読書教育―フランスの活気ある現場から

著者 :
  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622073772

作品紹介・あらすじ

なぜ本でこんなに熱くなれるの?学校も書店も図書館も活性化したイベントに取り組む人たちの熱気を、『図書館で遊ぼう』の著者が生き生きと伝えるエッセー。

感想・レビュー・書評

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  • 翻訳家であり作家でもある辻由美さんによる、フランスの「読書教育」のレポート。
    その力の入れように、読後しばらく言葉も出ないほど激しい衝撃を受けた。

    フランスでも繰り返し議論の的になってきたと言う読書教育のあり方。
    移民が非常に多く、多民族の混在は豊かな文化環境を生むと同時に言語力の不十分さが深刻な学力低下を招く。母語を大切にしてきたフランスにとっては看破出来ない問題だった。
    本書では3つの読書教育の実例と成果をとりあげる。
    どれも最初は個人レベルで試験的に生まれたものだ。

    ひとつ目は「ゴンクール賞(日本の芥川賞のようなもの)」と同時期に開催される「高校生ゴンクール賞」。1988年、ある国語教師が生徒たちを現代文学に親しませようと企画したものらしい。
    現在ではメディアでも大々的にとりあげられ、受賞作は一挙に売り上げが伸びるという。
    忖度のない高校生たちの選書眼に、社会の信頼度が高いということだ。
    代表で選出された13名の生徒たちは密室で会議を行い、その間ジャーナリストは一切傍聴を許されない。会議も生徒主体だ。

    候補作品を選ぶのは生徒自身で教員は口出ししない。
    すべて授業の一環として行われ指導案もないという。
    2か月と言う限られた期間で12冊から15冊を読み、ディベートを繰り返す。
    その間の一番の楽しみは「著者との出会いの場」。
    日本のようにサインをもらって握手して「頑張ってください」とモゴモゴ言って終わり、じゃない!しっかり読み込んで質問を用意し、互いの本音をナマでぶつけていく。
    魔法のようなこの時間のあとで、生徒たちも一段と読書に本腰が入るらしい。

    大手の書店による協力も大きい。
    参加校に候補作の小説を、一作につき7,8冊ずつ無償で提供するという。
    その他にも国内6つの地方で行われる「著者との出会い」や地方審議委員会、更に最終審議委員会の費用を全てまかなってくれる。
    「ゴンクール」の名称使用許可を与えたゴンクール・アカデミー会長の言葉、受賞した作者自身の言葉、どれも大きな感動を呼ぶ。
    参加校のひとつ、パシュラール電気技術職業高校の話はとりわけ印象的だ。
    読書の習慣など皆無に近い男子高校の生徒たちが、本を読み著者との出会いで大きく変化していく。人間と人間がじかに接しあい、ナマの声をぶつけ合うことの重みを深く考えさせられる実例だ。

    他にも子どもたちが選ぶ文学賞がある。
    ひとつは「クロノス文学賞」。これは幼稚園児から高齢者までが審査を行う。
    「老い」をテーマにした作品に与えられる賞で、国立老年学財団が設立。
    もうひとつは「アンコリュプティブル賞」で、中小の書店が協力してたちあげたNPO法人が主催。1988年設立で「アンコリュプティブル」とは「大人の意見に惑わされない」の意。
    こちらは幼稚園児から高校一年まで7つのセクションに分けて選考される。
    ふたつとも写真入りで、その盛況ぶりが伝わってくる。
    低学力地域の学校における司書さんの「アニマシオン」の、なんて楽しそうなこと。

    一体日本人は何をしているのかと、忸怩たる思いにかられるのは私ひとりではないだろう。
    文化の祭典と呼んでもさしつかえないほどの大規模な読書推進運動の話を聞いたあとで、出来ない理由を並べ立てるのは無意味だ。
    フランスとて、特別なエリート高校を選んだわけではない。
    ディベート大好きな国民ではないし、決して読書好きな子たちばかりでもない。
    ひととひとの仲が疎遠になっているのも同じだろう。
    自立した市民であるための最低条件としての読書、という考え方。
    私たち日本人は先ずここから見習うべきと思うがどうだろう。
    読書教育に興味のある方もない方も、ぜひお読みください。

