マクルーハンの光景 メディア論がみえる [理想の教室]

著者 :
  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (165ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622083283

感想・レビュー・書評

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  • 入門テキストとしてはかなり平易な部類。

    【テキスト マクルーハン『外心の呵責』(agenbite of outwit)宮澤淳一訳】
    *Marshall McLhan, "The Agenbite of Outwit," Location 1, no.1 (Spring 1963)(1963年春にニューヨークで発刊された雑誌『ロケーション』の第一巻第一号(創刊号)に収録された文章)
    新しく登場した電子メディアのもつ部族化の力は、古い口承文化の統合された場や、部族的な結束力と前個人主義的な思考パターンに私たちを連れ戻すが、これはほとんど理解されていない。部族主義(tribalism)とは、一族すなわち、共同体の規範としての閉じた社会のもつ強い絆の感覚である。リテラシー、すなわち視覚的テクノロジーは、細分化と専門化に重きを置く手段によって部族の魔術を消失させ、個人を生み出した。ところが電子メディアは集団的形式である。文字文化以後の人間が利用する電子メディアは、世界を収縮させ、一個の部族すなわち村にする。そこはあらゆることがあらゆる人に同時に起こる場所である。あらゆることは起こった瞬間にあらゆる人がそれを知り、それゆえそこに参加する。p13

    中枢神経系を外に出したとき、私たちは原始的な遊牧民の状態に回帰した。最も原始的な旧石器時代の人間になり、再び地球を放浪する者となったのである。しかし、採集するのは食糧ではない、情報である。これからは、食糧と富も生活自体も、その源は情報となるだろう。p14

    〘第1講 マクルーハン精読〙
    【感覚比率】p42
    私たちのさまざまな感覚は「閉鎖体系ではなく、意識と呼ばれる綜合的な体験の中で互いに際限なく転換されていく」のですが、これらの感覚(視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚、筋感覚など)の発揮の度合いには差があり、そこに均衡が保たれて私たちの知覚は構成され、「理性」(rationality)も保たれます。そうした感覚どうしの比率をマクルーハンは「感覚比率」(sense ratios)と呼びました。

    【テレビは視覚ではなく―】p59
    実は、マクルーハンによれば、テレビは視覚の拡張ではない。触覚の拡張なのです。彼いわく、テレビ画面とは小さな光の点の集まりである。それがモザイク的な編み目を構成して映像(イメージ)を見せる。一種の点描画とも言える。点だけでは不完全な画像であるため、私たちは点のあいだを想像力の中で埋めていく。詳細な情報を与えないから、私たちは能動的に参加するのだ。テレビの走査線の光は、メッセージを私たちの肌に刺青していくようなものなのだ、と(「プレイボーイ・インタヴュー」)。実際、画面がモザイクであって、ピクチュアではないところにマクルーハンは注目してて、モザイクは触覚的(tactile)であることを他の機会にも述べていました。

    彼は触覚の拡張を「諸感覚の相互作用」と考えていました。つまり、視覚を通り越して、触覚に直接訴えかけ、全身感覚を動員する(全感覚を拡張する)のがテレビだと主張したのです。
    メディアを区分したときの特徴はほかにもあります。ホット・メディアには、「独白」(monologue)を特徴とするメディア(講演)が、クール・メディアには、「対話」(dialogue)を求めるメディア(電話、話し言葉、セミナー)が含まれていることも注意してください。「対話」とは参加の一形態であり、メディアを暖めるのです。
    そして「独白」から想起されるのは「直線性」です。テキスト「外心の呵責」で読んだように、「直線性」あるいは「線的」な傾向とは表音アルファベットとグーテンベルクが導いた時代の特徴です。つまりホット・メディアとは、専門化や細分化を導いた従来の「グーテンベルク時代」の産物としてのメディアだと気づきます。単一の感覚に訴えるメディアが並んでいることからもわかります。すると対極のクール・メディアも自明です。「対話」や全身感覚に訴えるクール・メディアとは、中枢神経系の拡張した「電子時代」を代表する電子メディアか、再部族化において見直される聴覚重視のメディアなのです。p94-95

    【地球村の3つの特徴】p124
    ①同時多発性(各地でさまざまなことが同時発生、即時の伝播、万人の参加・関与)
    ②混迷の世界(現状認識・非予言性)
    ③過渡期(未来への期待)

