人生と運命 1

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622076568

作品紹介・あらすじ

第二次世界大戦で最大の激闘、スターリングラード攻防戦を舞台に、物理学者一家をめぐって展開する叙事詩的歴史小説(全三部)。兵士・科学者・農民・捕虜・聖職者・革命家などの架空人物、ヒトラー、スターリン、アイヒマン、独軍・赤軍の将校などの実在人物が混ざりあい、ひとつの時代が圧倒的迫力で文学世界に再現される。戦争・収容所・密告-スターリン体制下、恐怖が社会生活を支配するとき、人間の自由や優しさや善良さとは何なのか。権力のメカニズムとそれに抗う人間のさまざまな運命を描き、ソ連時代に「最も危険」とされた本書は、後代への命がけの伝言である。

感想・レビュー・書評

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  • 6月にポーランド~バルト3国~モスクワを巡る旅から戻って間もないころ、twitterでたまたま見かけた@hongokuchoさんのツイートがきっかけだった。

    「ナチズムは片眼鏡をかけてやってくるのではない…仲間のように息づき、冗談を言い、平凡な人間のように飾らない態度をみせていた」

    「物事の分かっていない者が演説をし…同じ言葉を話す人々が理解不能で憎み合ってることに20世紀の不幸の一つが悲劇的に表れていた」。

    引用元は『人生と運命』(グロスマン)とある。ググってみると、書評がいくつか見つかった。

    小説の時代背景は、第二次世界大戦の帰趨を分けたスターリングラードでの独ソ攻防戦。グロスマンはソ連の従軍記者であり、ユダヤ人だった。グロスマンは「スターリニズムとナチズムが胸像関係にあると見抜いていた」というところに惹かれて、3冊計1424ページ、13,965円也の大部を購入(旅費予算の余りを投じたということで正当化)。一夏かけて読み終えました。

    何度、本から目を上げて思ったことか。「あぁグロスマン、あなたが綴った文章を私は確かに読んでいる」と。
    彼が伝えようとしたことを分かっているのかどうかは、はなはだ心許ない。膨大な登場人物に次々と移り変わる舞台(戦闘指揮所、前線基地、ドイツの捕虜収容所、ガス室、ソ連のラーゲリ―収容所、家庭、研究所・・・)、何より時代背景に対する知識不足ゆえ、筋書きさえ理解がおぼつかない箇所が多々あったのだけれど、なんだろう、グロスマンが訴えかける声は聞こえる気がしたのだ。

    思いあたったのが、並行して読んでいた『街場の文体論』(内田樹)の一節。
    一貫して、『届く言葉』について語るなかで、師と敬愛する哲学者エマニュエル・レヴィナスの本についてこう綴っている。
    「表層的なレベルではまったく意味がわからなかった。でも、その文章を書いている人の『わかってほしい』という熱ははっきりと感知できた。ほとんど襟首をつかまれて『頼む、わかれ、わかってくれ』と身体をがたがた揺さぶられているような感じがしたのです」

    内田センセイは、メッセージは自分が受け手だと思う人がいて届く、というようなことを言っているけれど(意訳)、私は勝手に、この本の宛先(のひとつ)は私なのだと思った。この「奇跡のように生きのびた本」の。ソ連共産党は1960年の完成当時、出版を許さず原稿も没収。グロスマンは『人生と運命』の出版を遺言として1964年に死去する。託された草稿を友人2人が持ち出し、1980年にスイスで刊行された。日本の翻訳刊行はようやく今年に入ってから。やっぱり、というかみすず書房である。

    同じみすず書房から出ていて、ナチスの強制収容所で生き抜いたユダヤ人心理学者が綴った『夜と霧』(ヴィクトール・フランクル)を読むと、人はいかに苛酷な状況下でも崇高でありうるのだと思えた。でも、『人生と運命』では、人はあまりにもちっぽけで脆い存在だと思い知らされる。時に自由を保ち、気高くあっても、直後に失う。あるいは踏みつぶされる。理不尽で不条理な状況にただただ翻弄される。でもその理不尽と不条理を生んでいるのもまた人間なのである。1人1人の生き様に胸が痛い。

