狩猟文学マスターピース (大人の本棚)

制作 : 服部 文祥 
  • みすず書房
3.90
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本棚登録 : 45
感想 : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622080954

作品紹介・あらすじ

生きるために撃つ、食うために獲る-。デルスー、又吉、小十郎、そして文祥が獲物を追う。狩猟行為の本質に迫るかつてない文学アンソロジー。全11作品収録。

感想・レビュー・書評

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  • 大人の本棚シリーズの1冊。

    編者は登山家である。出来る限り装備を廃した登山に挑む「サバイバル登山」というスタイルを取る。その流れで狩猟も行う。
    本書は、狩猟者としての目から、狩猟に関わるさまざまな心の揺れを描き出した文学作品11編(一部抜粋を含む)を選び取ったアンソロジーである。

    1作目「猟の前夜」(マーリオ・リゴーニ・ステルン)は、冒頭をかざるにふさわしい作品。翌朝を待つ密やかな期待。押さえた興奮。微かな物音。徐々に訪れる夜明けの気配。待ち遠しい時の流れが鮮やかに切り取られている。

    「深重の海」(津本陽)は、太地の鯨漁に材を取る。「背美流れ」と呼ばれる史実を織り交ぜ、明治から現代につながる捕鯨の歴史を追う物語で、津本は本作で直木賞を受賞している。収録部分は一部だが、この作品には驚かされた。個人的に、ここ最近の読書はノンフィクション寄りだが、小説の力というものを見せつけられた。ノンフィクションや歴史書では、巨大な鯨に立ち向かう漁師たちの姿をこうまでまざまざとは見せられまい。これは機会があれば全体を読んでみたいと思わされた。

    「灰色熊に槍で立ち向かった男たち」(シドニー・ハンチントン)はネイティブアメリカン、コユーコンの狩人の物語。一時代前の狩りの様子や、狩りにまつわる風習が興味深い。

    「又吉物語」は、アイヌの伝説的な老猟師の話。ひょうひょうとした風貌ながら、80歳を過ぎても熊と渡り合っていた傑物。トマトや菓子をもらえば孫にやると喜ぶが、街に住み着くでもない。銃はぼろぼろだが、確かに熊を仕留めてしまう。世間の理屈とはかけ離れて自らの道を行き、半分仙人のようでもある。又吉の口調をそのまま書き留めたページの向こうに、すたすたと去っていく後ろ姿が見えるようである。

    「イヌキのムグ」(辻まこと)。イヌキとは犬とタヌキの合の子だという。木挽きの市蔵が会津のマタギから譲り受けたというその犬は、まったくタヌキには似たところがなく、著者は天から信じなかった。だがその犬には何だか変わったところがあった。
    話の内容もさることながら、文体にクセがあって不思議な味わいがある。父はアナーキスト辻潤、母は大杉栄の下に走り、甘粕事件で命を落とした伊藤野枝。

    「なめとこ山の熊」(宮沢賢治)が最後の作品で全体を締める。

    編者による解説もまた読み応えがある。

    猟をするのは獲物を狩るためだ。それは同時に、自分とは別の生きものの命を奪うことだ。
    そこには、喜びと恐れ、期待と不安、満足と後悔、欲望と諦め、さまざまな思いが綯い交ぜに存在する。
    自分は自分の獲物の生命の上に立つに足る生きものなのか。
    それは狩猟者のみではなく、他者を食べて生きるものすべてに向けられる問いのようでもある。

  • サバイバル登山家として知られる服部文祥編纂のアンソロジー。

    大好きなマーリオ・リゴーニ・ステルンの作品が一編目に選ばれているのが、嬉しい。彼の短篇集『雷鳥の森』(みすず書房)は、北イタリアの山岳部の森のピリリとした空気が感じられる、シンプルながらずしりとした読み応えのある短篇集なので、これを期に手に取る人が増えてくれるといいのだけれど。絶版の『雪の中の軍曹』も復刊されたらなぁ。
    アンソロジー最後の一編は「なめとこ山の熊」(宮沢賢治)。子どものとき読んだきりだったが、こんなにも厳かで美しい話だったのか。
    この2篇以外は、初めての作家ばかり。そうした作家に触れる機会があるのも、アンソロジーのいいところ。
    いくつかは長編からの部分紹介。

