奇跡―ミラクル― [詩集]

  • みすず書房 (2013年7月5日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (104ページ) / ISBN・EAN: 9784622077862

感想・レビュー・書評

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  • 送られてきた手づくりの句一つ。
    「三・一一神はゐないかとても小さい」
    未来はいまま、未ダ来ラヌ時だろうか。
    もう、そうではないのではないか。
    いま、目の前にある、
    小さなものすべて。
    今日という、不完全な時。
    大切なものは最上のものなのではない。
    「未来はどこにあるか」より

    長田弘さんの詩集2冊目。

    人の一日をささえているのは、
    何も、大層なものではない。
    もっと、ずっと、細やかなもの。
    祖母はよく言ったものだった。
    なもむげにすでね。
    (何ごとも無下にしない)
    「幸福の感覚」より

    きみはまず風景を慈しめよ。
    すべては、それからだ。
    「奇跡」より

    『シモーヌ・ヴェイユ』のように社会的悲哀や不条理に鋭敏な感覚と小さな日常を愛しむ姿勢に胸を打たれる。

    • コルベットさん
      まいけるさん、こんばんは。私も長田弘さんの作品をコレクションしようと思います。素敵ですね♡
      まいけるさん、こんばんは。私も長田弘さんの作品をコレクションしようと思います。素敵ですね♡
      2024/07/25
    • まいけるさん
      コルベットさん、コメントありがとうございます。
      長田弘さんの詩に込められた思いを次の世代にも伝えたいです。「何事も無下にしない』にはどきりと...
      コルベットさん、コメントありがとうございます。
      長田弘さんの詩に込められた思いを次の世代にも伝えたいです。「何事も無下にしない』にはどきりとしました。小さい頃自分が聞いた言葉が、風景が鮮やかに呼び戻されてきます。
      これからも折にふれ読んでいきたいです。
      ありがとうございます。
      2024/07/26
  • いせひでこさんとのコラボ絵本、「幼い子は微笑む」で、長田弘さんのことを知り、初めて長田さんの詩集を読むことができました。改めて、出会いに感謝。

    私の中で詩って、何か抽象的なイメージや語彙が多くて、分かりづらい印象をもっていたのですが、長田さんの詩は、わかりやすく、心に残る余韻のようなものがありました。そして、そのわかりやすさには、そっと励ましてくれるような温かさも感じられました。

    また、長田さん自身の御不幸や、東日本大震災を経ての詩集ということで、改めて、世界や人の人生、喪失の先の希望を見つめ直すような表現がいくつかあり、読んで、何度も噛みしめるうちに、思わず、平和で穏やかな自分の家の庭を眺めたくなりました。

    「未来はどこにあるか」より
    いま、目の前にある、
    小さなものすべて。
    今日という、不完全な時。
    大切なものは最上のものなのではない。

    「人の権利」より
    木立の上に、
    空があればいい。
    大きな川の上に、
    風の影があればいい。
    花と鳥と、光差す時間、
    そして、おいしい水があれば。
    僅かなもの、ささやかなものだ、
    人の生きる権利というものは。

    「ロシアの森の絵」より
    それから後の、この星の、この世界の、
    不幸は何だと思う?
    それから到来したのは、
    ゆたかでまずしい時代だった。
    わたしたちは、畏れることを忘れた。

    「徒然草と白アスパラガス」より
    不要なものを捨てる。人生はそれだけである。
    最初に「いつかは」という期限を捨てる。
    それから「ねばならない」という言い草を
    捨てる。今日という一日が残る。
    その一日を、せめて僅かな心遣りをもって、
    生きられたら、それで十分なのだと思う。

    「賀茂川の葵橋の上で」のタクシー運転手の何気ないことばから、希望の存在に気づかされます。

    「梅の開花が遅れとるようやけど、言うても、梅のことやさかい、時季がくると、それなりに、そこそこは、咲きよるけどな・・・・・・」

    「賀茂川の葵橋の上で」より
    希望というのはそういうものだと思う。
    めぐりくる季節は何をも裏切らない。
    何をも裏切らないのが、希望の本質だ。
    めぐりゆく季節が、わたし(たち)の希望だ。
    死を忘れるな。時は過ぎゆく。季節はめぐる。

    喪うものが、どんなに多くても、その日一日を、ささやかな光景に感謝しながら、おごらず、かつ、慄かずに生きていくことの大切さを教えてくれた気がします。これからの私の人生において、悩み苦しむことがある時には、読み返して、何度でも、自分自身を見つめ直そうと思いました。一生、手元に置いておきたい作品。

    「おやすみなさい セレナード」より
    おやすみなさい私たちは一人ではない
    おやすみなさい朝(あした)まで

    • たださん
      まいけるさん、こちらにもコメントをありがとうございます!