    • nejidonさん
      夜型さん。
      ラ・マルセイエーズまでは思いつきませんでした。
      あの歌を声たからかに歌う国民。一度この眼で見たいです。
      自主独立の気運がた...
      夜型さん。
      ラ・マルセイエーズまでは思いつきませんでした。
      あの歌を声たからかに歌う国民。一度この眼で見たいです。
      自主独立の気運がただの一度も高まったことのない国、それが日本。

      ああ、列挙して下さって嬉しいです!
      読書教育についてはこれからもずっと考え続けたいです。
      2020/11/22
    • 夜型さん
      読書教育で、こちらはいかがですか。

      女子読みのススメ
      https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b223...
      読書教育で、こちらはいかがですか。

      女子読みのススメ
      https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b223792.html
      2020/11/22
    • nejidonさん
      夜型さん。
      不思議です。
      女子読みのススメは、読んだ記憶があるのに本棚にありませんね。。
      勘違いだったかしら? 謎です。
      もう一度読...
      夜型さん。
      不思議です。
      女子読みのススメは、読んだ記憶があるのに本棚にありませんね。。
      勘違いだったかしら? 謎です。
      もう一度読んでレビューも載せますね。
      ありがとうございます!
      2020/11/22
  • 今「フランスの学校教育で教えられる古典文学って何だろう?」ということに興味を持っていて、手に取ったけど、それの示唆を得られる本ではなかった。しかし、伝わってくる読書熱に胸が熱くなった。

    本書の軸は、子供が読んで子供が選ぶ文学賞(ゴンクール賞、クロノス賞、アンコリュプティブル賞)の紹介。子供が投票権を持って著者を応援できるというエンパワメントと、読書習慣を推進したいという教師、司書教諭、教育省、書店などの熱意と創意工夫で成り立っている。トップダウンで枠組みが決められていないところが「文化」を醸成する秘訣なのかもしれない。

    フランスでは移民の増加を一つの契機にして「Illettrisme(読解能力がないこと)」が問題になっていて、「読書教育」に注目がされているとのこと。日本もフランスほど大規模でないにせよ移民も増えてるし、AIが仕事を奪う時代にあっては読解力の向上が子供たちを守るために必要というし(『AI vs 教科書が読めない子どもたち』)、大いに参考になる内容だと思う。

    ここで突然暴露すると、私はインドネシアでフランス系の学校の教育を受けたことがある。それで思い返すと、小学校6年のフランス語の授業は、『ラーマーヤナ』(インドの叙事詩で、東南アジア全体で演劇としても親しまれている)をフランス語で読み、最後は演劇化するというものだった。当時は深く考えていなかったけど、結構画期的な試みだったのかもしれない。
    果たしてこんな自由なことが日本人学校でもできるだろうか。日本は学習指導要領ががちがちに決まっているので、先生たちが創意工夫を凝らす余地が極めて狭いのではないか...と想像してしまいました。

    (ゴンクール賞受賞作読みたくなった!けど本一冊読む度に数冊ずつ読みたくなり、読みたい読みたい詐欺になりそうなので()つきで表明...)
    (あと冒頭の「フランスの学校で教えられる古典文学が何か」は、本を読むまでもなくインターネット検索したらある程度出てきました...)

    追記
    日本では高校生直木賞が始まっていたことを発見!
    https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A0%A1%E7%94%9F%E7%9B%B4%E6%9C%A8%E8%B3%9E

  • フランスには子どもが選ぶ本の賞
    ・高校生ゴンクール賞
    ・クロノス文学賞
    ・アンコリュプティブル賞

    がある。

    〇まず「高校生ゴンクール賞」はゴンクール賞
    (日本における芥川賞)の高校生版。
    教育省とフナック書店によって成り立っている。
    全国から参加希望校を募り、現在は54校(各1クラス)
    が参加する。ゴンクール賞候補作の12~15作品を
    参加クラスの生徒が2か月にわたり対象の本を読んで
    通常の授業を振り替えてディベートなどを行う。
    この期間中に「著者との出会い」という著者との
    集会も催される。最後に「クラスの三作」とクラス代表
    1名を選ぶ。この代表が審査会場で高校生ゴンクール賞を決定する。

