エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】

制作 : 大久保 和郎 
  • みすず書房
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本棚登録 : 165
レビュー : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086284

作品紹介・あらすじ

〈彼は愚かではなかった。まったく思考していないこと――これは愚かさとは決して同じではない――、それが彼があの時代の最大の犯罪者の一人になる素因だったのだ。このことが「陳腐」であり、それのみか滑稽であるとしても、またいかに努力してみてもアイヒマンから悪魔的なまたは鬼神に憑かれたような底の知れなさを引き出すことは不可能だとしても、やはりこれは決してありふれたことではない。死に直面した人間が、しかも絞首台の下で、これまでいつも葬式のさいに聞いてきた言葉のほか何も考えられず、しかもその「高貴な言葉」に心を奪われて自分の死という現実をすっかり忘れてしまうなどというようなことは、何としてもそうざらにあることではない。このような現実離れや思考していないことは、人間のうちにおそらくは潜んでいる悪の本能のすべてを挙げてかかったよりも猛威を逞(たくま)しくすることがあるということ――これが事実エルサレムにおいて学び得た教訓であった。しかしこれは一つの教訓であって、この現象の解明でもそれに関する理論でもなかったのである〉

組織と個人、ホロコーストと法、正義、人類への罪… アイヒマン裁判から著者が見、考え、判断したことは。最新の研究成果にしたがい、より正確かつ読みやすくし、新たな解説も付した新版を刊行する。

感想・レビュー・書評

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  • ちょうどこの本を読み終わった日の朝刊にポーランドで、ナチスによるユダヤ人のホロコーストに「ポーランド人が加担した」などと記載すること禁ずる(罰則付き)法案が可決されたという報道が。
    アーレントが読んだらどう思うだろうか?

  • ナチス親衛隊の中佐として、アウシュビッツを始めとする各収容所へのユダヤ人移送責任者として、ホロコーストの最高責任者とされたアドルフ・アイヒマンは、1961年に潜伏先にアルゼンチンでイスラエルの秘密部隊モサドにより捕らえられ、イスラエルでの裁判の結果死刑となる。

    「ドイツ万歳。アルゼンチン万歳。オーストリア万歳。この3つの国は私が最も親しく結びついていた国々です。これからも忘れることはありません。妻、家族、そして友人たちに挨拶を送ります。私は戦争と軍旗の掟に従わなくてはならなかった。覚悟はできています。」と語って絞首台に向かったアイヒマンとこの裁判について、20世紀を代表する政治思想家であるハンナ・アレントがニューヨーカー誌への連載という形でまとめた記録集が本書である。

    本書の歴史的な意義は2つある。それは、ホロコーストという人類の歴史における最大の”悪”が、実はアドルフ・アイヒマンという極めて陳腐な人間によってもたらされたという点を明らかにした点である。イスラエルによる裁判で語られたアイヒマンの供述からは、彼が自らの昇進のことしか考えられない(しかし、だからといって社会を欺いたり、巨悪を働くようなずる賢さもない)小役人であるという姿が浮かび上がってくる。

    もう一つは、1点目に関連して、いかにナチスという組織が官僚的なメカニズムで組成されており、システマティックにホロコーストがなされたか、ということを示した点である。本書の中でアイヒマンが語ったホロコーストの実態とは、
    ・欧州各地で収容所に送られるべきユダヤ人は誰で人数はどの程度か?
    ・割り当てる収容所をどこにするか?
    ・収容所へ移送する鉄道のラインとスケジュールは?
    ・収容所での虐殺の計画と空きキャパシティから、いつ新たなユダヤ人を送り込むべきか?
    といった極めてオペレーショナルな問題への諸対応であった。さしずめ国際物流を営むオペレーターのような形で、アイヒマンは淡々とそうした問題を片付けていく。そこには自らが悪をなしているという実感はなく、単に官僚制的なシステムが人を動かしているようにも見える。

    概念としては理解していた上記のようなポイントが、本書を読むことにより、リアルなものとして伝わってきて、様々なことを考えさせられるProvokingな一冊。

  • 20180503朝日新聞掲載

  • -

  • 読書日:2018年2月14日-2月19日.
    Original title:EICHMAN IN JERUSALEM:a report on the Banality of Evil.
    Author:Hannah Arendt.
    Adolf Otto Eichmannが受けた裁判で明かされるNSDAPの内部が明かされます。

    今迄NSDAPや特にDas Konzentrationslager Auschwitz-Birkenau関連本は
    被害を受けたJews視点が数冊、NSDAPの視点が1冊読了していますが、
    NSDAPの上層部に大凡属す視点での書物は今回が初めてです。

    そこで感じた事はNSDAPに入党している人が全員が全員、
    Jews絶滅に賛成したわけでは無かった。
    中には良心を持ち、上司の言動に疑問を持ち嫌悪した人達も居たと
    知れた事が利点です。
    裁判にかけられた:EICHMANもその中の一人で、
    軍に属する中で異常な事が正常だと信じ、それが正しいと思った事が
    彼の過ちではないかと思わずには居られませんでした。

    それから、この絶滅に関し現代を生きる
    Deutscheに住む全ての人々に罪の意識を持たせて反省を促す事は
    何かが足りない…、
    これはこの国の責任だけではなく欧州各国や米国等
    Jewsが住まう全ての国々に多少なりとも責をDeutscheと分け合う事が、
    亡くなってしまったJewsに対する弔いではないだろうかと
    感じました…。

  • 楽天ブックス、¥0.

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著者プロフィール

1906-1975。ドイツのハノーファー近郊リンデンでユダヤ系の家庭に生まれる。マールブルク大学でハイデガーとブルトマンに、ハイデルベルク大学でヤスパースに、フライブルク大学でフッサールに学ぶ。1928年、ヤスパースのもとで「アウグスティヌスの愛の概念」によって学位取得。ナチ政権成立後(1933)パリに亡命し、亡命ユダヤ人救出活動に従事する。1941年、アメリカに亡命。1951年、市民権取得、その後、バークレー、シカゴ、プリンストン、コロンビア各大学の教授・客員教授などを歴任、1967年、ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチの哲学教授に任命される。

「2018年 『アーレント=ハイデガー往復書簡 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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