      この詩集も大分前に読んだのですが、改めて現代の私たちは、何か大事なことを忘れてい...
      まいけるさん、こちらにもコメントをありがとうございます!

      この詩集も大分前に読んだのですが、改めて現代の私たちは、何か大事なことを忘れているのではないかということを、多くの大事なものを失った後に書かれているだけに、とても沁みるものがあり、幸せとは何なのかを考えさせてくれます。
      私も久しぶりに長田さんの詩集、読みたくなりました(^_^)
      2024/07/18
    • まいけるさん
      たださん、こんにちは。
      たださんのおかげでこの詩集とも
      出会えました。
      社会的事象の奥にあるものにも
      敏感でありたい。
      そして何より「何でも...
      たださん、こんにちは。
      たださんのおかげでこの詩集とも
      出会えました。
      社会的事象の奥にあるものにも
      敏感でありたい。
      そして何より「何でも無下にしない」
      そんな教えを胸にとどめておきたいと
      思いました。
      感謝して
      2024/07/24
    • たださん
      まいけるさん、こんばんは。

      レビュー、拝読いたしました。
      改めて、長田さん自身の辛かった心境を映し出しながらも、その時代に於ける物事の本質...
      まいけるさん、こんばんは。

      レビュー、拝読いたしました。
      改めて、長田さん自身の辛かった心境を映し出しながらも、その時代に於ける物事の本質を見出していく姿、そして、それを詩人らしく詩という形で表してくれたことに、3.11後の希望のあり方を示してくれたようで、このどうしてもやり切れない悲しみがあったからこそ、大切なものに気付くことができたのかもしれないという気持ちを、これからも大事にしていきたいと思いました。
      こちらこそ読んで下さり、ありがとうございます。
      2024/07/24
  • 2013年の刊。
    「夕ぐれのうつくしい季節」という詩を読み始めて、驚きました。「えっ、これ知ってる!」と思い、頁を繰ると、やっぱり芥川龍之介の『蜜柑』でした。
    同じ話を鮮やかに切りとり、おきかえられています。
    (前略)
    空に舞う、数個の蜜柑の、
    暖かな日に染められた
    鮮やかな色と。-
    蜜柑は、空に舞って、
    瞬く間もなく、後ろへ飛び去った。
    起きたことは、ただ、それだけである。
    (中略)
    夕暮れのうつくしい季節がめぐってくると、
    芥川龍之介の夕暮れのことばを思い出す。
    ずっと、空を見上げていたくなる。
    いつまでも、日が暮れるまで。
    ほぼ百年前、汽車の窓から、
    誰とも知られない少女が投げ上げた
    鮮やかな色の蜜柑が、ばらばらと、
    希望のように、心の上に、落ちてくるまで。

    この詩を通してとても好きな芥川龍之介の短編小説が再読できたことが、大変嬉しかったです。

    • シマクマ君さん
      ぼくも最近この人のこの詩集を読みました。「希望のように、心の上に、落ちてくるまで。」
      がミソなんですよね。きっと。「蜜柑」の読み方なんでし...
      ぼくも最近この人のこの詩集を読みました。「希望のように、心の上に、落ちてくるまで。」
      がミソなんですよね。きっと。「蜜柑」の読み方なんでしょうね。長田流の。
      2019/02/10
    • まことさん
      ブログ拝見しました。
      夏目漱石大変、勉強になりました。
      ブログ拝見しました。
      夏目漱石大変、勉強になりました。
      2019/02/10
  • 今更ながら長田さんの詩集を読むのは初めてだ。シンプルだけど深い言葉のひとつひとつが、読み込むほどに、体の…細胞の奥深くまで染みわたるようだ。身近な自然の風景、ささやかな幸福。ふるさとの東北に思いを馳せ、ベルリン、ロシア、ウィーン…それらの国の歴史に思いを馳せ、時を重ねていくことの意味を考える。
    印象的な言葉はたくさんあるが、
    「悲しみは窮まるほど明るくなる。」
    この一文が深く心に刻まれた。
    うまく言葉に言い表せない、喜怒哀楽をごちゃ混ぜにしたような感情が、輪郭が曖昧なまま存在している。心に残る詩集に出会ったときはいつもそう。心が揺さぶられた証拠なのだ。
    「日々にごくありふれた、むしろささやかな光景のなかに、私(たち)にとっての、取り換えようのない人生の本質はひそんでいる。」
    これまで自分の中にあった「奇跡」の定義が、間違いなく変わる詩集。
    「幸福とは、単純な真実だ。」

