これを聴け

  • みすず書房
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本棚登録 : 73
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (488ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622079392

感想・レビュー・書評

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  • この著者の『20世紀を語る音楽』はまだ読んでないのだが、1巻もので評論集が出たので、先にこれを読んでみた。
    私自身が作曲なんぞやっていて、音楽について独断的な考えを持っているせいなのか、どうも音楽関連の書物ではあんまり感心することがない。けれども、この本はとても面白かったと思う。
    モーツァルト、シューベルト、ヴェルディ、ケージ、J.L.アダムス、ブラームスといった作曲家のあいまを縫うように、レディオヘッド、ビョーク、ボブ・ディランなどの項目も並んでいる。
    著者はこうした配列を可能とする音楽観として、iPodのシャッフル機能を挙げている。私はシャッフル機能は全然使わないが、主にネットで、YouTubeなんかで音楽を渉猟して歩いている人々にとっては、このようなポストモダン的な音楽観が自然になってきているかもしれない。
    私自身もリスナーとしてはかなり雑食性で、レディオヘッドやビョークはもちろん、ポップからインドやアフリカの伝承音楽、純邦楽なども同じように愛聴するマルチ性(共時態)の時代の感性を持ち合わせている。
    自分のことを言うと、そうした広範なリスニング体験の中から自分好みのものに狙いを定めて作曲を始め、その数年後からはいろいろと音楽について思索を重ねた結果、「自由」を求めて「現代音楽」に到達した。
    けれどもこの最終的な「自由としての現代音楽」は、どうやら日本の音大芸大では当然の「現代音楽」とはまったくちがうらしい。私から見ればそこにはあまり「自由」はなさそうなのだが、彼らから見れば私の音楽は因習的で「甘い」のかもしれない。
    音楽創作における「自由」とは何だろう? ということを、改めて思い悩んでいるところだ。自分では自由なつもりでも、決定論的に外部からの作用を受けて模造的な作品を書いているだけなのかもしれず、それはちょっと即興演奏をやってみれば、自分がいかに「自由でない」かがわかるのだ。
    さて本書を通読してみると、音楽聴取の輝かしい「自由」が照り渡っているようで、まぶしいようだった。
    そしてどの項目も生半可なエッセイではなく、精確な調査・知識に基づいて書かれた立派な評論だ。観点が鋭い。
    中でも「にわかクラシックブーム」の状態にある中国音楽のシーンの描写は興味深かった。
    シュトックハウゼンを愛好し、クラシック系の前衛音楽にも詳しいらしいビョークの項目も楽しい。確かにビョークの音作り、音選びには、「現代音楽」的な着想がときおり現れるので、以前から好きだった。もっとも、彼女自身の歌声と旋律線に関しては、私はさほど好きではないのだが。
    ポストモダン的な「自由」はともすれば人を単に孤独な「根無し草」にしてしまう恐れもある(作曲者としての私自身もそうなっている)。しかし本書の幸福な「自由」は、常に音楽への愛情に根付いているから、軽薄さのかけらもない。
    邦訳に当たっては分量の関係で3つの章が割愛されてしまっており、そこではセシル・テイラーやカート・コバーンなどにも触れられていたらしいのが非常に残念だ。ムリをしてでも完訳してほしかった。

  • かつては日本には、吉田秀和という音楽評論の書き手がいたが、それ以降は個人的には渡辺裕、片山杜秀のお二人くらいしか印象に残る書き手がいなかった。特に、昨今の新聞等で読む音楽評論は、演奏家の太鼓持ちのような記事ばかりで、まともに読もうという気にもならなかった
    そんなときにこの本である。
    アレックス・ロスが『20世紀を語る音楽』の著者であることは知っていた。この本は著者とタイトルに惹かれて、中身も見ずにネットで購入したのだが、クラシック音楽ばかりが紹介されていると思いきや、ロックバンドの紹介あり、ボブ・ディランまで言及されていることにいささかびっくり。
    その幅広い取材には、著者独特の綿密な考察が記されており、どの章もたいへん興味深く読むことができた。特に、ビョークについては、すぐにCDを買い求めて聴いてみたのだが、アイスランドを吹き渡る風が聞こえてくるような気がした。また、ロレイン・ハント・リーバーソンについての美しい追悼の章にも心を打たれた。
    こういう音楽評論の書き手は世界にもなかなかいないのではなかろうか。でも、こういう音楽評論が読みたいのだ。

著者プロフィール

●アレックス・ロス[画]……1970年生まれ。あくまでもリアルな画風で見る者を圧倒する、現代のアメコミ界を代表する人気アーティスト。

「2013年 『マーベルズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アレックス・ロスの作品

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