ファビアン――あるモラリストの物語

著者 : エーリヒ・ケストナー 丘沢静也

• みすず書房 (2014年11月26日発売)

作品紹介・あらすじ

ナチスの政権掌握の前夜、退廃的な空気に覆われたベルリン。「顔はあるが、頭のない」人間があふれる思考停止の時代を、詩情と皮肉、辛辣なユーモアをまじえつつ描く。ケストナーが残した唯一の大人向け長編小説にして最高傑作の呼び声高い埋もれた名作が、初版刊行時に削除された章とまえがき、あとがきを収めた完全版で登場。

感想・レビュー・書評

[帆掛船さんの感想 · 2023年9月7日]

　ファビアンは二十マルク札をポケットに突っこんだ。今、母親は列車に乗っている。まもなく、ファビアンがハンドバッグに押し込んだ別の二十マルク札を見つけるに違いない。数学的に考えれば、プラス・マイナス、ゼロだ。ふたりとも所有金額は以前と変わりがないのだから。しかし心優しい行為は取り消されることがない。道徳の方程式は、算術の方程式とは別の道を歩いている。

……児童文学で知られたケストナーの唯一の大人向け長編小説と知り、購入した。舞台は1930年、末期のワイマール共和国。将来への希望が持ち難い、閉塞感漂う時代背景は現在のそれとも重なる。何の救いも無いような話だが、ファビアンと母親との上記エピソードは、どんな時代でも人が人を想う優しさは変わらず尊いという事を伝えているようにも思う。

[ヴェロニクさんの感想 · 2015年1月26日]

元々の文章なのか、翻訳の力か、登場人物のやり取りや、ちょっとした場面が洒脱でして、これまで読んだミステリ以外の翻訳小説（あまり読んでない）で、一番面白かったんですわ。微かにもえつつ。ナチス台頭前のドイツですが、ほんと現代日本の閉塞感にも通じる…え、ちょっとはやったりしないかな、と思いました。作者は児童文学の人と思っていたので、驚きです。児童文学の方もちゃんと読んだことないのですが・・。

[奈良女子大学学術情報センターさんの感想 · 2023年7月19日]

↓貸出状況確認はこちら↓
https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00217353

[摂南大学図書館寝屋川本館さんの感想 · 2022年6月15日]

2022年6月映画化
摂南大学図書館OPACへ⇒
https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99416118

[ルビイさんの感想 · 2021年3月27日]

ケストナーに大人向けの本があると知ったので探してみた。（「大きなケストナーの本」を読んだ後にこれを読んだ）

社会の雲行きの悪さ、風俗サロンなどの描写、恋、突然の失業、親友の死、最後には主人公があっけなく死ぬ。暗く空しく苦しいが、子どもの本と同じような優しさや正しさが根底にあって、やはりケストナーらしかった。

公開焚書で、本人はこの本が燃やされるのを見ていたという。そんな時代背景に対してどれほどの内容なのかと読む前には思っていた。

しかし読み始めると面白いし一寸洒落た感じもするし、結局はその辺はあまり考えずどんどん読み進んだ。
まるでどこかの国の今のお話のようだ。

こんな息苦しい時代に、今、読んでほしいと思える本だった。もっと目に触れやすく手に取りやすいところにあるとよいのに。

[qbmnkさんの感想 · 2017年12月7日]

1930年頃のベルリンの物語なのに現代の東京の話かと錯覚する描写も多い。無為な時間を過ごすモラリストを主人公にした、退廃的な両大戦間ドイツの若者〜中年の人々の話。親友、母親、恋人、一夜の相手、金持ち、失業者など、さまざまな立場にある主人公の周りの人たちがそれぞれ悩みながら行動し、影響を与え合うのが簡潔な文章で書かれている。絶望の虚妄なること希望に相同じい、という文章を思い出した。あちこち抜き書きしたくなった。

[rakukoさんの感想 · 2015年1月25日]

３分の１ほど読了。

[猫丸(nyancomaru)さんの感想 · 2014年11月7日]

復刊ドットコムによると、「ナチスの政権掌握の前夜、退廃的な空気に覆われたベルリン。「顔はあるが、頭のない」人間があふれる思考停止の時代を、詩情と皮肉、辛辣なユーモアをまじえつつ描く。
ケストナーが残した唯一の大人向け長編小説にして最高傑作の呼び声高い埋もれた名作が、初版刊行時に削除された章とまえがき、あとがきを収めた完全版で登場。 」
http://www.fukkan.com/fk/CartSearchDetail?i_no=68323341

みすず書房のPR
「『エミールと探偵たち』はじめ数々の児童文学が各国で愛され、読み継がれるケストナーの唯一の大人向け長編。日本初の完全版。」

[猫丸(nyancomaru)さん · 2022/05/31]

映画「さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について」オンラインアフタートーク付き試写会に、好書好日メルマガ読者をご招待｜好書好日
https://book.asahi.com/article/14620251