- Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622073772
作品紹介・あらすじ
なぜ本でこんなに熱くなれるの?学校も書店も図書館も活性化したイベントに取り組む人たちの熱気を、『図書館で遊ぼう』の著者が生き生きと伝えるエッセー。
感想・レビュー・書評
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翻訳家であり作家でもある辻由美さんによる、フランスの「読書教育」のレポート。
その力の入れように、読後しばらく言葉も出ないほど激しい衝撃を受けた。
フランスでも繰り返し議論の的になってきたと言う読書教育のあり方。
移民が非常に多く、多民族の混在は豊かな文化環境を生むと同時に言語力の不十分さが深刻な学力低下を招く。母語を大切にしてきたフランスにとっては看破出来ない問題だった。
本書では3つの読書教育の実例と成果をとりあげる。
どれも最初は個人レベルで試験的に生まれたものだ。
ひとつ目は「ゴンクール賞(日本の芥川賞のようなもの)」と同時期に開催される「高校生ゴンクール賞」。1988年、ある国語教師が生徒たちを現代文学に親しませようと企画したものらしい。
現在ではメディアでも大々的にとりあげられ、受賞作は一挙に売り上げが伸びるという。
忖度のない高校生たちの選書眼に、社会の信頼度が高いということだ。
代表で選出された13名の生徒たちは密室で会議を行い、その間ジャーナリストは一切傍聴を許されない。会議も生徒主体だ。
候補作品を選ぶのは生徒自身で教員は口出ししない。
すべて授業の一環として行われ指導案もないという。
2か月と言う限られた期間で12冊から15冊を読み、ディベートを繰り返す。
その間の一番の楽しみは「著者との出会いの場」。
日本のようにサインをもらって握手して「頑張ってください」とモゴモゴ言って終わり、じゃない!しっかり読み込んで質問を用意し、互いの本音をナマでぶつけていく。
魔法のようなこの時間のあとで、生徒たちも一段と読書に本腰が入るらしい。
大手の書店による協力も大きい。
参加校に候補作の小説を、一作につき7,8冊ずつ無償で提供するという。
その他にも国内6つの地方で行われる「著者との出会い」や地方審議委員会、更に最終審議委員会の費用を全てまかなってくれる。
「ゴンクール」の名称使用許可を与えたゴンクール・アカデミー会長の言葉、受賞した作者自身の言葉、どれも大きな感動を呼ぶ。
参加校のひとつ、パシュラール電気技術職業高校の話はとりわけ印象的だ。
読書の習慣など皆無に近い男子高校の生徒たちが、本を読み著者との出会いで大きく変化していく。人間と人間がじかに接しあい、ナマの声をぶつけ合うことの重みを深く考えさせられる実例だ。
他にも子どもたちが選ぶ文学賞がある。
ひとつは「クロノス文学賞」。これは幼稚園児から高齢者までが審査を行う。
「老い」をテーマにした作品に与えられる賞で、国立老年学財団が設立。
もうひとつは「アンコリュプティブル賞」で、中小の書店が協力してたちあげたNPO法人が主催。1988年設立で「アンコリュプティブル」とは「大人の意見に惑わされない」の意。
こちらは幼稚園児から高校一年まで7つのセクションに分けて選考される。
ふたつとも写真入りで、その盛況ぶりが伝わってくる。
低学力地域の学校における司書さんの「アニマシオン」の、なんて楽しそうなこと。
一体日本人は何をしているのかと、忸怩たる思いにかられるのは私ひとりではないだろう。
文化の祭典と呼んでもさしつかえないほどの大規模な読書推進運動の話を聞いたあとで、出来ない理由を並べ立てるのは無意味だ。
フランスとて、特別なエリート高校を選んだわけではない。
ディベート大好きな国民ではないし、決して読書好きな子たちばかりでもない。
ひととひとの仲が疎遠になっているのも同じだろう。
自立した市民であるための最低条件としての読書、という考え方。
私たち日本人は先ずここから見習うべきと思うがどうだろう。
読書教育に興味のある方もない方も、ぜひお読みください。 -
今「フランスの学校教育で教えられる古典文学って何だろう?」ということに興味を持っていて、手に取ったけど、それの示唆を得られる本ではなかった。しかし、伝わってくる読書熱に胸が熱くなった。
本書の軸は、子供が読んで子供が選ぶ文学賞(ゴンクール賞、クロノス賞、アンコリュプティブル賞)の紹介。子供が投票権を持って著者を応援できるというエンパワメントと、読書習慣を推進したいという教師、司書教諭、教育省、書店などの熱意と創意工夫で成り立っている。トップダウンで枠組みが決められていないところが「文化」を醸成する秘訣なのかもしれない。
フランスでは移民の増加を一つの契機にして「Illettrisme(読解能力がないこと)」が問題になっていて、「読書教育」に注目がされているとのこと。日本もフランスほど大規模でないにせよ移民も増えてるし、AIが仕事を奪う時代にあっては読解力の向上が子供たちを守るために必要というし(『AI vs 教科書が読めない子どもたち』)、大いに参考になる内容だと思う。
ここで突然暴露すると、私はインドネシアでフランス系の学校の教育を受けたことがある。それで思い返すと、小学校6年のフランス語の授業は、『ラーマーヤナ』(インドの叙事詩で、東南アジア全体で演劇としても親しまれている)をフランス語で読み、最後は演劇化するというものだった。当時は深く考えていなかったけど、結構画期的な試みだったのかもしれない。
果たしてこんな自由なことが日本人学校でもできるだろうか。日本は学習指導要領ががちがちに決まっているので、先生たちが創意工夫を凝らす余地が極めて狭いのではないか...と想像してしまいました。
(ゴンクール賞受賞作読みたくなった!けど本一冊読む度に数冊ずつ読みたくなり、読みたい読みたい詐欺になりそうなので()つきで表明...)
