- Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622080312
作品紹介・あらすじ
「遠隔力」の概念が、近代物理学の扉を開いた。古代ギリシャからニュートンとクーロンにいたる科学史空白の一千年余を解き明かす。
感想・レビュー・書評
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古代ギリシャからルネサンスの手前までの磁力の捉え方を、文献を詳細に読み込んで書かれている。
とにかく面白い。
不可思議な魔術や、神秘的、迷信的に捉えられていた磁力が、少しずつあらわになってくる。
プラトン、アリストテレス、
ルクレチウス、プリニウス、アウグスティヌス、トマス・アクィナス、ロジャー・ベーコン、ペレグリヌスたちの考えたことが目の前で生き生きと再現されていて、まるでその時代の雰囲気に包まれるような錯覚に陥いる。
さすが名著と言われるだけの事はある。
続きは後二冊ある。
楽しみ!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1巻目をやっと読み終える。
読みづらい本ではあるが内容は非常に面白い。
焦らずに全3巻を気長に読む予定。 -
現代の物理学において力という概念は四つに分類できると知り、その中二っぽさすら感じる統一理論に興奮したものだが、その四つを目の当たりにしてまず不思議に思ったのは、「人間が物を押す力はどれ?」ということだった。
触れていないのに生じる力についての説明ほど、その人の世界に対する見方を示すものはない。それを古来から示してきたのが、試金石ならぬ魔法の石、磁石だ。
目に見えない力が現実に存在するというのに、どうして神や精霊の実在性を疑うことができようか。
だがそんな時代にあってすら、磁力を説明しようと試みた傑物たちがいた。
物理現象に対する論理的な説明の開祖であるタレスやアリストテレスは、磁力を霊的なものと見なし、近代の原子論を紀元前に構築したエピクロスやルクレティウスは、磁石から放出される原子流が空気を打ち払って真空をつくり、鉄を引き込むと説明した。
医学思想を伝承したガレノスやアレクサンドロスは、親近性のある質を引きつける生物的な性質と考えた。
その後、哲学と科学が衰退したローマにおいて原因と結果の探究は失われ、ディオスコリデスやプリニウスらの博物誌にて魔術的な力として記されるに留まり、以後のキリスト教信仰の時代につながることとなる。
中世の長い間を通して、磁石は魔術的で心霊的な研究とのみ関わりを持っていたが、トマス・アクィナス、ペトロス・ペトグレス、ロジャー・ベーコンらによって指向性と極が明らかにされたところから、ついに天体の力と見えない力が結びつくこととなる。
この磁力と重力が天体を介して結びつく本題は第3巻から。
本巻および次巻では、魔術や錬金術などの側面ばかりが取り上げられる中近末期以降について、磁力に対する理解を焦点に、科学に対する視座を読み解く。
歴史の横道に入るのが大好きな人にとっては、時代背景どころか対象の生い立ちにまで詳細に立ち入る語り口を存分に楽しめるが、そうでない人にとっては、なかなか本筋に入らないことに焦らされるかもしれない。
だが、そもそも歴史に結論などあるはずもなく。
今の時代に筆者の目線から見た過去がどう物語をつむぐのか。
それに共感するには、同じ景色を見る以外の方法はない。
歴史から何かを得ようとするのではなく、ただ歴史を眺めることを楽しめる人にとっては、これ以上の一冊はないと言えるだろう。 -
東大京大教授が薦めるリスト100選抜
No.45 -
物理の発祥が外国であり、日本はいまだにその恩恵に預っている。物理記号、数学記号がアルファベット、ギリシャ文字を未だに世界中で使っているのが、何よりの証拠。
僕は高校物理が苦痛だった。
高校数学も苦痛だった。
理由なく、3次元座標軸、XYZ軸とかか?ABC軸でも良いじゃない?とか僕はちょっとでも理由・ワケのわからない事には、拒否感を出していた。
理由は、小学校の時に「担任の教員が、自作自演の窃盗事件で指紋を僕から押収したことが遠因である」。。。
教員と名が付く奴らに、これ以上僕の人生を捏造されるのは小学生で終わりにしたい、という考えから、中高大学生の期間は、ロクに勉強しなかった。結果中退をせざるを得なかった。良い教員、まともな教員に恵まれている学生は幸せである。
僕のように、教員にすら目を付けられてしまったような学生、子供、生徒は、社会不安や、勉強のやる意味すら解らなくなっていると思う。
