磁力と重力の発見〈1〉古代・中世

著者 :
  • みすず書房
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レビュー : 37
  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622080312

作品紹介・あらすじ

「遠隔力」の概念が、近代物理学の扉を開いた。古代ギリシャからニュートンとクーロンにいたる科学史空白の一千年余を解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 現代の物理学において力という概念は四つに分類できると知り、その中二っぽさすら感じる統一理論に興奮したものだが、その四つを目の当たりにしてまず不思議に思ったのは、「人間が物を押す力はどれ?」ということだった。

    触れていないのに生じる力についての説明ほど、その人の世界に対する見方を示すものはない。それを古来から示してきたのが、試金石ならぬ魔法の石、磁石だ。

    目に見えない力が現実に存在するというのに、どうして神や精霊の実在性を疑うことができようか。
    だがそんな時代にあってすら、磁力を説明しようと試みた傑物たちがいた。

    物理現象に対する論理的な説明の開祖であるタレスやアリストテレスは、磁力を霊的なものと見なし、近代の原子論を紀元前に構築したエピクロスやルクレティウスは、磁石から放出される原子流が空気を打ち払って真空をつくり、鉄を引き込むと説明した。
    医学思想を伝承したガレノスやアレクサンドロスは、親近性のある質を引きつける生物的な性質と考えた。
    その後、哲学と科学が衰退したローマにおいて原因と結果の探究は失われ、ディオスコリデスやプリニウスらの博物誌にて魔術的な力として記されるに留まり、以後のキリスト教信仰の時代につながることとなる。
    中世の長い間を通して、磁石は魔術的で心霊的な研究とのみ関わりを持っていたが、トマス・アクィナス、ペトロス・ペトグレス、ロジャー・ベーコンらによって指向性と極が明らかにされたところから、ついに天体の力と見えない力が結びつくこととなる。

    この磁力と重力が天体を介して結びつく本題は第3巻から。
    本巻および次巻では、魔術や錬金術などの側面ばかりが取り上げられる中近末期以降について、磁力に対する理解を焦点に、科学に対する視座を読み解く。

    歴史の横道に入るのが大好きな人にとっては、時代背景どころか対象の生い立ちにまで詳細に立ち入る語り口を存分に楽しめるが、そうでない人にとっては、なかなか本筋に入らないことに焦らされるかもしれない。

    だが、そもそも歴史に結論などあるはずもなく。
    今の時代に筆者の目線から見た過去がどう物語をつむぐのか。
    それに共感するには、同じ景色を見る以外の方法はない。

    歴史から何かを得ようとするのではなく、ただ歴史を眺めることを楽しめる人にとっては、これ以上の一冊はないと言えるだろう。

  • こういう本を書きたい

    こういう科学史を書かずにおれなかった気持ちがとてもわかる
    こういうつながりをこそみたい!というのがみえて嬉しいと同時にちゃんとつながってて嬉しい

    続きが楽しみ

  • YY3a

  • サイエンス
    歴史

  • 近代物理学はなぜヨーロッパに生まれたのか?物理学のキー概念である”力”、なかんづく直観的には説明しがたい遠隔作用である万有引力および磁力の発見過程を追う。

    第1巻はまず磁気の話から

    古代ギリシャからヘレニズムにかけては、知られている限りでは紀元前6世紀のタレス以降、磁石(磁力)や琥珀(摩擦による静電気力)の力への説明がいくつか試みられていた。アプローチは大きく2つのパターンに分けられる。

    1.目に見えない物質の流れを想定して、力の近接作用へと還元する;原子論のほか、プラトン、プルタルコスらのミクロ機械論的説明

    2.磁力をそれ以上に説明不能な霊的で生命的な遠隔作用と見る;タレス、アリストテレスらの霊的論、ガレノスアレクサンドロスらの生理的磁力観

    磁石が鉄を引きつけるのであってその逆ではないとしてみたり、磁石同士の引力・斥力に触れられていなかったり、まだ観察が十分でない節もある。きれいにN・S極が塗り分けられた磁石じゃないのだから仕方がないが。また指北性も知られていなかったようだ。

    磁力を説明しようとする試みはもとより、磁石に対する科学的な観察すらも、その後のローマ時代から中世にかけては失われてしまう。しかし磁力の不思議自体は、注目され続ける。

    ローマにおいてはギリシャ哲学・科学の論理性・合理性は失われていった。ギリシャ文化は当時の知識人のファッション的な位置づけで、没論理的な雑多な知識の寄せ集めがもてはやされるだけだった。ただ、博物学的な大著はあった。

    ディオスコリデス『薬物誌』;中世を越えて近代初頭まで伝わった。「原因」についての思弁は見当たらず実用性重視のマニュアル本。かなり直接の観察に依拠しており、薬草学の優れた集大成であった。しかし、磁石については土俗(ギリシャ時代にも庶民レベルには書き残されぬまでも迷信はたくさんあったろう)やオリエント由来の迷信に彩られた怪しい記述。婦人の貞操を見破るやら。。。

    プリニウス『博物誌』;火山噴火で死んだ大プリニウス。想像と実証の境目がなくて玉石混交。だがこれも近代初頭まで影響を及ぼした。磁石の力を「共感と反感」みたいに擬人化。ダイヤが磁力をさえぎるとか迷信たっぷり。

