人類の星の時間 (みすずライブラリー)

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622050063

作品紹介・あらすじ

ゲーテ、ナポレオン、ドストエフスキー、スコットなどの天才が輝きを放った、十二の世界史の運命的な瞬間を凝縮して描いた、ツヴァイク晩年の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • サイラス・W・フィールド、海底電信ケーブルを敷設した人。彼の凶器にも似た気概と勇気に感動して鳥肌が立った。
    世界史を勉強していたのにも関わらず、まったくもって彼のことを知らなかった。

    無論、彼だけでなく他の誰のことも知らなかったのだけど。教科書に太字で要約して記される言葉の裏に、その時代に居合わせた人々の壮大な物語があることに想像力が膨らみワクワクしました。

    学校の先生もこんな風に教えてくれたら良かったのにな。

    私としては、訳語が少々堅苦して読みづらかったのが残念でした。何度も挫折してしまったので笑

  • 歴史が輝いた瞬間、「人類の星の時間」をツヴァイクのすばらしい物語の力で描き出した本。

    畏怖するもの、恐ろしいもの、感動するもの、そしてまずいずれもそのような評価を下す前にさきにただただ理解し、共感している。
    12のどの話も精神に迫ってくるものがある。優劣つけがたいが、ヘンデル、ドストエフスキー、スコット大佐の南極探検はとりわけ心が震えた。

  • 久々に整った文章を読んだ。運命というものの不思議さに思いを馳せる。ツヴァイクは1942年に「私の精神の故国ヨーロッパは今や自滅した」と遺書を残して自滅したそうだけど、現代に生まれていたらどうなってただろう。多分一目見たら二目見たくなくて自殺するくらいだろう

  • 名もなき凡夫から歴史的人物まで、その先の時代を決するような瞬間を描写した短編である。

    人類には何でも「初めての瞬間」があったはずで、歴史に名を残しているか否かは別にして「初めて成し遂げた人」がいたはずである。最初に立ち上がった人、火を使った人、歌をうたった人、文字らしきものを書いた人、神を作った人、地球を一周した人、南極に到達した人、大海に電線を引いた人、地下鉄を通した人、月に行った人…次は何をするのだろう。
    初めての人が道を拓き、その後の人類の在り方を決定付けてきた。英雄の意志にかかった歴史もあれば、とるに足らない人物ととるに足らない事象がその歯車を動かした歴史もある。ほんの些細なきっかけが核となり、単なる時の連続から、その時代の結晶ともいえる何かが析出し、その時代を形作っていく。
    もともと歴史があるわけではなく、個人の営みの積み重ねであったり、偶然の賜物により、歴史が織りなされていくという真実に思いが至る短編である。

  • シュテファン・ツヴァイク(1881~1942年)は、オーストリアのユダヤ系の作家・評論家である。その歴史小説は評価が高く、『マリー・アントワネット』や『メアリー・スチュアート』等が有名である。
    本書には12篇が収録されているが、1927年の初版は全5篇(本書の中の「ウォーターローの世界的瞬間/ナポレオン」、「マリーエンバートの悲歌/カルルスバートからヴァイマルへの途中のゲーテ」、「エルドラード(黄金郷)の発見/J.A.ズーター」、「壮烈な瞬間/ドストエフスキー」、「南極探検の闘い/スコット大佐」)で出版され、1943年の増補版で現在の全12篇(追加は「不滅の中への逃亡/太平洋の発見」、「ビザンチンの都を奪い取る」、「ゲオルグ・フリードリッヒ・ヘンデルの復活」、「一と晩だけの天才/ラ・マルセイエーズの作曲」、「大洋をわたった最初のことば/サイラス.W.フィールド」、「神への逃走/レオ・トルストイの未完成の戯曲『光闇を照らす』への一つのエピローグ(終曲)」、「封印列車/レーニン」)となった。
    邦題の『人類の星の時間』は、ドイツ語の原題『Sternstunden der Menschheit』の直訳であるが、著者はその題に込めた意味を、「序」の中で「時間を超えてつづく決定が、或る一定の日附の中に、或るひとときの中に、しばしばただ一分間の中に圧縮されるそんな劇的な緊密の時間、運命を孕むそんな時間は、個人の一生の中でも歴史の径路の中でも稀にしかない。こんな星の時間-私がそう名づけるのは、そんな時間は星のように光を放ってそして不易に、無常変転の闇の上に照るからであるが-こんな星の時間のいくつかを、私はここに、たがいにきわめて相違している時代と様相との中から挙げてみることをこころみた。」と述べている。
    12のエピソードは、ナポレオン戦争の最後の戦いとなったウォーターロー(ワーテルロー)の戦いや、スコットとアムンセンの南極点到達を巡る競争など、有名な史実を描いたものから、ルジェ大尉によるラ・マルセイエーズの作曲の秘話のようにほとんど知られていないものまで、いずれも印象的な「星の時間」といえるのだが、これらの中には、必ずしも歴史に名を残す当事者の意志によらないもの、更には、神の悪戯としか言えないものさえ少なくないのである。
    そして、本書が示してくれることは何だろうか、と思うと、それはおそらく、そうした数々の「星の時間」を含めて、世界は「史実」を積み重ねている(「歴史」とは、「史実」を、ある一面から見た因果関係で事後的に結び付け、説明したものであり、ここでいうのはあくまでも「史実」である)ということ、即ち、人類の物語は、当事者たちの意志のみで決定されるものではないということではないだろうか。
    そうした意味で、歴史を見る目、歴史に対する考え方を変える一冊と言える。
    (2020年4月了)