    なんて苛酷な状況だったのだろう。自分が自らの脆さをここまで思い知らされずに済んでいるのは今の世に生きているからに過ぎないのかもしれない。苛酷な状況に置かれれば、彼らと同じような思いに囚われ、同じように振る舞わざるをえないのだろう。いや、今この環境下においても脆く愚かであるのに、ただ気がついていないだけなのか。

    文章から沸き立つ、叫びというには淡々とした、でも切実な声音に、届いてくれという祈りが込められている。すべての内容をしっかり理解しようとせず、描写すべてを1つ1つを味わおうとせず、時に読み飛ばしてもいいとさえ思う(・・・私はけっこうそうだった)。メッセージさえ受信できれば。

    とはいえ、少しでも読みすすめやすく、理解できるにこしたことはないので、大量の登場人物とその関係性を把握する一助として人物相関図を作ってみました。ブログにアップしています。
    http://d.hatena.ne.jp/kuro_ayu/20120927/p1
    冒頭の画像をクリックして、さらに「オリジナルサイズを表示する」をクリックすると大きく表示されます。

    登場人物はほぼ皆、アレクサンドラという初老の女性に連なる人々です。主人公といえる物理学者ヴィクトルは娘リュドミーラの夫。最初に出てくるモストフスコイ、ソフィヤは友人です。ロシア名はそもそも長くてなじみがない響きのうえ、時によって同じ人物でも愛称だったり正式名称だったりと違うので、これは誰のことか?というところでまず一苦労。流れでいくしかないです。
    ソ連の軍人もたくさん出てくるので、人物相関図〈軍隊編>も作りたいのですが、階級構造と地理的配置がいまいちよく把握できてないので、おいおい。コミサール=政治将校ということすらよく分かっていなかったぐらいです・・・。

    あと、この『人生と運命』はスターリングラードの戦いをめぐる二部作の後編だそうで、前編にあたる『正義の事業のために』に登場人物の生い立ちや関係が詳述されているようです。確かに『人生と運命』では特に説明なく人物が次々に登場するし、ところどころで書かれていないことを前提にしている。この前編のポイントが3巻の末尾にまとめられているので、こちらを先に、あるいは登場人物がだいたい出そろったあたりで読んでおいた方が分かりやすいと思います。
    1部末尾の解説は、グロスマンの経歴や作品の背景が詳しいけれど、本編の先に読むか、途中で読むか、後に読むかは好みが分かれるかと。

  • 1巻500ページ。全3巻の最初の1巻。

    第二次世界大戦で最大の激戦地、スターリングラード。本書はドイツ軍がそのスターリングラードを包囲していた1942年から43年の一時期を描く歴史小説です。
    本書の作者グロスマンは対独戦をじかに体験し、ホロコーストの実態を世界で最初に報道した新聞記者。したがい、戦争場面はこれ以上ないリアリティーがあります。
    本書はソ連の物理学者とその家族3世代の人々が中心。彼らはユダヤ系であり、強制収容所や絶滅収容所といった過酷な運命が2巻以降に予見されます。しかも、グロスマン自身がユダヤ人です。
    第1巻を読み終えた感想は
    1)舞台は激戦にあるスターリングラード、ドイツの捕虜収容所、物理学者の家庭、ソ連の反体制派収容所、ユダヤ人移送列車、ソ連の戦車軍団など。とにかく描写はリアリティーに富んでいます。戦争の場面はもちろんですが、物理学者の母親の連行、収容所や移送列車の描写は衝撃を覚えました。
    2)本書には非常に多くの人物が登場します。また、舞台ごとに一編の小説のように記述されていますが、それらはほとんど交錯しません。すなわち、同時に数冊の小説を読んでいるようであり、極めて読みにくい小説です。それでも、物語には引き込まれてしまい1巻は完読しました。

