情報リテラシーのための図書館 日本の教育制度と図書館の改革

  • みすず書房 (2017年12月2日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (248ページ) / ISBN・EAN: 9784622086505

作品紹介・あらすじ

「本書執筆の当初のモチーフは、書物自体は一貫して重要視されていた日本で、社会機関としての図書館の評価が低かったのはなぜなのかということにあった。私は書いているうちに、これは単なる図書館論にとどまらず、書物論、情報論、文化論、そして何よりも教育論にひろがっていかざるをえないと考えるようになった。図書館の存在が意識されにくかった理由は、日本社会が個人の知的活動を自律的に行うことを妨げてきた理由と同じだということに気づいたからである。」

図書館情報学において、「情報リテラシー」は、テクノロジーの発達に応じてその習得・活用・提供技術の更新が求められる、生きたテーマである。
情報が氾濫する社会を生きる私たちにとって、第一次資料の保存庫であり、公共の情報サービス機関である図書館は、信頼の置ける、身近な情報拠点だ。これからの図書館は、図書の貸出し、検索技術の提供にとどまらず、利用者の情報リテラシーを導くといった教育的な役割も自覚的に担ってゆく必要がある。
そして今日、学校での情報リテラシー教育も喫緊の課題となっている。日本の教育現場において、情報リテラシー教育の重要性は意識されてきたが、それはコンピューターなどの情報通信技術を使いこなす技能という認識にとどまってきた。だが、真の情報リテラシーとは、情報を探索し、評価し、それにより自分の問題を解決できる能力、さらにはその力をもって批判的思考を展開できることをいう。本書では、日本の教育制度と図書館の社会史をふりかえることで課題を浮き彫りにし、今後どのような改革をなすべきか、欧米の学校の動向と比較しつつ方向を示す。

感想・レビュー・書評

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  • リテラシーという言葉をあちこちで聞いたり目にしたりする機会がここ10年くらいの間に格段に増えましたが、本書にあるように自分もあまり区分けをしてなかったと言うかごちゃ混ぜになっていたように思いました。(というよりあまり深く考えてこなかったという方が率直か…)

    自分の周囲でも調べ物と言えばまず「ウィキペディア」という人がとても増え、自分自身も個人的な調べ物の時にはかなり活用させてもらっていますが、その内容の信頼性というものは常に疑ってかかれよということは図書館員の間では当然のこととなっていました。それはそれとして「(ウィキペディアが)情報リテラシーを身につけるための教材として優れているのは、自らの信頼性に限界があることを前提として、それを確保するための仕掛けがほどこされているところに認められる(p58)」とあるのを読んで確かにそうだなぁととても納得させられました。
    あんまり考えずにしてきたことを改めてこうして読むことで意識するようになりますね。

    図書館種別による職員の配置について(第6章)、専門図書館の職員配置というのがこんなに少ないものなのかと驚きました。このデータの年より以前に自分は専門図書館に就職を目指したことがあり、この数値を見ていかに当時特殊で狭き門である就職先であったか痛感しました。 

    なぜ司書資格を取れる学校がかなりあるのに就職先がほぼないのか、本章を読むとこれまでその理由として認識していたことがもっと深く分かったように思いました。
    確かに単位取得だけで取れる国家資格というだけでも特殊です。「専門資格としては取得が容易な甘い資格である(p140)」という指摘はもう全くその通り、だから非正規も増えるし、学校への配置も中途半端になってしまうんだよと。
    そして生徒を確保するために学校が資格を取れるとうたいそれで子どもはやってくるけれど、取った資格が実は活かせるものではないというのはまるで詐欺のようではないかと思ってしまいました。(p157)

    自分は本書を、目的と違う読み方をしてしまったなぁと思いつつ読了。
    発刊より3年ですが、図書館関係者にはこれからも読まれるべき一冊だと思います。

  • 情報リテラシーをツールを有効活用して情報を取得できる能力だと理解していたが、それだけではなくてもっと包括的なもの、物事を自分なりに解釈する思考力(「事実→情報→知識→知恵」という段階で高次的に)も含んでいるということを知って新鮮だった。

    書籍におけるネットワーク関係の重要性を知り、もっとメタデータ等について学びたいと思った。

    図書館制度の課題(専門大学院のような制度がない、様々な館種に対応した教育課程ではない、需要過多になっているなど)については、引き続き考えていきたい。

    繰り返し読んで、他の関連書籍も読んでもっと理解を深めたい

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    単に図書館に関する内容なのかと思ったが、図書館よりも情報リテラシーに関する内容となっている。
    情報リテラシーは様々な情報検索システムを活用したり、図書館のリファレンスを活用することで一般的によく言われるセキュリティや個人情報の扱いとは異なるものだと言うことを解説している。
    本書では日本とアメリカ・ヨーロッパで情報リテラシーの意味合いに違いが生じた要因を江戸・明治にまで遡り、歴史的に説明しており、その違いによる問題点を提示している。
    さらには日本の教育業界における変革に関しても説明し、徐々にではあるが変わってきていることが説明されている。

  • 根本彰著『情報リテラシーのための図書館-日本の教育制度と図書館の改革』(みすず書房)
    2017.12.1第1刷発行

    2022.9.26読了
     情報リテラシーとコンピュータリテラシーを混同している人向けに書かれた本と推察するが、思いつくままに書きだしたのかと疑いたくなるほど、読みにくい。論理展開の整序について工夫すべき点があるのではないかと感じた。