    この賞に選ばれるとその本はかなり売り上げを
    伸ばすそうだ。

    毎年参加校が変わり、様々な高校(上流から底辺まで)
    が参加するので強豪校というものは存在せず、
    癒着も発生しにくい。

    「著者との集い」では生徒からの質問も受け付けられる。
    「性描写が多いようですが、すべては性で説明できると思いますか」(P36)
    こんな質問、日本だったら絶対NGだろうなぁ。

    〇「クロノス賞」は「老い」をテーマにした
    作品に対する文学賞。選考者は全世代、
    幼稚園児から高齢者まで。
    老いという否定的なイメージを払しょくする
    ために創設された賞。
    カッシャン市立図書館の会報に掲載された
    13歳の子の詩がすばらしい。

    「成長する、それは老いること、老いる、
    それは成長すること

    始まったものは必ず終わる
    だれでもいつかは去っていく
    しあわせでも、ふしあわせでも

    (中略)

    限りなく続くものは何もない
    すべてに終わりがやってくる」

    〇アンコリュプティブル賞は子どもが審査員。
    幼稚園の部~中学四年生高校一年生の部まで
    7つに分けられている。

    フランスには学力の低い「教育優先地区」があり
    その地区ではアンコリュプティブル賞は重要な
    教育的性格をおびる。

    というのも、文字が読めない「アナルファベティズム」
    文章が読めない「イレットリスム」ということばが
    あり、イレットリスムは社会問題である。

    子どもたちへの読書へのいざないの方法は
    「アニマシオン」と呼ばれている。
    著者との出会いは極めて有効なアニマシオンである。

    作品をめぐるアニマシオンは
    ・モノを作る
    ・作文のアトリエ
    ・ゲーム
    ・演じる

    パートナーシップによるアニマシオン
    ・書店訪問
    ・図書館訪問
    ・他の学校とのコンタクト

    フランスでは読書に意識を向けるための
    社会の多大な努力があるのだと感じました。
    日本で授業を読書のために何か月も振り替える
    のは無理だろうなぁと思いました((+_+))

  • 若者の読書離れという問題はどこの国でもあるようだ。フランスではこの問題に対してどのようなことをしているのかが書かれていた。
    序章でのパリ読書センターと学校がタッグを組んで行うワーク(小学校を縦割りにして、それぞれテーマに沿った本を読んだり議論したり、外に出掛けてみたり等)も面白かったが、高校生ゴンクール賞は特に興味深かった。
    日本でいう芥川賞の審査員が高校生になったものという感じで、授賞式にはメディアも多く押しかけるかなり規模の大きいイベントである。
    作家にとっては生活のかかっている事でもあり責任あるイベントなので高校生たちも読書や議論に能動的になっていく。
    後半にはクロノス賞とアンコリュプティブル賞も出てきて、こちらも審査員が小学生からお年寄りと多岐にわたるが作家でもなく何の利害関係のない人達なのが特徴である。
    読書を無理強いされて楽しく読める人は中々いないと思うが、自分自身が審査する側になることで自然と積極的になれるのだなと思うし、本を読むことの楽しさを知れる良い機会だと思う。
    家庭レベルでは難しくても大手書店や学校、NPO法人等が力を合わせて行うことで実現できるし、これだけ盛り上がるのは国全体として読書教育に熱心なのだなと感じた。
    こういう取り組みを日本でもやれたらいいだろうなと思う。

  • 図書館で見つけた一冊、題名通りに読書による教育が題材で、
    「高校生ゴンクール賞」など、フランスの教育現場が紹介されています。

    その「高校生ゴンクール賞」は日本でいう芥川賞を、高校生が主役となって選ぶ文学賞で、
    本家・ゴンクール賞とは受賞作が異なることも多いそうで、とても興味深い。