    以上が1巻を読み終えた感想。2巻目も図書館にリクエストしました。

  • 10年前から読みたいと思っていた本。
    どうせいつか読むでしょうという気持ちで放置していたら、2・3巻が手に入りにくくなっており、泣く泣くAmazonで1万円以上払って購入。
    期待通りの作品だった。
    第1巻はいろいろな登場人物が一気に出てきて頭に叩き込むのが大変だが、ゲットーに住んでいる母親が息子を案じ別れを告げる手紙を書くシーンのような、一部分を切り取ってそれだけを短編小説としても良いくらいに心に訴えかける章があり、決して退屈はしない。
    難点はむしろわき役として登場する歴史的人物の方で、さも当たり前のように登場するので前提知識がないと訳注があったとしても混乱するかもしれない。
    登場人物の多さとソ連人の知識が必要なため、内容は素晴らしいが星4とした。

  • 「個人」がどのようなものなのか描かれているだろうか

    「宗教・人種を越え「個人の権利」に光を」
    (ギデオン・ラックマン(英フィナンシャル・タイムコラム)による書評、 日経に載っていた)
    という言葉に魅かれて手に取ってみたけど暗くて冷たい霧の夜の中を歩かされるような感じで最初の数ページでとまる

    発刊に至るまでが苦難だったという本書
    体調のいい時に再チャレンジしたい



  • mmsn01-

    【要約】


    【ノート】
    ・FACTAのブログで興味を持った

  • ロシア科学者の一家・族の生活とスターリングラード攻防戦とのかかわりあいをつうじて、ナチズムとスターリニズムの同値性をみごとに・・した傑作である。

  • 全編を通じて重苦しさが漂っている。今もこの世界で、この重苦しさを生きる人のなんと多いことか。人間の自由や平等はどこか遠いところに行ってしまったようだ。「全体主義は暴力を手放すことができない。暴力を手放せば、全体主義は死ぬのである。直接的あるいは偽装されたかたちで永遠に続く絶えざる圧倒的暴力が全体主義の基礎である。人間は自らの意志で自由を放棄することはない。この結論のなかにこそ、われわれの時代の光、未来の光がある。」至言であります。

  • おすすめ資料 第158回 (2012.10.5)
     
    20世紀ロシアの作家で、ワシーリー・グロスマンをご存知でしょうか。

    グロスマンはウクライナのユダヤ人家庭に生まれた作家であり、従軍記者でもあります。
    本書は第二次世界大戦時のスターリングラード攻防戦を舞台にした歴史小説です。

    一度はKGBによって原稿を没収されましたが...数十年の時を経て、ついに今年日本でも刊行されました。
    全三部作とボリュームたっぷりですが、ぜひ挑戦してみてくださいね。

  • 2015/4/27購入
    2020/2/18読了

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著者プロフィール

(Василий Гроссман)
1905-1964。ウクライナ・ベルディーチェフのユダヤ人家庭に生まれる。モスクワ大学で化学を専攻。炭鉱で化学技師として働いたのち、小説を発表。独ソ戦中は従軍記者として前線から兵士に肉薄した記事を書いて全土に名を馳せる。43年、生まれ故郷の町で起きた独軍占領下のユダヤ人大虐殺により母を失う。44年、トレブリンカ絶滅収容所を取材、ホロコーストの実態を世界で最初に報道する。次第にナチとソ連の全体主義体制が本質において大差ないとの認識に達し、50年代後半から大作『人生と運命』を執筆、60年に完成。「雪どけ」期に刊行をめざすが、KGBの家宅捜索を受けて原稿は没収、「今後2-300年、発表は不可」と宣告される。「外国でもよいから出版してほしい」と遺言し、死去。80年、友人が秘匿していた原稿の写しがマイクロフィルムに収められて国外に持ち出され、スイスで出版された(仏訳83年、英訳86年、ソ連国内では88年)。

「2022年 『人生と運命 3【新装版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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