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本 ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784622074823
感想・レビュー・書評
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柳宗悦の次男であり、自身も美術史家として教鞭をとった著者が、インドの伝統的な民芸品、庶民の生み出す美について調査した内容をまとめた一冊だ。
刊行されたのは9年前だが、書かれている内容は1970~1980年代という何十年も前の調査記録がほとんどだ。そのため、多くの工芸、民芸は絶えてしまったか変容してしまっただろうと思われる。
だからこそこの記録は非常に興味深い。
地面に米の粉末で描かれる絵、自由に刺されるオンリーワンの刺繍。
職業人ではなく、家庭に入った女が、日常の祈りのために生み出した美。対価を得るためではなく近しい人のために作り上げた品。
紹介されるそれらは美しく、確かに古来より装飾は神への祈りからはじまったのだろうと思わされる。
実際に寒村を訪れ、現地の人と交流してその記録をとる著者の姿勢は凄いとしか言いようがないけれど、その手工芸が発見された理由を「地震の<おかげ>」と書いてしまったり、道が整備されて西洋の情報が入り、民芸のかたちが変わっていく事を「凋落」「堕落」と断じてしまうあたりには疑問を持った。
あまりに無責任な余所者、恵まれた位置にいる外国人の視点すぎる。
彼にとっては美しいものが美しいままに存続することが重要で、それを生み出す人たちの生活レベルの向上や新しい事物を知る楽しさには興味はないのだろうか。
近代化のすべてが良いとは言えないけれど、道が通り、電気が通ったことで暮らし向きが楽になった人は多かっただろうし、そもそも著者が絶賛している「普通の家庭の女性」は刺繍などしたくもなく、安価な工業製品が手に入るならばその方がずっと負担がなくていい、と思っていたかもしれないのだ。
非常に面白い内容ではあるけれど、インドの人々からするとこのレポートはどんな風に見えるんだろうか。そんなことを考えた。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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