子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から

  • みすず書房
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本棚登録 : 755
レビュー : 71
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086031

作品紹介・あらすじ

「わたしの政治への関心は、ぜんぶ託児所からはじまった。」英国の地べたを肌感覚で知り、貧困問題や欧州の政治情勢へのユニークな鑑識眼をもつ書き手として注目を集めた著者が、保育の現場から格差と分断の情景をミクロスコピックに描き出す。
2008年に著者が保育士として飛び込んだのは、英国で「平均収入、失業率、疾病率が全国最悪の水準」と言われる地区にある無料の託児所。「底辺託児所」とあだ名されたそこは、貧しいけれど混沌としたエネルギーに溢れ、社会のアナキーな底力を体現していた。この託児所に集まる子どもたちや大人たちの生が輝く瞬間、そして彼らの生活が陰鬱に軋む瞬間を、著者の目は鋭敏に捉える。ときにそれをカラリとしたユーモアで包み、ときに深く問いかける筆に心を揺さぶられる。
著者が二度目に同じ託児所に勤めた2015-2016年のスケッチは、経済主義一色の政策が子どもの暮らしを侵蝕している光景であり、グローバルに進む「上と下」「自己と他者」の分断の様相の顕微描写である。移民問題をはじめ、英国とEU圏が抱える重層的な課題が背景に浮かぶ。
地べたのポリティクスとは生きることであり、暮らすことだ──在英20年余の保育士ライターが放つ、渾身の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 感想を書いていなかったとは…。

    読んだ時、非常に衝撃を受けた本だった。
    ミステリー小説でもないのに、ページをめくる手が止まらない、それまでのロイヤルなイギリスのイメージを一変させる内容だった。

    ブレイディさんが働いていた低所得者のための底辺託児所(もちろん正式名称ではない)は、今はフードバンクの倉庫になっているそうだ。
    それだけ、福祉の為の財源はカットされ格差が広がっているということだ。ミドルクラスの移民とプアホワイト、そんな現状がEU離脱にも拍車を掛けたのだろう。

    この後に出版された「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」は本屋大賞ノンフィクション部門を受賞したけれど、こちらもおススメである。

  • 「ぼくはイエローで…」で一気に虜になって著者本をオトナ買いして複数読み進めてきて、こちらの本にたどり着いた。2017年新潮ドキュメント賞 受賞作ということだそうだ。いくつか読んできたので想像はついたが、とてつもなくどーーんとした重たい課題認識を突き付けられたような気がする。

    「の、その先にあるもの」という表現で記載されている内容、インクルージョンという言葉では表現されているが、日本で暮らして安穏としているとどうしてもここのレベルまでの視野・視座にまで広がっていけない。 かつ、ぼくは残念ながら都市部の中でも日雇い労働者が多かった地区で育った関係上、見ないようにしてきてしまった事実があるのかもしれない。

    『THIS IS JAPAN』でもあったが、もっともっと深くてずどーんとくる、とてつもなく重たい現実の本があって、それを踏まえての『ぼくはイエローで…』での爽やかさなんだな、とも感じてしまいました。(完全にあくまで私見です)


    今回の抜粋もおわりに、から
    =======
    P281
     保育士のわたしが政治について考えるようになったのは、実は保育士になったからだった。というか、もっと正確にいえば、底辺託児所で働いたからだ。
     それはいま思えば毎日が驚きと、怒りと、目の前で起こっていることへの信じられなさと、こみあげる嫌悪感の連続で、そのくせほんの時折だったとはいえ、こんなにきれいなものは見たことがないと思う瞬間に出くわした。
     この人たちはどこから来たんだろう。こういう人たちが存在する社会というのはいったいどうなっているんだろう。こういう人たちを作りあげた国の政治とはどんなふうに変遷してきたのだろう。
     わたしの政治への関心は、ぜんぶ託児所からはじまった。
     底辺のぬかるみに両脚を踏ん張って新聞を読み、ニュース番組を見て、本を読んでみると、それらはそれまでとはまったく違うものに見えた。
     政治は議論するものでも、思考するものでもない。 それは生きることであり、暮らすことだ。
     そうわたしが体感するようになったのは、託児所で出会ったさまざまな人々が文字通り政治に生かされたり、苦しめられたり、助けられたり、ひもじい思いをさせられたりしていたからだ。
    =======

  • 英国在住のライター、コラムニストで保育士でもある筆者が、保育士としてイギリスはブライトンの、貧困地区の託児所で働いている時の子どもたちとその親の姿を描くことで、現代イギリスの貧困を中心とした社会情勢を生々しく伝えている。

    紹介されている子供たちと、その親の悲惨な境遇に同情することしきりだったが、翻って日本では果たしてこのような状況が発生していないのかがとても気になった。

    本書の内容ではないが、OECDの2017年の報告書では、日本の「相対的貧困率」は36か国中下から7番目となっており、豊かな日本、という思い込みは間違っていることを教えてくれる。

    その前提に立つと、本書が描いている現在の英国の状況がとても他人事とは思えず、増してや、その状況がこれから国をしょって立つ人に育つべき子供たちの間で起こっていることにがくぜんとした。

