私の混乱に似て、それが存在する社会は重い。最後はアントニエッタは狂気ではないと思いながら「炎」がゆらめくのを見た。

  • 数年前に初めて「ジェイン・エア」を読んだのだけど、ピンと来なかった。
    私の読みの足りなさとか、好みの問題とか、色々あると思うのだけど、多分、私はもっと若い時に読んだらもう少し感じるものがあったんじゃないか。
    対して、「ジェイン・エア」の『狂った妻』を主人公にした今作は、私、今読むのがちょうど良かったと思う。
    十年前だったら、よくわからなかったんじゃないかな…。
    アントワネットの生涯続く寄る辺なさが痛ましい。
    しかし情景描写は美しく、情熱的で、それはアントワネットにも重なり、ただ哀れむだけでなく胸をつかまれるものがあった。
    ラストは、そりゃあそうなるに決まってるけど、でもでも、ガツンと来るな…。

  • ジーンリース「サルガッソーの広い海」http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002734366-00 … 読んだ。ジェインエアに想を得た別作家による勝手スピンオフ。おもしろいがこういう創作はアリなのかそこが気になる。植民地の白人対黒人の単純構図から疎外され両側から蔑まれ憎まれる白系現地人の不幸(つづく


    サルガッソーは浮き藻、アントワネットは浮き藻に絡め取られて脱出できず狂気にしか逃げ場がない。差別と憎悪、自己認識と帰属意識、怒涛の不幸。「白いショッカー」(ショッカーではないけど、あの文字をタイプしたくないので自分の単語で)って酷いな。同族嫌悪が一番タチが悪い(おわり

  • 予備知識なしで読んでいたので
    第3部は心底、驚きました。

    中学時代に読んだ
    「ジェーン・エア」の遠い記憶を
    手繰り寄せています。

    この作品の試みを、C・ブロンテが
    生きていたら
    どのように感じるのかと気になりました。

  • カリブの島は魔術的。呪術的。魔女的。人を狂わせ、魅了する。そして、透明だ。透き通っている。海水は辛いのだ。

  • 白人による植民地支配が、一人の女性とその母を通して間接的に伝わってくる。名作。

  • 正直なところなんだかよくわかりませんでした。奴隷を持つ側と奴隷とされる側の間にある深い憎悪の心などは理解できましたが、アントワネットの生き方が理解できませんでした。私の読解力と想像力では味わいきれない作品のようであります。

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著者プロフィール

1890-1979年、カリブ海に浮かぶイギリス領ドミニカ島に生まれる。16歳のときにロンドンのバース女子校に入学するが、1年あまりで退学。演劇を志し、アカデミー・オブ・ドラマティック・アートに進むが、中途で挫折。シャンソン歌手でフランスのスパイとされるジャン・ロングレが最初の夫で、結婚は計三度。
1927年のデビュー作『セーヌ左岸およびその他の短篇』の刊行はモダニズムの立役者の一人フォード・マドックス・フォードの尽力によるものだった。『カルテット』など長篇の評価は高かったが、次第に忘れられた作家となる。40年代後半に『真夜中よ、おはよう』がラジオドラマ化されて、それを期に復活。60代で代表作『サルガッソーの広い海』を発表し、作家としての評価を決定的なものにする。
終生波乱と困窮と飲酒に彩られた人生を送った。現代文学の基礎を作った作家の一人である。

「2022年 『あの人たちが本を焼いた日 ジーン・リース短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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