    ローマ時代の、生物態的、生理的・超自然的な能力を持つ磁石観は中世へ引き継がれる。中世=キリスト教世界だが、ベースはゲルマン等の土着文化が根強く残る。

    アウグスティヌス『神の国』;信仰第一。知的好奇心を「肉の欲」とならぶ「目の欲」として否定する。学問は神の奇蹟を知るための目的に限定する。もちろん磁石も神の奇蹟の証に他ならないということで終了。

    キリスト教では自然科学理論が不在、よって旧来の科学や民間伝承を無視できず。特に医療。病の苦しみは神の与えた試練だから我慢しなさいと。やせ細ってしまったギリシャ文明から伝わる医学より、土着の呪術的医療が幅を利かす。磁石の不思議はその呪術的医療に取り込まれる。魔術的実践にキリスト教の衣をまとわせる折衷。12世紀の民俗的自然観を伝えるビンゲンのヒルデガルド。

    宝石や磁石の魔術的な力については、大アルベルトゥスら当時の知識人も無批判に公言していた。(誤ったテキストが根強く流布していく様が興味深くはある)

    13世紀に中世ヨーロッパは転換を迎える。
    ・イベリア、シチリアのムスリムからの奪回
    ・水車、農機具など技術的発展
    ・パリの高等法院、イギリスの議会・・・近代国家の機構ができ始める
    ・イスラム、ビザンツ経由でのアリストテレス再発見
    ・都市化、大学、托鉢修道会(世俗とかかわる)

    イスラム統治下の先端地域であるパレルモ、コルドバ・・・パリやロンドンより大きい
    「啓典の民」は税さえおさめれば保護を受けていた。

    この頃、磁針の指北性はすでに船乗りたちに活用されていた。

    シチリア王国のフリードリヒ2世 最初の絶対王政
    アヴェスロスの二重真理説をベースに、イスラム文化を取り入れて学芸を奨励。

    トマス・アクィナス
     アリストテレスとキリスト教の折り合いをアクロバティックにつける。ご存知スコラ哲学。死後、一度は保守派から異端扱いされるが復権し、スコラ哲学は中世ヨーロッパの精神世界を席巻する。
     トマスにおいて磁力の性質を解き明かそうとする態度が古代ギリシャ以来で復活したと言える。しかし自然観察や実験というものはない。あくまで一般的な原理からの演繹。

    ロジャー・ベーコン
     キリスト教世界が広大かつ優れた文明を持つ異教徒の世界に取り囲まれている自覚の下に、信仰なき者たちを説得する共通の根拠として哲学を唱える。あくまで神学優先であるが、(広義の)哲学における経験学を唱えた。しかもアリストテレスと違って数学を重視した。
     しかし自然の理解についてはアリストテレスの枠を出なかった。磁石を手にとって実験はしなかったのだろうか。「形象の増殖」なる理屈で近接作用をベースに磁力を説明しようとした。

    ペトロス・ペレグリヌス
     神学と無関係に、実用的な見地からの実験で磁石の性質を明らかにした。球形磁石を作成して(形を等方的にするので磁力の性質だけを抽出できる)磁極の性質を実験。近代的な自然科学研究の嚆矢。『磁気書簡』は永久機関を求めて書かれていた。
     ただし天動説の世界観からは地球が磁石であることまでは気づけず、磁力の源は天球の極に求めた。また東西方向にも弱い磁力があると思っていた。
     経歴は十分に明らかでないが、手作業(中世では蔑まれる)の重要性を認識する町人気質。従軍などによりイスラムの文明に接していたと思われる。いままで教会が独占していた知的活動が、技術革新などによる生産力の高まりで町人層にも可能になった社会背景。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:423.02||Y||1
    資料ID:50301431

  • 山口先生がこの本についていて話していたことを思い出して購入。

  • 140621 中央図書館
    カリスマ予備校講師にして全共闘闘士であり、有名な理論物理学テキストの著者であり、なにより自己の思考に忠実なインテリとして有名らしい著者による物理の歴史シリーズだ。『熱学思想の史的展開』で目に見えない熱量やエントロピーの概念の発達を、また近作の『世界の見方の転換』では広くいえば「宇宙」を認識する歴史をテーマとして扱っているが、本作では、この世の理を支配する遠隔作用のうち、磁力と重力について、人間はどのように認識を深めてきたか、が明晰に描かれている。
    とはいえ、とにかく細かいことがいっぱい書いてあるな。どんだけ勉強しているのか、と思う。こういう本なら文系の人も、ツボにヒットすれば読めるだろうから、出版するほうとしては理にかなっているのであろうが、理系の人が読む価値はあるかな?

  • 東大京大教授が薦めるリスト100選抜

    No.45

  • 情報量の時代では、何かを説明する際にWikipediaは即時接触的な道で繋がっていく有能なツールであるが、すっぽりと抜け落ちた歴史観を補うことは難しい。歴史観とは簡単にいうと思想的修正の果ての個人的な思い込みなのだが、それが聞きたいことなのだ。物理については門外なのでわかりませんが、著者の思い入れが感じられて、時に人間臭く、時に下世話で、居酒屋で先輩の与太話を聞いてるような良本。

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著者プロフィール

1941年、大阪に生まれる。1964年東京大学理学部物理学科卒業。同大学大学院博士課程中退。現在 学校法人駿台予備学校勤務。

「2019年 『現代物理学における決定論と非決定論 [改訳新版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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