  • コンピレーション的な本で初めて文章を読んで、妙にロッキンな文章が気にかかっていました。英国に嫁いで保育士として働いている女性で、なかなかに刺激的な人生を送っている方のようで、文章にロックを感じるのも当然と言えば当然でした。
    底辺の保育施設で働きながら、子供と母親の目を通じて見た英国の現状を描いています。先進的な音楽の産まれ来る場所で、怒れる若者が文化を作って来た国というイメージですが、食うや食わずで疲弊した人々はひたすら這いずりまわって、階層から抜け出す道も見付けられず更なる底へ沈み込んで行く。そんなイメージです。
    子どもは自分の産まれる場所は選べないし、何らかの庇護が無い限り生きて行けない。英国のような先進国であっても、飢える子供を無くす事は出来ないんですね。
    筆者のブレイディみかこさんは、現場から狭い空を見上げてその青さを伝えるような文章を書くような人です。巻頭に書いているように大上段に構えて社会の事を書くのではなく、地べたからの実感を書いた本です。
    変則的な本で、前半が最近の描き下ろし、後半が10年前のブログからの収録となっています。この10年前の部分が非常にぐっときます。貧しく猛々しく生きている問題児たちは、子供と言いながらその禍々しさと痛ましさ、そして愛すべき純真さがごちゃまぜで、日本では見かけないようなモンスターたちです。母親たちもドラッグやアルコールやセックスでボロボロだったりして、親たちのサポートもしなければならない。そんな中から垣間見える愛情のなんと美しい事か。
    これは長年英国の保育事情を見てきた彼女の視点だから見える美しさだと思います。僕が見てもうげって思うだけだろうと思います。
    著作見たら本当にロッキンな人みたいなんで、もっと色々読んでみようと思います。

  •  東洋からの移民の女性がイギリスで保育士になる。保育士になったからに違いない、ラディカルでやさしいまなざしが文章で輝いている。
     理解すること相手に求めることは、自分を表現することから始まる。自分を正直に表現することで出会った素晴らしい場面が気楽を装ったラジカルな文体で記されている。
     こんなスリリングな場面に読者として出会うことができる、こんな書物には、そうそう出会えるものではない。絶賛!
     ブログに一番震えた場面について書きました。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202005230000/

     

  • 「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」が行く先々の書店で平積み推しされてたので気になっていたが、あまのじゃくでひねくれ者の私は、その隣に一冊だけ残ってた本書を手に取ってしまった。
    読書は娯楽として普段ノンフィクションは読まず主にエンターテイメントに親しんでいるのだが、読み始めたら止まらなくて、うっかり徹夜してしまった。

    英国の労働者階級のさらに下、チャブやホワイトトラッシュ(白人の屑)と俗称される、生活保護受給者に焦点をあてた保育の現場を描いた話。
    本書の性質的にドラッグ、アルコール、DVなど、崩壊過程出身の子供たちが多く取り上げられるのだが、悲惨な話に傾かず、タフなユーモアで貫かれているのが凄い。

    時々出てくる英語に面食らうが(ラウドとか)わからないところは考えるな、感じろ。さほど難解な単語ではないので、中学校程度の英語の知識があれば言わんとすることは漠然とわかる。
    そしてこの英語を所々に組み込んだフランクな文章が、非常にいい味を出している。
    喩えが正確かは謎だが、イギリスの西原理恵子みたいな感じ。

    地べたに転がるゴミのような現実。
    なんてアホくさくて残酷だろうとあきれるしかない腐った世界でも、時にまんざら捨てたもんじゃないと思えるものを拾い、とんでもなく美しい光景を見る。

    たとえばそれは片腕のない女の子が見付けた虹だったり、ブランコを蹴り出すダウン症の子の足だったり、地面に大の字で寝転がる肌の色の異なる子供たちと保育士だったり、じゃれあいながら校舎へ歩く、てんでバラバラの靴を履いた白人と黒人と東洋人の三人組だったりする。

    社会問題に切り込んだ話なので移民や難民、階級差別なども取り上げられるが、私みたいな惰弱者でも一気に読めたのは、先に上げた筆者のユニークな視点とユーモアとウィットに富んだ文章、けっして綺麗ごとじゃない現実を「あなたたちは駄目なの」で思考停止せず、「の」の先を常に考え続けるアグレッシブな姿勢に感化されたから。

    日本の保育問題にも章が割かれていて、一人の保育士が20人以上を見る実態が、諸外国と比べていかに過酷で立ち遅れているか思い知らされる。
    常に動き回りとんでもないことをやらかす乳幼児(それも複数)を保育士が面倒見切るなんて、そりゃ物理的にも人間の限界的にも無理だ。
    そんな単純で当たり前な事実、「前からずっとそこにあったのに見ようとしてないから見えず、結果ないものとされる」現実を思い知らされ、ガツンとくる。

