首をはねろ! メルヘンの中の暴力

  • みすず書房 (1998年10月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784622049579

感想・レビュー・書評

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  •  メルヘンの暴力性から人間とその営みにつきまとう悪しき部分を解き明かしてゆく。それは決して子ども向けの物語ではなく、むしろこの世の真実を描き出す人間の物語だと言うべきかもしれません。人間の負の部分も描くことでメルヘンがいっそう生き生きとした物語のように思えてくるのですから、不思議なものです。

     取り上げられる物語は面白いものばかりなのですが、「マリーエンキント」は特に印象的です。ほかのメルヘンのように悪人が登場しないからです(どう考えても”聖母”は悪役ですが)。ものすごく無粋に表現すると、いいつけを破った女の子が、聖母マリアから「本当のことを言え」と脅迫される話です。教会という権力に忠実な人間には優しいけれど、逆らう人間には容赦なくその権力で鉄槌を下す。なんとも恐ろしい話です。

     以下、本書の指摘を一部ですが列挙しておきたいと思います。

    ・「カイン=情動」
    他者に嫉妬し、排除したいという欲求。衝動的でない、執拗な殺意。旧約聖書、カインとアベルの物語にちなむ。カインは、神が弟の捧げものしか受け取らなかったことに嫉妬し、アベルを殺害する。しかしカインはそれを後悔もしない。

    ・不安による抑制
    「カイン=情動」は幼いころから他者への攻撃性というかたちで現れる。そしてそれらは成長とともに抑圧される。しかし、それは道徳や倫理によってではなく、自分も攻撃されるという不安によってである。

    ・善良だと信じたい人びと
    物語の聞き手は、自らを善良な主人公に重ねたがる。ところが、そこで描かれる悪役もまた彼らの「カイン=情動」を反映している。聞き手は被害者であり、じつは殺害者でもある。

    ・正当と認められた暴力の行使
    命をつけ狙う女王(実の母親)が灼けた靴を履かされ踊り狂う(「白雪姫」)など、暴力の行使は相手が悪人であれば許される。語り手は想像のなかで母親を悪人に仕立て上げ、それが処罰されることで「カイン=情動」を解消する。

    ・家族の隠喩
    「コルベス氏」では、邸に帰ったコルベス氏をカモなどが襲い、邸から逃げ出そうとしたところを石うすがとどめを刺す。グリム兄弟は「コルベス氏は悪人だったのだ」とするが、筆者によればこれは家庭における悲劇をほのめかしているという。
     コルベス氏を襲ったネコやカモ、石うすなどなどは女性の象徴であり、コルベス氏はそれらからのいたずらを相手にすることなくただただ逃げようとする。やがてそれらの象徴は暴力を持ち始め、やがて殺意へと変わる。

  • 2025.09.27 朝活読書サロンで紹介を受ける。メルヘンの中の残虐性を集めた本。

  • 民衆が営々と語り継いでゐる話が、なかなか凶悪な展開をする物が多いといふのを、説く。
     『ハンスあるいは坊ちゃんハリネズミ』のハリネズミのハンスが、悪い王様になんかされた腹いせにその娘であるお姫様(自身は良い人)をハグし、その為「血まみれに」なった彼女は「一生笑いものになる」といふ点にレイプ疑惑を上げる。ほか、いろいろ実例を一々上げて凶悪だと説く。
     それらについて、だからやめろとは言はない。笛を吹く人の話を最後にやって終る。
     示唆に富んだりいろいろ。

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