収奪の星 天然資源と貧困削減の経済学

  • みすず書房 (2012年3月19日発売)
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本 ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784622076711

感想・レビュー・書評

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  • 収奪の星―― 天然資源と貧困削減の経済学は、オックスフォードの経済学者でアフリカ研究の第一人者の筆者が、自然・資源と貧困が抱える問題をこれまでの研究成果を基にまとめたもので、アフリカや世界で何が起きているのか、それらにどう立ち向かうべきかを示してくれるという意味でおススメの良書です。

    <ポイント>
    ・自然+技術+法規=繁栄 / 自然+技術-法規=略奪 / 自然+法規-技術=飢餓
    ・自然資本の所有者は本来誰もいない ⇒ 私達は、受け継いだ自然資本又は同等の価値(経済価値)があるものを次の世代に引き継ぐ倫理的責任を負う


    【枯渇性資源】
    ・「資源の呪い」(資源富裕国ほど繁栄を享受できない)は、低いガバナンスによるもの
    ・自然資源活用の4プロセス
    ① 発見
     ・潜在的埋蔵量がもっとも多いのはアフリカ最貧国。
     ・発見プロセス(地質調査)はコスト・リスク・外部性があるため、政府主導で専門の地質調査会社に委託して行うべき。その資金手当は援助(世銀等の支援機関)が望ましい。
    ② 価値の確保
     1)賄賂の防止(国際的な圧力も活用した透明性の向上、資源会社本国での贈賄に対する罰則)
     2)情報非対称問題の解決(採掘権に対する入札制度の導入)
     3)適切な税制の設定(法人税(例:経常利益の30%)+超過利潤(レント)の90%) が必要。
     ・採掘事業の国有化も現在大流行(しかし成功例は少ない)。
    ③ 収入の使途
     ・枯渇性資源による収入は持続不可能なため、貯蓄率を通常の税収よりも高くする必要(資源豊富な低所得国は、関税と資源の二種類の収入源に依存)。
     ・資源収入は全て貯蓄?⇒先進国であればYes(例:ノルウェー):国際金融市場に投資するなど/低所得国はNo:国内インフラの資本が欠乏(この場合、国内投資のリターンが国際金融市場を上回っているという効率性が重要)
    ④ 投資の実行
     ・国内インフラ投資=開発(設備導入・構造物建設のうち後者が大半) ⇒ 建設業は鉱業に次いで贈収賄の温床であり、競争入札と汚職防止が重要
     ・アフリカでは国内投資が低調(リターン率が低いため)⇒投資機会の創出(限界リターンの高め方)
     1)公共投資の改善((費用便益分析ではなく)中所得国を手本とした大幅な拡大、都市への投資(都市人口2倍⇒都市労働者の生産性6%向上)、監視と人材の確保)
     2)民間投資の奨励(迅速な事業の参入・撤退を可能とする経済政策、構造的な援助)
     3)資本財の価格抑制(適切な土地取引の市場整備、政府建設計画策定プロセスの迅速化・非裁量化・透明性向上、建設労働者の技能訓練、輸入財の効率的な荷役設備
    ・国産財輸送のための幹線道路の整備、市場規模の拡大(近隣国と協調的な関税障壁撤廃による地域規模の市場創出))

    【再生可能な自然資産】
    ・枯渇性資源よりも枯渇する恐れが強い(大量の在庫を抱えなければならないという再生産特有の脆弱性のため)
    ・効率よく管理するための基準: 自然資産からの収穫=トータルリターン(再生産率+価格変動)が他の投資から得られるリターンと等しくなるようにすることが最も効率的
    ⇒ 捕獲の権利の割当て、取締り等により漁獲量を制限する必要。
       公海での漁業権は、国連に管理させるべき。


    【自然の負債】
    ・炭素=再生可能な自然負債
    ・炭素の排出権=免罪符の現代版(排出者は排出の罪から免れ、政府は排出権売却に伴う大金獲得)
    ・炭素排出の問題: コスト負担をなんとしても避けようという試みと出来るだけ多くの権利を勝ち取ろうとする欲望が議論を支配
    ⇒炭素を蓄積した責任や補償金の議論はやめ、自然負債をどう管理するか、に注意を払うべき
    ⇒各国政府が、炭素トン当たり40ドルの同一レートの炭素税を導入することが最も効率よく地球温暖化を解決するやり方。
    (量決め方式(国別の排出上限を決めること)は依拠できる原則がなく、非効率かつ不公平)
    ⇒アメリカ、中国、EU、日本、インドには責任ある行動をとる誘因が十分あり、それ以外の国はフリーライドする誘因を持つため、アメ(例:費用負担)とムチ(例:非協力によるペナルティ(貿易制限))の組み合わせが必要。

    【自然と飢餓】
    ・世界の食料価格は何としても引き下げる必要。そのためには、以下の3点が大事。
     1)高度な技術を駆使した大規模なアグリビジネスの拡大
     2)遺伝子組み換え作物の禁止撤廃(ヨーロッパ・アフリカ)
     3)バイオ燃料(エタノール)生産への補助金打ち切り(アメリカ)

    ⇒これらの問題に関する情報を一般市民に提供して取り組むボトムアップのアプローチの方が、トップダウン方式より有効(例:ヨーロッパやアメリカにおいては、市民が、炭素税導入や排出規制の実施を求め政府に圧力をかけ、政府はこうした提案を国家プロジェクトとして取り組んでいる)

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1000930721

  • 今となっては未発展国に多く存在する自然資源をどのように活用すればよいのかという話。そこには未来世代に対する責任も伴う。そんな有限の自然資源の益がアフリカあたりでどのように庶民からかすめ取られていくのか実例をあげて示しているところがいい。
    それとこの人は遺伝子組み換え作物に肯定的なんだけど、ここはちょっと賛成派・否定派の意見を戦わせたいところだ。

  • ダンビサ・モヨの本に記載があったコリアーの本。援助がなぜ援助国を衰退させてしまうのかが、より理解できたように思う。
    天然資源や魚についての考察も面白いというか、感覚的に考えてしまっているところが多かったので、文章にして読むと改めて考えるところがある。政府の力も重要だが下からの運動も効果があるとの指摘。

  • 三重県立図書館。
    [今週の最新刊]のコーナーに展示。目次に「第3の共同幻想---バイオ燃料ブーム」と。そこだけでも斜め読み・・・

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著者プロフィール

オックスフォードのセントアントニーズカレッジの経済学教授。世界銀行を経て、開発経済学の世界的な大家。著書The Bottom Billion(邦訳『最底辺の10億人』)は、ライオネル・ゲルバー賞、外交問題評議会のアーサー・ロス賞、コリン・プライズなどを受賞。移民問題を扱ったExodus: How Migration is Changing Our World(Oxford University Press、2013)(邦訳:『エクソダス――移民は世界をどう変えつつあるか』松本裕訳、みすず書房)も話題を呼んでいる。

「2023年 『難民 行き詰まる国際難民制度を超えて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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