  • ものすごくワクワクしながら読めて、とんでもなく面白い本。
    後世に残る傑作や発見が生まれる瞬間であったり、歴史の転換点であったり、人類史において輝いたその“瞬間”を描いた伝記小説の短編集。
    講談調にも似たツヴァイクの語り口と、格調高い訳文が相まって、知の高みへと連れて行かれるような興奮を覚えます。
    特に好きだったのは『ゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデルの復活』『エルドラードの発見』『大洋をわたった最初のことば』『南極探検の闘い』で、読んでいて魂が震えました。
    中には事前、または事後に知識を仕入れた方がいいものもあり、仕入れると話の面白みや凄みがグッと立ちます。
    ここまで人間の素晴らしさを歌い上げたツヴァイクが、この本を書いた10数年後、自らの命を絶っていることに何とも複雑な気持ちにはなりますが、ツヴァイクの描いた“星”が今もなお輝いていることは間違いありません。

  • 本を読む順番の神さま、ありがとう!
    とまたしても感謝。
    この本のあとに、オスマン帝国の興亡史を読みますよ。ビザンチンを破壊したのはオスマン帝国ですよ。
    コンスタンティノープルについては、『バウドリーノ』で覚えてますよ。読書記録を読み返したけれど、コンスタンティノープルの陥落についてのメモが少なかった。第4回十字軍ってメモがあるので、バウドリーノではオスマン帝国に滅ぼされる前の話か。
    もっと前に、『コンスタンティノープルの陥落』を読んだけれど、こちらの記憶がもうだいぶ薄れて……
    でも、アドリアノーポリ、コンスタンティノーポリで覚えているのは、塩野七生のゆえではなかったかしら。

    覚えているのは、
    「先生、あの都をください」と、若きスルタンが言ったこと。
    ハレムの女性は、同じハレムの女性だけではなく、スルタンの美少年お小姓たちとも寵愛を競わなければいけないので大変だったこと。
    イエニチェリは、確かお小姓組からも出ていた筈。基本的に外国人部隊なので後がなく、スルタンに認められるために勇猛果敢な戦士たちだったこと。
    くらいだ……物語仕立てで読みやすいんだから、もうちょっと覚えていてもよかろうに。

    前置き以上。

    序文が美しいので、序文より。
    p2
     芸術の中に一つの天才精神が生きると、その精神は多くの時代を超えて生き続ける。世界歴史にもそのような時間が現れ出ると、その時間が数十年、数百年のための決定をする。そんなばあいには、避雷針の先端に大気全体の電気が集中するように、多くの事象の、測り知れない充満が、きわめて短い瞬時の中に集積される。普通のばあいには相次いで、また並んでのんびりと経過することが、一切を確定し一切を決定するような一瞬時の中に凝縮されるが、こんな瞬間は、ただ一つの肯定、ただ一つの否定、早過ぎた一つのこと、遅すぎた一つのことを百代の未来に到るまで取返しのできないものにし、そして一個人の生活、一国民の生活を決定するばかりか全人類の運命の径路を決めさえもするのである。
     時間を超えてつづく決定が、或る一定の日附の中に、或るひとときの中に、しばしばただ一分間の中に圧縮されるそんな劇的な緊密の時間、運命を孕むそんな時間は、個人の一生の中でも歴史の径路の中でも稀にしかない。こんな星の時間――私がそう名づけるのは、そんな時間は星のように光を放ってそして不易に、無常変転の闇の上に照るからであるが――こんな星の時間のいくつかを、私はここに、たがいにきわめて相違している時代と様相との中から挙げてみることをこころみた。




