磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス

著者 :
  • みすず書房
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レビュー : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622080329

作品紹介・あらすじ

古代以来、もっぱら磁力によって例示されてきた"遠隔力"は、近代自然科学の誕生をしるしづける力概念の確立にどのように結びついていったのか。第2巻では、従来の力学史・電磁気学史でほとんど無視されてきたといっていいルネサンス期を探る。本書は技術者たちの技術にたいする実験的・合理的アプローチと、俗語による科学書執筆の意味を重視しつつ、思想の枠組としての魔術がはたした役割に最大の注目を払う。脱神秘化する魔術と理論化される技術。清新の気にみちた時代に、やがてふたつの流れは合流し、後期ルネサンスの魔術思想の変質-実験魔術-をへて、新しい科学の思想と方法を産み出すのである。

感想・レビュー・書評

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  • YY3b

  • 時代はルネサンスに移り、キリスト教の桎梏を脱した技術者や魔術師が、近代科学のお膳立てをしていく様子が描かれる。

    ニコラウス・クザーヌス
    スコラ哲学からルネサンスの哲学への転換点に位置する。混乱するカトリック教会の組織のなかで為政の人として働いた。クザーヌスは自然認識における数や比の重要性を主張したが、そこにはプラトンやピュタゴラスの影響だけでなく、この時代に発展してきた商品経済→貨幣経済に触発された跡がある。

    力に対する定量的測定というアプローチは、ルネサンス期の自然魔術を経由して近代科学へつながっていく。

    15世紀にはカトリック教会の統制の緩みと共に「ヘルメス主義」がフィレンツェから広がった。これは2世紀ごろに新プラトン主義、グノーシス、カバラの流れを引いてエジプトで編纂された「ヘルメス文書」に表明されている思想。当時は、プラトンよりもっと前、モーセと同時代にエジプトで編纂されたと信じられていた。魔術により宇宙の神秘に通じることにより、人間は神と同じ高みにまで達することができるという思想は、ルネサンスの人間開放にマッチした。フィチーノ、ピコ、アグリッパら。ヘルメス主義は、活版印刷とそれを購読する都市市民の存在により広まった。活版印刷はその歴史のはじめこそラテン語の聖書の写本の代替であったが、すぐに商業主義的なものになった。出版点数が少ないラテン語の書物が忌避されることにより、国語重視に有利に作用した。

    魔術を、呪術的なダイモン魔術と、自然に秘められた意味を理解してそれに働きかける自然魔術に分ける考え方がされていた。自然魔術のほうが近代科学の祖形となる。しかし、まだまだ15世紀の魔術は古代以来の文書や伝承に無批判な書物偏重の知で、経験科学と呼べる要素はなかった。

    大航海時代にはヨーロッパ人はインドや新大陸へ乗り出して、古代ギリシャ人が書物に記した遠方の知識が、じつに限定された狭くて不正確なものであったことに気づく。羅針儀と火器と印刷術の発明は、近代ヨーロッパ人に古代崇拝を越えた進歩思想をもたらす。

    また、15世紀には磁針の偏角の存在が広く知られるようになり、各地で盛んに観測されて海図にも反映される。偏角の観測により、磁極が天上ではなく地球上に存在することがはっきりしてくる。

    ロバート・ノーマン
    磁針の伏角を発見したイギリス人(最初の人ではないみたいだが詳細な記録を残した)。航海用機器の製造販売を手がけていた。日常の仕事での経験を新たな科学的発見に結びつけた点に注目。磁針に働く力が牽引力ではないことにも気づいた。
    同時代のイギリスにはロバート・レコード、ジョン・ディー(魔術に片足突っ込んでいたことが有名)ら数学や実験科学に貢献した人物がいた。

    鉱山業に関する技術も15世紀後半から16世紀にかけて発達し、多くの俗語でかかれた技術書が出版された。大学アカデミズムの外から活きのいい経験科学が登場したのだ。それらは磁石にも言及するが、こと磁石に関しては中世以来の迷信・伝承を脱することが出来ていなかった。やはり遠隔力は難しかったのだろう。

    パラケルスス
    当時の大学アカデミアからはみでてしまった遍歴の医師。まだまだ呪術的ながらも、経験と実践を重視した。星辰の力を取り込むことが出来るとして磁気治療も行った。武器軟膏が有名。

    経験や実践のみで、実証主義的な近代科学が成立するわけではない。経験的諸事実を分節化し了解するためには、なにがしかの理論的枠組みが必要とされる。この時代は、さしあたって魔術思想がその役割を担っていた。

    16世紀には魔術は脱神秘化した。ピエトロ・ポンポナッツィ、レジナルド・スコット、カルダーノ、ジョルダノ・ブルーノ、デッラ・ポルタら。イタリアではカトリック教会の巻き返しに苦労しつつも、自然の「隠れた力」を解き明かそうとした。

    とくにカルダーノとデッラ・ポルタは、古代の文書に対する賛美の姿勢が消滅し、実験的観測を重視して、技術的応用を重視していた。ペレグリヌス以来の磁力に対する実験科学と言える。

    デッラ・ポルタは裕福だったこともあって、かなりの磁石を集めて実験を行い、古い迷信を自らの実験により否定した。また「力の作用圏」の概念を語った。かなりギルバートに影響を与えているはず。ただ魔術のイメージが強いせいか(主著も『自然魔術』)後世からは忘れられがち。また、個々の経験を分節化し体系付ける理論はまだ備わってない。ややプリニウス的。