  • 「青空」を描く詩人が好きだ。

     たとえば「空の青さをみつめていると」と書いた谷川俊太郎。「見よ今日もかの青空に…」と書いた啄木。

     「透き通ってゆく青磁の空が、束の間の永遠みたいに」と書いている長田弘も加えることにしようか。
    https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/201906280000/

    https://www.freeml.com/bl/12798349/1064816/

  • 長田弘さんの詩、やっぱりいい。物欲にまみれた生活が恥ずかしくなる。この詩集はベルリンなどヨーロッパの各地の風景とともに、かつてこの地で起こった悲劇に思いを馳せている。平和教育にも。

  • ささやかな生活のなかに、きらりと光るものを見つけること。

  • 『奇跡―ミラクル―』 長田弘 (みすず書房)



     「幸福とは、単純な真実だ。
     必要最小限プラス1。」

    これに、私はすっかりやられてしまったのだ。
    『人の権利』という詩の中の一節である。


    詩人の長田弘さんが、今年5月に亡くなられた。
    訃報が載った新聞で、私はこの魔法のような言葉に出会った。

    真っ直ぐな詩を書く人だ。
    シンプルな言葉で透明感のある世界を作り出す。
    読んでいると、暖かな自然光に包まれているような気持ちになる。


     「口にして、あっと思う。
     その、ほんの少しの、
     微かな、ときめき。
     あるいは、ひらめき。
     とっさに、心に落ちて、
     木洩れ陽のようにゆらめく
     何か。幼い妖精たちの、
     羽の音のような、
     どこまでも透き通った明るさ。」

          『幸福の感覚』より

    句読点が多い。
    まるで言葉が呼吸をしているようだ。

     「微かな、ときめき。
     あるいは、ひらめき。」

    立ち止まる。感じる。立ち止まる。感じる。

    そうかと思えば、

     「木洩れ陽のようにゆらめく」

    と一息で言い切ったそのすぐあと、行を変えて

     「何か。」

    変拍子でありながら、不思議なリズム感があり、引き込まれる。


    『金色の二枚の落ち葉』という詩がある。

    額に入れた二枚の落ち葉が、部屋に差し込む金色の光に輝いている。
    「わたし」は、幼い頃に聞いた「小鳥屋のおじさん」の話を思い出す。

     「万物すべて、小さな神とともに生きているんだ。
     笑いながら、小鳥屋のおじさんは言った。
     おじさんは左手がなかった。戦争に行って無くした。
     でも、あるんだよ。そう言って、おじさんは
     右手で、左手のあった場所を指さした。
     この何もないところに、いまも
     左手の小さな神がいる。」

    “何もないところにいる小さな神の存在”が、二枚の落ち葉を輝かせているのだと「わたし」は思う。
    戦争が影を落とす少し悲しい感じと、それが過去のものとなってしまった今この時の昼下がりの静けさが同居する、不思議に気持ちが落ち着く詩だ。


    『ベルリン詩篇』と題された四つのドイツの詩が独特の存在感を放っている。
    その中の、『ベルリンの本のない図書館』が心に残った。

     「ベルリン、一九三三年五月十日夜、
     空疎な精神は火に投じられなければならないと、
     そして本を自由に読むことは犯罪であると、
     二万冊の本が、ナチスの突撃隊の手で、
     集まった大勢の人びとの目の前で
     深更まで燃やしつづけられた。」

    ドイツのベーベル広場の地下にある、本棚に一冊も本がない図書館は、ナチスによる“焚書”という忌まわしい過去を反省するためのモニュメントであるそうだ。


     「雨の日、ベルリンでは、いまも
     森を歩くように、街を歩くことができる。」

          『ベルリンのベンヤミン広場にて』より

    まるでそこに住んでいるかのような気負いのない親しさと、澄んだ厳しい視線。
    詩人の目で見たドイツが、読む者の心にじかに流れ込んでくる。
    とても印象に残る詩たちだった。


     「何かを覚えることは、何かを得るということだろうか。
     違う。覚えることは、覚えて得るものよりも、
     もっとずっと、多くのものを失うことだ。
     人は、ことばを覚えて、幸福を失う。」

          『幼い子は微笑む』


     「得たものでなく、
     失ったものの総量が、
     人の人生とよばれるものの
     たぶん全部なのではないだろうか。」

          『空色の街を歩く』


     「戦争の目標は、戦闘でなく、帰郷。」

          『Home Sweet Home』


     「深い直感をもって、日々を丁寧に生きる」

          『ときどきハイネのことばを思いだす』


    あとがきで、作者の長田さんはこう書いている。

    「日々にごくありふれた、むしろささやかな光景のなかに、わたし(たち)にとっての、取り換えようのない人生の本質はひそんでいる。それが、物言わぬものらの声が、わたしにおしえてくれた『奇跡』の定義だ。」