    - 作家を審査員とする文学賞が信用を失っている

    これは日本でも同様のジレンマに陥ってると思いますが、それを、
    "しがらみ"に囚われない純粋な視点で、乗り越えようとしている一例でしょうか。

    - 読書の「社会化」、つまり、読書という行為を共有しあう空間がつくられることで、それが可能になる。

    この他にも、フランスでの「読書」を軸にした教育活動について、色々と紹介されています。

    日本は、幕末に来た外国人が、街角で普通に立ち読みする庶民の姿を見て、
    「植民地化は厳しそうだ」との感想を持った位に、昔から「読書」は身近にありました。

    フランスと比べると、日本での司書や司書教諭など、本に携わる人々の社会的地位は相対的に低く、
    「読書教育」の根付きようはまだまだですが、ポテンシャルは負けていないと感じます。

    本を読むということは、自身の言葉でも考えることと、思います。
    息子にもそろそろ、読書を習慣づけていきたいかなぁ、、なんて、思いました。

  • 何気なく読み始めたが、フランスの子どもの読書教育事情を知るにつれ、なんとも幸せな子どもたちだと大変羨ましくなった。
    また、これをこなす教育者、アニメーターがいるという現実、読書に対するフランス人の意識など、他にもすばらしいことがたくさん重なっていると思った。
    こうしたことが積み重なって文化となっていくのだと思うと、日本はやっぱりちょっと心配かもしれない。


    読書アクションとは、学校側からの要請に応じて、パリ読書センターがねりあげるプロジェクトのこと。
    まる2週間にわたって、授業としておこなわれ、複数の学年、ときには全学年が参加する。
    読書アクションはかならずひとつのテーマをめぐってなされる。
    テーマは、その学校の子どもたちが現実にちょくめんしているものでなければならない。例)「男と女」
    年齢の異なる子どもたちを15人くらいのグループにミックスさせて、テーマについて議論し合う。

    子どもどうしの争いは競争意識からくることが多いが、6歳の子は10歳の子と競争しようとは思わない。混成の集団のほうがいじめがずっと少ない。

    調べ物の方法は多様でなければならない。あるテーマを調べるのに、本を参考にしたり、絵画や彫刻を観察したり、街頭にでてインタビューするなどアプローチを変化させれば子どもたちの興味に幅と深みが出てくる。

    パリ読書センターの試みとは~
    書物が生きて機能しているような社会環境を子どもたちに提供すること
    読むことが困難な子どもたちのほとんどは本が生きていない環境のなかで生活している
    大人が本を読んでいないので、子どもたちには本の有用性が理解できない。
    読むことはおもしろいことなんだ、ということを私たちは子どもたちにわからせようとしているのです」
    読書はかならずしも個人的なものではなく、他の人たちと分かち合い、議論できるもので、何かの実現に役立つ。読むという行為は書くという行為と切り離せない。書くことを知ると、よりよく読めるようになる。
    ロベール・カロン パリ読書センター所長

    読書アクションの例
    『レオナルド』ヴォルフ・エァルブルッフ (著) 、 うえの ようこ (翻訳)
    絵本の見開きのページを1ページづつ渡され、文字を伏せ、イラストだけから物語を想像し次にくる話を推測する

    同じアイディアで、言語のわからない『下舞木の子育て地蔵』(日本の民話)のアニメを見せストーリーをねりあげる

    【高校生ドンクール賞】
    Prix Goncourt des lycéens 1988~
    http://www4.fnac.com/guides/livre/goncourt-des-lyceens/default.aspx
    http://fr.wikipedia.org/wiki/Prix_Goncourt_des_lyc%C3%A9ens
    2000『アラーの神にもいわれえない』アマドゥ・クルマ
    2001『碁を打つ女』シャン・サ
    2003『ファラゴ』ヤン・アベリ
    2004『ある秘密』フィリップ・グランベール
    2005『マグヌス』ルヴィー・ジェルマン
    2007『プロデックの報告書』フィリップ・クローデル

    2005ガストン・パシュラール電気技術職業高校の場合
    ブーリム先生の言葉
    「ぼくはフランス社会にとけこむのに、いまのぼくの生徒たちと同じ困難を体験した。成功の鍵は本のなかにあった。だから、文学にたいする欲求を生徒たちに伝達したいと思っている。生徒たちの多くは数学が苦手ですが、それは語彙不足のせいで数学の本の記述がよくのみこめてないからです」

