全体主義の起原 3――全体主義 【新版】

  • みすず書房
4.33
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  • Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086277

作品紹介・あらすじ

〈現在までのところ、すべては可能であるという全体主義の信念は、すべてのものは破壊され得るということだけしか証明してこなかったように見える。けれども、すべてが可能であることを証明しようとするその努力の中で全体主義体制は、人間が罰することも赦すこともできない犯罪が存在するという事実をそれとは知らずにあばき出した。不可能なことが可能にされたとき、それは罰することも赦すこともできない根源的な悪となった。この悪は、利己主義や貪欲や利欲や怨恨(ルサンチマン)や権力欲や怯惰(きょうだ)のような悪い動機をもってしてはもはや理解することも説明することもできまい。それゆえまた怒りをもってこれに報復することも、愛によってこれを忍ぶことも、友情によってこれを赦すことも、法律をもってこれを処罰することもできまい。屍体製造工場に、あるいは忘却の穴に投げこまれた犠牲者たちが、刑吏たちの目にはもはや〈人間的〉と見えなかったのとまったく同様に、この最も新しい種類の犯罪者はわれわれ一人一人が人間の罪業の意識で連帯することを覚悟しなければならぬ枠をすら超えている〉

人類史上それまでにはなかった全体主義という枠組から、ナチス・ドイツとソヴィエト・ロシアの同質性と実態を分析する。

感想・レビュー・書評

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  • 国家は権威・忠誠を与える根源的な場(共同体)であり、個人はその外部においては無意味である。ジョヴァンニ・ジェンティーレGentile(1875-1944)

    全体主義。階級社会が崩壊して、根無し草の大衆が生まれた。量が多く、政治的に無関心・中立、階級意識を持たない、組織化されておらずバラバラ。公的な領域で他者と連帯して活動をしないで、孤立している。全体主義はこれら大衆を上手く動員した。全体主義は自由な行為の空間を限りなく減らして孤立している大衆をさらに孤立させ、それっぽい観念・イデオロギーを強制させる。大衆は自分で考える力を無くしてしまう。全体主義体制は大衆によって支えられている。▼全体主義の特徴。独裁的な指導者に率いられた単一政党支配、人々に公定イデオロギーを強制、思想・文化・経済を強制的に画一化、市民の自由を極度に制限、意見・利害の多様性(議会政治)を否定。例)ナチスドイツ・ソ連スターリン時代。ハンナ・アレントArendt『全体主義の諸起源』1951

    教育は伝統・権威なしにはありえない。全体主義の背景には伝統・権威の崩壊がある。ハンナ・アレントArendt『過去と未来の間』1963

    全体主義の特徴。単一イデオロギーによる支配。単一の独裁政党による支配。秘密警察と恐怖政治。権力によるマスコミ独占。武器の独占。経済を中央が統制。カール・フリードリヒFriedrich&ズビグネフ・ブレジンスキーBrzezinski『全体主義的独裁と専制』1956

    全体主義の特徴。国家公認のイデオロギー。経済活動は国家に服従。経済活動は国家の活動であり、経済活動の誤りはイデオロギーによって判断される。単一の独裁政党による支配。マスコミ(強制と説得の手段)独占。レイモン・アロンAron『デモクラシーと全体主義』1968

    民主主義体制でも全体主義体制でもない。権威主義体制。多数の個人や団体が自由に活動できない(民主主義体制ではない)。かといって自発的な団体が禁止・抑圧されているわけではない(全体主義体制ではない)。国家によって認可された個人・団体に限り、限られた範囲で政治参加が認められる(権威主義体制)。▼思想の自由はない(民主主義体制ではない)。かといって単一イデオロギーの宣伝・教化が行われるわけではない(全体主義体制ではない)。伝統で結び付く感情的な思考や心情によって体制が維持されている。▼自発的な政治参加は求められない(民主主義体制ではない)。かといって体制への広範で徹底した政治動員が行われるわけではない(全体主義体制ではない)。限られた政治動員と民衆の脱政治化(無関心)に依存した体制(権威主義体制)。例) スペイン、フランコ政権(1939-1975)。開発独裁(韓国の朴正熙、フィリピンのマルコス、インドネシアのスハルト)。フアン・リンスLinz『全体主義体制と権威主義体制』1975

