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本 ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784622073611
感想・レビュー・書評
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本書は過激な精神医療批判を展開する人を生みだそうとして書いたものではないと思う。
それより製薬会社が報告する薬物治療には誇張がある事、精神障害の化学的アンバランス説は学説として眉唾で不完全なところがところがあり、注意してほしい、そうしたことだと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書は私が長年抱いていた疑問、つまりタイトルに掲げられた疑問に対するひとつの答を提示してくれた。ただし、回答は単純ではない。
精神病は「心の病気」なのか「脳の病気」なのか。心の病気は経験や環境によって引き起こされるもので、脳そのものに欠陥はないのだからカウンセリングや行動療法などによる治療が必要だ。しかし脳の病気なら薬や手術によって異常を取り除くことで治療できるはずだ。
不思議なのは、実際の治療ではその両方が有効とみられていることだ。一体、精神病は心の病気なのか脳の病気なのか? 最近では脳の病気という主張が優勢になっており、「うつ病は薬で治せます」と喧伝されている。それは正しいのだろうか。
本書の著者は、心か脳かという議論はどちらも決定的な証拠がなく、未解決であると考えている。脳の病気だと主張する論文や報告は数多くあるが、それらを吟味すると説得力に欠けると言うのだ。
しかし本当に憂慮すべきはこの問題が未解決という点ではなく、未解決であるにも関わらず(脳の病気という方で)解決済みであるかのような宣伝広告が、主に製薬業界の豊富な資金力によって広められているという点だ。‥‥というのが本書の主題となっている。
製薬業界の立場からすれば、脳の病気(=薬で治せる病気)だという主張は自社製品の販売促進に役立つ。だからそのように宣伝するのは当然とも言えるが、あまりにもひどすぎるようだ。
著者の主張がやや先鋭的すぎるためか、日本語版の解説では、脳の病気という主張を擁護するような指摘がなされている。本書は薬物療法を否定するものではなく、様々なアプローチの可能性を指摘するものであると。
しかし、どちらかといえば医者やカウンセラーより患者に近い私にとって重要なのは、氾濫する情報(や宣伝)に対しどのような姿勢で臨むべきかについてのアドバイスだろう。精神疾患の患者や家族はそれが心の病気だと言われるより脳の病気と言ってもらう方が“心が楽になる”のは事実だと思うし、だからこそそのような言説を盲信しないよう留意する必要があるのだ。