    「ウエスト・フランス紙 」レンヌ市に本社をもつ新聞社
    学校担当が独立した部局となっている
    学校担当記者はメディア教育に専念する~学校におけるメディア教育をサポートするのが仕事
    生徒や先生にジャーナリズムとは何かを理解してもらうために学校にでかける
    新聞をつかって、読むこと、書くことをマスターさせる
    また、高校生ゴンクール賞の参加校に担当記者がつき、授業の初めから終わりまでを取材する

    フナック書店 http://www.fnac.com
    高校生ゴンクール賞に無償で本を提供し、著者と高校生との出会いを組織する
    本を配布するときにも、担当者がいろいろな趣向をこらす
    作家とはすでにこの世にいない過去の人ばかりではなく、直に接することのできる生きた人間なのだということを示すのが目的
    「最初は接近しやすい本に人気があるまる。けれど、しっかりした論拠のない人気は長続きしない。若者は自分の感動を他の人に伝えることに大人よりずっと執着する。そうした主張は大人の意見以上に他の若者の心を動かす。議論がすすむにつれて、彼らの見る目が厳しくなるのはそのため」

    「難しすぎることを前にすると、人はしばしば意欲をくじかれる。かといって、簡単すぎることには魅力がない。挑戦しようという意欲をおこさせるには、それなりの困難さが必要なのだ。」

    「実に平凡なことだが、人間と人間がじかに接し合い、なまの声をぶっつけ合うことの重みを、高校生たちと話し合うなかであらためて感じた」
    Prix Goncourt
    http://www.academie-goncourt.fr/?rubrique=1229172131

    【クロノス文学賞 prix chronos】子どもたちが審査員となる文学賞
    http://www.prix-chronos.org/
    「老い」をテーマにした作品に対してあたえられる文学賞
    審査を担うのは、幼稚園児から高齢者、まで。
    外国からの参加もあり
    創設したのは国立老年学財団
    「老年の否定的なイメージの払しょく」
    「発想を逆転させて、老いの問題を子どもたちに考えさせた方がかえって有効ではないか。」
    「成長する、それは老いること、老いる、それは成長すること」

    カッシャン市立図書館のこころみ
    読書サークル
    「年齢を超える」「老いるとは生きること」「すぎゆく時間と死」
    子どもたちに候補作を読んで、理解することから始めなければなりません。1年生のクラスだと、本の一部分を読んで聞かせる。そして子どもたちにその本にどんな人物が登場し、どんなモノや場所が出てきて、どんな出来事がおこるかを聞きます。
    1年生のクラスでは朗読のときも質問をするときも本を開いたままにさせておく。2年生のクラスになると本を見せずに2~3ページ読み、それがどの本かを当てさせる。そして本を隠したままで人物、モノ、場所、出来事を子どもたちに思い出させる。
    もっと大きい子になると、本を隠すだけでなく、朗読する際に登場人物の名前や出てくる地名を変えてしまい、それがどの本かを当てさせる。謎ときあそびのようになって子どもたちは面白がる、
    子どもたちが間違えてものもメモしておき、後で使う。

    【アンコリュプティブル賞】les Incorruptibles1988
    http://www.lesincos.com/
    アンコリュプティブルの意味は、買収されない、清廉だが、ここでは大人の意見に惑わされない

    アンコリュプティブル憲章
    わたしはアンコリュプティブル
    この賞の機関に候補作読むことを約束します
    候補作について自分自身の意見をもちます
    投票に参加して、積極的に意思表示することを約束します

    7セクションに分かれている
    幼稚園児の部
    小学校1年生の部
    小学校2年生の部
    小学校3、4年生の部
    小学校5、中学1年生の部
    中学2、3年生の部
    中学4年生、高校1年生の部

    書籍情報誌『kパージュ』

    アナルファベティスム=文字が読めないこと
    イレットリスム=文字や単語は読めても、文章が読めないこと

    作品をめぐるアニマシオン
    モノを作る
    候補作を題材としたポスター、しおり、絵ハガキ
    候補作おせrぞれの登場人物について、使命、性別、年齢、特徴などをしるしたIDカードをつくる
    読書日誌をつける
    作品の表紙(装丁)を子どもたち自身の手で作り直す
    図書室に記念サイン帳をおき、一冊読み終わるたびにめいめいがメモを残す
    低学年の場合~候補作の登場人物をモデルに人形劇の人形を作る
    高学年の場合~作品の人物像の記述をもとに、その人物の肖像がを描く
    候補作のストーリーを漫画のかたちに書きかえる