    『不滅の中への逃亡』
    スペインからエスパニョーラ(今のハイティとある)へ、そこあから中央アメリカへと黄金郷を目指したデスペラードたち(失望のあまり捨てばちの人々とカッコつきで説明した数ページあとに、やけくその人々、また数ページあとに、やけっぱちの冒険家、とある。自暴自棄感が増している(笑))。
    この船に密航したバルボアの提案でパナマ地峡のダリエンを目指すことになり、土着民虐殺をし、定着する。
    航海の途中で知り合ったフランシスコ・ピサロ(インカ帝国を滅ぼしたあのピサロだろう)とともに、近隣の土着民を抑圧する。
    バルボアはインディアンの酋長からの協力を取りつけてパナマ地峡を横断し、初めて、太平洋を目にした男となる。
    (地理に弱いので確認したところ、一般的に流通している世界地図の左側にあるスペインから左端へ航行、右側から出てきて南アメリカに到着。北アメリカと南アメリカのつなぎ目のような細い紐状部分を越えた、ということらしい)
    そこから南へ下って、黄金郷らしいペルーを目指そうとしたけれど、元は犯罪者たるデスペラードを、そんな栄誉ある役割にはつかせられん、という趣旨のもとに命令がくだり、彼は、逮捕される。
    親友の、フランシスコ・ピサロによって!
    黄金郷を征服したかったピサロには、邪魔者を排除することがまんざら嫌ではなかったのだろう、とあるが、波乱だ。


