患者と医師と薬とのヒポクラテス的出会い 中井久夫集 11 2009-2012

  • みすず書房 (2019年7月11日発売)
4.50
  • (1)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 30
感想 : 2
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

本 ・本 (360ページ) / ISBN・EAN: 9784622085812

作品紹介・あらすじ

怪獣家族画を書きおえた私たちは、病棟から運動場の草原に出た。一仕事を終えた後というくつろぎが私にはあった。彼にもあったにちがいない。彼の第一声は、「今日は空が広いですね」であった。その抑揚もテンポも何もかも、今も忘れられない。
こういう感動にいつまでも酔いしれていては治療者はつとまらない。我に返って第一に考えるべきは、いかにして日常に戻ってもらうかである。傷は好ましい傷であっても──抗生物質到来以前には「好ましい膿」と「好ましくない膿」との確実な区別が医師に求められていた。精神医学では「今も」というべきであろう──包帯(今はラップか)をしなければならない。そこで、その日のうちに細木先生に会ってもらった。私は患者を軟着陸させるこの臨床心理士の力に全幅の信頼を置いていた。頼ったといってもよい。
先生は、私に告げた。「ロールシャッハをやってみたよ、面白いというから。不思議なことに攻撃性のサインが全然ない」。私に疲れがドーッと出た。彼はもっとだろう。それが快い疲れでありますように、と私は祈った。さいわい、彼は深くぐっすり眠ったように聞いている。いつもとちがって特別の記載が看護日誌になかった。
(「病棟深夜の長い叫び」2010)

自らの精神医学の実践の軌跡をたどる、シリーズ最終巻。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 追悼 中井久夫 | みすず書房
    https://www.msz.co.jp/news/topics/nakaihisao2022/

    患者と医師と薬とのヒポクラテス的出会い | みすず書房
    https://www.msz.co.jp/book/detail/08581/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      中井久夫先生に教わったこと | 漢方ことはじめ | 津田篤太郎 | 毎日新聞「医療プレミア」(有料記事)
      https://mainichi...
      中井久夫先生に教わったこと | 漢方ことはじめ | 津田篤太郎 | 毎日新聞「医療プレミア」(有料記事)
      https://mainichi.jp/premier/health/articles/20220912/med/00m/100/005000c
      2022/09/17
全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

中井久夫(なかい・ひさお)
1934年奈良県生まれ。2022年逝去。京都大学法学部から医学部に編入後卒業。神戸大学名誉教授。甲南大学名誉教授。公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構顧問。著書に『分裂病と人類』(東京大学出版会、1982)、『中井久夫著作集----精神医学の経験』(岩崎学術出版社、1984-1992)、『中井久夫コレクション』(筑摩書房、2009-2013)、『アリアドネからの糸』(みすず書房、1997)、『樹をみつめて』(みすず書房、2006)、『「昭和」を送る』(みすず書房、2013)など。訳詩集に『現代ギリシャ詩選』(みすず書房、1985)、『ヴァレリー、若きバルク/魅惑』(みすず書房、1995)、『いじめのある世界に生きる君たちへ』(中央公論新社、2016)、『中井久夫集 全11巻』(みすず書房、2017-19)

「2022年 『戦争と平和 ある観察』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中井久夫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×