    ぜひ読んでみたくなったのは、
    津本陽『深重の海』
    シドニー・ハンチントン『熱きアラスカ魂 最後のフロンティア・インディアンは語る』
    辻まこと

    <収録作>

    猟の前夜  マーリオ・リゴーニ・ステルン
    鹿の贈りもの  リチャード・ネルソン
    「密猟志願」より  稲見一良
    新しい旅  星野道夫
    クマと陸地 フリッチョフ・ナンセン
    『深重の海』 津本陽
    灰色熊に槍で立ち向かった男たち シドニー・ハンチントン
    デルスー運命の射撃  ウラジミール・アルセーニエフ
    又吉物語  坂本直行
    イヌキのムグ  辻まこと
    なめとこ山の熊  宮沢賢治

  • ふとしたきっかけで服部文祥という人の存在をしり、著作を読んでみたくなった。山岳ノンフィクションの『サバイバル登山家』が有名だが、登山家としてだけではなく、読書家としても有名らしく、このアンソロジーを編んだりしている。

    宮澤賢治あり、写真家星野道夫あり、極地探検家ナンセン、太地の鯨漁、アイヌの又吉とラインナップは多様だが、マスターピースは少し名前負けしているような気がしなくもない。服部文祥の解説「一〇頭目の鹿、もしくは狩猟文学の傑作たち」が一番面白かった。

  • 「狩猟文学の傑作」を収録したという意味で他にない功績。
    特に海外作品の珍しさ素晴らしさにはときめきました。
    惜しむらくは狩猟に関わる一部のみを掲載している点。「ここからが本番」というところで終わっているものも。素晴らしい作品ばかりなだけに全体が知りたく、読後に不満が残ります。
    しかしガイドブックと捉えればその威力は素晴らしく、掲載作品のすべてに当たりたくなる強烈な魅力を残します。入手困難なものが多そうなのが残念。
    惜しい点もう一つ。解説でもっと各作品と作者について知れると期待したのが、どこまで調べたのかなと首をかしげる感じの軽さだったこと。
    しかしフリチョフ・ナンセンが確かにイケメンだったのは解説の通り。こういう小ネタがあると得した気分になります。

  • 自らも狩猟をする服部分祥による狩猟に関する作品のアンソロジー。長い解説で選考の考え方、各作品への評が詳しく述べられている。ジャンルを問わず選んだという11編は、編者の狩猟という行為への強いこだわりが感じられて納得できる。狩る人と狩られるものの間に、狩られる一瞬に交感があるというのが多くの作品に描かれており驚いた。狩猟という太古から続く行為には、謎や秘密が隠されているようだ。

  • 宮沢賢治のなめとこ山の熊を読む。

  • ●狩猟にまつわる短編または長編からの抜粋を集めた選集。
    選者自身がハンターなので、ハンターマインドには非常にこうるさくチョイスした模様です。いいと思います。

    ●以下簡単に。
    『猟の前夜』 時が来れば身支度を整え、静かな興奮とともにそっと扉を開けて猟へと踏み出す。イタリア。
    『鹿の贈りもの』 生命を食べるため。アラスカ。
    『「密漁志願」より』 中年と少年の冒険。千葉?
    『新しい旅』 よそものだもの。アラスカ。
    『クマと陸地』 北極探検日記より。北極。
    『「深重の海」より』 明治の(その時代においてすらすでに)失われゆく捕鯨の漁夫らの勇壮さ。←しかしこの抜粋はクリフハンガー… 太地。
    『灰色熊に槍で立ち向かった男たち』 熊を倒すには男一本十字槍。アラスカ。
    『デルスー運命の射撃』 デルス・ウザーラ。デルスーじいさんかっこええ。シベリア。
    『又吉物語』 又吉じいさんかっこええ。北海道。
    『イヌキのムグ』 狼犬ならぬ狸犬。関東?
    『なめとこ山の熊』 良い漁師と悪い商人と良い熊。なめとこ山。

    ●解説は、選者自身の狩猟に関する随筆と各作品解題。
    狩猟文学に関わらず、場の情景や空気感を鮮明に描いた文章がお好きな向きへ。

  • 「猟の前夜」「密猟志願」「灰色熊に槍で立ち向かった男たち」「なめとこ山の熊」がよかった。

    改めて読むと、宮沢賢治って文うまいねぇ。

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