- Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622076759
作品紹介・あらすじ
老化は、"徐々にせり上がる死の壁"ではなかった。「自然選択の力」が、老化のパターンを形作っていた-分野のパイオニアが研究の現場と理論の発展を活き活きと描く科学ノンフィクション+回想録。
感想・レビュー・書評
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本書は進化生物学の研究者による「老化の進化論」にかんする本であり,ショウジョウバエを用いた実験によって老化の進化論を検証していく過程を描いている。また,後半では,ヒトの老化を先送りにする可能性と医療化の実現についても触れられている。
本書によれば,老化は自然選択の力が弱まることで生じる(72頁)。より適応度を高める戦略を採用するという進化理論の考え方に従えば,生殖期を迎えるまでは自然選択の力が機能し,生殖後には自然選択の力は弱まると考えられるだろう。つまり,寿命が延びると若齢期の生産力が低下し(85頁),また若齢期の生殖が寿命を短くするのである(100頁)。キーワードは「生存と生殖のトレードオフ」(97頁)である。
ただ,本書では議論が込み入っている箇所も若干あるように感じられる。因果関係が反対に記述されているように読める部分がある(もっとも,十分に読み込めていないせいで単に私に理解できていないだけかもしれない)。
学術論文では仮説と検証が極めて論理立てて述べられており,結論を得るための苦労の道のりが書かれることは少ない。そして,いわゆる科学の啓蒙書というのは,そのような苦労譚や興味深い科学界のエピソードを交えつつ,それらの学術論文で得られた知見をわかりやすく整理して紹介したものだ。本書はそれらのサイエンス本とやや異なり,著者のプライベートな出来事の記述にも多くのページが割かれている。著者は1979年に24歳で博士号を取得したというのだからとても優秀な研究者なのだろう。私生活を犠牲にしてしまうほどに研究に熱中して打ち込む様子が本書の節々からわかる。著者は波乱に満ちた人生を送っているようだ。
現在では,多くの科学理論を誰もが当たり前のものと感じているかもしれない。しかし,それらの科学理論がその地位を獲得する背景には緻密かつ地道な実験の繰り返しがあるのである。本書を読むとそのことを実感できる。また,誰もが老化を避けることはできない。その意味で,本書はすべてのひとに身近なものである。ぜひ一度本書を読んでもらいたいと思う。おすすめの一冊である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ちょっと冗長にも感じるが、数式もなく共感しやすい話
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3
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面白いエッセイではあるのですが、専門家以外の一般読者層が知識を得るに適した本であるとは思えません
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1 スフィンクスとラビ
2 メイナード・スミスのシャツ
3 セル・ギャング
4 力
5 グーン・ショーのアインシュタイン
6 小さいメトセラたち
7 郵便配達はふたたびベルを鳴らす
8 チェシャ猫のようなコスト
9 鳥とミツバチ
10 死を招く偶然
11 金儲け欲と痩せ願望にはきりがない
12 多頭の怪物
13 ウディ・アレンとスーパーマン
14 オッペンハイマーですら
15 長い明日
16 渡し守の舟で -
http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4622076756
── マイケル・R・ローズ/熊井 ひろ美・訳《老化の進化論 ~ 小さなメトセラが寿命観を変える 20120421 みすず書房》¥ 3,150
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ショウジョウバエを実験材料とし、進化論の方法論で老化の原因に取り組んだ科学者の話。
自然選択は生殖期までに働き、進化論に基づけばそれ以降の時期には力を及ぼしにくい(よく考えると当たり前)。その仮説に基づき、長寿命のハエを高齢出産バエを代々選別することにより作り出した。
それらの作り出したハエの長寿命の要因を分析すると、耐乾燥性、耐ストレス性が高いこと。また生殖活動は、寿命と相反するファクターであるが、カロリー制限を行うと生殖活動が下がり、寿命が延びる。その背景には脂肪の蓄積と生殖活動のトレードオフがあるらしい。人間でも、去勢をすると寿命が延びるらしい。またカロリー制限も寿命を延ばすが、沖縄のような長寿地域でも2、3年程度しか効果はない。また遺伝子レベルでは数百の遺伝子が老化にはたらくため、老化をコントロールする方法は簡単ではないように思える。 -
資料番号:011464229
請求番号:491.3/ロ -
歴史をつらつら書いたり、筆者の体験をつらつら書いたりしてるだけで知りたい情報が一向に出てこず、読むのをやめた。
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最後まで読んでいないのでなんとも言えないけれど、著者が意識しているのかしていないのか、本書内では「老化を遅延させる」機構もしくは「老化しても個体を生きながらえさせる」機構の問題と、「老化を引き起こす」機構(したがって老化を現にあらしめ、それを除くことで老化をなくさせられるような機構)の問題とが混同されているように思う。
もっともそれを言うならば、そもそも「老化」の定義自体がされていない。実際にはまさしくそこが問題の核心であって、本来であれば「老化」というあきらかに多義的で多くの異なる区別されるべき現象をひとまとめにしている概念を、科学的に意味のある単位に分解してその個別について研究を行うのが筋なのであって、そこに言及せずそれどころかごまかしてさえいるような雰囲気のある本書は、科学の紹介や導入書としてみればまずい出来なのだろうと。
また本書内で頻出する進化論の比喩は、まさに比喩として読んでいるのであればよいけれど、誤解のもとになりうるのではないかと心配になってしまう。多用されている比喩は、ある生物種の個体群の世代をまたぐ全体の傾向としてあらわれる進化や形質の問題を、ある特定の世代の特定の個体の、その一生における特定の瞬間の体質や能力の問題として理解させるための罠になっている気がする。