磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり

著者 :
  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622080336

作品紹介・あらすじ

近代物理学成立の真のキーは力概念の確立にある。そこから"遠隔力"概念の形成過程を追跡してきた長い旅は、第3巻でようやく近代科学の誕生に立ち会う。霊魂論・物活論の色彩を色濃く帯びたケプラーや、錬金術に耽っていたニュートン。重力理論を作りあげていったのは彼らであり、近代以降に生き残ったのはケプラー、ニュートン、クーロンの法則である。魔術的な遠隔力は数学的法則に捉えられ、合理化された。壮大な前=科学史の終幕である。

感想・レビュー・書評

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  • ガリレオはなぜ重力の遠隔作用を否定しながら地動説を信じることができたのだろう。
    コペルニクスが地動説を証明したわけではないように、ギルバートもまた、地球が巨大な磁石であることを証明したわけではない。
    だが、ケプラーはコペルニクスの地動説とギルバートの磁気哲学とティコ・ブラーエの観測結果から惑星運動理論を導くことに成功した。
    ただし、ケプラーが考えたその運動の原因とは、重力ではなく磁力であった。
    そしてニュートンもまた、ガリレオの運動理論とケプラーの法則から万有引力を定式化したが、なぜ重力が生じるかは説明できなかった。

    多くの人間がその肩に乗って立つ過去の巨人たちの中で、非の打ち所のない完璧な理論を作り出せた者はいるだろうか。
    実験をせずに自分の理論を信じたもの、論拠の薄い新しい考えを否定したもの、数値よりも目で見られる経験と感覚に頼るもの。
    昨今ならば老害の一言で片付けられてしまいそうな先人たちは、しかし嘘をついて事実を歪めたわけではない。
    当時の技術では観測不可能な現象は多く、稚拙で曖昧な実験の精度が低いことも多々あった。
    それは後のアインシュタイン、ファインマン、ヒッグスの時代でも変わらない。

    理論や予測が長足に進んでも、事実の観測と認識は段階的にしか進まないのだから、
    今正しく思えることが、後から間違いだと指摘されるのは当然のことだ。
    ならば、あらゆる可能性に備えて何もしないよりも、今ある材料だけで進む方が良い。
    間違った結論にだって、価値があるのだから。

  • ウィリアム・ギルバート「磁石論」、ケプラーに影響を与える。ウエストファリア条約の頃。

    デカルトの力学は、力概念の欠落した衝突の理論にすぎない。
    ベーコンの見ている自然は、100バーセント質的。定量的測定への契機を欠落させている。単に分類しているだけ。
    つまり、まだ数学的関数表現されてはいない時代。

  • 科学革命が始まる17世紀までの,磁力と重力に対する理解の変化を示した本。いかにして思想から科学を分離したか,「16世紀文化革命」へ至る流れがわかりやすい。

    現代でも磁力を用いたカルト,トンデモがあるようだが,本書を読むとその起源が読み取れるかもしれない。大抵は先人がたどった道をなぞっているに過ぎない。

    第十七章 ウィリアム・ギルバートの『磁石論』
    1 ギルバートとその時代
    2 『磁石論』の位置と概要
    3 ギルバートと電気学の創設
    4 電気力の「説明」
    5 鉄と磁石と地球
    6 磁気運動をめぐって
    7 磁力の本質と球の形相
    8 地球の運動と磁気哲学
    9 磁石としての地球と霊魂

    第十八章 磁気哲学とヨハネス・ケプラー
    1 ケプラーの出発点
    2 ケプラーによる天文学の改革
    3 天体の動力学と運動霊
    4 ギルバートの重力理論
    5 ギルバートのケプラーへの影響
    6 ケプラーの動力学
    7 磁石としての天体
    8 ケプラーの重力理論

    第十九章 一七世紀機械論哲学と力
    1 機械論の品質証明
    2 ガリレイと重力
    3 デカルトの力学と重力
    4 デカルトの機械論と磁力
    5 ワルター・チャールトン