しかし、今はインターネットがある。なぜ数学では多く円は、「円C」と書かれるかがちゃんとググれば掲載されている。Circleの頭文字Cである。英語でググってみる手段は、数学記号の由縁・由来がわかり、僕と同じく社会不安、教員全般に対して不信感を今だ捨てられないヒトにはとてもよいツールであり、捗る。
けど、この「磁力と重力の発見」シリーズは、その発見の経緯を、哲学と宗教と歴史(世界史)を交えて解説してくれる。
ただ、単に、「勉強は義務だからやる」と諦めて日々ヒーヒー言いながら苦学している人にこそ、「磁力と重力の発見」は、是非読んでもらいたい良書です。
駿台予備校の教員として、「新・物理入門」という駿台文庫から参考書を出しておられる山本義隆氏。
新・物理入門は、「微分積分で、物理を解説してしまう」ハイレベルな駿台生徒向けの超難解参考書でありますが、山本義隆氏が、こういった文系寄りな本も書けるのが凄いと僕は感じました。https://study-for.com/study-for/24863/も読みましたが、激しく同意しました。 -
序文
第一章 磁気学の始まり——古代ギリシャ
1 磁力のはじめての「説明」
2 プラトンと『ティマイオス』
3 プラトンとプルタルコスによる磁力の「説明」
4 アリストテレスの自然学
5 テオプラストスとその後のアリストテレス主義
第二章 ヘレニズムの時代
1 エピクロスと原子論
2 ルクレティウスと原子論
3 ルクレティウスによる磁力の「説明」
4 ガレノスと「自然の諸機能」
5 磁力の原因をめぐる論争
6 アプロディシアスのアレクサンドロス
第三章 ローマ帝国の時代
1 アイリアノスとローマの科学
2 ディオスコリデスの『薬物誌』
3 プリニウスの『博物誌』
4 磁力の生物態的理解
5 自然界の「共感」と「反感」
6 クラウディアヌスとアイリアノス
第四章 中世キリスト教世界
1 アウグスティヌスと『神の国』
2 自然物にそなわる「力」
3 キリスト教における医学理論の不在
4 マルボドゥスの『石について』
5 ビンゲンのヒルデガルト
6 大アルベルトゥスの『鉱物の書』
第五章 中世社会の転換と磁石の指向性の発見
1 中世社会の転換
2 古代哲学の発見と翻訳
3 航海用コンパスの使用のはじまり
4 磁石の指向性の発見
5 マイケル・スコットとフリードリヒ二世
第六章 トマス・アクィナスの磁力理解
1 キリスト教社会における知の構造
2 アリストテレスと自然の発見
3 聖トマス・アクィナス
4 アリストテレスの因果性の図式
5 トマス・アクィナスと磁力
6 磁石に対する天の影響
第七章 ロジャー・ベーコンと磁力の伝播
1 ロジャー・ベーコンの基本的スタンス
2 ベーコンにおける数学と経験
3 ロバート・グロステスト
4 ベーコンにおける「形象の増殖」
5 近接作用としての磁力の伝播
第八章 ペトロス・ペレグリヌスと『磁気書簡』
1 磁石の極性の発見
2 磁力をめぐる考察
3 ペレグリヌスの方法と目的
4 『磁気書簡』登場の社会的背景
5 サンタマンのジャン
注 -
1巻は古代ギリシャから13世紀トマスやロジャー・ベーコンあたりまでなので、思想史に近い。
遠隔力という直感的に把握しづらい現象を前にしたとき、それをどう理解するかのかによって、その時代、その人の世界感が浮き彫りにされる。
ローマに入ってよりキリスト教中世期では、現象の原理を探ろうとすること自体が悪徳であるという倫理観が広がり、科学はほぼ完全に停滞してしまうが、より発展したイスラムとの交渉が増え、12,3世紀、アヴェロエスの注釈とともにアリストテレスの再発見があって後、自然認識の転機を迎える。特に、シチリアのフリードリヒ二世によるパトロネージュは大きな後押しになったという。
1巻最後の3章で紹介される3巨人、トマス・アクィナス、ロジャー・ベーコン、ペトロス・ペリグリヌスによって、時代の限界はあるものの、近代的な自然認識方法がある程度先取りされるが、この後また停滞の時代を迎えてしまうようだ。
磁石が鉄をひきつける性質は早くから知られていたが、北を向く指向性は船乗りの中で秘匿されていたのでいつ頃発見されたかは明確ではないが、はっきり書物に記載がみられるのは12世紀まで下るらしい。中国では10世紀に沈括が記しているが、これとは独立に発見したのでは、ということだ。 -
こういう本を書きたい
こういう科学史を書かずにおれなかった気持ちがとてもわかる
こういうつながりをこそみたい!というのがみえて嬉しいと同時にちゃんとつながってて嬉しい
続きが楽しみ