    作文のアトリエ
    候補作のある個所から出発し、その作品とは別のストーリーを作り上げる
    候補作があつかっているテーマに関して、みんなで協力しあって物語を創作する
    候補作の紹介や、著者や読者のインタビュー記事を盛り込んだ新聞をつくる
    低学年の場合、絵本の文章を隠し、イラストだけを見ながら、子どもたち自身で物語を書く
    高学年の場合、教師(または司書)が作品の冒頭の分を読み、ストップウォッチではかって十分以内に、生徒は次にくる文章を創作する
    ゲーム
    クラスまたは学校対抗で、相互に候補作にかんする質問を出し合い、解答を競う
    作品をテーマにしたイラスト・コンテスト
    ABCゲーム。アルファベットの一文字があたえられ、その文字が冒頭にくる語から出発して候補作のひとつのくだりを話す
    子どもたちの手で、候補作をだいざいにした双六をつくる
    誰が誰?それぞれの子が候補作の登場人物の一人になる。その名をしるしたポストイットが学にはられるが、本人だけはその名を知らない。互いに質問し合い、自分が誰がの役割を演じているのかを当てる

    演じる
    アンコリュプティブル賞に参加していないクラスに行き、自分たちが読んでいる候補作を紹介する。とくに高学年の子は、低学年のクラス出朗読をおこなう
    候補作にかんして自分たちの手でつくりあげたモノや、作文や、イラストなどの展示会をおこなう
    他のクラスとのディベート
    文学訴訟、模擬法廷をつくり、候補作の人物について裁判を行う
    候補作にかんする文藝放送番組を制作する

    書店訪問
    まずウェブサイトで、自分たちの住む地域のアンコリュプティブル賞のパートナーとなっている書店をさがす
    書店員に本を売るという職業について話してもらう
    候補作やその著者にかんする説明をうける

    図書館訪問
    図書館見学
    司書という職業について話してもらう

    他の学校とのコンタクト
    インターネットを介して他の学校と意見交換をおこなう
    『ひつじのラッセル』ロブ・スコットン
    『妖精のコキエットが先生になった』ディディエ・レヴィ

    代母役のマルティーヌ・ドレルムのこと

    「わたしは長年教師をつとめてきましたが、読書の喜びをこどもたちに伝える秘訣と呼べるようなものは存在しないと思います。数え切れないほどの方法がいあり、どれが、うまくゆくかは、教師の個性や情熱や影響力によります。数え切れないほどの方法があり、どれがうまくゆくかは、教師における想像性をつちかわなければなりません。そのためには、教師の読書の時間を労働時間にふくめるべきでしょう。
    教師自身につねに新しい発見がなけれdばならない。そうしたことに生徒たちはとても敏感です
    わたしは個人としては、生徒の前でよく朗読します。朗読の演劇性がとくに気に入っています。朗読が上手におこなわれれば、生徒たちはその本をよんでみたいという気持ちに駆られるものです

    アンコリュプティブル賞は、子どもたちが読書のおもしろさを分かち合う空間をつくっている。読書力がはぐくまれるような環境に生活していない子どもたちでも、本に熱中し、本について議論する子どもたちの仲間入りすれば、自分もその楽しみを共有したいという気持ちに駆られる。。読書は個人的なものであるとともに、社会性を有する。一人で読む能力は他の人たちと読書を分かち合うことをつうじて、つちかわれるものなのだ。
    クロノス賞もあんりこりゅプティブル賞も、子どもたちにとって、ふだん接している本とは違う本との出合いの場、新しい出会いの場だ。賞をあたえるという共通の目的がうみだす絆が、読書をよりアクティブなものにする。