(あと冒頭の「フランスの学校で教えられる古典文学が何か」は、本を読むまでもなくインターネット検索したらある程度出てきました...)
追記
日本では高校生直木賞が始まっていたことを発見!
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A0%A1%E7%94%9F%E7%9B%B4%E6%9C%A8%E8%B3%9E -
若者の読書離れという問題はどこの国でもあるようだ。フランスではこの問題に対してどのようなことをしているのかが書かれていた。
序章でのパリ読書センターと学校がタッグを組んで行うワーク(小学校を縦割りにして、それぞれテーマに沿った本を読んだり議論したり、外に出掛けてみたり等)も面白かったが、高校生ゴンクール賞は特に興味深かった。
日本でいう芥川賞の審査員が高校生になったものという感じで、授賞式にはメディアも多く押しかけるかなり規模の大きいイベントである。
作家にとっては生活のかかっている事でもあり責任あるイベントなので高校生たちも読書や議論に能動的になっていく。
後半にはクロノス賞とアンコリュプティブル賞も出てきて、こちらも審査員が小学生からお年寄りと多岐にわたるが作家でもなく何の利害関係のない人達なのが特徴である。
読書を無理強いされて楽しく読める人は中々いないと思うが、自分自身が審査する側になることで自然と積極的になれるのだなと思うし、本を読むことの楽しさを知れる良い機会だと思う。
家庭レベルでは難しくても大手書店や学校、NPO法人等が力を合わせて行うことで実現できるし、これだけ盛り上がるのは国全体として読書教育に熱心なのだなと感じた。
こういう取り組みを日本でもやれたらいいだろうなと思う。 -
図書館で見つけた一冊、題名通りに読書による教育が題材で、
「高校生ゴンクール賞」など、フランスの教育現場が紹介されています。
その「高校生ゴンクール賞」は日本でいう芥川賞を、高校生が主役となって選ぶ文学賞で、
本家・ゴンクール賞とは受賞作が異なることも多いそうで、とても興味深い。
- 作家を審査員とする文学賞が信用を失っている
これは日本でも同様のジレンマに陥ってると思いますが、それを、
"しがらみ"に囚われない純粋な視点で、乗り越えようとしている一例でしょうか。
- 読書の「社会化」、つまり、読書という行為を共有しあう空間がつくられることで、それが可能になる。
この他にも、フランスでの「読書」を軸にした教育活動について、色々と紹介されています。
日本は、幕末に来た外国人が、街角で普通に立ち読みする庶民の姿を見て、
「植民地化は厳しそうだ」との感想を持った位に、昔から「読書」は身近にありました。
フランスと比べると、日本での司書や司書教諭など、本に携わる人々の社会的地位は相対的に低く、
「読書教育」の根付きようはまだまだですが、ポテンシャルは負けていないと感じます。
本を読むということは、自身の言葉でも考えることと、思います。
息子にもそろそろ、読書を習慣づけていきたいかなぁ、、なんて、思いました。 -
図書館で。
読書教育というよりはフランスの高校生ゴンクールなるものの紹介のようだなぁと思いながら読みました。日本で言う所の直木賞とか芥川賞を高校生が読んで選んだ、みたいなものなのかなぁ。
母語が違うって大変だしそう言う生徒が混在する教育現場は大変だろうな。日本も今は外国の方や外国人の父母を持つ子供が増えて来たとは思いますが基本は日本語での授業だけ、だと思うし。アメリカの高校はEsol( English for speakers of other languages )とかありましたが日本には日本語以外の母語を持つ子のための日本語教室なんて存在するんだろうか?なんて考えてしまいました。
でもまあ日本は識字率も高いし日本の若者は文字媒体を読むことにはあまり抵抗がないんじゃなかろうかと思います。文学を読んでいるかは謎ですが。でも今は漫画も読むのを億劫がる子も居ると聞くしスマホアプリとかゲームとかの方が勢いがあるから日本も次の世代の読者層を確率するための読書教育を考えた方が良いのかもしれない。読書してそれを発表する場が必要、というのは印象に残りました。日本も読書感想文とか課題図書を作らずに生徒に選ばせて好きなように発表させたらいいのになぁ。
例えばブクログのようなネットを使って発表した感想文とかを外部に読んでもらったり評価してもらうことも読書意欲に繋がると思う。自分が読んだ本を他の人はどういう評価をしているのかって気になるものだし。
そう言う意味では交流の場は学校や図書館などの空間で区切らずもっと自由でもいいんじゃなかろうかな、とかネットを使えばかなりローコストでも出来るんじゃないかな、なんて思ったりもしました。 -
フランスの読書推進策は規模が大きい。まず、教員のほかに読書教育のスペシャリストであるアニメーターという役職が確立されており、継続的計画的な毒素指導ができるということだ。日本の司書や司書教諭はどちらかといえば事務職的な扱いを受けていることが多く、教育というアクティブな面はあまり発揮されていない。日本でも遠慮なく読書推進を実行できる立場にしなけれならないと感じた。