    特にやりきれない思いを抱いたのは被差別的立場の有色人種の中でも差別が起き、裕福なアジア人が黒人を無視するエピソード。
    上司から部下へ、夫から妻へ、そして母から子どもへ……
    同じ叩かれる立場でも相互扶助の精神が機能せず、「だけどアイツは私(俺)より劣ってる」とただの偏見を正当化することで、セルフリスペクトを保とうとする。
    そんな卑しさで維持されるセルフリスペクトはもはや自尊心ではない、自尊心のまがいもの……自慰心と気付かずに。

    人間って愚かだな……哀しいな……醜いな。
    でも、けっしてそれだけじゃない。
    根気強く絵本の読み聞かせを続ける中で、見習いのヴィッキーを認める移民の母親が一人二人と増えだすように、「人間はとんでもなく下劣で邪悪だけど、時々本当にステキなものを見せてくれるからやっぱり捨てたもんじゃないし、地べたからセカイを作りかえる価値はある」と信じられる瞬間がある。

    泣くのは諦めることだから怒れ。
    怯えるのはやめろ。
    とてもむずかしいことだけれど、できると信じてそうしていれば、できるようになる。
    スタート地点を均して完全な平等を実現するのは無理でも、そこから底上げして少しでも可能性をシェアすることはできる。

    泥水を吸って咲く薔薇の美しさは、日陰だろうがどこだろうが変わらないのだから。

  • 託児所や学校は社会の縮図である。日本でイジメが問題になっているのは、自分とは違う立場、容姿、弱い生命力(障害など)などを持った他人を思いやることができないからだと思うが、その原因を作っているのは明らかに大人たちである。社会の排他主義的な思想はそのまま子どもたちに受け継がれてしまう。著者はインクルージョン教育について述べているが、著者の勤務していた「底辺」託児所には、様々な人種、障害のもった子供などがたくさんいて、よいインクルージョン教育の場になっているようだ。ただ、親たちの思想まで変えられているわけではないので、卒業後はどうなるのかと危惧する。

    この本では、託児所内の人間模様が非常に面白く描かれていて飽きずに読み終えられたが、その大きな理由が、著者の深い洞察力と卓越した文章力だと感じる。以下の文章は特にそれを実感する。

    「決断力。クリエイティヴィティ。ディベートする力。私が日本にいた20年前から現在まで日本人に欠けていると一般に言われている事柄はちっとも変わっていないように思えるのだが、こうした能力が欠如していることが本当に民族的特徴になっているとすれば、それは人間の脳が最も成長する年齢における環境や他者とのコミュニケーションのあり方に端を発していないだろうか。少なくとも英国の幼児教育システムは、言われたことを上手にやる天使の大量製造を目的にはしていない。」

  • 政府の緊縮財政がもたらしたイギリスの無料託児所の変化。保育士として働いた作者の体験記。
    底辺の中でさらに分断と格差が進む(そして固定される)厳しい状況でも消えそうで消えない共同体の矜持や目の前の人を見捨てないDIY精神(さすが生協とパンクを生んだ国)。作者はそれを「アナキズムと呼ばれる尊厳」とし、薔薇に例えてきっとまたふてぶてしく咲き始めると書いた。
    多寡や有無なんて問題にしない「ある」という前提の強さ。モリッシーがうたった「決して消えずにある光」みたいだと思った。

  • イギリスの保育所の問題から,イギリスの政治や日本の問題,人としての生き方や家族のあり方あるいは「愛とはなんぞや?」というような心の奥深くまで抉るような素晴らしいエッセー.生きていけないわけじゃないけれど上のクラスへ上がれない階級の壁,政治やニュースだけでは見えてこない真実がある.すごい人だ.

  • 「底辺社会」の保育士という立ち位置から、人間と社会のあり方を描いてみせる。その手際は見事。実体験に即したリアルな認識と詩的な描写力を併せ持ち、どのエッセイも切ないような優しいような読後感に満たされる。西原理恵子をより知的に洗練させた感じだ。
     以下、印象に残ったフレーズ。
    「力のある人を世の中は放っておかない。というのは、わたしの元上司の口癖だったが、ここではものすごい能力のある人々が埃にまみれて世間の片隅で忘れ去られている。とはいえ、「力」というものの中には、きっと実際の作業をする能力というのはあまり含まれておらず、自己プロモやネットワーキングを行う手腕といった「作業換金力」が80パーセントから90パーセントなのだろう。だとすれば、前述のおばはんたちにはまったく「力」はない。ただ異様なほど「作業を行う能力」に恵まれているというだけで。」

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著者プロフィール

ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、96年から英国ブライトン在住。英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)で第16回新潮ドキュメント賞受賞。18年同作で第2回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補。19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、第2回 Yahoo! ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞受賞、第7回ブクログ大賞(エッセイ・ノンフィクション部門)受賞。著書は他に、『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』(ちくま文庫)、『アナキズム・イン・ザ・UK』(Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング――地べたから のポリティカル・レポート』(岩波書店)、『 THIS IS JAPAN ――英国保育士が見た日本』(新潮文庫)、『労働者階級の反乱――地べたから見た英国EU離脱』(光文社新書)、『女たちのテロル』(岩波書店)など。

「2020年 『ワイルドサイドをほっつき歩け』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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