  • ニュートンは誰の肩に乗っていたのか。
    確かにルネサンスにおいて見出されたのは、長い中世よりもはるか過去のギリシャ全盛期であったが、
    語られなかった時代に進歩が何もなかったというわけでは決してない。
    世界を支配していた『宗教』からある日突然『科学』が産まれるわけはなく、
    術式を用いて再現性のある現象を発生させる『魔術・錬金術』が間に挟まる。
    そう。これはファンタジー世界ではなく、現実世界における『魔術・錬金術』とは一体なんであったのかを解き明かす本とも言える。

    前巻で語られたのが、謎の力である"磁力"を当時の論理でこじつけて説明していた時代の話だとしたら、
    本巻は、わからないものはわからないとして、その効果を考える段階に至った話だろう。

    科学の前段における錬金術・自然魔術において、その一歩となったのは力の数値化であった。
    十五世紀にニコラウス・クザーヌスが磁力を重さとして計測したのと同じ頃、
    航海技術の進化によって、誤差に悩まされながらも各地における方位磁石の偏角と伏角が測定される。

    一方で、傷口ではなく傷つけた刃の方に薬を塗れば治療できるとした武器軟膏という怪しげな錬金術もあったが、
    その原理不明な遠隔作用を、天体の重力や磁石の偶力と比較して否定できる論理はなかった。

    占星術は観測技術の進化によって、天体が地上物体に影響を及ぼす力を考える天文学に繋がり、
    洞窟は金属を生育させるという錬金術的発想は、地球の自己運動、活性的存在である物質としての見方を生み出す。

    かように、生物学的な進化というものがそうであるように、科学の進化も決して直線的ではなく、
    その時代に適応した結果、次へつながるものと、そうでないものを産み出して行く。

    本書は、未だ科学に至らないデッラ・ポルタの自然魔術論で一旦幕引ける。
    数々の迷信が実験によって否定され、得た知見を広く公開することで脱神秘化・大衆化がなされ、
    定量的測定と力の作用圏の概念により、数学的関数で表される力という近代物理学への端緒は開かれた。

    科学に至るまでの道は整った。次巻に続く。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:423.02||Y||2
    資料ID:50301432

  • 山口先生がこの本についていて話していたことを思い出して購入。

  • 山本義隆著『磁力と重力の発見』第2巻です。

    本書は「定量的測定」の重要性を提唱し、力概念が数理科学へと舵を切る端緒となった、ニコラウス・クザーヌス(1401-1464)に関する章から始まります。

    ニコラウス・クザーヌスといえば、第1巻に登場するメインキャラクターと同じく政治学の分野でも知られており、立憲主義の萌芽ともいえる公会議主義の代表的論客として、地味ながら重要な存在です(福田歓一『政治学史』P.167~)。またしても「政治史上の人物」の意外な一面を知ることができました。ただし政治学とのオーバーラップを楽しめるのもさすがに初期ルネサンスまで。大航海時代を経て、力概念は「理系」の専門分野へとシフトしていきます。

    第2巻に潜む最大のメッセージは、「近代科学は、中世までのスコラ学から一足飛びに現れたわけではなく、その間に連綿と続いた神秘主義や錬金術、魔術思想の存在があった。このいかにも怪しげな「魔術」たちが、近代科学の発展において果たした役割を軽視してはならない」ということだと思います。

    哲学史上のビッグネームが続々と顔を出す第1巻、またケプラーやニュートンによる近代科学の偉大な達成が描かれる第3巻と比べると、確かに第2巻の登場人物は地味であり、その業績もなんというか、「おしい!」という感じの仕事ばかりが並んでいます。ただわたし個人の感想ではありますが、『磁力と重力の発見』全3巻のなかで一番興味深く読むことができたのは、この第2巻でした。

  • ルネサンスの、魔術から科学への転換期。

  • 1-1 科学論・科学史

  • 2012/4/19購入

  •  本シリーズは、物理学史でほとんど省みられることがなかったという、中世ヨーロッパの磁力観について、数々の文献による根拠を挙げながら、当時の思想的・歴史的背景を交えて解説している。本書はその第2冊で、ルネサンスの前期と後期における”魔術”の変遷と磁力の関係についてふれられている。

     ルネサンス期に生じた学問の変化の理由として挙げられているのが、印刷術の普及と大航海時代である。前者は利潤追求の観点から、それまでの学術言語であったラテン語から、読者層の多い自国語の文献の増加を招いた。後者は観測点の増加の観点から、これまで盲信されてきた古代の文献の権威低下を招いた。

     これらの転換点を境に、同じ不可思議な磁気現象にもかかわらず、神・天使・悪魔など外因によってもたらされると考えられていたものが、自然の内因に起因するとみなされるようになった。また、思弁的文献的現象論が、実験的現象論に変化し、近代物理学への道を開くことになる。
     これを読んでちょっとでも興味を引かれた方は、ご一読いただかれてはいかがでしょうか。

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著者プロフィール

1941年大阪市に生まれる。1964年東京大学理学部物理学科を卒業。同大学大学院博士課程を中退。現在、学校法人駿台予備学校に勤務。科学史家。元東大全共闘代表。「10.8 山崎博昭プロジェクト」発起人。
著書として、『熱学思想の史的展開―熱とエントロピー』(現代数学社,1987;新版,ちくま学芸文庫,全3巻,筑摩書房,2008-2009)、『古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ』(日本評論社,1997)、『磁力と重力の発見』全3巻(みすず書房、2003、パピルス賞・毎日出版文化賞・大佛次郎賞を受賞)、『一六世紀文化革命』全2巻(みすず書房、2007)、『福島の原発事故をめぐって―いくつか学び考えたこと』(みすず書房、2011)、 『世界の見方の転換』全3卷(みすず書房、2014)、『原子・原子核・原子力―わたしが講義で伝えたかったこと』(岩波書店、2015)、『私の1960年代』(金曜日、2015)、『近代日本一五〇年』(岩波新書、岩波書店、2018)ほか。

「2018年 『小数と対数の発見』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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