朝永振一郎著作集〈7〉物理学とは何だろうか

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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622051176

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  • 数学はもともと好きでした。理科は得意分野と苦手分野がありました。中3の頃だったと思います。クォークという雑誌で神岡鉱山における陽子崩壊の実験について読みました。いまでいうスーパーカミオカンデの初期のものです。そのころから物理学、とくに素粒子論がかっこういいと思いだしました。大学では物理学を勉強する、そう決めました。高校2年生の夏のことです。朝永先生の本は最初に「物理学読本」を読み、それから「量子力学的世界像」を読みました。その中にある「光子の裁判」が印象的でした。ノーベル物理学賞をとるような方が、ユニークな文章を書くものだなあと感じた覚えがあります。そして、大学の合格祝いに、箱入りの著作集12冊を一括購入してもらいました。その中の第7巻が「物理学とは何だろうか」です。いまでも岩波新書で気軽に手に入れることができます。朝永先生はそうとう元の論文にあたって、その当時、執筆者がどういう想いで書いていたのかを探られていたようです。しかし、これは私が解説を読んで気づかされたことで、はじめて読んだときも再読中にも、朝永先生がこの本の執筆にどれくらいの時間をかけられたのか、どんな想いであったのか、そこまで考えをめぐらすことはできませんでした。実は本書は未完なのです。先生は本書執筆中に病に倒れます。最終節は病室にて口述となっています。内容的にはケプラー、ガリレオ、ニュートンから始まって、ワットなどによる科学技術の進歩からカルノー、クラウジウス、トムソン(ケルヴィン、絶対温度を提唱した人です)など熱力学への影響、そして分子運動論に至り、ボルツマンの苦悩・自死あたりまでとなっています。ファラデーやマックスウエルなどの名前も出てはいましたが、電磁気学についての詳しい記述はないし、ましてやアインシュタインはブラウン運動の話などでいくらか出てきますが、ボーアやハイゼンベルグは出て来ないし、量子力学や相対性理論誕生秘話など一番おもしろいところが全くありません。おそらく構想はあったでしょうし、本当いうと、そこらあたりがきっと同時代を生きて来られた朝永先生としては一番書きたかったことなのではないかと思います。私自身とても残念ですし、先生も悔しかったことでしょう。おそらく後半で先生が書こうとされていた内容が、市民向けの講演で話された「科学と文明」の中にいくらか表れているのだと思います。新書下巻に付されています。そこに出てくるエピソードから。ノーベル物理学賞・化学賞のメダルにある絵の話。「片っ方にはいうまでもなくノーベルの肖像です。片面には二人の女性が立っている絵が描いてある。真ん中に一人の女性が立っていて、それはベールをかぶってるわけです。字が刻んでありまして「ナツーラ」というラテン語が書いてあります。ナツーラは英語ではネイチャーで、自然ということです。その横にもう一人女性がいて、ベールをもちあげて顔をのぞいてる。この女性の横には「スキエンチア」と書いてある。スキエンチアとはサイエンス、科学です。これは何を意味するかといいますと、ナツーラすなわち自然の女神はベールをかぶっていて、なかなかほんとうの素顔を見せたがらない。サイエンスはそのベールをまくって素顔を見る。科学はそういうものだということを象徴しているのが物理学賞、あるいは化学賞のメダルになっているわけです。」中3で勉強する「慣性の法則」これはガリレオが実験(どちらかというと思考実験)で確かめるのですが、「物体に力が働かなければ、止まっているものは止まり続ける。動いているものは同じ速度で動き続ける。」というものです。実際の感覚とはちょっと違うわけです。止まっているものが止まり続けるのはいいとして、動いているものに力を加えないのに同じ速さで動き続けるとはどういうことか。実は、物体には空気の抵抗や摩擦力という力が働いている。だから減速し、最終的には止まる。しかし、力が働かないならば同じ速度で動き続けるのです。こういうことはただぼんやり眺めていただけでは見つけることはできません。ありのままの自然を見るには、なんらか実験などをして自然に働きかけなければいけない。ある意味ではこれは自然に対する冒とくなのかもしれないのです。こういうところまで先生は話を進めています。実はここに至る過程で、先生の思いの中には原子爆弾など、物理学者が犯してきた過ちがあったはずなのです。そんな中で、物理学の新しい動きに注目されています。それは、たとえば天気予報だったり地震の予知だったり、いわゆる地球物理学などの話です。いくらかの実験はもちろん必要なわけですが、複雑な現象をありのまま見つめようとするその姿勢が大切だとおっしゃっています。つまり自然の女神のベールをめくって顔を見るというようなぶきっちょなことをするのではなく、ベールをそのままにしながら自然を知るという方法が可能だということです。こういうことを実は40年前にすでに言われていたわけです。そしていま実際に、そういう分野が複雑系の科学として非常に重要視されています。実は私自身本書を再読して、朝永先生がここまで書いていらっしゃったのだということにはじめて気づきました。学生のころ読んだときにはそこまで知識もなかったし、何とも思わずに読んでいたのだと思います。逆に、熱力学あたりでは数式に全くついていけなくなっていて、読むのに苦労しました。学生時代は理解していたのだろうか・・・。小中学生の皆さんには、序章から第Ⅰ章とそして講演会の記録の最終章を読まれることをおすすめします。高校で物理の勉強を始めたら、Ⅱ章、Ⅲ章も読んでみてください。
    最後に、本書からは離れますが、朝永先生の十八番の笑い話。ロンドンだったかに向かう列車のキップを買おうとして、「トゥ ロンドン」と言うと2枚キップが出てきた。そこで「フォー ロンドン」と言い換えると4枚キップが出てきた。どうしようかと思って「エート」と言ったら8枚キップが出てきた。おあとがよろしいようで・・・

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