磁力と重力の発見 2 ルネサンス

  • みすず書房 (2003年5月22日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (328ページ) / ISBN・EAN: 9784622080329

作品紹介・あらすじ

古代以来、もっぱら磁力によって例示されてきた〈遠隔力〉は、近代自然科学の誕生をしるしづける力概念の確立にどのように結びついていったのか。第2巻では、従来の力学史・電磁気学史でほとんど無視されてきたといっていいルネサンス期を探る。

機械論・原子論的な要素還元主義と、物活論・霊魂論的な有機体的全体論のふたつの自然観がせめぎあった古代ギリシャのあと、ローマ時代からキリスト教中世にかけては後者が圧倒的優勢を誇る。ではその次にくるルネサンスの時代に遠隔力の観念を担い、近代初頭へとひきついだものはいったい何だったのだろうか。ガリレイやデカルトの機械論哲学がアリストテレス‐スコラにとってかわる新哲学として現れて、科学革命をなしとげたなどという単純な図式は、とうてい成り立たないのではないか。

本書は技術者たちの技術にたいする実験的・合理的アプローチと、俗語による科学書執筆の意味を重視しつつ、思想の枠組としての魔術がはたした役割に最大の注目を払う。脱神秘化する魔術と理論化される技術。清新の気にみちた時代に、やがてふたつの流れは合流し、後期ルネサンスの魔術思想の変質——実験魔術——をへて、新しい科学の思想と方法を産み出すのである。

感想・レビュー・書評

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  • ルネサンス期の磁力の捉え方は、未だ、魔術的、呪術的であった。時代が進むにつれて、ダイモン魔術と自然魔術の分化が少しずつ進み、航海技術の影響で、アカデミズムから技術者が磁力について考えるようになる。
    ラテン語から自国語を使用しての出版にも後押しをされて、秘匿から公開の道を歩む。
    自然魔術が、科学へと変化をしようとしている前夜の話だった。

    普通に物理を学んでいるだけでは出会うことのない、さまざまな文献の大切な部分が訳出されていて、学問の発展が一直線でないという、当たり前のことをとても楽しみながら味わえる。
    最終章のデッラ・ポルタの『自然魔術』に関する内容はとてもワクワクした。

    また、自国語で最先端学問ができる現在の日本の有り難さも感じることができた。

    2冊目もすごかった。最終巻が楽しみ。

    星は、内容に関してではなくて、ルネサンスという科学が停滞したと思われている時代を丁寧に書かれている分、決して読みやすくはないかなと思って。

  • どのように遠隔力が解釈されたのかについて、数千年にわたる人類の思考のダイナミズムを感じられた。魔術的自然観や宗教的自然観について多くのページを割いていて興味深かった。磁力の発見、さらには近代科学の発展に大きく寄与したギルバードやケプラーが、機械論的な見方ではなく、むしろ魔術的な視点から自論を展開していたことに衝撃を受けた。近代科学の誕生の背景について、これまでの私自身の見方を変えてくれた。(1〜3巻総合的な感想です。)

  • 第九章 ニコラウス・クザーヌスと磁力の量化
    1 ニコラウス・クザーヌスと『知ある無知』
    2 クザーヌスの宇宙論
    3 自然認識における数の重要性
    4 クザーヌスの磁力観

    第十章 古代の発見と前期ルネサンスの魔術
    1 ルネサンスにおける魔術の復活
    2 魔術思想普及の背景
    3 ピコとフィチーノの魔術思想
    4 魔力としての磁力
    5 アグリッパの魔術——象徴としての自然

    第十一章 大航海時代と偏角の発見
    1 「磁石の山」をめぐって
    2 磁気羅針儀と世界の発見
    3 偏角の発見とコロンブスをめぐって
    4 偏角の定量的測定
    5 地球上の磁極という概念の形成

    第十二章 ロバート・ノーマンと『新しい引力』
    1 伏角の発見
    2 磁力をめぐる考察
    3 科学の新しい担い手
    4 ロバート・レコードとジョン・ディー

    第十三章 鉱業の発展と磁力の特異性
    1 一六世紀文化革命
    2 ビリングッチョの『ピロテクニア』
    3 ゲオルギウス・アグリコラ
    4 錬金術に対する態度
    5 ビリングッチョとアグリコラの磁力認識

    第十四章 パラケルススと磁気治療
    1 パラケルスス
    2 パラケルススの医学と魔術
    3 パラケルススの磁力観
    4 死後の影響——武器軟膏をめぐって

