中国安全保障全史――万里の長城と無人の要塞

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622079569

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  • 20年前に刊行された、米国コロンビア大教授らによる中国外交研究書の改訂版。中国成立以降の安全保障政策を、中国の政策立案者の立場から読み解こうとする試みを、今や大国に登り詰めた中国を巡る現下の情勢を織り込んでアップデートしている。歴史・文化・地理的アプローチに始まり、権力構造に触れた後、米国やロシアとの三国間関係を皮切りに中国を中心に同心円上に広がっていく外交関係の輪に沿って、詳細な解説が積み重ねられて行く。

    米国人ならではの本国びいきが随所に見られるのはご愛嬌。しかし、一般には予測し難いと言われる中国の各種政策が、むしろ多元的な意志決定プロセスを持つ米国のそれよりも首尾一貫性に富んでいるとの指摘は新鮮だ。中国は自身を不安定な国家であると考えており、この脆弱性を克服することこそが彼らの徹頭徹尾たる第一原則だ、というのだ。そしてその背後には、近代以降に受けた西洋による搾取についての抜き難い記憶と不信感があると指摘している。

    有史以来、辺境を異民族や他国家に侵されてきた中国にとって、周縁部における他勢力のプレゼンス増大こそが最も避けるべき事態(米国と対照的に、中国は国境を接しない遠方での経済分野以外の影響力増大には殆ど興味を示していない)。これを前提にするなら、米国の覇権をベースに作られた現在の国際政治経済上のルールを受け入れ、米国の影響力に拮抗しながら、統一朝鮮や日本インド等、潜在的脅威を現状維持に封じ込めておくのが中国の "the least worst option" だ。この中国政策立案者の「現実主義」こそが、米国にないものとして著者らが最も注目した点であると言える。

    無論、目下進行中の「第二次北朝鮮核危機」はこの戦略にとって極めて大きな攪乱要因であり、中国にとって隣接国と米国の緊張亢進は歓迎すべき事態ではない。日本や韓国が適正な対価を支払わないまま、北東アジアに安全保障の負担を強いられ続けることを、米国は最早フェアでないと考えるかもしれない。米国のプレゼンスが低下したら、北朝鮮が今まで通り中国の友好国でいる保証はない。北朝鮮に最も影響力を行使できる国家とは言え、今後中国が難しい舵取りを強いられることはこの本を読めば容易に理解できる。

    2段組で300ページ超。内容が硬い上、決してこなれた訳とも言えず、読みにくいのが最大の難点だが、中国を巡る諸問題の再整理に役立った。

著者プロフィール

コロンビア大学政治学教授。専門は、中国の政治・外交政策、および政治参加、政治文化、人権の比較研究。中国の対外政策と、アジアにおける政治的正当性の源泉について、長期にわたり研究、執筆している。コロンビア大学では、人権研究センターの運営委員会議長、モーニングサイド研究倫理委員会議長も務める。2003-2006年には政治学部長ほか要職を歴任。学外でも、ヒューマン・ライツ・イン・チャイナの理事、フリーダム・ハウスの理事、また1995-2000年にはヒューマン・ライツ・ウォッチ・アジアの諮問委員会議長を務める。『フォーリン・アフェアーズ』誌等への寄稿多数。著書『中国権力者たちの身上調書』(阪急コミュニケーションズ、2004)『天安門文書』(文藝春秋、2001)『中国安全保障全史』(共著、みすず書房、2016)ほか。

「2016年 『中国安全保障全史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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