    時系列に、感想少し。

    1513 不滅の中への逃亡 太平洋の発見
    1453 ビザンチンの都を奪い取る
     兵士に略奪の許可を与えた無慈悲で敬虔なスルタンが、あの塩野七生イメージのスルタンならば、納得。異教徒はそもそも人間じゃない。
     三重の壁に守られたコンスタンティノープルが、長い攻防戦の末、通用門一箇所を閉め忘れたために、陥落したとは……
     ヴェネツィアやローマ教皇に助けを求めたとあるが、海路。コンスタンティノープルから、ギリシアとトルコに挟まれたエーゲ海を抜けて、ギリシアを回りこんで、イタリアのかかと側からアドリア海へ入って一番奥がヴェネツィア。つま先側に回ってスネのあたりがローマ。遠いな……
    1741 ゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデルの復活
     『メサイア』のヘンデル。作曲を依頼されたメサイアの詩によって、失意や不遇から救われたヘンデル。その故に、この曲の興行費は恵まれない人々のために、とは。
    1792 一と晩だけの天才 ラ・マルセイエーズの作曲
     ただの兵士による作詞作曲で、しかもマルセイユ市民のための曲ではなく、行進曲に使われて、徐々に広がっていったという経緯だった。いつの間にかだった。
     1792に、フランスの王が、オーストリアの皇帝と、プロシャの王に宣戦布告。
     フランスとドイツが戦うときには、アルザス人たちにとってはライン川の対岸の敵は現実的存在。これに立ち向かう人々を鼓舞させようと、ストラスブールの市長ディートリッヒが、要塞守護隊の若きルジェ大尉に「ちょっと作ってくれ」とお願いして、一晩で出来た歌!
     『ライン軍のための軍歌』として歌われるようになるも、ルジェ、輝かしきはその一夜の天才的発露だけだったようで、その後は不遇でした。
    1815 ウォーターローの世界的瞬間 一八一五年六月十日のナポレオン
     どこだろうと思ったら、ワーテルローのようだ。
     あのとき、雨が降っていなければ、土がぬかるんでおらず、野砲を運べて発射出来て、ナポレオンの勝利だったかも知れないというのは読んだことあった。
     ナポレオンは、打撃は受けたが壊滅はしなかったブリュッヘアの軍がウェリントンの軍と合流するのを阻止したい。
     グルシー元帥に、プロシャ軍がイギリス兵に合流するのを妨げる任務を与える。
     謹厳実直だが、言われたことを守るだけの人、だったグルシー。プロシャ軍が見つからない内に、遠くで砲声が聞こえる。ウェリントンとナポレオンがついに激突している。らしい。
     が、部下たちが「行きましょう。せめて、数人だけでも行かせてください」って言ってるのに、「ナポレオン皇帝から、プロシャ軍を追撃しろって言われてるんだ」と、命令を厳守。これはこれで軍人に必要な資質だが、これが仇になる。ウェリントンはプロシャ軍の援軍が来たが、ナポレオン軍は援軍を得られず壊滅。
     グルシーは砲撃の音がやんだのちに参謀部の一士官からの伝令を受けて、自軍の壊滅を知る(戦場から四時間くらいのところにいたが、グルシーたちが道に迷っていたので、戦闘中の伝令は彼らを見つけられなかった)。四囲が敵という状況から、一兵も損なわずに脱出したグルシーは名将と呼ばれるにふさわしく。のちに総司令官になり、フランスの貴族にも列せられたけれど、あの失敗だけは取返しがつかない。彼が帰着したときに、彼を褒めるべき皇帝も迎えるべき軍もいなかった。
     そういえば、兵隊の袖口の飾りボタン。寒いプロシャに向けて進軍していると、兵隊たちは鼻水が出る。袖口で拭う。みっともないとナポレオン怒る。拭えないようにすればいいんだ!と、カフス部分にボタンをつけたという由来をかつて聞いた。
    1823 マリーエンバートの悲歌 カルルスバートからヴァイマルへの途中のゲーテ
    1848 エルドラード(黄金郷)の発見 J・A・ズーター、カリフォルニア
     ワーテルローの敗戦から30年程度で、もう蒸気機関車ができていたことに驚いた。
     ゴールドラッシュで燃え立つ人々を三週間ばかり早く輸送出来る手段として敷設された。
     wikiによると、「1802年、リチャード・トレビシックが世界初の実動する蒸気機関車を発明した。」「1814年、スチーブンソンはキリングワースで石炭輸送のための蒸気機関車を設計。」とある。
    1849 壮烈な瞬間 ドストエフスキー
    1858 大洋をわたった最初のことば サイラス・W・フィールド
     アメリカとイギリスの間は、こんな時代にもう電線でつながれていた! 一度目は二隻の船で、アメリカ側とイギリス側双方からケーブルをおろしていき。これ、数日後には不通になってしまった。
     二度目は一隻の船で全部引いてしまった。
     大海を横断するケーブルを作り、なおかつそれで電信を維持した技術力の国々に、この後、仕方なしとはいえ戦争に突入して、勝てるわけがなかったんだなと思う一章。
    1910 神への逃走 トルストイ
    1912 南極探険の闘い スコット大佐、九〇緯度
     シャクルトンの隊に、スコットはいたそうな。南極制覇に失敗したシャクルトン隊の話、『エンデュアランス号漂流』は読んでいたよ。しかし、スコットがこの時点でいたとは……
     犬も使ったけれど馬も用いたがゆえに、スコット隊は、アムンゼン隊に負けたと読んだ記憶があるが、出発した日付の時点で、もう負けていたんじゃなかろうか。
    1917 封印列車 レーニン
     亡命生活を送っていたレーニンが、国に帰る。

  • 「本当に歴史的な、人類の星の時間というべきひととき」という紹介文に惹かれ、図書館で探して読んだ。しかし残念ながら全くおもしろくなかった。その「瞬間」の描き方がどうにもいまいち。なぜこれが傑作と言われるのか解らない。30ページ程度の歴史短編が12編という構成は良いし、題材の選択も良い。欧米や芸術家に偏るのも構わない。しかし読んでいて退屈で面白くなかった。 
    一編挙げるなら「大洋を渡った最初のことば」。1857~1866年の米国人サイラス・フィールドによる大西洋海底通信ケーブル敷設事業の話。こんな大それたぶっ飛んだ事業ができたということに驚き。2台の軍艦でケーブル通信しながら敷設していくのがチェックも兼ねててなるほどと思った。というわけで題材はよい。しかし描き方はいまいちで、タイトルの「最初のことば」があるわけでもないし、うまさを感じなかった。

  • 伝記作家としても名高い著者だけにトルストイやドストエフスキー、ゲーテといった高名な文人に題材を取ったものが目立つ。(人類の歴史に輝かしい跡を残した、とまで言えるかは疑問だが…)

    一方でアメリカ大陸西岸の「発見」やコンスタンチノープルの陥落、電信線の大西洋横断など、確かにその後の人類史に大きな影響があった出来事の詳細を扱った部分は得るところが大きい。

  • Kindle Unlimitedで読書。

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