傍観者からの手紙―FROM LONDON 2003‐2005

著者 :
  • みすず書房
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622071570

作品紹介・あらすじ

2003年3月イラク戦争前夜からロンドン同時多発テロ事件まで55通。この困難の時代に、現場取材と時局分析を届けつづけた朝日新聞ヨーロッパ総局長の報告集。

感想・レビュー・書評

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  • 傍観者とはまた、『ベルリン・天使の詩』を思わせる立場だ。だがここで見られる彼のスタンスは決して高みに立った場所から御高説を開陳するだけに留まらず、真に庶民(そしてこう言って良ければ「弱者」)の視点に寄り添うものとして結実していると感じられる。それは彼が自分の正しさに固執せず、むしろ様々な文物(書物や映画)に触れて新鮮な感覚で自分の思考を刷新/ヴァージョンアップし続けてきたからではないかと思う。彼の生き方/書き方はそのまま、一個の運動体のそれとして読めるのではないか。良質なリベラルの知識人が書いた文章に酔う

  • 2005年に朝日新聞ロンドン ヨーロッパ総局長として勤務していた時に日本のみすず書房に寄せたエッセイ。9.11の後の世界情勢やイギリスの生活を本を通して紹介する名エッセイ。
     僕とおない歳で東大の学生時代に石川啄木を題材にして文学賞をもらっている。めちゃくちゃ博学で文章も洗練されたいい本でした。難しい読みの熟語をふんだんに使用していて感心する。常に電子辞書を横において読んでいた。

  • 【書誌情報】
    傍観者からの手紙 FROM LONDON 2003-2005
    著者:外岡秀俊
    判型 四六判 タテ188mm×ヨコ128mm
    頁数 256頁
    定価 2,200円 (本体:2,000円)
    ISBN 978-4-622-07157-0
    Cコード C1036
    発行日 2005年8月18日
    NDC:304

    「他人の言葉に対する寛容は時に、自分が言葉に重きを置かない人の怠慢の証です。怒りを忘れない人は、言葉で戦っている人は、日本に住むあなたの周りにいるでしょうか」

    「ロンドンの事件の前後にも切れ目なく、イスラエルやイラクからは自爆テロや戦闘による死傷の報道が流れています。昨日もまた、イラクでタンクローリーを使った自爆テロが起き、70人以上が亡くなりました。9・11事件後、世界中を覆い始めた社会の砂漠化が、とうとうロンドンにまで来てしまった。残念ですが、それが実感です」

    2003年3月、イラク戦争前夜。朝日新聞ヨーロッパ総局長としてロンドンにデスクを構えていた著者から、一通の手紙の形式で原稿が送られてきた。「この手紙が届くのは一カ月後です。瞬時に地球の裏側に電子メールが届くいま、なぜそんな悠長なことを、と思われるかもしれません。ただ私は、そんな時代にこそ一月遅れの手紙が新しい意味をもつような気がします。」
    以来、2005年7月のロンドン同時多発テロ事件まで55通。歴史や文学作品というフィルターを通しながら、現場の取材と困難な時局の分析を記した本書は、ひとつの時代のかたちを定着させようとする試みでもある。
    https://www.msz.co.jp/book/detail/07157/

    【目次】
    1 「予告された殺人の記録」
    2 「修辞の終わり」
    3 「静かなアメリカ人」
    4 「開かれた社会とその敵」
    5 「百年の孤独」
    6 「正統とは何か」
    7 「荒れ地」
    8 「すばらしい新世界」
    9 「血の婚礼」
    10 「イングリッシュ・ペイシェント」
    11 「恐るべき子供たち」
    12 「寒い国から帰ってきたスパイ」
    13 「オンリー・イエスタデー」
    14 「知恵の七柱」
    15 「君主論」
    16 「ジーキル博士とハイド氏」
    17 「緋色の研究」
    18 「美しくも呪われた人たち」
    19 「ギリシア・ローマ神話」
    20 「あむばるわりあ」
    21 「日の名残」
    22 「怒りをこめて振り返れ」
    23 「ヨーロッパ文化と日本文化」
    24 「チップス先生さようなら」
    25 「高慢と偏見」
    26 「ワインズバーグ・オハイオ」
    27 「失楽園」
    28 「孤島」
    29 「武器よさらば」
    30 「外套」
    31 「ソフィーの選択」
    32 「老年について」
    33 「ちょっとピンぼけ」
    34 「自由論」
    35 「即興詩人」
    36 「夜と霧」
    37 「キリマンジャロの雪」
    38 「衣装哲学」
    39 「ロミオとジュリエット」
    40 「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」
    41 「ラッセル幸福論」
    42 「ヘンリー八世」
    43 「ハーメルンの笛吹き男」
    44 「異邦人」
    45 「風にのってきたメアリー・ポピンズ」
    46 「落ちた偶像」
    47 「一九八四年」
    48 「わが闘争」
    49 「第三帝国の神殿にて」
    50 「語るピカソ」