     なお、本書の本旨は、従来の教育課程では情報リテラシーの習得が必ずしも重要視されてこなかったことを指摘し、今後の教育改革においては、情報リテラシー教育の充実と情報リテラシーを推進する装置としての図書館改革を同時に進めていく必要がある、というものである。

     明治期以降、黙読と暗記を中心とした教育課程に収斂していったとあるが、その理由について本書は詳しく述べていない。
     図書館を含めた教育機関が思想善道の一翼を担っていた歴史を考えると、むしろ、この国は市民が批判的思考を持つことを嫌悪しているのかもしれない。近代初期にみられた立身出世の風潮は例外として、立憲君主制というタガが嵌められている以上、批判的思考が育たないのも無理からぬことだろう。集団主義的適応能力が美徳とされる日本において、情報リテラシーは食い合わせが悪いのである。

    【目次】
    はしがき
    第1章 「エウリディケを冥界から連れ出すオルフェウス」
     1 コローの絵のオリジナルを求めて
     2 絵画検索のための情報リテラシー
    第2章 読書大国からネット社会へ
     1 リテラシーと情報リテラシー
     2 読書感想文と自由研究
     3 フロー情報とストック情報
    第3章 情報リテラシー教育の必要性
     1 ネットを使いこなす?
     2 情報リテラシーの過程
     3 日本における情報リテラシーの課題
    第4章 文化史的背景
     1 日本人のリテラシー
     2 武士の学びと庶民の学び
     3 文字社会の形成と民衆読書
     4 文庫と知のネットワーク
    第5章 近代文字社会における図書館
     1 近代における学びの変遷と読書
     2 明治・大正における図書館
     3 昭和期の図書館
    第6章 図書館と図書館員
     1 図書館の昔と今
     2 図書館の基本的な業務
     3 日本の図書館員の資格制度のあり方
     4 アメリカの図書館職
    第7章 図書館と博物館を比較する
     1 専門職の社会学
     2 博物館法と図書館法
     3 資格と養成
    第8章 大学入試改革と学習方法・カリキュラム
     1 近づいている大学入試改革
     2 欧米の学校における学び
     3 情報リテラシーのための図書館
    第9章 情報リテラシーの回路
     1 ふたたび、図書館員のイメージ
     2 リテラシー、情報リテラシー、高次リテラシー
     3 インフラとしてのデジタル情報ネットワーク
     4 情報リテラシー装置を使いこなせたか
    引用/参考文献
    索引

  • ふむ

  • 参考文献として。

  • memo

    ・Wikipedia
    ...誰でも内容構築に参加できるものであり、匿名の作り手によって共同構築されるものだから、使用については慎重さが要求されると付け加えるのが一般的であろう。
    だが、アメリカ的な情報リテラシーの考え方ではこれは優れた教材になる。つくられる過程をきちんと理解して使えばよいということになる。
    ...まず、ウィキペディアのつくられかたを学ばせ、これを全面的に信頼することはできないことを理解させる。探索プロセスとしては用語の選定について、同義語や類義語を試してみて、用語のコントロールができているかどうかをみる。また、利用・評価プロセスとしては別のツールや文献を参照して相互に比較するといったものである。(p56〜57)

    ・「子どもの「思考力」を伸ばすために、親ができること〜パトリック・ハーランさん」朝日新聞digital2016年9月5日
    知識は機器からとりだせるのだから、授業はむしろ既成の知識を基に考え、相互にコミュニケーションする能力をみがくこと(p180〜182)

    ・読書-批判的思考
    読書は著者との対話でありまた自分との対話である。著者と自分のあいだに相互作用の場をつくりだすことが読書の最大の意義であり、この場が自分を無限の方向に発展させる基になる。本を読みながら考える行為の積み重ねが批判的思考を可能にする反省的自己をつくりだす。(p200)

  • 図書館司書資格の取得の過程でよく耳にする「中小レポート」や「志民の図書館」、これらは50年近く前に書かれたものだが、今の図書館にはこの本こそまさに「図書館員のバイブル」と言えるのでは無いだろうか。

  • 電子書籍について、しっくりくる定義。

  • 日本の特に図書館業界において混同されがちなコンピュータリテラシーと情報リテラシーは別物であるという点を強く打ち出しつつ、後者について広く日本の教育制度という視点から様々な例を引いて、その必要性を説く。

  • 自分で今使うべき情報の大枠を把握し、評価しながらそれを活用する能力、情報リテラシー。情報リテラシーの重要性を日本人の学習の歴史や図書館史と絡めて解説した図書。
    既成の知識を確認する教育から、自ら知識を作り出していけるような教育の改革が始まっている今、図書館の重要性は増しているようだ。
    図書館司書の専門性の話も出ている。司書を専門職と述べるのが少し難しい状況……。この時代に図書館が生き残って行くためには枠組み等、考え続けなければいけないねー。

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著者プロフィール

根本彰(ねもと あきら)

東京大学名誉教授。
おもな著書に『教育改革のための学校図書館』(東京大学出版会)、『アーカイブの思想:言葉を知に変える仕組み』(みすず書房)など。

「2024年 『図書館思想の進展と図書館情報学の射程』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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