    『アンテルCDI』中学・高校司書教諭のための専門誌
    ヴェロニック・ドラリュー先生
    「一般的にいって、読書が困難な子どもたちは、まず耳で聞いて、内容をある程度知ったうえで本を手にすると、ずっと容易に読みます。その積み重ねで読書力が身についてきます。朗読は効果のあがる読書アニマシオンのひとつです」
    あるテーマをめぐって文学作品を読ませるプロジェクトをうちだしたこともある。
    生徒たちには、テーマと本の関係を理解できない子も多かった
    理解したとしても、それを他の人にわかるように話すことはもっと困難なことだった。
    また、中学生に絵本をよませている。
    絵本には年齢を超えて読むことのできるものがいくらでもある
    読書力のない子には絵本からはいるのはひとつの方法。
    読み切ったときには達成感と言う喜びを味わうことができる
    読み切ることが大切、それをステップにしてもう少し難しい本に挑戦してみたいという気になる。

    80のおとぎ話で世界一周というアニマシオン
    せかいじゅうのおとぎ話を集める
    生徒はひとつの国におりたつたびにその国のおとぎ話を読んで、旅日誌の形でメモを書き、。ぜんぶ読み終わったら、また新しい国に行き、おとぎ話を読むという具合に旅をつづける

    作家との出会い
    作家の著作リストをつくり、あらかじめ本を読むようにする
    格式張らないフォーラムをつくる

    文学とデザート
    図書館でデザートを食べながら本について語り合う

    わたしとしては、シーンとしていて物音ひとつしない図書館というイメージを払拭したいと思っています。
    もちろんなにをしてもいいというわけではありません。
    生徒たちが学校から帰るとき、ああ、図書館はおもしろかった、あの本がおもしろかったと思えるような場所、人と人との交わりがあり、自分たちで何か発見ができる場所、図書館をそういう場所にしたいと思っています。



    http://www.msz.co.jp/news/topics/07377.html

  • 図書館で。
    読書教育というよりはフランスの高校生ゴンクールなるものの紹介のようだなぁと思いながら読みました。日本で言う所の直木賞とか芥川賞を高校生が読んで選んだ、みたいなものなのかなぁ。

    母語が違うって大変だしそう言う生徒が混在する教育現場は大変だろうな。日本も今は外国の方や外国人の父母を持つ子供が増えて来たとは思いますが基本は日本語での授業だけ、だと思うし。アメリカの高校はEsol( English for speakers of other languages )とかありましたが日本には日本語以外の母語を持つ子のための日本語教室なんて存在するんだろうか?なんて考えてしまいました。

    でもまあ日本は識字率も高いし日本の若者は文字媒体を読むことにはあまり抵抗がないんじゃなかろうかと思います。文学を読んでいるかは謎ですが。でも今は漫画も読むのを億劫がる子も居ると聞くしスマホアプリとかゲームとかの方が勢いがあるから日本も次の世代の読者層を確率するための読書教育を考えた方が良いのかもしれない。読書してそれを発表する場が必要、というのは印象に残りました。日本も読書感想文とか課題図書を作らずに生徒に選ばせて好きなように発表させたらいいのになぁ。

    例えばブクログのようなネットを使って発表した感想文とかを外部に読んでもらったり評価してもらうことも読書意欲に繋がると思う。自分が読んだ本を他の人はどういう評価をしているのかって気になるものだし。
    そう言う意味では交流の場は学校や図書館などの空間で区切らずもっと自由でもいいんじゃなかろうかな、とかネットを使えばかなりローコストでも出来るんじゃないかな、なんて思ったりもしました。

