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本 ・本 (312ページ) / ISBN・EAN: 9784622085416
作品紹介・あらすじ
「私がこの“試行錯誤”ということを最初に思ったのは、パブロ・カザルスの、バッハの『無伴奏チェロ組曲』を弾いているときに聞こえる、弦の上を指が動いてこすれる音と弓が弦に触れる瞬間の音楽になる一瞬間の音だった。どちらもノイズということだが、私はこれを最高級の蓄音機でSPレコードを再生してもらって聴くと、奏者と楽器が自分がいまいるまったく同じこの空間にいると感じられるほどリアルという以上に物質的で、その音からブルースが聞こえた。
弦の上を指が動いてこすれる音や弓が弦に触れる瞬間の音はだからノイズではない。その音が弦楽器を弦楽器たらしめ、チェロをチェロたらしめる。カザルスが弾いた音の中にブルースの響きまであったのではなく、そのこすれる音の中にカザルスの演奏がありブルースもあった。弦楽器が譜面=記号で再現可能な行儀のいい音の範囲を出るときに、奏者の指も体もそこにあらわれ、肉声もあらわれる。(…)
表現や演奏が実行される前に、まずその人がいる。その人は体を持って存在し、その体は向き不向きによっていろいろな表現の形式の試行錯誤の厚みに向かって開かれている」
(本書「弦に指がこすれる音」より)
「私」をほどいていく小説家の思考=言葉。
芸術の真髄へといざなう21世紀の風姿花伝。
感想・レビュー・書評
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表現や演奏が実行される前に、まずその人がいる。その人は体をもって存在し、その体は向き不向きによっていろいろな表現の形式の試行錯誤の厚みに向かって開かれている。
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"「誰か感想はありませんか?」と言うと、
「ハイ!」
と言ってすぐに手を挙げる優等生がいる、
「ピョンちゃんはきのうまで生きてました、ぼくたちはピョンちゃんが元気だとばかり思っていましたけど、ピョンは本当はどこか痛かったのかもしれません、
ピョンちゃんの痛さや苦しさをわかってあげられなくて残念です。」
と答えるバカ。" 101ページ
ここを読んだ時、これ私のブクログじゃん、と思って、やっぱバカだなぁ、恥ずかしい、と思った。改善したり反省したり、あるいは書くのをやめればいいのだが、バカだから、何を読んで何を思ったか記録しておかないと、すっかり忘れてしまうのだ。だから、記録のため、バカのまま続ける。
ここを読んでから、頭がシャキッとして、次の章「12 小さい声で書く」はとても面白く読めた。
全体を通して、どの程度理解しながら読んだのか、自信がない。 -
ダメだ、やはりこの人とは決定的に考え方が合わないんだろう。
『小説の自由』を読んだ段階で「別になんかこの人の言ってることって全然自由じゃないな」と思ったのだけれど、この本を読むとよりそれが先鋭化されていて、もうなんか意固地なおじちゃんを見ている気分になった。とにかく、読んでいて息苦しい。
自分が勝手に保坂一派と読んでる人たちがいるんだけど(本書に出てくる磯崎憲一郎とか山下澄人とかもそこに入る)、その辺の人たちの本も基本的に合わないし、もうこれは価値観の違いというしかないのだろうと思う。
まあ肝心の保坂氏の小説は読んだことまだないんですが…。 -
”ゴドーを待ちながら” 緒方拳さんで、テレビの舞台を見た。 兎に角、ことばの口調が気に入って、当分の間、ゴドーごっこ(口調を真似て)していたのだが、なぜそんなに気に入ったのか解ってしまった。で小島信夫を試しに借りて見たら、ベケットだった。あるままを写す言の葉の難しさ、賢治が心象に特化して散文の形をとったこと、頷ける。
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2017/3/6読了。
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保坂さんのエッセイを読んでいると、普段とは違う頭の使い方をする。そのせいか、いろいろ思いつく。
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著者がまるでインプロヴィゼーションをするように筆を進めていくように、読む方でもノレるところとノレないところがあったものの、しかし読みながら思考がものすごく活性化しているのを感じられた。惰性の思考を許さない本。
思考とは、整理するのではなく、とっ散らかすこと。
著者プロフィール
保坂和志の作品