    第十五章 後期ルネサンスの魔術思想とその変貌
    1 魔術思想の脱神秘化
    2 ピエトロ・ポンポナッツィとレジナルド・スコット
    3 魔術と実験的方法
    4 ジョン・ディーと魔術の数学化・技術化
    5 カルダーノの魔術と電磁気学研究
    6 ジョルダノ・ブルーノにおける電磁力の理解

    第十六章 デッラ・ポルタの磁力研究
    1 デッラ・ポルタの『自然魔術』とその背景
    2 文献魔術から実験魔術へ
    3 『自然魔術』と実験科学
    4 『自然魔術』における磁力研究の概要
    5 デッラ・ポルタによる磁石の実験
    6 デッラ・ポルタの理論的発見
    7 魔術と科学

  • ・ケプラーの観測事実から万有引力が数学的に導き出され、この公式で様々な運動が説明されれば、万有引力の正しさは証明される。
    第3巻 p.860

  • 2巻はニコラウス・クザーヌスから。
    近代科学技術的な思考へは一本道ではなく、実証的な精神が表れたと思ったら消えたり、魔術的なものが並存したり、現在から推し量るのは難しい。
    大航海時代に入ってついに偏角と伏角が発見され、天の北極に引かれているのでもないらしいことに気がつく。いろんな条件がそろってきたということだろうが、実用というのは大きなことだ。
    他、印刷技術の展開とラテン語以外の国語での書物の普及などのトピック。

  • 読みづらい。
    でも面白い。3巻目へ

  • 12世紀のアリストテレス再発見から、スコラ哲学を超えて、アリストテレスを否定していくための実験精神として、ルネサンスを準備したプラトニズム、ヘルメス主義、錬金術、を通した「自然魔術」があったこと、とても面白い。
    アリストテレスの凄さは、アリストテレス的精神によってアリストテレスを否定できたこと、と思ってたけど、訂正が必要だ。
    アリストテレス的精神は、スコラ哲学として固着してしまっていた。そこに自然魔術的な発想、自然を観察して真実を明かしていくことが加わっていく。
    また、出版によって、隠されてた知識が広く公開されたことでら職人達が数学などを学んだこと。
    そういったことが相まって、近代科学の萌芽となったこと。
    ちょっとまだ整理しきれてないけども、おおよそそんなあたりのこと。凄いよね。コーフンする!
    ルネサンスのうねりを感じる

  • 時代はルネサンスに移り、キリスト教の桎梏を脱した技術者や魔術師が、近代科学のお膳立てをしていく様子が描かれる。

  • ニュートンは誰の肩に乗っていたのか。
    確かにルネサンスにおいて見出されたのは、長い中世よりもはるか過去のギリシャ全盛期であったが、
    語られなかった時代に進歩が何もなかったというわけでは決してない。
    世界を支配していた『宗教』からある日突然『科学』が産まれるわけはなく、
    術式を用いて再現性のある現象を発生させる『魔術・錬金術』が間に挟まる。
    そう。これはファンタジー世界ではなく、現実世界における『魔術・錬金術』とは一体なんであったのかを解き明かす本とも言える。

    前巻で語られたのが、謎の力である"磁力"を当時の論理でこじつけて説明していた時代の話だとしたら、
    本巻は、わからないものはわからないとして、その効果を考える段階に至った話だろう。

    科学の前段における錬金術・自然魔術において、その一歩となったのは力の数値化であった。
    十五世紀にニコラウス・クザーヌスが磁力を重さとして計測したのと同じ頃、
    航海技術の進化によって、誤差に悩まされながらも各地における方位磁石の偏角と伏角が測定される。

    一方で、傷口ではなく傷つけた刃の方に薬を塗れば治療できるとした武器軟膏という怪しげな錬金術もあったが、
    その原理不明な遠隔作用を、天体の重力や磁石の偶力と比較して否定できる論理はなかった。

    占星術は観測技術の進化によって、天体が地上物体に影響を及ぼす力を考える天文学に繋がり、
    洞窟は金属を生育させるという錬金術的発想は、地球の自己運動、活性的存在である物質としての見方を生み出す。

    かように、生物学的な進化というものがそうであるように、科学の進化も決して直線的ではなく、
    その時代に適応した結果、次へつながるものと、そうでないものを産み出して行く。