    「ありふれた」「ささやかな」、こんな言葉がしみじみ沁みるのは、自分が歳をとったせいだろうか。


    表題作『奇跡―ミラクル―』の最後は、こう結ばれている。

     「きみはまず風景を慈しめよ。
     すべては、それからだ。」


    風景を慈しみ、私の“プラス1”が何かを考えてみる。

    何もないところにある何かを感じる心の目が、詩人の言う“ミラクル”なのだ。

  • 初めて読んだ長田弘の本が「ねこに未来はない」だったのですが、その中で当り前のように猫を飼うと仰言る奥様のファンでした―――合掌。。。

    みすず書房のPR
    「「ただここに在るだけで、自分のすべてを、損なうことなく、みずから/みごとに生きられるということの/なんという、花の木たちの奇跡(ミラクル)」今春の讀賣新聞紙上を飾った表題作は、春彼岸を前にした透明な心境を歌っている。長年連れ添った妻を亡くし、大震災で心の故郷を失い、大きな手術をした詩人は、「心に親しい死者たち」を思う。再訪したベルリン、ウィーンの町で20世紀を悼む詩篇をはじめ、日々の営みを優しく丁寧に感じ取る数々のポエムは、ファンのみならず、中高年には自身のありようを見つめなおす機会を、若い人には安心を与えるだろう。 」

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      長田弘 NHK「視点・論点」出演

      2013年7月10日(水) 放送のNHK「視点・論点」に、詩人・長田弘氏が出演されます。「季節とともに考...
      長田弘 NHK「視点・論点」出演

      2013年7月10日(水) 放送のNHK「視点・論点」に、詩人・長田弘氏が出演されます。「季節とともに考える」をテーマに、今月刊行されたばかりの詩集『奇跡―ミラクル―』からの詩の朗読もあるようです。放送予定はNHK総合で早朝4:20から、Eテレでは13:50からのそれぞれ10分間です。
      http://www.msz.co.jp/news/event/
      2013/07/09
  • ”何がなくていいか、それが、人生の
     たぶんすべてだと。それは本当だった。”

    ”もしも誰かに、平和とは何か訊かれたら、
     秋のうつくしさ、と答えたい”

  • 詩集。書くとはじぶんに呼びかける声、呼び止める声を書き留めて言葉にするということである。物言わぬものらの声。幼い子は微笑む。ベルリンはささやいた。夏の午後、ことばについて。未来はどこにあるか。

    書かれていても読み取れないのに、書かれていないところをどこまで読み取れるか。私には、なかなか難度が高いです。

  • P6 幼い子は微笑む
    P31 空色の街を歩く
    P48 幸福の感覚
    が印象的

    “奇跡”について書かれたあと書きに、
    すべてが集約されていると思う。

  • ナチスドイツ時代のベルリンでのユダヤ人についての詩もある。

    幸福ってなんだろう?

    生きてることも奇跡なんだろうな

  • 自分が読んだ長田さんの作品の中で、一番難解だった。最初の「幼い子は微笑む」が一番印象に残っている。

    ー「この世で人が最初に覚えることばではないことばが、微笑だ」

    ー「人は、ことばを覚えて、幸福を失う」

    大人になればなるほど、言葉を覚える。
    それと引き換えに、最も幸福な「微笑」からははなれていく。そのような意味だろうか。

    いつしか仏教の本かなにかで、
    「微笑みをだせるのは、すごく尊い」みたいなニュアンスの言葉があった。
    なにかつながりがあるのかな?

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著者プロフィール

福島県出身。詩人、児童文学作家、文芸評論家、翻訳家、随筆家。1960年、安保闘争で社会が大きく揺れている最中、早稲田大学の学生の時に「詩は書かれざる哲学を書くこと」と詩作を始める。1965年に詩集『われら新鮮な旅人』でデビューし、その後、『深呼吸の必要』(1984年)、『世界は一冊の本』(1994年)などで読者層を広げ、詩人として第一線で活躍し続けた。世界各地を旅して見聞を広め、人間の根源的な生き方について思索を深めた。その一方で、NHKの『視点論点』への出演や随筆集の執筆など、評論の分野でも活躍し、ほかにも『たべもの新世紀』『クローズアップ現代 2004年を読む アメリカ 超大国の不安』などに出演した。

「2025年 『混声合唱とピアノのための組曲 樹と人とはじまりのために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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