    第二十章 ロバート・ボイルとイギリスにおける機械論の変質
    1 フランシス・ベーコン
    2 トマス・ブラウン
    3 ヘンリー・パワーと「実験哲学」
    4 ロバート・ボイルの「粒子哲学」
    5 機械論と「磁気発散気」
    6 特殊的作用能力の容認

    第二十一章 磁力と重力——フックとニュートン
    1 ジョン・ウィルキンズと磁気哲学
    2 ロバート・フックと機械論
    3 フックと重力——機械論からの離反
    4 重力と磁力の測定
    5 フックと「世界の体系」
    6 ニュートンと重力
    7 魔術の神聖化
    8 ニュートンと磁力

    第二十二章 エピローグ——磁力法則の測定と確定
    1 ミュッセンブルークとヘルシャムの測定
    2 カランドリーニの測定
    3 ジョン・ミッシェルと逆二乗法則
    4 トビアス・マイヤーと渦動仮説の終焉
    5 マイヤーの磁気研究の方法
    6 マイヤーの理論——仮説・演繹過程
    7 クーロンによる逆二乗法則の確定

    あとがき

  • ・ケプラーの観測事実から万有引力が数学的に導き出され、この公式で様々な運動が説明されれば、万有引力の正しさは証明される。
    第3巻 p.860

  • 最終巻の3巻。ギルバートからニュートン、そしてエピローグの磁力の定式化まで。

    万有引力は先行するチコ・ブラーエ、ケプラーの実測、分析の成果もあって、17世紀にはニュートンによりその振る舞いを数式によって説明することができるようになった。なぜそのような力が存在するのかという問いを棚上げすることでそれが可能になった側面もあり、それまでのアリストテレスの形而上学とスコラ神学の影響は計り知れない。

    一方、磁力の定式化は18世紀も末のクーロンの業績まで待つことになる。引力と違って、近距離でそれぞれの磁片同士に働く複雑な力をゴリゴリ積分して解析する必要があり、そのためには均質で長細い人工磁石の開発を待たねばならなかった。そういわれてみればそうか。それまでは振動数を測ってみたり、角運動量に還元してみたり、絡め手から苦労しているが法則性は見出せなかったようだ。


    現代の科学技術の視点からは単に物理学上の問題でしかないが、長らく人智を超えていた「遠隔に働く力」をどう把握するかは、神の存在証明だったり、類似のものに働く共感力だったり、ひとえにその時代、その人の世界感を問う問題であった。そもそも物理学という観念自体存在しなかったのである。
    科学技術は時代の桎梏から逃れられないという著者の問題意識(近代化・戦争遂行のために工部大学校が設立された経緯、ベトナム戦争と日本の学問界の関係など)と直結しているのだと思うが、遠隔力の解明という上手いテーマ設定で、近代科学の形成に至る前史を記述した良著だと思う。

    「xxの法則」というのがいろいろ残っているが、名前が残っている人もそれ以外のところでは盛大に間違ってたりしているわけで、ケプラーも運動の法則は見つけても原因は磁力だと思ってたり、ニュートンにしたところで『プリンキピア』に費やしたのは3年程度でその10倍は錬金術に耽溺していたという。なかなか一本道ではないなという感慨が深い。

  • これが一番読みやすかった。達成感。
    結局、現象への理由付けを放棄したことにより科学は発展した。
    磁力も重力もなぜ存在するかはいまだ不明。

  • 地球を巨大な磁石と看破したギルバートから、万有引力のニュートンへ、さらに磁力の逆二乗則の証明まで

  • 全3巻、なかなか長大

    でも、こんな歴史、めちゃ楽しい
    素晴らしいな
    こんな本が書けたらなー

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:423.02||Y||3
    資料ID:50301433

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著者プロフィール

山本義隆(やまもと・よしたか)
1941年、大阪府生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。科学史家、駿台予備学校物理科講師。元東大闘争全学共闘会議代表。

「2022年 『演習詳解 力学 [第2版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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