  • ヤスパースの助言通り第三部から読んだ、全体主義の特徴として挙げられる首尾一貫した偽りの現実とかテロルの意義とかもすごく面白いのだけれど、そもそもそういったものに溺れてしまう大衆の弱さとか収容所に入れられたひとびとが存在しなかったことになってしまう残酷さとか、人間の孤独や存在の脆さが浮かびあがってくるあたりで泣きそうになってしまう、アーレントの冷徹さの奥には限りない愛の眼差しがあると思う、あと大事なことは何度も言ってくれるのでわかりやすい。

  • 序文でヤスパースが全体主義から読んだ方がいいと書いているので、言われた通りに読んだ。
     ヒットラーの全体主義よりもソビエトの全体主義を述べているところが多い。具体的な場面はほとんどない。全体主義についての論文を書くのであれば、引用の有無にかかわらず、読んでおくことが必要であろう。

  • 全体主義の起原〈3〉全体主義 (1974年)
    (和書)2011年11月12日 15:40
    ハナ・アーレント みすず書房 1974


    かなり僕にとって貴重な作品だった。読めて良かった。

    図書館で借りたのですが、新装版を自分で購入したい。

    エピローグ P306
    「・・・テロルは運動法則の実現である。その第一の目的は、自然もしくは歴史の力がいかなる自発的人間の行為にも妨げられずに自由に人類に浸透できるようにすることである。だからテロルは、自然もしくは歴史の力を解放するために人間を〈静止〉させようと努める。この運動の結果特定の人類の敵が選び出され、彼らにむかってテロルの暴威が揮われる。そして人間の自由な反対もしくは共感が、〈歴史〉もしくは〈自然〉の、階級もしくは人種の〈客観的な敵〉の排除を妨げることは許されない。・・・」

    僕は僕と言う人間を〈静止〉させようとする、または特定の人類の敵として選び出され、激しいテロルの暴威を揮われた過去を持つ。

    この本を読んでいて大変為になり、どういうことなのか理解に役立つものだった。大変素晴らしい作品で、こういった本を読める機会があったことを幸せに思います。

  • ローベルト・ライの言葉からの引用。「イデオロギーは「教えられるものではなく」「学ばれるものでもなく」、ただ「訓練され」「練習される」ものである。…納得。頭を使わせないように、思考停止状態を作ることか。日本の戦前、戦中、戦後のことを知っていたら、アーレントはどのように表現するだろうか。

  • 311.8||Ar3||Ze=1S=3

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著者プロフィール

1906-1975。ドイツのハノーファー近郊リンデンでユダヤ系の家庭に生まれる。マールブルク大学でハイデガーとブルトマンに、ハイデルベルク大学でヤスパースに、フライブルク大学でフッサールに学ぶ。1928年、ヤスパースのもとで「アウグスティヌスの愛の概念」によって学位取得。ナチ政権成立後(1933)パリに亡命し、亡命ユダヤ人救出活動に従事する。1941年、アメリカに亡命。1951年、市民権取得、その後、バークレー、シカゴ、プリンストン、コロンビア各大学の教授・客員教授などを歴任、1967年、ニュースクール・フォー・ソーシャル・リサーチの哲学教授に任命される。著書に『アウグスティヌスの愛の概念』(1929、みすず書房2002)『全体主義の起原』全3巻(1951、みすず書房1972、1974、2017)『人間の条件』(1958、筑摩書房1994、ドイツ語版『活動的生』1960、みすず書房2015)『エルサレムのアイヒマン』(1963、みすず書房1969、2017)『革命について』(1963、筑摩書房1995、ドイツ語版『革命論』1965、みすず書房2022)など。

「2022年 『革命論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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