ヒトラーを支持したドイツ国民

  • みすず書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622073437

作品紹介・あらすじ

「同意」したことと「強制」されたこと。ゲシュタポ調書と当時の新聞雑誌から、国民の積極的な協力をたんねんに実証する「国民の責任」論の決定版。ドイツ政府が独語訳の廉価版を作製・配布。

感想・レビュー・書評

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  • ヒトラー一人が全体主義国家をつくったわけではなく、そして側近がいたからだけでもなく、全体主義は国民の支持があったからこそ可能になったもの。

    ある意味、当たり前のことで、ヒトラーが不況下に職をつくりだし、軍事的な拡張によって第1次大戦の敗戦国ドイツに誇りを取り戻したことを考えれば、当初、ドイツ国民は熱狂的にヒトラーを支持したことは容易に想像できる。

    そして、一定レベル権力を握ったあとでは、恐怖政治によって、ドイツ国民を統制し、ホロコーストに突き進んだ。そして、ドイツ国民は、その実態をあまり理解していなかった。。。。という具合に考えたくなるわけだが、この本に展開される「ドイツ国民の支持」は、そうしたレベルではない。

    ドイツ国民は自発的にナチスを支持したし、ナチスも国民の世論の状況を踏まえながら、不人気な政策は調整していた。

    ナチズムは、ユダヤ人を敵にしていたわけだが、それ以外でも、同性愛者、精神病患者などなど、劣等な、健康ではない人々を容赦なく殺戮していた。さらに、ポーランドなど、占領した地域からユダヤ人以外の「劣等人種」を奴隷労働に使っていた。

    そして、ドイツの一般的市民は、公開の絞首刑は頻繁に行われいるのをみていたし、収容所でなにがなされているかは、かなりのところまで、ドイツ国民は理解していた。また、新聞などのメディアでも、相当のところは公開されていたのだなにが正しくて、なにが許されないのかをしめすために。

    また、収容者の強制労働には、企業もしっかりと関与して、利益を得ていたし、一般の市民も「劣等人種」も工場で強制労働させられる姿を日常的にみていた。

    そして、こうしたナチの恐怖政治について、市民は知っていただけでなく、相当レベルで賛同していたことは、ゲシュタポの情報源が、ほとんど、市民からの密告であることからも分かる。戦争の末期においても、かなりの国民はナチズムを支持しており、収容者からでてきたユダヤ人や外国人をかなり冷淡にあつかっていた。また、最後まで、裏切りものの市民からの密告は続いていたのだ。

    そうしたところまで含めて、ドイツ市民はかなりのことを知っていたし、支持していた。そして、支持は、男性よりも、女性の支持のほうが、強かったのではないかという状態もあるようだ。

    読んでいて、かなりいたたまれなくなる。ドイツ人って、なんて国民なんだとつい思ってしまうを「夜と霧」や「ゲーテとの対話」を読んで、気持ちのバランスを取って、なんとか読了。

    まさに、フーコーのいうところの、生権力、人々の衛生、健康、生殖を管理する権力が、死の権力に簡単に反転するさまが、克明に記載されているな〜。フーコーに限らず、第2次大戦後の西欧の哲学・思想は、全体主義、ホロコーストをどう捉えるかというのが、大きなテーマとしてあるのだなと思った。

  • 地獄だ

  •  独裁者の代名詞ともなっているヒトラーとナチ政権。ユダヤ人を次々と強制収容所で虐殺したことはいまや常識だが、当時のドイツ人たちはそれをどこまで知っていて、どのように受け止めていたのか? 本書で著者は新聞記事やゲシュタポのファイルなど膨大な資料を分析してこの問いに答えている。

     結論は「強制収容所に入れられたユダヤ人(およびポーランド人を始めとする外国人労働者や捕虜など)の多くが殺されていることは一般のドイツ人もほとんど知っていたし、それを憂慮するどころか積極的に支持していた」というものだ。

     著者は、「一般人はナチが怖くて逆らえなかった」という印象をはっきり否定している。悪名高いゲシュタポが人々を逮捕するきっかけの半分以上(時には7割以上)が、市民からの密告を元にしていたという。明らかに市民はナチの政策に賛同しかつ利用していた。あまりに多くの密告が寄せられることをヒトラーが憂慮していたという話などは悪い冗談のようだ。

     それだけではない。収容所の“囚人”はしばしば安価な労働力(つまり奴隷)として民間企業に貸し出され、BMWやフォルクスワーゲンなどの大企業が(彼らの生命を気にかけず)酷使していたことが明かされる。ナチから命令されたのではなく、企業の方がこぞって囚人を求めたというから驚きだ。