  • 傍観者からの手紙―FROM LONDON 2003‐2005
    (和書)2011年03月25日 21:46
    2005 みすず書房 外岡 秀俊


    柄谷行人さんの朝日新聞書評から読むことにしました。

    引き合いに出される作品や時事問題の批判はいくらでもありえると思うが傍観者という視点がとても上手く世界を捉えているように感じた。

    読み易くもあり。

  • 手紙というリアルタイム性を排した構成。各章の題が名著たちのタイトル。これだけで味のある本な気がする。

     始め慣れないうちはつまらないが、後半になると読み慣れてきて、また、きっと著者もこの手紙形式の書き方に慣れてきて、考え深い話になってきた。
     著者の読書量に私も脱帽である。やはり本を読まなければ、教養を感じられる人間にはなれないよね。
     昨今、あらゆる者が簡素化されてきて、教養の必要性が薄れてきているけれど、外岡さんのように教養ある人になりたい。手紙とか、あえて遠回しなコミュニケーションを使える人になりたい。

    ______
    p148  自由と権力
     人間は自由と金と名声は二つ同時に得ることはできるが、三つすべてを得ることはできない。と言われてきた。
     しかし、資本主義の進んだ現代社会では、金と権力が公然と結びつきを強め、金を集めることが名声になった。金があれば他人に自己を侵害されないようにできる。現代社会は先の三つをすべて得られるようになってきた。

     自由とは「私は私だ」、権力とは「彼らは私だ」、その違い。権力の場合、彼らが私であることを拒めば「奴は敵だ。敵は殺せ。」になる。(埴谷雄高)

     自由は自己同一性への願望、権力は自己拡張性への願望、二つは相いれないものである。金と名声は権力に飲み込まれたが、自由はそうはならない。そうなってはいけない。
     自由を求めるのが正義の現代社会において、権力じみた下品なことを自由と穿き違えないでほしい。

    p152  アンデルセン
     アンデルセンは欧州に散在する伝説を昔話にしたてた人。彼のおかげで、吹けば消えそうな地方の文化が、確立した物語になって後世に伝えられた。

    p217  アルノルド・シュペーア
     ナチスドイツでヒトラーのお抱え建築家をしていた人。ニュルンベルク裁判では一人ナチス党員の責任を追及するよう訴えた、裁かれる側の人。
     彼はナチスの犯した大罪を、ドイツという国家が負うのではなく、ナチスが負うことで国を護ろうとした。本当の愛国者だった。

    p228  ピカソの語る真贋
     ピカソは自分の作品の模写をしながら茶目っ気をもってこう語った「これは本物かい、それとも贋物かい」ピカソが書いたのだから本物に間違いはないが、マネして書いたのは間違いない。
     芸術の価値をお金で測ることへのキレのある問いかけ。

    p229  バンクシーとかいう芸術家ww
     ロンドンを中心に活動する覆面芸術家。40代男性ということしかわからない、社会風刺的なシニカルな反社会的アートをストリートアートとして創作している。メトロポリタン美術館とかに自分の作品を勝手に展示したことで有名になった。「芸術のテロリスト」
     枠にとらわれる芸術の型を破るすげぇやつ。ピカソとかが今に生きていたら彼を称賛しているのかも

    (参照)http://matome.naver.jp/odai/2129721513982550701
    _____

     手紙というのはリアルタイム性を含まない表現で他人に気持ちを伝える。だから、表現が特殊。SNSやメールなどがある今では、郵便の手紙というのは、特殊。
     だから、今の手紙は一層、詩的だったり、批評的だったり、文章としてのレベルが高いものになっている。(ハードルも上がっている)

     手紙を書く相手がいる人は幸せ。

     手紙を書ける人は成長できる。

     こんな時代になったから。

  • 読んだ。

  • 美しい文体で、内容が非常に濃い本です。

  • 2003年3月イラク開戦前夜に始まり、2005年7月ロンドン同時多発テロ事件発生までにしたためられ続けた手紙。「他人の言葉に対する寛容は時に、自分が言葉に重きを置かない人の怠慢の証です。怒りを忘れない人は、言葉で戦っている人は、日本に住むあなたの周りにいるでしょうか」…この問いかけの答えを出せない自分がいる。
    読了2006.02.01

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著者プロフィール

ジャーナリスト・作家
1953年生まれ。東京大学法学部在学中に、石川啄木をテーマにした小説『北帰行』(河出書房新社)で文藝賞を受賞。朝日新聞社に入社、ニューヨーク特派員、AERA編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て、東京本社編集局長。同社を早期退職後は、震災報道と沖縄報道を主な守備範囲として旺盛な取材・執筆活動を展開。『地震と社会』『アジアへ』『傍観者からの手紙』(ともにみすず書房)、『3・11 複合被災』(岩波新書)、『震災と原発 国家の過ち』(朝日新書)、などのジャーナリストとしての著書のほかに、中原清一郎のペンネームで小説『カノン』『人の昏れ方』(ともに河出書房新社)なども発表。

「2018年 『圧倒的!リベラリズム宣言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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