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本 ・本 (114ページ) / ISBN・EAN: 9784622076445
感想・レビュー・書評
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なるほど。山本義隆は、東大物理を卒業し、東大大学院で素粒子論を専攻していたのだね。東大全共闘議長で鳴らした人だった。その後予備校の講師をしていた。1941年生まれというから、80歳を超えているのか。この本は、2011年8月に出されている。山本義隆が70歳の時だ。
なぜ福島原発事故が起きたのか?そして、原子力発電とはどんなものか?を、①日本における原発開発の深層底流。戦後政治史。②原子力発電技術の未熟さと隘路、そして稼働の実態と原発事故。技術論。③科学史から見た原発という構成で書かれている。原爆開発と原子力発電開発は、双子のようなものだと読みきって説明している。
私は、原子力の平和利用は可能なのか?原発にどう向き合うのか?フクシマのメルトダウンから何を学ぶのか?を考えている。あまり、そのことをこれまで考えていなかった空白地帯で、とにかく手当たり次第に読んでいるのだが、まさかここで山本義隆が。という感じだった。
著者は、単なる技術的な欠陥や組織的な不備に起因しているので、そのレベルでの手直しで解決可能であると考えるべきではないと言い切る。そもそも、原子力の平和利用、そのものが幻想なのだという。原子力の平和利用は、1953年アイゼンハワー大統領が国連会議で「アトムズ・フォア・ピース」と訴えたこともある。原子力の平和利用は、アメリカの原爆を作るマンハッタン計画の延長に過ぎないと著者は指摘する。
日本において、地震列島にかかわらず、原発が54基もできた始まりは、1954年中曽根康弘をはじめとする政治家たちが、原子力予算(2億3500万円であり、それはウラン235に因む)が成立した。を提出し、1955年に原子力基本法を成立させた。1958年に原子力発電にアクセルを踏んだのが岸信介だった。岸信介は、「原子力技術はそれ自体平和利用も兵器としての利用も共に可能である。どちらに用いるかは、政策であり国家意志の問題である」と言って、原子力発電を国策とした。さらに「日本は核兵器を持たないが、(核兵器保有の)潜在的可能性を高めることによって、国際の場における発言力を高めることができる」(岸信介回顧録)さらに、1958年5月には、外務省記者クラブで「現憲法下でも自衛のための核兵器保有は許される」と述べ、1959年の衆議院予算委員会で、「防衛用小型核兵器は合憲」と主張している。ふーむ。岸信介の憲法改正は、自衛隊を合憲として、核兵器を保有することまで合憲とすることだったのだ。核兵器を持って、国として一人前という岸信介の認識だった。流石に、勝共連合を大歓迎したわけだ。2002年に福田康夫は「核兵器について、法理論的に言えば、専守防衛を守るならば持ってはいけないという理屈にはならない」と岸信介の文脈を受け継いでいる。
著者は、そういう状況で考えれば、科学者の原子力の平和利用は、楽天的で無批判的だという。原子力の平和利用に尽力したのが、学術会議の原子力問題委員会(のちの原子力委員会)であった。茅誠司や伏見康治だった。トップクラスの物理学者が原子力平和利用幻想を持っていたのだ。
フクシマの沸騰水型炉(BWR)については、ジェネラルエレクトリック社の安全性を評価する技術者によって「冷却水が失われた時にその格納容器が圧力に耐えきれなくなる」という欠陥を見出して、運転停止を呼びかけたが、上部からその議論を封印して、その技術者たちは原発の安全性に責任を持てないと言って、会社を辞めざるを得なかった。そんな暗黒史もあったのだ。それが、設計上のミスでは済まされなかった。
また、高木仁三郎が原発は事故ばかり起こるのは、核エネルギーが膨大な力を発するので、パイプなどの亀裂などが起こりやすいと言っている。
過去に公害を引き起こした化学工学は、有毒物質を除去し、無毒化する技術は開発できる。しかし、原子力工学では、放射能を無害化する技術ができていない。放射能廃棄物を封じ込めるしかないが、それをするには、現状の技術では、数万年末か、莫大な費用がかかる。うーむ。この指摘は、なるほど。原子力発電は、多いところから2022年1月でアメリカ93基、フランス56基、中国51基、建設中19基、計画中24基、インド22基(世界で443基)となっている。世界のエネルギーは、未熟な技術で成り立っている。
原発がメルトダウンすれば、被害はとても大きく、廃炉する技術なども遅れている。原発とは何かを考える上で、本書は多くの素材を提供できる。核兵器を持つということさえ含んでいる憲法改正というのも、恐ろしい話だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「原子力は「文明の選択」ではない」
https://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51737674.html -
YouTubeで公演の動画など見かけるが、若者に負の遺産を残していることを相当気にされている様子。
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原子力発電
東日本大震災 -
ボリュームはあまりないし、内容も悪くはないのだけれど、ちょっと退屈だったかなぁ。期待が大きすぎたかも。
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山本義隆氏の本を読みたかった。
探してみると、本書が見つかった。
薄い本である。しかも原発に関する書である。
今まで私なりに原発や核兵器に関して、本を読んできた。
氏の原発に対する考え方を知りたかった。浪人生時代を思い出し、あらためて生徒になった。
先生の言葉を聴き逃すまいと、一文一文ゆっくり読んだ。原発は外交カードであったことを知り、目から鱗が落ちた。先生の知識量に圧倒された。また、先生の正義感と誠実さと優しさも感じられて嬉しかった。
先生は20年前と少しも変わっていなかった。
柔らかい表情の奥に光る野武士のような目の輝きを思い出した。
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