- Amazon.co.jp ・本 (88ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622072669
感想・レビュー・書評
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THE MOUSE OF AMHERST
詩人エミリ・ディキンスを初めて知ったのは、落合恵子さんの著作での引用でした。1830年アメリカマサチューセッツ州生まれ、生涯のほとんどを両親の家で過ごし、
1789編の詩を残した。独特な韻と作風は編集者の視点では受けいれられなかったとあります。
いつも白いドレスを身にまとい、部屋の中で自分の詩の言葉と格闘していた。街の人が彼女の姿を見かけることは、本当に幸運に恵まれた場合。
そんなエミリの姿と、織りなされていった詩を、エミリの部屋に住みこんだ、これもまた稀有な詩をつくるネズミのエマラインとの手紙のやり取りで表現している。
エミリとしての詩を作ること、編集者に理解されず一人悩む姿、街の子供たちのために、特別なレシピのジンジャーブレッドを作るエミリ、詩人の世界がエマラインの視点で描かれています。
小さくとも、思い髙く
一本の花を、一冊の本をそだてるのだ。
微笑みの種を捲き、
誰にも知らえずに、花開くまで。
エミリ・ディキンスン
訳者は詩人の長田弘さん。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
エミリ・ディキンスン家に住みついたネズミとエミリの、詩を通じた穏やかながらも深い交流の物語。
ネズミの慎ましやかさと情熱が、まさにエミリ自身に通じるところがあるような気がします。
エミリの詩がところどころに挟まれているのですが、
それがまた本当に良くて。
長田弘さんによる新訳だそうです。
言ってしまえば地味な、地味な本なのだけれど、静かに素敵な本でした。 -
絵本ですが、詩人が文を書いています。
19世紀アメリカの詩人エミリ・ディキンスン。
その家に引っ越してきた白ネズミのエマラインとの交流。
エミリの部屋の壁の奥に、ちょうど同じような小さな小さな部屋があったのでした。
エミリの部屋は明るくて風通しがいい。
家具は、シングルベッドと、整理ダンスと、書き物机と、椅子が、一つずつ。
エマラインの部屋も家具は同じです。
ある日落ちてきた紙切れに書かれた詩を読んで…
質素な生活の中の、ひそやかな魂のふれあい。
エミリ・ディキンスンは、独身で親の家に妹とひっそりと暮らし、人と会うことも少なかった。
(隣には兄が結婚して住んでいました)
詩はたくさん書いていたが、生前は少し投稿してはいたものの、ほとんど知られることがなかった。
エマラインの目を通して描かれる詩人エミリの内気だが端正で優しく、情熱を秘めた生き方に胸を打たれます。
何しろネズミなので~家事を取り仕切っているエミリの妹には敵視され、猫をけしかけられたり、駆除の話が出たりするのですが。
エマラインに気づいていたエミリが撃退してくれます。
これ以外無いと思われる優しくあっさりしたペンタッチで、さりげなく。
字が読める小さな白ネズミは詩を書くようになり…
交流が始まるのでした。
「私は誰でもない!――あなたは誰?」と書くエミリ。
とても素敵です。
エミリの詩12編は長田弘の新訳。
エマラインの詩7編もデビュー?
絵を描いたクレア・A・ニヴォラは、自宅にエマラインそっくりの白ネズミが住んでいたことがあるそうです。
1999年の作品。 -
女流詩人エミリ・ディキンスンの部屋に住んでいるネズミは、エミリに負けない詩人。二人(?)はお互いを信頼しあい、詩人として尊敬しあう関係。二人(?)で暗黙の了解のもと、詩のやり取りをしている。しかし、ある日家の家事を仕切っているラヴィニアにみつかり、ネズミ駆除のイタチが放たれる!
二人(?)の詩人の素晴らしき信頼関係。ストーリーにあった線画のイラストも良い。 -
実在した詩人、エミリ・ディキンスンの家に引っ越してきたねずみのエマラインは、ふとしたきっかけからエミリと詩の文通をはじめる。
互いに他愛のないものと軽んじられて家にいる辛さを詩に見出し、旅立つ強さもまた、詩に見出す。
詩は力になる。
実際にエミリ・ディキンスンが残した詩が作中に使われており、この詩人のことをもっとよく知っていればずっと楽しめたのだろうなと思う。
詩が重要な位置を占めるお話なだけに、原書で読めばきっと言葉の連なりがさらに美しいのだろう。 -
いちごのクッキーとたんぽぽのコースターと一緒に送られてきた、3月のことり特別便。
ネズミのエマラインと実在の詩人エミリ・ディキンソンとの詩を通じた心の交流を描きます。
エマラインは最初、自分をちっぽけでつまらないものって思っていたんだけれど、
ディキンソンの詩と触れ合ううちにどんどんと考えが変わってきます。
そして彼女の最後に見せた勇気には、静かな静かな感動の涙が流れました。
自分を見失ってしまうこと、つらくてそこから抜け出せないでいるとき、
そんな時に、そして過去にそういう時を持った人にも、
明日を信じる勇気をくれる本です。
きっと、これからも、何度も何度も読み返すと思います。 -
詩って、苦手なのだけど。
エミリ・ディキンスンさんの詩は、この本に紹介されてるもの以外も読んでみたいと思いました。
白ネズミ、エマラインとの交流は、『ないしょのおともだち』を連想しちゃいます。
お互いを守るために、存在をきっちりわかってて、知らないフリとか。
でも、しっかり心が交流してるとことか。
バーバラ・クーニーさんの『エミリー』は、エミリ・ディキンスンさんだったんだ…… -
彼女は生涯「名声」にこだわったらしい。
しかし彼女は生涯「名声」を得られなかったらしい。
「名声」について書いた一篇の詩がある。
名声は、蜂だ。
蜂は歌う 蜂は刺す
そう、それに、蜂は飛び去る。
これは名声だって言うんだから名声なのだろうけど、例えば「にんげん」であっても「悲しみ」であっても、時には「関係」であってもいいような詩である。
その向こうにあるのはいつだって自分と他者との、もしくは自分と自分との関係だと思う。
この絵本にもあったが、エミリは子供や動物や虫に寄り添った詩を何篇も書いたという。寄り添うっていうのは関係を見つめなおすに等しいと僕は思う。
だからエミリは終生、何にも汚されること無い、透かしたら何色にも見える透明な魂を至るところに宿していたのだろう。それは美しいものを発見する目であったり、感じる心であったり、伝えることが出来る口や考える脳であったり。
それが詩から伝わってくる、のでは無く、彼女の詩が伝えるのだ。
それにしても素敵な絵だこと。 -
イラストも文章も、とても丁寧ですてきだった。英語の詩は韻を踏んだり、音のリズムで書かれるものなので、詩の原文があればもっとよかった。
日本語だと、どんなに良い訳でも、イメージが違ってしまうので。 -
海外詩人で最も私が好きなエミリ・ディキンスン。以前、彼女が登場する絵本「エミリー」を読んだことがあるが、今回もフィクション混じりの美しい物語に登場している。
ディキンスン家に住みついたネズミ、エマラインとエミリーとの心あたたまる文通。かわいらしく、気品あるエマラインのキャラクターがとてもいい。多くは語られていないけど、エミリーがどんな生涯を送ってきたかが何となくわかる。
何といっても、挿入されているエミリーの詩の美しさ。全て長田氏による新訳というのが嬉しい。負けず劣らず美しいエマラインによる詩。とてもリリカルで、装丁も挿絵も含め、本当に素敵である!みすず書房らしい一冊だなぁ。