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Amazon.co.jp ・本 (176ページ) / ISBN・EAN: 9784622070511
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https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/530461詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
奇妙な細い人々の彫刻で有名なアルベルト・ジャコメッティのデッサンモデルをつとめた美術評論家ジェイムズ・ロードの記録。
ジャコメッティと交わした会話の記録とともに、その日の最後に完成していた絵の状態が残されているのが素晴らしい。(ロードの希望により記録写真を撮っていた) 最初の日にほぼ形ができていた肖像画が、次の日には塗りつぶされ茫洋とした灰色の中に沈み、あるいは傾き、あるいは黒い塊へと変わる。
毎日がその繰り返し。
まるでコントのように。
「不可能だ」
「ぼくには見たものを再現することがどうしてもできそうにない」
「どんな成果をあげることも不可能だ」
繰り返される「不可能」という言葉。
できた翌日には塗りつぶされ新しく始められる絵。
一度読んだだけではいったい何が不可能なのか、何が「見えているものの再現」なのか、ジャコメッティが何を目指し、どこへ到達できないと嘆いているのかさっぱりわからなかった。わからないまま毎日毎日判で押したように悲嘆にくれ、気を取り直しては絵を書いて破壊する無限ループの記録を読み、多少あきれながらも画家を励ましそれに付き合うロードの忍耐力すごいな、とただ思っていた。
読書メモのために軽く読み返しながらフレーズを拾っていたとき、急に、それを理解できたような気がした。
気分が良いとき、ジャコメッティは行きつけのカフェに向かいながら木々を眺め「この木々がこんなふうに見えたことは今までに一度もない。本当にこれがはじめてだ」とつぶやく。
素晴らしい音楽を聴いた後で世界がきらめいて見えるように、世界と自分との関係は、自分の目に映るその世界は、つねに休みなく更新され続ける。
そのどの地点をジャコメッティがとらえて再現しようとしていたのかはわからない。ある一瞬なのか、はたまた普遍的なビジョンを追及していたのか。
でも、この私の目に映るもの、あなたの目に映るもの、明日の私の目に映るものは同じ世界でも違うもの。それを一度つくれば固定されてしまう絵あるいは彫刻で再現しようとしているのだとすれば、それはあきらかに無謀な試みでありその苦悩もやむなしというもの。
十数日間このドン・キホーテのごとき芸術家につきあったロードが最終的に彼の「不可能」や「まったくダメ」が作品自体の完成度とは無関係なことを見抜き、締め切り日を提示されたこの肖像画をなるべく高いクオリティで終結させるべく画家の動きに目を光らせ、破壊ターンに入る直前でストップをかけるところがこのわりと淡々と続くジャコメッティ日誌において最高にドラマティックなシーン。
ちなみにジャコメッティは彫刻も作って壊しての無限ループしていて、弟のディエゴが夜な夜な型を取って救済していた。この芸術家のそばにいると、人はサルベージ係にならざるをえないんだと思う。
作品そのものではなく、完成させることではなく、奇跡に達することを信じ前進し続けることに意味があるのだとジャコメッティは言う。それは結果より過程、なんていう今ふうのなまぬるい価値観ではなくて、現実的に可能かどうかもわからない「今、ぼくに、見えたもの、その完全なる再現」以外では納得することができない芸術家の、尽きることない飢餓感であり原動力。
この飢えこそが芸術家だ、と思う。
ジャコメッティを知るには良い一冊だった。 -
めそめそするジャコメッティがかわいすぎる・・笑
non finitoに対する考え方に深く共感しました。 -
なんとなくジャコメッティ好きなので。
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