     本書が米国で出版されたのは2001年、つまり戦後半世紀以上経ってからのことだ。ずいぶん遅いように感じられたが、関係者の多くが存命のうちはなかなか表に出せない話が少なくないため、いわば世代交代が進んだことで初めて出版できたというのは納得がいく。

     ちなみに訳者あとがきによると、BMWが同社の戦時外国人労働者の実態について社内機密資料の閲覧研究を認めたのは2007年、つまり本書原典の発行より後だという。他にも近年になってようやく公開された資料も多く、まだまだ真実の解明は終わっていないのだろう。

     ひるがえって日本はどうだったのだろう。同盟国とはいえさすがにここまで狂気じみた殺戮はなかったと思うが、「非国民」という概念はあったわけで、しっかり分析した本を読んでみたい。

  • 「秘密保護法案」が施行されたら、日本は中性の魔女狩り、ナチス時代のドイツのようになって少しでも"普通"と違う人、空気を読めない人……いや一回でも空気を読み損なった人、読み遅れた人を警察送りにして(社会的にか、実際にか)殺すような社会になるのだと危惧している。

    <blockquote>ナチの宣伝は、ドイツ国民に露骨に押し付けられたものではなかったし、またそれはできない相談だった。逆にこの宣伝はドイツ国民を誘い、ドイツ人が理解するままの日常生活の現実に一致するよう展開された。また訴え、納得させるために展開されたこの宣伝の内容には、「国民が真実であってほしいと真面目に願うことの指標」が含まれていたと考えられる。ヒトラーとナチは、自分たちが話すこと、書く事、中でも為すことに、大変な注意を払いながら、国民の支持を獲得し、保持しようとしたのだった。

    忘れてならないことは、国民啓蒙。宣伝相の管轄下で作られた第三帝国の賛歌が非常に早くから労働創出計画、アウトバーンの建設、ファミリー・カーの約束、安い休暇、それにオリンピックの開催といった成功した政策をともなっていた事実だ。政権は、みせかけではなく、こうした行動によって、いちはやく熱狂者を編集した。(P.311)</blockquote>

    麻生副総理は『ナチスの手口に学べ』といったが、それが失言でも言葉の綾でもなく、真意なのではないか思えてくる。それが考えすぎ、陰謀論の類であればいいのだけれど、"ナチスの手口"と安倍内閣の手口を照らし合わせると相似しているので、そう思えてくるのである。

  • なぜヒトラーのような過激思想を持つ人間がドイツという大国を支配する事ができたのか。考えてみると非常に不可思議だ。
    戦争も迫害も、国民の同意なしに始められるものではない。本書に書かれているのはドイツ国民がいかにヒトラーに操られたかではなく、いかにヒトラーを支持したかだ。

  • 民間企業こそが強制収容所囚人の最大の搾取者で、それは囚人を建設現場で使うことから始まったといえる。
    ジーメンスは1940年に2000人の囚人をベルリン工場で使ったが、翌年には倍増した。1944年は多くの小規模収容所が開設されて生産設備が分散されたので、同社は15200人の囚人を使っていた。ベンツは軍需生産を行っており、1万人以上の囚人が働いていた。

  • この本を読んだ後、頭に浮かんだ今、問いかけは、今の政権を支持することで得られるのは、結局何なのかということ。

  •  ドイツ国民はナチスの蛮行を知っていたのか、それに対してどう反応したのかをまとめあげた一冊。

     分厚い本であり、訳者が言うようにまず結論から読んでその内容を個別に見ていく為に本編を読んでいく方がいいかもしれない。
     ドイツ国民は強制収容所やゲシュタポなどをちゃんと把握していた。さらに人々は自分の嫌いな人間を密告し、産業界は強制収容所の労働力で潤い、ナチスを利用する側面さえあった。非社会的な人間の排除や右傾化した政策は治安や経済、民族の誇りを回復させ、人々はナチスが職を与えてくれたと喜んだ。戦況が悪くなっても国も国民も現実を直視せず、その蜜月関係は終戦まで続いた。
     なぜナチスが台頭したのかではなく、なぜ台頭したナチスを人々は受け入れたかという内容なので、個人的には知りたかったことと少しずれていて残念だったが、それでもこの本の価値は高いと感じた。

     確かに麻生副総理の言うとおりだ。そっちの方向に持っていきたい人もそれを阻止したい人も、私たちは”あの手口”を学ばなければならない。

  • ナチス・ドイツについて書かれた本としては最も読みやすく、かつ内容も新しい視点に立っていて、非常に密度が濃い。
    ヒトラーがどのように権力を握り、大衆の支持を集め、戦争に突入、ユダヤ人の「最終的解決」に至ったかを、豊富な資料の分析を通して、これまでにない斬新な切り口から紐解いていく。

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