    本書は、未だ科学に至らないデッラ・ポルタの自然魔術論で一旦幕引ける。
    数々の迷信が実験によって否定され、得た知見を広く公開することで脱神秘化・大衆化がなされ、
    定量的測定と力の作用圏の概念により、数学的関数で表される力という近代物理学への端緒は開かれた。

    科学に至るまでの道は整った。次巻に続く。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:423.02||Y||2
    資料ID:50301432

  • 山口先生がこの本についていて話していたことを思い出して購入。

  • ルネサンスの、魔術から科学への転換期。

  • 1-1 科学論・科学史

  • 2012/4/19購入

  •  本シリーズは、物理学史でほとんど省みられることがなかったという、中世ヨーロッパの磁力観について、数々の文献による根拠を挙げながら、当時の思想的・歴史的背景を交えて解説している。本書はその第2冊で、ルネサンスの前期と後期における”魔術”の変遷と磁力の関係についてふれられている。

     ルネサンス期に生じた学問の変化の理由として挙げられているのが、印刷術の普及と大航海時代である。前者は利潤追求の観点から、それまでの学術言語であったラテン語から、読者層の多い自国語の文献の増加を招いた。後者は観測点の増加の観点から、これまで盲信されてきた古代の文献の権威低下を招いた。

     これらの転換点を境に、同じ不可思議な磁気現象にもかかわらず、神・天使・悪魔など外因によってもたらされると考えられていたものが、自然の内因に起因するとみなされるようになった。また、思弁的文献的現象論が、実験的現象論に変化し、近代物理学への道を開くことになる。
     これを読んでちょっとでも興味を引かれた方は、ご一読いただかれてはいかがでしょうか。

  • 磁力と重力、という観点から科学哲学史を紐解く本です。本書第二巻は、中世を脱し近代にさしかかるルネッサンスが舞台です。以下は本文を読んで思った感想です。必ずしも本書の内容と一致しているわけではありませんが、いろんなことに思いを馳せずにはいられませんでした。 * * * * *この時代の大きな特色としては、以下があります。 1.大航海時代 2.魔術の時代いずれも磁力、磁石というものが大きな意味を持ちます。この時代になり、ようやく人々は古典からではなく、自然の観察から知識をつむぎだすことに意義を認めるようになります。 ・ルネッサンスという時代の空気のなせる業だったのか ・大航海時代によるビジネスの急激な拡大が、高度に合理的な判断を要請したのか ・教会の支配力低下、人々の魔術への傾倒によるものか  →イスラム圏からの魔術(錬金術=化学、数学、技術、etc...)の影響は?こんな中で、遠隔力を作用させる磁石というものはきわめて特異な存在だったものと思われます。こんなグッチョグチョの坩堝のような状況から、近代合理精神の粋である科学が、一歩ずつ成長する様が確認できて、非常に興味深いです。本書の著者の慧眼と博識に脱帽です!

  • 前著古代編からの続編。
    時代はルネサンス。科学が現在の科学に近づくきっかけとなった時代である。
    が、まだ磁力と重力の今日的な理解には程遠い。ルネサンス時代の特徴として、
    1.哲学とりわけ神学からの科学の脱却
    2.現象論からの性質の理解
    が古代とこの時代の分水嶺であるように思われる。

    前著に引き続き、哲学的な要素も取り入れた文章の深さには筆舌に尽くし難い。

  • 【配架場所】 図書館1F 423.02/YAM

  • 2010.04.25 朝日新聞「ゼロ年代の50冊」に紹介されました。

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著者プロフィール

山本 義隆(やまもと・よしたか):1941年、大阪府生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。同大学院博士課程中退。科学史家、駿台予備学校物理科講師、元東大闘争全学共闘会議代表。著書に、『重力と力学的世界』、『熱学思想の史的展開』、『古典力学の形成』、『磁力と重力の発見』、『一六世紀文化革命』、『世界の見方の転換』、『小数と対数の発見』、『解析力学Ⅰ・Ⅱ』(共著)、『幾何光学の正準理論』、『近代日本一五〇年』、『ボーアとアインシュタインに量子を読む』、『私の1960年代』、『核燃料サイクルという迷宮』、『物理学の誕生』ほか多数。訳書に、カッシーラー『実体概念と関数概念』、ニールス・ボーア『因果性と相補性』『量子力学の誕生』などがある。

「2025年 『物理学の発展 山本義隆自選論集Ⅱ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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