  •  フランスの読書推進策は規模が大きい。まず、教員のほかに読書教育のスペシャリストであるアニメーターという役職が確立されており、継続的計画的な毒素指導ができるということだ。日本の司書や司書教諭はどちらかといえば事務職的な扱いを受けていることが多く、教育というアクティブな面はあまり発揮されていない。日本でも遠慮なく読書推進を実行できる立場にしなけれならないと感じた。
     そして、究極の読書推進策が文学賞の選定者として子供たちが中心的な役割を果たすという行事である。本書で紹介されているのは日本の芥川賞にあたるような一般向け文芸作品の新人賞の選定を高校生が行う高校生ゴンクール賞と、老年の問題を扱った作品に限定して各年齢層で入賞作品を決めるクロノス賞、子供向けの作品に限定して子供による作品選定を行うアンコリュプティブル賞が紹介されている。どれも発案は強力な組織を持たない教師や司書、中小書店経営者などだが、読書推進に対するそれぞれの目的、思惑を巧みに利用して全国レベルの文学賞イベントにしているところが面白い。教育界のみならず、産業界も巻き込み、さらにはメディアの影響力も行事の維持、推進に寄与しているのだ。それぞれの利益を満たしながら、結果的に生徒たちに本を読ませることに成功している。
     これをそのまま我が国でできるかといえばかなりハードルが高い。例えば高校生芥川賞のようなものを実施しようとした場合、差別や性描写を多く含む候補作を教室で読ませることには少なからぬ戸惑いが伴う。また、カリキュラム重視の現在の教育現場で読書教育に充てられる時間は限られており、放課後の活動にしてしまうならば、読書推進よりもむしろ高校生の生活への阻害要因になる。
     フランスのように2か月間の国語の授業をすべて文学賞審査に充てるような思い切った決断がない限り、そしてそれを社会が評価する風潮がない限り実現は困難であろう。
     本書が教えてくれるのは子どもに読書をさせる仕掛けはある程度大掛かりでなくてはならないこと。そして読書が重要不可欠の文化的活動であることを社会が認識すること。さらにはそのために、奉仕的寄付的な援助をしてくれる企業、団体などの資金源が確保できることが必要なことである。
     いろいろと示唆をもらった。

  • 2015年11月16日読了

  • 高校生ゴンクール賞を中心に、フランスの読書教育への取り組みを紹介した本です。
    出版社や著名人ではなく、普通の読者が受賞作を決める取り組みが素晴らしいと思いました。日本でもこういう取り組みが始まればいいのになあと思いました。

  • 子どもたちがあたえる文学賞のはなし。

  • 逗子図書館

  • 地味本ながら、すごいおもしろい!内容。
    読書教育にたずさわる人はあまねく読んで欲しいおすすめ本。

  • フランスでは子供たちが選ぶ本の賞があるのだそう

    身近でなかったり、好きでもない人からすすめられても
    本を読む気にはなれないけど

    こんな賞があったら読書人口が増えるのではないでしょうか

  • 「若者が本を読まなくなった」

    こう言われているのはフランスも日本も同じ。

    しかし、フランスの読書率は上がった。

    なぜか?


    この本では「若者が与える賞」を通じて読書教育を描いている。

    「高校生ゴンクール賞」「クロノス賞」「アンコリュプティブル賞」
    この3つは若者が選考委員を務め議論して賞を与える本を選ぶ。

    そうそう。一つの本について話し合う、というのは、とても楽しいんだよね。
    学校・書店・行政がお互いに文句を言いつつもがっちり協力しあっているのが清清しい。


    特に気に入ったセリフは以下。

    「最近は接近しやすい本に人気があつまります。けれど、しっかりした論拠のない人気は長つづきしません」

    「わたしは人類の一体性を強く信じています。人類はひとつなのですから、この小説はあなた自身のことも語っています。もし外国文学のなかに自分自身の声のこだまが聞こえていないとすれば、外国文学を読む必要性はなくなるでしょう」

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著者プロフィール

翻訳家・作家。著書『翻訳史のプロムナード』(みすず書房、1993)『世界の翻訳家たち 異文化接触の最前線を語る』(新評論、1995、日本エッセイスト・クラブ賞)『図書館で遊ぼう』(講談社現代新書、1999)『火の女シャトレ侯爵夫人 18世紀フランス、希代の科学者の生涯』(新評論、2004)『読書教育』(みすず書房、2008)ほか。訳書 ジャコブ『内なる肖像 一生物学者のオデュッセイア』(みすず書房、1989)ポンタリス『彼女たち』(みすず書房、2008)チェン『ティエンイの物語』(みすず書房、2011)ドゥヴィル『ペスト&コレラ』(みすず書房、2014)ロワ『ジハードと死』(新評論、2019)ほか。

「2021年 『スペイン内戦と国際旅団』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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