  • 新しい言語(テクノロジー)は独自の文法を持つ

    メディア=テクノロジー=身体器官の拡張

    ホットメディア 高精細度=低参加度 ラジオ、活字、写真、映画、講演

    クールメディア 低精細度=高参加度 電話、話し言葉、漫画、テレビ、セミナー

    内容(コンテンツ)がメッセージであるよりは、メディアがメッセージである

  • ① 「拡張」 (「外心の呵責」より)
    本著は講義という形式をとりつつマクルーハンの原典を引用しながら注釈を入れる形で進んでいる。分かりやすく詳細な説明であるので、自分で現代の具体例にあてはめてみたりできる余裕が生まれると思う。Masterpiece班があるので自分が取り扱う必要もないと感じたが、やはり触れて少しは理解しておきたいと思い手に取った。
    「拡張」というのは一つの彼の大きなキーワードである。全てのテクノロジーは人体の「拡張」であるらしい。例を挙げるなら車は移動するという足の機能に従っているから足の「拡張」だそうだ。(他は皮膚→衣服 歯→のこぎり、包丁 目→鏡、望遠鏡、カメラなど) しかし電信を始めとする電子メディアは「中枢神経の拡張」であるという点で性質を異にする。いわば脳と神経を人体の外側に持っているような状態なのだ。
    そして感覚が「拡張」されたとき、「人間は自分の一部と知りながら技術に恋をしてしまう」らしい。その恋によって無自覚であるままに、さらに「拡張」は「感覚比率の麻痺」を引き起こし人間の生き方に影響する。電子メディアの本質と言えばやはり即時性だろう。人間はその本質を内在化させることで「自分たちの仕掛けの自動制御装置になってしま」いコミュニケーションにおいて即時的で機械的な反応をすることとなる。携帯電話を例に出すまでもないだろう。

    ① 人類史的把握
    1.文字使用以前の時代 
    コミュニケーションが話し言葉に満ちているため聴覚触覚が優位だが感覚のバランスがとれている。血縁関係と相互依存の調和を持った「部族」の共同体の中で、神話や儀式などの魔術的で統合的な手段を用い、集団的無意識を有する。話し言葉優位のため本能的で感情的に激しやすくもある。
    2.グーテンベルグの時代(活版印刷の時代)
    表音アルファベットが発明され、加えて16cの印刷テクノロジーの発明で確立。
    リテラシーが活字によって養われ人々の思考が直線的、継続的、連結的、分析的、論理的になり専門化、個人主義、市民社会を導いた。結果脱「部族」化した。
    3.電子時代
    電子メディアにより中枢神経系が拡張し聴覚視覚が復権。「あらゆることは起こった瞬間にあらゆる人がそれを知り、それゆえに参加する。」結果として世界は相対的に縮小し、再「部族」化する。この状態を「地球村」とマクルーハンはよんでいる。この再部族化された「地球村」では必ずしも調和のとれた社会が実現するわけではなく、むしろ距離が近いからこそ争いの絶えない世界となる恐れもある。

    ② 雑感
    最近Facebookを使いだして他人の撮った自分の写真は勝手にどんどんアップされていくやら他人のあんな写真こんな写真が見れてしまうやらに個人的には恐怖を覚えたのだが、自分の写真はロックしてない人が多数のようだ。これを見てある意味これは「顔の拡張」に近いんじゃないかとぼんやり感じた。この拡張で麻痺する感覚といったら恥、といったところか。つぶやき的機能やらもあるので一概には言えませんが他の匿名性SNSに比べたらそうもいえるのではないかと。ともかく拡張という概念が新鮮であった。

著者プロフィール

1963 年生まれ。青山学院大学国際政治経済学部(国際政治学)、早稲田大学第一文学部(ロシア文学)卒業。早稲田大学大学院文学研究科に学ぶ。2007 年、東京大学より博士(学術)取得。文学研究、音楽学、メディア論。
著書に『グレン・グールド論』(春秋社、第15 回吉田秀和賞受賞)、『チャイコフスキー』(ブックレット、東洋書店)、『マクルーハンの光景』(みすず書房)。訳書に『アンドレイ・タルコフスキー「鏡」の本』(馬場広信と、リブロポート)、『グレン・グールド書簡集』(みすず書房)、『戦争』(彩流社)、『グレン・グールドは語る』(ちくま学芸文庫)、『リヒテルは語る』(同)、『改訂新版 音楽の文章術』(小倉眞理と、春秋社)など。
早稲田大学、法政大学、慶應義塾大学、武蔵野音楽大学の非常勤講師、トロント大学客員教授などを経て、現在、青山学院大学総合文化政策学部教授、国立音楽大学非常勤講師。

「2016年 『音楽論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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