そして、究極の読書推進策が文学賞の選定者として子供たちが中心的な役割を果たすという行事である。本書で紹介されているのは日本の芥川賞にあたるような一般向け文芸作品の新人賞の選定を高校生が行う高校生ゴンクール賞と、老年の問題を扱った作品に限定して各年齢層で入賞作品を決めるクロノス賞、子供向けの作品に限定して子供による作品選定を行うアンコリュプティブル賞が紹介されている。どれも発案は強力な組織を持たない教師や司書、中小書店経営者などだが、読書推進に対するそれぞれの目的、思惑を巧みに利用して全国レベルの文学賞イベントにしているところが面白い。教育界のみならず、産業界も巻き込み、さらにはメディアの影響力も行事の維持、推進に寄与しているのだ。それぞれの利益を満たしながら、結果的に生徒たちに本を読ませることに成功している。
これをそのまま我が国でできるかといえばかなりハードルが高い。例えば高校生芥川賞のようなものを実施しようとした場合、差別や性描写を多く含む候補作を教室で読ませることには少なからぬ戸惑いが伴う。また、カリキュラム重視の現在の教育現場で読書教育に充てられる時間は限られており、放課後の活動にしてしまうならば、読書推進よりもむしろ高校生の生活への阻害要因になる。
フランスのように2か月間の国語の授業をすべて文学賞審査に充てるような思い切った決断がない限り、そしてそれを社会が評価する風潮がない限り実現は困難であろう。
本書が教えてくれるのは子どもに読書をさせる仕掛けはある程度大掛かりでなくてはならないこと。そして読書が重要不可欠の文化的活動であることを社会が認識すること。さらにはそのために、奉仕的寄付的な援助をしてくれる企業、団体などの資金源が確保できることが必要なことである。
いろいろと示唆をもらった。 -
2015年11月16日読了
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高校生ゴンクール賞を中心に、フランスの読書教育への取り組みを紹介した本です。
出版社や著名人ではなく、普通の読者が受賞作を決める取り組みが素晴らしいと思いました。日本でもこういう取り組みが始まればいいのになあと思いました。 -
子どもたちがあたえる文学賞のはなし。
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逗子図書館
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地味本ながら、すごいおもしろい!内容。
読書教育にたずさわる人はあまねく読んで欲しいおすすめ本。 -
フランスでは子供たちが選ぶ本の賞があるのだそう
身近でなかったり、好きでもない人からすすめられても
本を読む気にはなれないけど
こんな賞があったら読書人口が増えるのではないでしょうか
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「若者が本を読まなくなった」
こう言われているのはフランスも日本も同じ。
しかし、フランスの読書率は上がった。
なぜか?
この本では「若者が与える賞」を通じて読書教育を描いている。
「高校生ゴンクール賞」「クロノス賞」「アンコリュプティブル賞」
この3つは若者が選考委員を務め議論して賞を与える本を選ぶ。
そうそう。一つの本について話し合う、というのは、とても楽しいんだよね。
学校・書店・行政がお互いに文句を言いつつもがっちり協力しあっているのが清清しい。
特に気に入ったセリフは以下。
「最近は接近しやすい本に人気があつまります。けれど、しっかりした論拠のない人気は長つづきしません」
「わたしは人類の一体性を強く信じています。人類はひとつなのですから、この小説はあなた自身のことも語っています。もし外国文学のなかに自分自身の声のこだまが聞こえていないとすれば、外国文学を読む必要性はなくなるでしょう」
ラ・マルセイエーズまでは思いつきませんでした。
あの歌を声たからかに歌う国民。一度この眼で見たいです。
自主独立の気運がた...
ラ・マルセイエーズまでは思いつきませんでした。
あの歌を声たからかに歌う国民。一度この眼で見たいです。
自主独立の気運がただの一度も高まったことのない国、それが日本。
ああ、列挙して下さって嬉しいです!
読書教育についてはこれからもずっと考え続けたいです。
女子読みのススメ
https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b223...
女子読みのススメ
https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b223792.html
不思議です。
女子読みのススメは、読んだ記憶があるのに本棚にありませんね。。
勘違いだったかしら? 謎です。
もう一度読...
不思議です。
女子読みのススメは、読んだ記憶があるのに本棚にありませんね。。
勘違いだったかしら? 謎です。
もう一度読んでレビューも載せますね。
ありがとうございます!